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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第三章
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閑話~事実、そして勇者~

「ばぁか! あんた達、おめでたい頭してんのね!」


 ゲートから出て『アトレナス』の風景が目に映った瞬間、オルブフとルルアラは嘲るような表情の少女にそう言われた。

 目の前には口を嘲笑の形に歪め、こちらを見下す少女の姿。そして周りには鎧を着た兵士やらがゲートをぐるりと囲むように立っていた。

 アグレナス王国王都の広場の中央、そこにオルブフとリアナはいた。

 何が何やら分からない。けれどこれだけははっきりと言える。


 ――目の前の少女は自分達を騙したのだ。


 形容しがたい、今すぐにでも吐き出したくなりそうな嫌悪と怒りがせりあがってくる。もう相手が客だということは二人の頭に無かった。あるのはただただ怒りとやるせなさである。

 言葉にもならない裏切りへの怒りを抱く二人を他所に騙した少女は嘲笑を高らかに広場に響かせた。


「怒ってるの? 私を怒っているの? アッハハ、怒るなら騙されちゃった自分の哀れな脳みそにしなさいよ! まぁ、私の策が失敗するわけ無いんだけれどね!」


 自信満々に、二人を煽るように言う少女はひとしきり笑った後、落ち着いたように息を吐いた。そしてくるりと踵を返すとオルブフ達を囲む人垣へと向かう。少女が歩く先にはルルアラにとって見覚えのある姿があった。

 そこにいたのは天ヶ上、橘、緋之宮、小峰、そして第一王女のシェルマとお付のメイドであるミレイアだ。近くには『第二図書館』の主である岩久良、『第四工房』の主の大ヶ島の姿までもある。

 ぐるりとオルブフとルルアラを囲んでいるのは魔法学園、アグレナス、そしてオブリナントの兵士といった人間達だ。

 少女は天ヶ上の傍に歩み寄ると、天ヶ上の体にしなだれかかるように寄り添った。橘達はその様子にぴくりと眉を動かすなりして反応しあまり良い顔をしないが、ここで声を荒げるのは得策ではないと何も言わなかった。視線は嫌そうな色を持っていたが。


「やぁ、まさか君が『第五遊技場』の人間だとは知らなかったよ、ルルアラ」

「……私が『第五遊技場』の人間だなんて確証は無いのです」


 悪あがきと分かりながらもルルアラは天ヶ上の言葉に対してそう返した。


「そんなわけ無いじゃない! 私が第五の人間を連れて来るって言って連れて来たんだから! そんな苦し紛れの嘘をついても意味が無いのよ」


 最後は嘲るような調子で言う少女をルルアラはきつい眼差しで見る。

 少しばかり気圧された少女だったが、優位なのは自分だと言い聞かせてルルアラの睨みを真っ向から受け止めた。

 そんな時、オルブフがルルアラをひじで小突いた。


「戻るっすよ、ゲートで」

「了解なのです」


 二人は短い言葉を交わすと、すぐさま踵を返してゲートへ向かう。途中、オルブフは緊急事態だからと懐から取り出した連絡用の水晶でジェラルドへと連絡を取る。


「緊急っす! 客にアグレナス王都に連れて来られて――」


 オルブフが連絡を取ろうとすると、険しい顔つきになった大ヶ島がポケットからスイッチを取り出しボタンを押した。

 これで『第五遊技場』に戻れるはず、そう思っていた二人だが事態はそう動かなかった。『第五遊技場』へ転移しないのである。

 ゲートをくぐっても景色はまったく変わらない。更に一体どうしたのだと水晶越しに聞こえていたジェラルドの声がぷつりと途切れる。

 どうしてこうなった、一体何が原因だ。驚愕を顔に浮かべた二人は歩調を緩めた。

 そんな二人に今度は大ヶ島がその整った容姿に笑みを浮かべて近づいた。


「ようこそ『アトレナス』へいらっしゃいました、『第五遊技場』のお二人。……いえ、来てしまった、がお二人には正しいでしょう。僕は『第四工房』の主、大ヶ島エリオットと言います」


 丁寧な口調で大ヶ島は二人に名前を告げる。それに続くように岩久良が進み出て、小さく頭を下げてお辞儀をした。


「私は『第二図書館』の主、岩久良省三と言う。今回は今まで姿を現さなかった『第五遊技場』の方々に我々の会議など表に出てもらいたく、こうして来てもらった次第だ」


 岩久良の言葉にオルブフとルルアラは内心、そのために来たわけではないのに、とぼやく。岩久良が二人へと向ける視線もどこかこれが当然だ、とでも言うような色が含まれていた。


「……それにしても、ゲートも連絡用水晶も使えないんすけど?」

「逃げられたら困るのでな。第四の主に頼んでゲートに使われている転移の魔法を打ち消す道具をそのゲートに備え付けている。獣人の君が連絡を取ろうとしたので広場一帯、魔法及びスキルを使えないようにする道具まで急いで使わなければならなかったが」

「僕が作ったのだから僕に説明させてほしいのですけれど……」


 オルブフの問いに答えた岩久良に、苦笑を浮かべながら大ヶ島はぼやいた。当の本人である岩久良の耳には届かない。大ヶ島がそのことに、はぁとため息をつく。

 そしてひらひらと手の平に握っている魔法の使用を不可にする道具のスイッチを二人に振って見せた。

 一方のオルブフ達だが、逃げる手段を考えていた。

 転移のゲートは使えない。そもそも、この広場一帯では魔法が使えないと先程、律儀に岩久良が教えてくれた。本人の微かな罪悪感からの台詞だったが。

 そんなことを考えていると、天ヶ上が前へと進み出る。慌ててハーレムの女子達が後ろから寄り添うように着いて来た。


「ルルアラ、君とは五大祭の闘技大会で会ったよね。僕達が望むのは『第五遊技場』の開放だ。……もっとも、開放に伴いどこかの国には必ず所属してもらうけれどね。例えば、アグレナス王国、とか」


 アグレナス王国、というのをより強調して言う天ヶ上。一方のルルアラはというと、しかめ面で天ヶ上を睨んでいた。具体的に言えばルルアラを睨みつけてくるハーレムの女子達も含めて睨んでいるのだが。

 ルルアラの脳裏に過ぎるのは、闘技大会で天ヶ上達ハーレム組に絡まれた嫌な思い出である。出来ることなら天ヶ上とこうして相対するのはあの時の一回きりでよかった。どうして会ってしまったのだと、半ば自分の不運をルルアラは嘆いた。

 けれど嘆いている場合ではないとすぐに思考を切り替えた。


(どうにか逃げたいのです。がしかし……)

(相手が相手、っすね……)


 同じことを考えるルルアラとオルブフ。ぐるりと自分達を囲む兵士達や主、ハーレム組は問題ではない。問題なのは二人を騙して『アトレナス』へと連れて来た上級神である少女だった。

 相手が下級神ならばまだしも、上級神となれば逃げるのに手間取ってしまう。その間に第四、第二なりに対策を取られてしまえば意味が無い。

 そもそもこの広場では魔法が使えないのだ。オルブフとルルアラが逃げるにしても空中、地中、どちらの選択肢もなく、真正面から突き進むしかない。


 手の内が分かったのであれば対策なりなんなりして、突破できただろう。上級神である少女という存在、そして第四、第二が他にも何か手を打っているのではないか。実行するにはあまりにも情報が不足し、疑いが更に泥沼へと二人を誘い込む。

 そんな状態が二人に実行する後一歩を踏ませなかった。ぎり、と二人が微かに歯軋りする音が鳴る。


「さぁ、ルルアラ。僕のために『第五遊技場』を開放するようにしてくれ」


 その整った相貌を笑顔の形にし、天ヶ上はルルアラへと迫っていく。

 時刻は既に夕暮れ時。夕日は山の端へと沈もうとしていた

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