閑話~少女、そして門~
秋人が見回りの途中、金物を扱う店のドワーフに話しかけられていた頃オルブフとルルアラは総合受付所の窓口にいた。
遊技場の入り口に程近いその総合受付所には迷子やアトラクションの場所などを尋ねたりと様々な人が来る。
扉の上半分にはめ込まれたガラス窓からは外の風景が見え、中には観葉植物やいくつかのソファーが備わっている。そしてその奥に二つほどルルアラとオルブフのいる受付口があった。
そんな総合受付所に一人の上級神である少女が姿を現す。
ツインテールにした燃えるように赤い髪が揺れるその少女の容貌は一言で言うならば気の強い美少女、だ。眉尻を少しばかり吊り上げて中に入る様は少し猫目ぎみの瞳といい警戒する猫のようである。動くたびに身につけている簡素ながら丈夫な鎧がカチャカチャと音を立てていた。
一方のオルブフとルルアラはそんな少女を見て少しばかり訝しく思う。
困ったような、とか泣きそうな、なら分からないでもないがこうも緊張が混じっているのに加えて警戒したような顔で入る客は滅多に見ない。
それとなく二人がそちらへ意識を向けていると、件の少女はオルブフの方へとやってきた。
「ねぇ」
「はい、何でしょうかお客様?」
「ちょっと私についてきてくれない?」
「へ?」
突拍子も無い少女の言葉にオルブフはぽかんと口を開けて思わず聞き返した。用件も何も無い、ついてきてくれというだけというのは十分にオルブフを驚かせたのだ。
突然何を言うのだろうかと、驚きで一瞬思考が停まりかける。隣で様子をちらりと窺っていたルルアラも言葉は出さないものの少なからず驚いた。
しかしそんな二人を他所に少女は少しばかりむっと顔をしかめると、更に受付の窓口へと顔を近づける。そしていらいらしていると言わんばかりにオルブフの間近で声を荒げた。
「聞いてるの!? ついてきて、って言っているのよ!」
「あ、あの……何かをお探しなのか、それとも違うのか。せめて理由をはっきりしていただかないとこちらも対処できません。何かご相談でも?」
「それは……友達、友達とはぐれちゃったのよ! だからついてきなさいよ! ……上手くいかないわねぇ」
最後の呟きはオルブフには聞こえない。
少女は慌てて取り繕うように、オルブフへと愛想笑いを浮かべた。一方のオルブフは何が何やらといった様子である。
「と、とりあえず! 友達を探すからついて来なさいよ! こんっな美少女が頼んでいるのよ、答えははい、イエスしかないでしょう!?」
「え、えぇ~……」
少女の迫り来るような言葉の連続にオルブフは浮かべていた営業スマイルが崩れかける。思わず口の端が不自然にひくひくと引き攣りそうになるが、どうにかそれを抑えた。
今まで喚く客がいたがここまで自分に自身のある客は滅多に見ないのだ。
少女はオルブフの表情に気づくことなく、むしろ誇らしげな表情で見下すような視線をオルブフへと送る。
「さぁ、手伝いなさいよ! さぁ!」
「ちょ、ちょっと待ってください、お客様!? お客――」
「お客様、少しよろしいのです?」
口の端が引き攣るオルブフと迫る少女。見かねたルルアラは小さくため息を吐くと席を立ち、二人の下へ歩み寄りながら言う。
少女はぴくりと反応すると視線をルルアラの方へと向けた。
「あら、あなたも手伝ってくれるの?」
「お客様、まずはそのご友人の特徴を教えて頂けませんか。特徴が分からないとそもそも探せないのです。加えて、何時ごろに来園なさったか教えていただけるのです?」
「何でわざわざそんなことを教えなきゃいけないのよ?」
「その時間帯の入り口に設置している監視用水晶を確認するのです。園内に設置されたそれらを調べて、何処にいるのか探すのです」
「そ、そこまで……」
ルルアラの言葉に少女は口をわなわなとさせながら小さく呟く。
そんな少女の様子にルルアラは訝しげな顔をした。友人を探したい、と言っていた割にはそのようには見えない。何があるというのか。
もしかしたら大げさにされるのが嫌ということなのだろうか。そう考えたルルアラは少女の返答を待つ。
少女は俯いて何やら考えこんでいる様子だったが、少しして顔を上げた。前髪で隠れて見えなかった彼女の表情は、申し訳なさそうなそれである。
「ご、ごめんなさい……。あんまり大げさにして欲しくなくって、でも早く友達を探したくって……。とても分かりやすいから監視用水晶の確認は大丈夫よ。……さっきの対応は、謝るわ。ごめんなさい」
そう言うとペコリと頭を下げる少女。突然しおらしくなった彼女に二人は虚を突かれたように驚くが、目の前で頭を上げた少女は不安で揺れる瞳をこちらへと向けている。
先程のは友達とはぐれて混乱していたためだろう、そう考えた。
「とにかく、手伝ってくれないかしら……?」
不安げに瞳を揺らす少女。オルブフとルルアラは顔を見合わせ小さく苦笑を浮かべると、いつもの笑みを少女へと向けた。
「構いませんよ」
「私も手伝うのです」
「……っ! ありがとうございます……!」
二人の言葉に今度は嬉しさで瞳を揺らす。そして大きな声でお礼を言うと、勢いよくお辞儀をした。上げられた少女の目尻には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「と、友達は、えっと、背、背が高いんです、とっても! 探すの、手伝ってください!」
そう言った少女の下、オルブフとリアナも加わって友人探しが始まった。
□ □
「見つからないっすね~」
「むぅ、ご友人はどこにいるのです」
下級神エリアにてオルブフとルルアラは小さくぼやいた。少女は姿が見えるも遠くにいる為先程の会話は聞こえない。小さく吐いた二人のため息も。
上級神エリアを探してみたものの少女の言う友達は見つからず、それではと下級神エリアに場所を変えた。時にはアトラクションやレストランの従業員にも訪ねてみたのだ。
けれどいっこうに少女の言う友達はいない。もう探していない範囲も小さくなり、これなら監視用水晶を端から確認していれば良かったと後悔し始めていた。
二人同時に肩を落としてため息を吐いていると、少女が二人のもとへと走り寄ってくる。
「見つからない、わねぇ……。あ、もしかしたら」
「どうしたのです?」
どこかとってつけたような言葉ながら何か思い当たった様子の少女にルルアラが続きを促す。ちらりと向けられた少女の視線は入場ゲートのある方向だ。
「この後、『アトレナス』に行く予定だったの、その友達と。もしかして先に行って、たり?」
「つまり、『アトレナス』にもしかしたら行っているかもと?」
少し詰まりながら言う少女の言葉にオルブフが尋ねる。すると少女は申し訳なさそうに一つ頷いた。
気まずげに目を逸らしていた少女は申し訳なさそうに二人を見やる。
「それで、『アトレナス』って広いから、ついて来て欲しいんだけど……」
思わずといった様子でその言葉に顔を見合わせる二人。
さすがにそこまでやるべきなのだろうか。加えて相手は神である。『アトレナス』は広いというが、神を基準に考えれば広いという程ではないだろう。
けれど乗りかかった船、ご友人を探しに向かっても構わない。
結局、引き受けてしまったからには最後までとルルアラとオルブフは少女の誘いを受けた。内心、仕方が無いと苦笑しながら。
少女は二人の返答に満面の笑みを浮かべる。引き受けてくれたことが嬉しいのだと、そう思わせる笑顔だった。
行くのならば早いほうがいい。そう提案した少女に言われて二人は少女と共に外へ出ると転移のゲートをくぐる。
早く早く、と先導する少女から順にゲートへと彼らは姿を消した。




