第4話~再会、そしてステータス~
目の前にはフロワリーテさんと見知らぬ男性。
フロワリーテさんと同じ金髪に青い瞳、整った容姿。体は見える部分からでもほどほどの筋肉がつき、引き絞られていることがわかる。
「えっと……フロワリーテさんと……?」
フロワリーテさんは知っているが、隣の男性は知らない。まぁ、フロワリーテさんに関係している人物、つまり神様関連なのだろうが。
「自己紹介だな。俺はアトレナス。こいつの主だ」
そう言ってニコリと笑みを浮かべるアトレナスさん。というか、世界の名前と一緒ということは……。
「名前からも分かる通り、俺はこの世界での最高位の存在だ」
「ですよね~……」
小さくつぶやいてうなずく。世界と同じ名前を持つってなったらそれぐらいしか想像出来ない。
「といいますか、何のようで二人は来たんですか?何か伝え忘れたこととか?」
「いいえ、違います」
俺の問いに否定を示すフロワリーテさん。だったら、一体何の用だろうか。
俺がいぶかしげにしているとフロワリーテさんが一歩こちらに近づいて、にこりと微笑む。
「神楽嶋様に『第五遊技場』の主をやっていただくために参りました」
「第五……遊技場?」
なんだそれ?初めて聞く単語だ。いや、遊ぶ場所であることは文字の意味からしてわかるのだが。神が言ってきたということは普通とはちょっと違う意味でもあるのだろうか?
「第五遊技場とはその名のとおり、遊び場を意味しています」
「……そのままですね」
思わず言ってしまう。いやだって仕方がないだろ。さっき、何か違う意味が?なんて推測しちゃったんだし!少し恥ずかしいじゃねぇか……。
「といっても、少し普通とは違うのですが」
「普通と違う?」
「はい。その前に、『アトレナス』がどのように成り立っているかはすでに知っていますよね?」
フロワリーテさんの問いにうなずく俺。先ほど王から直々に説明を受けたばかりだし、なにより、こちらで生きていくのだからきちんと覚えている。
「『アトレナス』と五つの世界があって、五つの世界の力が『アトレナス』に反映される、ですよね?」
「はい、そのとおりです。五つの各世界には主がいるのですが、現在はいない状態ですね。故に『アトレナス』は現状力が弱い状態です。その主探しに各国で大規模な勇者召喚が行われました」
俺の答えに満足そうに答えるフロワリーテさん。というか、さっきなんて言った?
「各国?この国だけでなく、いろんな国で召喚が行われたのですか?」
「はい、ほぼ全ての国が行いました」
数撃ちゃあたるの方法をどの国でも行いましょうと各国が決めたからか?確かに、各国が召喚を行ったならあの人数は納得できる。
しかし、妙にひっかかるな……。どの国も『アトレナス』を救いたいがために?そこまで各国がひとつの目標で一致団結できるものか?それとも何か利益があるから?
「国が召喚を行い、その中に主がいたとします。その国は主を優遇し好印象をもたれることでその主の世界で優遇されることを望んでいるのです」
俺の疑問を知ったかのように答えるフロワリーテさん。なるほど、それならわかる。
世界の成り立ちから五つの世界のほうが『アトレナス』よりも力が強いのだろう。そんな世界での優待券をもらえるならなんとしてでも主を召喚したいだろう。だからこその各国での大規模召喚か。
「その話はおいときまして、五つの世界の説明を。五つの世界は『第一闘技場』、『第二図書館』、『第三商店街』、『第四工房』、そして神楽嶋様に主をやっていただく『第五遊技場』でございます」
第一とか、第二とか……『アトレナス』みたいじゃないのか。商店街なんて一体どんな世界だよ。
「こっから話は交代な。世界のことなら俺のほうが詳しい」
「はい、わかりました」
アトレナスさんの言葉にうなずいて、フロワリーテさんは一歩二歩と下がりアトレナスさん後ろに控える。代わりにアトレナスさんがこちらを向きながら説明を始めた。
「それじゃ、まずは『第一闘技場』からだ。『第一闘技場』は文字通り闘技場を中心とした世界。闘技場の周りに街、そして森が広がる。その闘技場では毎日戦士同士の戦いが繰り広げられている」
「それは普通の闘技場じゃないのですか?どこが違うのです?」
「ぜんぜん違う。『アトレナス』にも闘技場みたいなものはあるが『第一闘技場』では生半可な強さは通じない。『アトレナス』でのそこそこ強いは『第一闘技場』では弱い、になっちまうからな。森にも強大な力を持った魔物がうようよいる」
『アトレナス』基準で強さが測れないのか。五つの世界も似たようなものだろうか。
「次に『第二図書館』。『第二図書館』には『アトレナス』にあるものすべての知識がそろっている。『アトレナス』に新しく出現したものでもすぐさまその完璧な情報が『第二図書館』へと本と言う形で現れる」
おう……それは、知識チートというものではないか?すごいな『第二図書館』。それだったら『第一闘技場』は力でチートか。
「次は『第三商店街』。『第三商店街』には『アトレナス』にあるものすべてがそろう。『アトレナス』では特産としてその地でしか売られていないものが『第三商店街』にはすべてそろう。作物だけじゃない、武器だって、鎧だって全種そろってる」
今度は経済関連でのチートと来たか。ん?ってことは……。
「もしかして、よくある一振りだけの聖剣なんてものも……」
「もちろんごろごろと売られているぞ。ほかよりは多少値は張るが」
なんてこったい。『第三商店街』ではレアの大量販売が行われているのか。……もうそれ、レアじゃねぇな。
「四番目に『第四工房』。文字通りの工房だが『第四工房』で作られる品はすべてが一級品ものだ。聖剣なんて目じゃないくらいのな。工房付近には広大な森や巨大な鉱山などがあり、そこから取れる鉱物やら資材やらは『アトレナス』にはない高品質のものばかりだ」
『第四工房』は生産でのチートね、なるほど。てかチートばっかしじゃねえか。
「最後にお前に主をやってもらう『第五遊技場』。文字通り遊ぶ場所、だな」
「……って、え?それだけですか?」
え、何、俺が主やるっていう『第五遊技場』がほかのよりかすんで見えるんだけど?
「遊ぶ場所とは言ってもまず人間がやってくることなんてない」
「では誰が遊ぶのですか?」
「俺達、神だ」
「……え?」
今、なんていった?遊ぶのは神?え、どゆこと?他四つにそんな説明なかったよな。
「他の四つは神じゃなく、あくまでも人間が対象の世界だ。しかし、『第五遊技場』だけは違う。神が対象の世界だ。『第五遊技場』はお前らの世界で言うところの遊園地みたいだが、神が対象なだけに『第四工房』でも作れないほどの頑丈さをもつ「遊具」がたくさんある」
「いや、遊具が頑丈とは……」
それはほめるところなのだろうか?遊園地としては確かにいい点だが。
「お前の世界の遊具を基準にしてもらっちゃ困る。どの遊具も神が使うからかなりえげつないことになってるぞ。ま、それは自分で見たほうがわかる。でだ、『第五遊技場』の主に選ばれるには他四つよりかなり厳しい」
「厳しいっていいますと?」
「神が相手だろ?遊ぶのは下級神だけじゃなく、上級神や他の世界の創造神だってくる。そんな神々が揉め事を起こしたら普通の人間には止められない。ゆえに『第五遊技場』の主はどんな存在でも簡単にあしらえる絶大な力を持っている必要がある」
「絶大?等しいとかじゃなくてですか?」
「等しかったら、本気出して戦うことになるだろ?手加減できずその神を倒したらその世界が消えてしまう。だから簡単にあしらえる力が必要なんだよ。そうすれば、手加減して怪我程度ってぐらいにもできる」
「あぁ、なるほど、そうですか」
喧嘩で世界が消えるのは好ましくないよな……。
「さらに武力面じゃなく、知力やら生産やらでもチートだぞ?」
「え?なんですかそれ……」
さらにチートとか……。
「遊びは「遊具」だけじゃねえよ。「知恵比べ」、「ものづくり」、どんなものでもゲームになる。料理比べとか、どれほどいい武具が作れるか、とかな」
そんな勝負はきっと生産やら知恵やらに関連した神だろうな。
「んま、大体がそんなトコだな。あとは実際に見て、実感していくといいさ」
「分かりました」
とりあえず、『第一闘技場』は力、『第二図書館』は知恵、『第三商店街』は経済、『第四工房』は生産、『第五遊技場』は娯楽ということか。
「『第五遊技場』に来る神って遊びに来るんですよね?わざわざ、別世界に?」
「俺達だって……時には羽を伸ばして休んだりしたいんだよ……」
「あ……そうですか」
俺の質問に疲れた笑みを浮かべながら答えるアトレナスさん。どことなく哀愁が漂っている。世界の管理というのは疲れる仕事のようだ。
「世界間の移動については、明日説明されるだろうが……。『第五遊技場』では人間が入るには主からの許可証が必要だからな」
「主の許可証?」
「おう。神の遊び場に来るんだ。お前が信頼できるやつにのみ与えろ。といっても、『第一闘技場』で強いから来れるなんてレベルではないんだがな」
信頼できる人のみか。あんまりほいほいとあげて神といさかいを起こされてもこまるな。対処するのって俺になるんだろうし、めんどくさい。あげないことを基本とするか。
「とりあえずはこんなところか。後は……おっと。お前のステータスについてだな。ステータスって念じるだけでいい」
「分かりました」
俺はアトレナスさんに言われた通りステータスと念じてみる。うわ……突然目の前にゲームでよく見るステータスが表示される。ステータスはFSGに似ている。多少は違うが。
≪ステータス≫
名前:シュウト(神楽嶋 秋人)
性別:男
種族:人
Lv:200(測定不能のためカンスト値)
メイン職業:トリックスター
サブ職業:1、錬金術師
2、調合師
3、鍛冶師
ユニーク職業:『第五遊技場の主』
状態:健康
<スキル>
・鍛冶 ・調合 ・錬金 ・完全隠蔽 ・レーダー ・刀術マスター ・槍術 ・棒術 ・体術
・銃マスター ・全属性魔法使用 ・無詠唱 ・威圧 ・浮遊 ・全状態異常無効
・制御技術マスター ・思考加速 ・全対象解析可能 etc・・・
「なんですかこれ……測定不能のためカンスト値表示って」
「そりゃ、お前の強さがステータスで表示できる限度を超えているからだろ」
おう、まじか。確かに神を軽くあしらう力があるならレベル表示ってどうすればっておもうよな……。
「あと、攻撃力とか防御力とかの表示がないのですが?」
「それが表示されるのはゲームだけだ。そんなのお前の世界でも見えないだろ。俺は今五十の攻撃力を持っている、なんて。それとおなじだよ。似ているからってまんまそっくりってわけじゃない。レベルがあるのは一種の指標だ。この人はこれぐらいの力がありますよっていうな。ま、レベルについては高ければ強いっていう考えでいい」
「なるほどわかりました」
力は見えないが、強さの指標としてのレベルは見えるということか。
称号が無い理由も聞いてみたら力の表示とおなじ理由だった。称号と力の表示が無い以外にも違う点がひとつある。それは「状態」の表示。毒になったら毒と出るが、健康という表示は無かった。理由を聞いてみたらほとんどの人がステータスで健康のチェックを行うらしい。少し病気かなと思ったらステータスを見て確認するそうだ。通院するまではっきりしないよりはこちらのほうが便利な気もする。
「おう、そうだ。どうせ明日解析するんだろ。別にお前が主だとばれてもいいっていうならかまわんが面倒ごとに巻き込まれるのは確実だ。それがいやなら隠蔽をかけておけばいい」
「それもそうですね」
異世界に来て早々面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁だ。そうでなくても神様の相手をする『第五遊技場』の主になったんだ。これ以上の面倒はごめんこうむりたい。
アトレナスさんの言葉にうなずいた俺は早速<隠蔽>を発動する。発動は常時にしてっと……これで大丈夫だろ。
「それじゃ、またな、神楽嶋秋人」
「では、また。今度は遊技場で出会うことになるかもしれませんね」
「はい。ではまた」
少しずつ消えていくフロワリーテさんとアトレナスさん。お、完全に消えた。自分達がいた場所に帰ったのだろう。ただ、遊技場に彼らが遊びに来たら再び会うことになるが。
「さて……俺はもう一度寝るとするか」
そうつぶやいて俺は再びベッドに横になる。途中で起こされたからすぐに睡魔が襲ってくる。<隠蔽>が明日もちゃんと効いているか念のために確かめておこう。常時が切れていました、なんてことは洒落にならない。面倒ごとに巻き込まれるからな。
(起きたら……きちんと確認して……スキルとか力も把握して……)
これからやるべきことを考えていく。あぁ、でも眠い。さっきから思考がおぼつかなくなっている。そろそろ寝るか。
こうして俺は異世界初日を終えた。なんというか……把握するのに疲れた。それに前の世界とは違うっていうのもな。明日も説明とかあるだろうが……自分のことを実際自分で把握していかないとな。
最初に決めていた設定と少しずつ異なっていく・・・。
当初、攻撃力とかは表示予定でした。
でも疲れたらその表示された攻撃力で攻撃できるわけじゃないし、ゲームならまだしも舞台は「ゲーム」ではなく「ゲームに似た現実」の異世界だから数値化なんてしないよな、などの考えでやめました。称号もそんな感じです。
今回の話を楽しんでいただけたら幸いです、それでは。