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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第二章
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第34話~暴走、そして群れ~

 五大祭三日目朝九時頃、いつも通り俺はロルを連れて自身の持ち場へと向かっていた。リリアラやルルアラ、他のメンバーもバラバラに持ち場へと向かっているだろう。

 しかしそれにしても勇者が五大祭に来ているとは思わなかった。リリアラ達が言うにはローブを羽織って一目で誰か分からない格好をしていたらしいから、お忍びで来ていたのだろう。

 ……それで五大祭にて変な登場をしている辺り、本当に身分を隠すつもりがあったのかは疑問だが。

 どちらにしてもこれでは俺が下へと降りることは難しい。ひょんなことで見つかるようなことになったら困るしな。もっとも、降りるとしたら四六時中ヴィジョンをかけている状態だろう。

 

「しっかし、変わっていないんだな。悪い意味だが」


 あくびをかみ殺しながらそう呟く。既に遊技場内に入っており、最初の仕事である遊技場内の見回りを始めている。まぁ、昨日のようなもめごとが起きないに越したことは無いが、念のためだ。

 視線は騒動が無いか確かめながら、勇者である天ヶ上のことを考える。

 昨日の夜、祝いの席でリリアラ達が吐き出した愚痴の中の殆どが勇者関連のものだった。やれ話を聞いてくれない、勝手に決めつけてくるなどなどである。話を聞いていてその様子が鮮明に思い浮かべることが出来たのは、ありがたくもない勇者達と関わりがあったからだろう。

 思わずため息が一つこぼれてしまう。あぁ、随分と経つのに良い感情が湧かない。根に持ちすぎているのでは、と少し心配になってしまう。そういえば話の中に樹沢はいなかったようだが、彼も同じようにこの五大祭に来ているのだろうか。

 今まで勇者だのと気にする余裕も関わることも無かったため、リリアラ達の話を聞いた時はあまり嬉しくもない不快感に襲われた。

 ……うん、少し考えすぎだ。そんなことを考えるより目の前の仕事に意識を向けよう。そちらの方が有意義だ。

 

「ひとまず騒動は無いな……ってロル、どうした?」


 辺りを見回していた視界の中に隣を歩いていたロルが入る。ちらりと見えたロルの様子がいつもと違い、疑問に思って尋ねた。

 いつもなら元気よさげに歩いているのだが、何故か今日はそわそわとしている。楽しさから、と言う訳ではなさそうなのはロルの目を見て分かった。

 具合が悪いのだろうか?しかし昨日はそんな様子を見せなかった。急な病気にでもかかったか?


「ロル、具合でも悪いのか? もしかして病気か?」

「……ピ、ニョ」


 ロルは小さく鳴きながら首を横に振って否定の意思を示してくる。そして大丈夫だと示すようにこちらへ笑顔を向けた。

 正直言うならば見ていてとても辛くなる笑顔だ。視線を戻したロルは再び挙動不審になる。

 本当に大丈夫か?そんな言葉を続けようとしたにも関わらず俺の口は言葉を吐き出すことはできなかった。正面から、ロルの瞳を見てしまったからである。

 いつもの柔和な瞳を維持しようとしているが、こらえきれないのか時々見せる瞳は野生の魔獣のそれである。目の前の生き物を殺し自身の糧とする、野生の瞳だ。

 柔和さから漏れ出る敵意、あまりにも歪である。ロルを見て感じた不安が消えることなく、むしろさらに増して心の中を占めてくる。今までぶつけられなかった感情にどうしても戸惑いを隠せない。

 そんな俺の不安をさらに煽るようにロルの瞳孔が再び細められた。





「本当に大丈夫か、ロル?」

「ピ、ピ」


 これで何度目の質問だろうか。ロルは変わらず大丈夫だと首を縦に振るも、その表情は明らかに大丈夫だとは思えない。気のせいか目も血走り始めている。

 既に時刻は昼前で、あれからどれだけ聞いてもロルは大丈夫だの一点張りだった。ステータスチェックをしようとしても嫌がられ、どこかへと飛んで行ってしまう。そしてしばらく経ってロルは戻って来る。これを何回も繰り返していた。

 一方でロルの様子は時間が経つごとに悪くなっているようにも見える。最初は何でもないと思っていたのだが、今では見るからにおかしい。何とかしてステータスを見てロルの健康をチェックしなければ。

 そう思い動かしていた足を止める。ロルは不思議そうな、けれどあまり余裕のない表情をこちらへと向けた。


「……ロル、お前さっきから大丈夫だって示しているが明らかに大丈夫じゃないだろう?」

「ピ、ピィ」


 俺の言葉を否定するようにロルは首を横に振り、こちらへ笑みを向けようとしてくる。だがもうそれは笑みの形を成しておらず、引きつっている。

 その様子に一つため息を吐くと、眉間に皺が寄るのを感じながらロルに言葉をかけた。


「お前のステータスをチェックして健康状態を確かめる。健康ならもう俺は何も言わないが、健康ではなく病気なら薬を飲んで、安静にしてもらう。それでいいだろう?」

「ピィ……」

「いいな?」

「……ピィ」


 念を押すようにそういうとロルは渋々と言った感じで頷きながら鳴く。そんなことをしている間にもロルの息は荒くなっていた。

 急いだ方がいいな。ロルに<全対象解析可能>を使ってステータスを開くと、健康と書かれている。しかし目の前のロルはそんな様子に見えない。どういうことだろうか?


 そう考えていた瞬間、遊技場内に昼を報せるメロディーが流れる。今俺達の間に流れる空気とは対照的に明るく、陽気な音楽だ。

 その時だった、ロルの様子が見る間におかしくなる。いつもの鳴き声ではなく、魔獣独特の唸り声がくちばしの隙間から息と共に洩れる。

 理性が押し流されているのか、ロルのくちばしからはよだれが垂れかけていた。目は見開かれ、血走り、体中の羽毛をざわざわと警戒するように逆立たせている。


「ロル?」


 思わずそう呼びかけてしまう。しかし返ってきたのはいつもの可愛らしい鳴き声ではなかった。

 至近距離で発せられる咆哮。羽を大きくばたつかせ、唾が飛び散ってくる。何事かと周りの客がこちらを遠巻きに見ていた。

 僅かな敵意、そして苦しさと困惑の混じった咆哮に思わず身構えてしまう。どうした?一体何があった?なぜここまで様子が変わった? 

 疑問だらけの俺を他所にロルは苦しげに呻きながら後ずさる。苦しげに頭を振り、力を入れているためかロルの鋭利な爪は通りに食い込んでいる。

 一瞬ロルと合わせられる目、その瞬間に構えていた力が抜けた。


「ピ……ギャ……」


 救いを求めるような、懇願する瞳。こちらへと伸ばされた鉤爪。

 しかしその色はすぐに影を潜め、苦しそうな色へと変わる。

 そして次の瞬間には羽を大きくはばたかせ宙に浮いたかと思うと、そのままどこかへ飛んで行ってしまった。

 まさか街にでも行ったか?いや、とにかく見失わないように追わなければ。

 急いで連絡用の水晶玉を取り出すと、ジェラルドさんへと繋ぐ。


「どうなされましたかな、秋人様」

「すみませんロルの様子が急変してどこかへ飛んで行きました。これから俺も後を追います。後をよろしくお願いします」

「……わかりました。お気をつけて」


 そのジェラルドさんの言葉を聞くや否や通話を切り、同じように空へと浮かんでロルの後を追う。念のためにと自身にはヴィジョンをかけておく。

 自分が焦っていることは分かっているが、それをどうこうできる程の余裕はない。ただただ頭の中がロルのことで埋め尽くされている。

 ステータスを見てみればロルの健康状態に異常は見られなかった。けれど、現にロルの様子はおかしい。ざわつかせる羽、あげられる咆哮、さながら野生の魔獣だ。

 野生に戻った?ならば今までは一体何なのだろうか?

 今まで接してきたロルはあんな様子など微塵も感じられなかった。懐いているのだと自惚れていたか?本当はそんなことなどなかったのか?

 最悪の予想ばかりが過り、困惑と不安だけが増していく。けれど最後によぎるのはあの救いを求めるような目だ。


「くっそ、考えても仕方ねぇ。直接確かめるしかねぇか」


 言葉を吐き出すと、さらに飛ぶスピードを速くする。下に広がる祭の風景は流れ、目の前に羽ばたく小さい影が見えた。

 影は街の外へと出ていく。

 進行方向には魔法学園を囲むようにして広がる魔獣の棲む森があった。





 追っていたロルは森まで来たかと思うと木々の無い少し開けた場所へと降りて行った。見失う訳にはいかないと<レーダー>を展開して同じ場所へと降り立つ。

 ロルを示す赤い点が速いスピードで進んでいた。おそらく走っているのだろう。ロルが進んでいる道を示すかのように草木が荒らされ、獣道が作られていた。

 横目で<レーダー>を確認しながらもロルの後を追うようにして走る。正規の道ではないため時々飛び出た枝などがあり、それを避けながら進んで行った。

 魔獣が先程から見当たらないことにわずかばかりの違和感をわずかに感じるも、すぐにそれは不安で掻き消えて道を進んでいく。徐々にロルとの距離は詰められ、気づけばもうすぐといった距離まで近づいていた。

 走っていると木々の隙間からじっと立つロルの姿がちらりと見える。ロルの周りに木々は無く、どうやら先程ロルが着地した場所と同じく開けた場所に立っているらしい。

 獣道を進みながら徐々にスピードを緩め、開けた場所に出た時はゆっくりと歩いてロルへと近づく。

 次の瞬間、大きな音がしたかと思うとロルがこちらへ声を上げながら飛びかかって来た。一拍遅れて大きな音が地を蹴った音なのだと気づく。

 くっそ、油断した!カウンターよりも防御だと、手に魔力を集めて防御魔法を発動しようとした時だ。


「ギィギャァ!」


 振り下ろされた鉤爪と手に集めた魔力が触れた瞬間、ロルが悲鳴を上げながら飛び退った。な、何だ?俺はあいつに攻撃していないぞ?魔力に攻撃性は……無いはずだ。発動しようとしたのは『第五遊技場』特有の魔法のうち、防御特化の魔法だ。

 何故ロルが飛び退ったのか、そんな疑問で埋め尽くされかけていた俺の耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。


「ピィ……」

「ロル!?」


 思わず叫んでロルの方を見ると、苦しそうではあるものの先程までの凶暴さは隠れていた。

 しかしその様子はすぐに消え、激しく体を揺すりながら雄叫びを上げる。だが、先程の様子を見ると何かに反応して元に戻りかけていた。……何がきっかけで戻りかけた?

 考えようとするもロルはその時間を与えてくれるわけがなく、鉤爪による攻撃を仕掛けてきた。


「さっきの、状況は……っ!」


 ロルの攻撃を避けながら先程の状況を思い出す。

 確かあの時は俺が防御魔法を発動させようとしたときだった。その魔法がロルの攻撃にぶつかったかと思うと、ロルが飛び退ったのだ。

 ロルの攻撃に合わせて防御魔法をぶつければいいのか?


「ギィアッ!」

「くそっ!」


 素早く振り下ろされる鉤爪。ものは試しだと発動した土属性の防御魔法でロルの攻撃を防ぐ。これでさっきみたいに元に戻りかけるか?

 しかしその様子は見せず、悔しげに唸ったかと思うと防がれた反動を利用して俺との距離を空けた。……さっきのようにはならなかった?

 防御魔法をぶつければいい、と言うわけではないらしい。ならどのようにする?ロルが戻りかけた時の一挙手一投足を順に思い出す。そんな間もロルは攻撃を仕掛けてきた。

 あぁ、もう!攻撃をかわすことにも意識を割かなければならないから思い出すのに時間がかかるなぁ!

 確か防御魔法は発動しかけて……しかけて?ならロルが触れたのは発動した魔法ではなく、魔力そのものなのか?ものは試しだ。

 魔法の形を成さない、ただの魔力を両手に集める。その濃さゆえか手の周りは妙に靄がかかっているようになった。確か発動しようとしていたのは『第五遊技場』の魔法だったので、その属性に変える。

 強く地面を蹴ってロルの元へ一直線に向かう。地を蹴った音が後方で聞こえ、目の前のロルは避けることが出来ないと判断したのか羽のある両腕を交差して防御の態勢を素早くとった。 

 ロルの寸前でブレーキをかけ、正面突きを繰り出す。ただロルに魔力を触れさせるだけが目的の一撃は、ロルに防がれた。


「ギィガッ」


 一撃を受け止めた瞬間、ロルが奇声を上げて大きく飛び退った。ふむ、どうやら推測は正しかったらしい。正直、あまり詳しいことは分からないが……。


「ピィ……」


 ロルの鳴き声を聞いて顔をそちらへと向ける。苦しそうに肩で息をし、くちばしからはみ出た舌からは涎が滴っている。

 しかし攻撃する意思がなくなったのか、こちらに対して敵意のある眼を向けてくることは無い。逆に頭を抱えるような動作をすると地面に頭を打ち付けたりと苦しむような様子を見せ始めた。

 

「ロルっ! くっそ!」


 思わず悪態がこぼれるも、再び魔力が纏った手をロルに触れさせながら頭を打ち付けようとするのを取っ組み合いながら防ぐ。暴れようとする力は強く、目は時々正気に戻るように見えるがすぐさま苦しそうにうめいて焦点が合わなくなる。手に纏った魔力がどんどんロルの体内にいっているから、これでいいとは思うが……見ていて心配になってきた。


「やめろ、ロル! 落ち着け!」

「ギィ……ピィ……!」


 何度も呼びかけていると正気に戻る感覚が徐々に短くなっていく。確かに効いてはいるみたいだが……。

 

「ギャァ!」

「くっ」


 抑えようと取っ組み合っていたため、振り下ろされた頭を躱すことが出来なかった。勢いよく振り下ろされた頭、それは肩に振り下ろされる。途端に走る激痛、そちらへちらりと目を向けると肩にロルのくちばしが刺さっていた。

 いってぇ……。思わず眉間に皺がよる程の鈍い痛みを傷口が訴え、背中を冷や汗が伝う。来ていたシャツが血の赤で染まっていくのが視界の端で見えた。焦燥が混じり、ロルへと送る魔力量を多くする。


 その後も何度かくちばしが皮膚を掠め切り傷が増えていった。しかし徐々にとはいえ暴れる力が弱くなっている。このままいけば、何とかなるか?


「ギィ……ピィ……」

「お、落ち着いたか、ロル?」


 暴れていた勢いがなくなり、肩で息をするロルにそう話しかける。ちらりと横目でロルの顔を見れば、申し訳なさそうにこちらを見ながら小さく頷いた。はぁ、どうやら落ち着いたみたいだな。

 疲れたように肩に頭を置くロル。その様子にほほえましく思いつつも、ロルに回復魔法をかける。暴れていたせいだろう、よく見ればロルの体にも小さな傷が出来ている。それに疲れてもいた、これである程度は回復しているだろう。

 

「ピィ……」

「ん?あぁ、傷か。大丈夫だ、すぐ治る」


 肩の傷口を見ながら心配そうに鳴くロルに笑みを向けながらそう言うと、自身にも魔法をかけた。破けた服の隙間から塞がった肩の傷やかすり傷が見える。これで大丈夫だろう。

 ロルはそれでも申し訳なさそうに俺の傷口を舐めてきた。そんなロルに大丈夫だと笑みを向けながら、ロルの頭を撫でる。

 あぁ、いつものロルだ。そのことに少し目頭が熱くなる。ただただ、戻って良かったと安堵した。

 ほっと一息吐きながら地面に座り込み、空を見上げる。既に時刻は夕方で、空は夕焼け色に染まっていた。もうこんなに時間が経ったのか、ジェラルドさんに連絡を入れなければ。

 持っていた連絡用の水晶玉でジェラルドさんに連絡を取る。傍には疲れを癒すように同じく地面へ座り込んだロルが寄り添っていた。


「はい、秋人様ですかな?」

「そうです。……今日はすみません」

「いえいえ、話はその場にいた他のお客様や従業員から聞きました。ロルの様子が突然おかしくなったと。ロルも『第五遊技場』の一員ならば、心配してもおかしくはありませんからな」

「今日、俺の代わりに仕事をした人がいるなら、その人を明日は休ませてその分俺が働きますんで……」

「大丈夫ですよ。丁度非番だった私が代わりましたからな」 

 

 ジェラルドさんの言葉に思わずぎょっとする。え、代わってくれたのはジェラルドさんだったのか。確かジェラルドさんのシフトは……うん、今日一日空いていたな。

 気まずい思いになりながらも代わってくれたことへの礼と代わりに仕事をすると言って、一日ジェラルドさんの仕事を引き受けた。

 隣では少し疲れが癒されたのか、ロルが体をこちらに摺り寄せてくる。その様子に少し苦笑を浮かべながら、ロルの柔らかい羽を撫でた。


「それにしても、ロルの暴走のことでございますが……。私もロルが暴れる様子など、昨日見ておりません。病気、というには少し状況がおかしいですな。魔力に反応して治る病気は無いことはありませんが、かといってこのような症状の病気ではない」


 連絡用の水晶玉から考え込むようなジェラルドさんの声が発せられる。

 確かにそうだ。ロルのこの症状が病気だったら、ジェラルドさんの言うことを信じれば新手の病気となる。


「ロル、悪いが聞きたいことがある」

「ピィ?」


 何だというような顔でこちらを見た。しかし俺が眉間に皺を寄せているのを視界に入れた瞬間、申し訳なさそうに項垂れる。その様子に小さく苦笑を浮かべた。


「怒るわけじゃない。ただ、お前がどうして様子が変わったのか、それが気になっただけだ」

「ピ?」

「どうしてそうなったか、聞いていいか?」

「ピピ」


 俺の問いに答えるようにロルは鳴きながら大きく頷く。

 さて、最初は病気だろうか。ステータスでは健康と書かれていたが、最初に思いつく理由としては病気というのが納得できる理由だ。


「ロル、お前は病気でああなったのか?」

「ピィピ」


 俺の問いに首を横に振って否定の意思を示してくるロル。違うのか、それならば……。少し考え込んで再びロルに向き直る。


「……俺達と一緒にいたくないから、とか?」

「ピ!? ピピピヨッ!?」


 思いっきり違うと言わんばかりに首を横に振り、ロルはすり寄ってきた。す、少し心配になったからな。……違うのか、良かった。

 思わず大きなため息をついてしまう。それを聞いたロルは慌てたように俺に抱き付くと、顔を胸のあたりにうずめて匂いを付けるようにこすりつけてくる。

 先程の心配が杞憂だと分かって嬉しいのだが……ロル、痛い。鉤爪が痛い。

 落ち着くようにと諭してロルを離し、再び考えにふける。そうしているとロルが俺の服を小さく引っ張ってきた。


「どうした、ロル?」

「ピ、ピピ、ピィ」


 視線を向けるとロルは何やら動作をして何か伝えてくる。

 俺を指して?次に、これは……考える動作をしているな。そして森の奥を示す。森の奥で考える……ではないよな。順番から考えたら、俺が考えていることが森の奥に関係しているということか?

 もしかして、ロルの様子が急変したことに関係のあるものが森の奥にあるのか?そのことを伝えるとロルはその通りだと言わんばかりに大きく頷いた。どうやら本当にそうらしい。

 それならば、と既に日は暮れ暗く見通しの悪くなってきた森の奥へと向かおうとした俺をロルが制す。


「どうした、ロル」

「ピピッ」


 ロルは鳴くと顔を空へ向けた。開けられたくちばしから魔法で出来た光の球が宙へと放たれた。


「ピィ」

「何だ?」


 光の球を目で追っていた俺の服の裾をロルが引っ張る。どうしたのかとロルへ視線を移すと、ロルはこちらへ向けていた顔を森の奥へと向けた。

 その瞬間、まるで花火のように進んでいた光の球はしばらく行くと弾けた。一番星の浮かぶ空に、森の奥が光で照らされる程度の光を放って光の球は消える。


「んな……」


 光に照らされた森の奥が視界に入り、思わず声が上がってしまう。いつの間に?どうして?

 少し混乱しながら<レーダー>を確認すると、確かに先程見た光景を裏打ちするようにびっしりと群れる赤い点が表示されていた。俺とロルが取っ組み合っている間に近づいてきたのか。


「ロル、あれが関係あるのか?」

「ピ!」


 元気よく答えるロル。俺は眉間に皺が寄るのを感じながらも、視線を森の奥へと再び向ける。慣れてきた目が先程光で照らされた光景を映し出す。


 微かに開けられた口の端から滴る唾液は生理的嫌悪感を引き出す。風が顔を顰めるような匂いを運び、吐き気を誘う。

 グレイウルフ、ゴブリン、オーガ、種族は異なれど魔獣の群れがそこにいた。


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