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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第二章
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第32話~開催、そして騒ぎ~

 リリアラとルルアラの二人を見送り、今は今日の仕事場である「空中遊技場」の広場にいる。下の祭の様子を映しているモニターとは別に、『第一闘技場』主催の闘技大会の様子を映すモニターの用意をしているのだ。

 準備を始めてから数時間、もうあらかたの用意はできていた。後は従業員との打ち合わせだけだ。

 大会開催は午前十一時頃と予定されており、その時刻まであと少しである。広場には徐々に大会を見ようと集まってきた客が思い思いの場所に座ったり、ポップコーンやらを片手に談笑しながら開始を待っていた。

 ちらりと見るとかなりの人数である。あ、商売の神もいた。


「主様、主様、打ち合わせはこの通りでよろしいですかね?かね?」

「ん、あぁ、いいよこれで。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。まして」


 隣から呼びかけられた言葉に視線を客席から声の主の方へと向ける。

 目の前にはこれからの流れが書かれた冊子を開いている独特な語尾の持ち主、映画館や美術館などを担当している従業員がいた。成人男性の体をタキシードで包んでいるのだが、なぜか頭はフラグである。旗である。

 頭さえ見なければ普通な分、全体を見た時の頭部の違和感が半端ない。何故フラグなんだ。

 そんな疑問を抱く俺をよそに、フラグ頭の男性は開いていた冊子を閉じて別の場所へと向かっていた。さて、俺も仕事を再開するか。といってもここで時間まで待たなければいけないんだけどな。

 舞台袖というものはない、巨大なモニターが広場の中央に位置してそのそばにマイクやら機材やら設置されている。

 『第一闘技場』主催の大会が始まる前から俺がアナウンスをこの広場で始め、注意事項等を知らせる。その後は先ほどのフラグ頭の男性が引き継ぐ。

 そうなれば俺の仕事は見回りとなり、最後に締めの言葉を言うために終わり頃にこちらへ戻るという段取りだ。

 

 確認を終えると冊子を閉じ、広場中央に設置されたモニターに目をやる。

 映画のようなスクリーンではなく、空中に浮かぶうっすら見える程度の透明で巨大な長方形の板には開始前の大会の様子が映っている。モニターは魔法を使っているのだが、こう見るとまるで近未来的である。

 モニターに映っている闘技場は客席が徐々に埋まっており、聞こえてくる音声もそれに比例して大きくなっている。……あそこにいる人達はまさか上から神様達に試合中継のごとく見られているとは思わないだろうなぁ。

 そんなことを考えている間にも、刻々と大会開催の時間が迫っていた。



  □        □




「皆様、これより『第一闘技場』主催の闘技大会が開催されます! 参加者達の熱い戦いを、ぜひご覧ください!」

 

 昼まであと一時間、闘技大会が開催される時間である。

 俺は広場の人達を見渡しながら、魔法のかかったマイクを片手に営業スマイルを浮かべて声を張り上げた。この声は遊技場全体にまで届くようになっており、遠くにいる客でも分かるようになっている。

 期待するような目でモニターを見る客もいれば、友人であろう隣の神と談笑しながら見ている客もいた。その中を闘技大会の説明などをする。

 その時、モニターから現地にいる客の大きな歓声が響いた。開催の挨拶が終わったのだろう、挨拶をしていた人物が降壇している。

 壇の前には参加者が並んでいたが、挨拶の終わりと同時にその場を引き上げている。おそらく控室に向かうのだろう。

 開催の挨拶は近距離から映していないため、ここからリリアラとルルアラ二人の姿を確認することができなかった。戦闘時は近距離で映すんだがな。

 ひとまず、俺の仕事はここまでである。後は最後だけだ。

 交代だとマイクをフラグ頭の男性に渡し、その場から去る。マイクを渡された彼はその饒舌さを活かして、場を盛り上げていた。

 その様子を確認して見回ろうとすると、真上から羽ばたく音が耳に届く。上を見上げればゆっくりと高度を下げているロルの姿があった。


「ピニョピ~」

「おぉ、ロル。これから見回りだが、お前も来るか?」

「ピッ!」


 目の前に降り立ったロルに尋ねると、最初からそのつもりだと言わんばかりに大きく頷かれる。あぁ、もしかして俺が見回りに出るまで待っていたりしていたのか?

 そう思って尋ねると、これまた大きく頷かれる。懐いてんなぁ、こいつ。

 微笑ましく思ってロルの頭を少しばかり撫で、見回りを始める。ロルは心躍るといった様子でついてきている。

 大会が始まったのか徐々に大きくなる後ろの歓声を背に、俺とロルは遊技場の見回りを始めた。




 見回りを始めてから一時間ぐらいしただろうか、真上から降り注ぐ陽の光が風の冷たさを緩和させる。晴天の下、上級神用のエリアをロルと一緒に見回っていた。

 大会の様子を見に行かない客達がそれぞれアトラクションで楽しんでいた。昼ということもあって近くの食料品店では歩きながら食べられるホットドッグやらを買う客もいれば、レストランに入っていく客もいる。

 小さく裾を引っ張られる感覚がしてそちらを向くと、ロルが俺の服に鉤爪を軽くひっかけて引いていた。視線はこちらではなく、チュロスもどきやホットドッグ、キックラビの串焼きが売ってある店へと向けられている。


「ピニョ~」

「ん?腹が減ったのか、ロル?」


 そう尋ねるとロルはこちらを向いて一つ頷き、再び視線を先程の店へと戻した。確かにもう昼だ、そう考えたら先程まで感じていなかった空腹を感じる。

 

「それじゃ何か買うか。ロルはどれにするんだ?」

「ピッピニョ!」


 ロルが視線を向けていた店で何か買うことを決めて近づく。ロルに何を食べるか尋ねてみるとチュロスもどきを翼で指し示した。

 チュロスもどきは赤い。ストロベリー味というわけでも辛いというわけでもなく、通常の状態でこれなのだ。

 表面には砂糖がまぶされており、見るからに甘そうである。

 店はアイスやホットドッグでよく見られる移動販売車の形となっており、車体は黄色と白を基調としている。

 中でせっせとホットドッグやらを作っているのは桃色の肩ほどまである髪の少女である。見た第一印象は穏やかそうで忙しない動きというのが似合わない。料理を熱心に作る様はどこか微笑ましく感じた。


「すみません、チュロスもどきとホットドッグを一つずつ」

「はいは~い、わかりました。って主様じゃないですか! 見回り中ですか?」


 少女に向けて注文すると、少女が手を休めることなく笑顔で出迎えた。こちらを見た彼女は少し驚いたものの、再び笑顔へと戻っている。


「この近くでお仕事ですか?」

「遊技場全体の見回りですよ」


 少女は焼き上げたチュロスに砂糖をまぶし、紙に包む。そして切込みの入ったパンにソーセージを挟んで、上からケチャップとマスタードを素早くかけた。

 他愛もない話に花を咲かせて数分後、少女からチュロスもどきとホットドッグを受け取る。どちらも出来立てのようで、紙を通して手のひらから温かさを感じた。


「ありがとうございました! またいらしてくださいね!」


 その場を去る時に少女は元気な声でそう俺達に声をかけながら一礼する。その声に俺は小さく一つ頷くと、見回りを再開した。

 チュロスもどきをロルがどう食べるのか気になったが、目の前に差し出してみると持つことなくそのまま丸ごと一本を食べた。持たないのか、まぁ鉤爪でどうやって持つのかと考えたら確かにそうだが。

 さて、俺も食べるとするか。ホットドッグからは肉の焼けた良い匂いとケチャップの匂いが混ざって空腹をさらに刺激してくる。あぁ、腹減った。食べるか……ん?

 食べようとした瞬間視線を感じる。斜め下、しかも近く。いや、まぁ、誰の視線かは分かるのだが。

 視線の方向をちらりと見るとロルが欲しそうな顔でこちらを見ていた。円らな瞳はこちらへと向けられ、今目の前で食べることに罪悪感を感じる程だ。

 ……食べたい、けれどこの瞳の前で食べるのは気が引ける。


「魔力じゃ、駄目だろうか」

「ピッ」

「だよな……」


 俺の提案にロルは首を左右に激しく振る。駄目か、駄目なのか、仕方がないのか。

 一つ小さくため息をつくと持っていたホットドッグをロルの前へと持っていく。ロルはお礼を言うように元気よくこちらを向いて一声鳴くと、ホットドッグを再び丸のみした。

 食べる様は嬉しそうでいつもなら見ていて和むだろう、しかし先程の匂いで刺激された空腹が笑みを苦笑に変えてしまう。

 ロルのように魔力で腹が膨れたら。とうとう音を鳴らして腹が訴えてくる。隣でロルが満足そうな声で鳴いた。

 仕方がない、どこか別のところで食べるか。他にも店はある。

 そう思って歩きながら辺りを見回していると、連絡用の水晶玉が連絡がきたことを報せてきた。なぜ今のタイミングなんだ、もっと後でもいいじゃないか。

 僅かに苛立ちを感じながらも、これは仕事だと言い聞かせて通話に出る。連絡をしてきたのは鎧の兵士だった。

 通信がつながったかと思った瞬間、鎧の兵士が慌てたようにことの次第を話し始める。


「す、すみません、主様。少々トラブルがありまして」

「トラブル? どうしたんだ?」

「実は下級神のお客様が上級神のエリアへ行かせろと。行けない理由を伝えても納得していただけなくて。ひとまず来てください! 場所は遊技場の中心より下級神側、エリアの境にある門です」


 そう言って鎧の兵士は通話を切った。件の下級神より離れて連絡をしたのだろうが、小さいながらも何かをわめている男性の声が聞こえた。合わせてそれをなだめるような声もである。

 

「ロル、急いでいくぞ」

「ピ? ピニョ!」


 腹が減ったことも忘れてロルにそう呼びかけると、急いで件の場所へと向かった。




 遊技場を半分にするようにして上級神エリアと下級神エリアに分かれており、その境目には門が設置されている。

 上級神はその境にある門をくぐって自身のエリアへと来るのだ。来るといってもそこは上級神、ワープやら高速移動やらで門まで来るのでそこまで時間がかかることはない。

 連絡を受けてその門へと向かったのだが、少し離れていても件の客の怒声が聞こえてくる。遠巻きに見つめている客や、上級神エリアに向かおうとその場を避けて門を通っていく客もいる。

 人ごみをかき分けて問題の場所へたどり着くと、目の前では門番の任についていた鎧の兵士がガチャガチャと鎧を鳴らしながらも見た目が若い男性を必死になだめようとしていた。


「あ、主様! 良かった、こちらです!」


 人ごみから抜け出た俺を素早く見つけた兵士が安堵した声と共に駆け寄って来る。その兵士の言葉で周りの意識がこちらへと向けられたのを感じた。

 兵士が先導して向かう先にはこちらを背にして怒声を張り上げている神の姿。鎧の兵士が制止しようとするも、それを振り切って今にでも上級神エリアに向かおうとしていた。まぁ、上級神でなければたとえ兵士を振り気っても基本入ることはできないのだが。

 背後から暴れる客に近づき、営業スマイルを浮かべながら声をかける。


「お客様、少々よろしいでしょうか?」

「あぁ? んだテメェ?」


 声に気付いた客は振り返って訝しげな目を向けてきた。口調からして新しい人が出てきて億劫と言わんばかりである。


「一応ここの主をしております、神楽嶋と申します」

「主?あぁ、お偉いさんか。だったら話は早いや。今すぐ俺を上級神エリアへ行かせろ」


 俺の返答に少し不思議そうな顔したものの、すぐさまにやにやとした笑みを浮かべてそうのたまう。自分は上級神エリアへと行けて当然、といった顔だ。このまま暴れたりして押し通せば行くことができる、とか考えているんだろうな。


「そちらの門を通ろうとしたのですか?」

「あぁ、でも弾かれてな。そこの門番が魔法か何かで魔法をかけたのだろう?だから入れなかったんだ。早く鍵を開けるなりしてくれ。入れてくれるまで暴れてやるよ」


 お前は駄々をこねる子供か。思わずそう考えてしまう。にやにやしながら言っていることはチンピラまがいの言葉だ。

 それにしても門を通ることはできなかった、ということは実力は下級神であり上級神ではない。


「そちらの門を通ることが出来るのは上級神のみです。ですから――――」

「俺が下級神だってか!? 神になったばかりだが、自分のことは自分でよくわかる! 俺の力は上級神並みだ! それを下級神クラスだと!?」


 客は俺の胸倉を掴んだかと思うと、まくしたてるようにして俺の言葉を遮った。怒りで歪められた顔は赤い。

 いや、怒られても困るのだが。下級神でも年月を経れば上級神になることもできる。その時にはこの門を通って上級神エリアでぜひとも、とか言おうと思ったのに。どうやら相手は自分のことを馬鹿にしたと勘違いしたようである。


「お客様、勘違いをなさらないでください。自分が言いたいのは――――」

「うるせぇ! 見るからに俺よりも弱そうな奴が生意気言うんじゃねぇよ! 明らかに俺を馬鹿にしてる目をしやがって」

 

 なだめるように言おうとしても再び遮られた。後そんな目はしていない、元からだ。むしろ怒りを助長してしまっている感じもする。かといって黙ったままでも同じだろうからなぁ。どうしろと言うのだろうか。

 悩んでいると目の前の客が妙案を思い浮かんだような顔をした。何だろうかと思っている俺をよそに掴んでいた手を離し、怒りはどこへやら再びあの卑しげな笑みを顔に浮かべている。


「そうだよ、お前たち従業員が分からないなら直接その力を示せばいいじゃねぇか」

「あの、力認定などの仕事はやっては――――」

「そう言って逃げるのは無しだぜ。 今からでも試合をやろうじゃねぇか。おら、どけどけ! 狭いだろうが!」

「いえ、だから試合は――――」


 俺の言葉は無視され、目の前の客は周囲の観衆を追い払うようにして試合の場所の広さを確保していた。

 周りの観衆はこれから試合が始まると思って徐々に興奮してきている。中にはどちらが勝つかなど話し合っている客もいるほどだ。俺、試合は了承していないんだけどなぁ。

 周囲の熱気は上がっており、今更試合を了承していないなどと言えばたちまち冷めてしまうだろう。ここまで上がると水を差すのもためらわれてしまう。

 迷っていると十分な広さが確保できたのか、客は満足そうな顔で俺から少し離れた位置に移動し向かい合う。余裕の表情が浮かんでいるあたり、自分の勝利を疑っていないのだろう。

 周囲からちらほらとしか聞こえていなかった声援は、気づけば大きなものへとなっている。これは試合をするしかないか。

 小さくため息を吐くと、右足を半歩下げ構えて客と向かい合う。周りの声援がより大きくなった気がした。未だ目の前では余裕の表情の客が笑みまで浮かべている

 ……なぜだろう、少し腹が立ってきた。全然俺の話を聞いてくれないし。あぁ、もしかしたら何も食べていないから怒りやすくなっているのかもしれないな。


「ピ? ピニョ!?」


 不思議そうに俺の顔を覗いたロルはすぐさま表情を強張らせて退散していった。ん?俺は別に怖い顔なんてしてないだろう?ただいつも通り客に接するように笑みを浮かべているだけだ。怖いことなんてないだろう、ロル?


「胡散臭い笑みを浮かべやがって……行くぞ!」


 俺の浮かべていた営業スマイルが気に食わなかったのか、忌々しそうに言葉を吐き捨てると開始の声と共に客は地を蹴った。

 向う先は一直線、俺の懐である。一方の俺は腕を下げた状態で迎え撃つ。

 客は右腕を振り上げたかと思うと、一足飛びに俺の懐へと入った。繰り出される右こぶし、それを左手で掴み客の勢いの方向へと引っ張りながら右へと避ける。合気道の要領だ。

 呆けた顔の客は二、三歩前のめりになりながら進んでバランスを崩す。しかし踏ん張ったかと思うと再びこちらへと向かって来た。

 

「避けてんじゃねぇぞ!」


 怒鳴りながら振り上げられた客のこぶしは少しばかり光を放っている。下級と言えど神、自身の神としての力をこぶしに込めているのだろう。

 数歩手前まで引き付けて今度はバックステップを踏むと、客が放った突きは空振りに終わる。神の力が込められていたからだろう、余波で拳が向けられていた地面が決して浅くはない程度にへこんだ。このまま続けたら壊れるじゃないか……早めに終わらせよう。


「避けてばっかりってことは、俺に敵う程の力がねぇってことだよなぁ!」


 臆病者、と客は叫びながら俺に追いすがるように足に力を込めて懐へと飛び込んでくる。右足を半歩下げると懐にはすでに客の姿がある。避けることはできないほどの近距離。客の顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。

 

「地面で寝てろ、くそ野郎」


 笑みを浮かべたまま客はそう言うと振りかぶっていた右の拳を振り下ろそうとする。周囲の観客が、目の前の客が、勝敗が決したと思ったことだろう。

 笑ったままの客に思わずこちらも笑みを向けてしまう。

 訝しげな顔を客を放って、そのまま放たれた突きを左手でいなす。勝利を確信していた顔は呆気にとられたそれへと変わっていった。

 止まった目の前の客の胴体へと素早く掌打を決めると、苦しそうな声をあげながら客は数歩後ろに下がり体をくの字に折った。おいおい、そこは逃げなきゃいけないよなぁ?

 かがんだために目の前に差し出された肩、反撃の余地がないほど痛かったのかまだ腹を押さえている。上級神ならあれぐらい少し痛い程度のはずだ。手加減して打ったんだから。

 いつもの営業スマイルを浮かべ片足を振りあげる。狙いは目の前に差し出された肩。

 

「地面で寝てください、お客様」


 そう言って浮かべていた片足を素早く振ってかかと落としを客の肩へと決める。<制御技術マスター>を発動した状態で放ったそれは客だけを地に伏せて、通路にはダメージを与えていない。

 綺麗にかかと落としを決められた客は倒れたまま動かない。勝敗が決して周囲から歓声が飛び交う。

 <制御技術マスター>で死なないように手加減したが……一応確認してみるか。そう思って確かめてみると死んでいるというわけではなく、気絶しているという状態だった。気のせいか時々ぴくぴくと痙攣している。

 ……あぁ、やりすぎたか?でも力を過信した相手は叩きのめした方が現実が分かるというものだし。

 少しばかり困惑している俺の傍へと、良かったねと言わんばかりに鳴きながらロルが駆け寄ってきた。撫でてあげたいけど、この客が起きるかどうかが不安だ。か、回復魔法でもかけて……。

 

 周囲の熱気とは裏腹に、俺は胸中の不安と戦いながら目の前の客に回復魔法をかけていた。少し感情的になっていたかもしれません、すみませんお客さん……。




 その後、騒動を起こした客はすぐに目を覚ました。そして自身の力がまだまだだと認識を改めたらしい。起きた後は殊勝な態度へと変化しており、それには良かったという思いと驚きが合わさっていた。

 彼が目覚めた後、騒ぎを聞きつけた客の上司、要は客の世界の上級神が慌てた様子で引き取った。

 身体の方は回復魔法をかけたものの大丈夫か尋ねてみると、全然平気らしい。回復魔法が効いたのだろう。

 逆に自分の実力が分かったと少し悔しげに言っていた。先程よりは殊勝であるものの、まだ負けたことを根に持っているようだ。そう簡単に変わるわけないか。

 そうして彼らはどこかへと去っていった。ひとまず騒動は終結である。……あ、割れた通路を修理しなければ。

 闘技大会終了までまだあと少しある。修理用の道具を手に持ち、俺は壊れた通路の補修に取り掛かった。


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