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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第二章
32/104

第30話~開催、そして早とちり~

 五大祭一日目、花火の音と共に始まった祭はまだ昼にもならないのに賑わっている。

 上から見ただけでも分かる程通りには人が溢れ、通りの端には屋台が軒を連ねている。きっと通りには甘い匂いや肉を焼く良い匂いが漂っていることだろう。

 この五大祭は開催期間が五日である。最初の一日目は開催祝いのパレードと各主が主催者の出し物、それ以降に各主主催の大きな催し物が行われる。俺達もきちんと企画してある。

 ちなみに『第五遊技場』のほうはあちらにいる従業員に任せてある。といっても入場門前に五大祭のことについて念の為にと書いてあるため、それを見てこちらへと来る客がいるかもしれない。

 パレード中の様子は「空中遊技場」にある広間から見ることができるようになっている。その広間はすり鉢状になっており、中央に全方位から見ることのできる巨大なモニターが設置されて下のパレードの様子を写すのである。

 パレードの様子だけでなく、開催される催し物も写し出される。

 

 「空中遊技場」は先程から多くの客である神様が来園しており、遊技場内に流れる弾む曲を聞きながらアトラクションを楽しんでいた。

 ジェットコースターの轟音と絶叫、喫茶店で休みながら楽しそうに話す声、メリーゴーランドに乗る客のはしゃぎ声が辺りに満ちている。

 その中を連絡用の小さな水晶玉をポケットに入れてロルと一緒に見回っていた。俺もロルもヴィジョンを使ってはいない、かける必要もないしな。外から「空中遊技場」が見えることはない、ただ空が見えるだけである。まぁ、そのように細工をしたわけだが。

 傍を歩くロルはあちこちに視線をやりながら、その瞳を輝かせていた。やはり祭りという雰囲気が気分を昂らせているらしい。こうも楽しい雰囲気を見ると下の祭にも連れて行きたくなるな。


「お、元気にしているかい? 城以来遊技場でも会うことが無いからずいぶんと久しく感じるな」

「お久しぶりです」


 そんなことを考えていると、背後から聞き覚えのある声がかけられる。後ろを振り返るとアトレナスさんとフロワリーテさんがこちらに手を振りながら近づいてきた。風で金髪が靡く様は神々しさを感じられる。その手に握られている遊技場内で売られているお菓子や風船が少しばかりその雰囲気を台無しにしていたが。

 懐かしい、最後に出会ったのはこちらの世界に来てから最初の夜だったな。いや、最初で最後と言ったほうが正確か、あれ以降客としても会うことは無かったし。

 どっちにしても出会うのは久しぶりであるから、感慨深いものを感じるな。しかし、今はお客である。丁寧な対応が普通だろう。


「お久しぶりです、アトレナス様、フロワリーテ様。アトラクションは楽しんでいただけているでしょうか」

「おぉ、楽しんでいるぞ。さっきジェットコースターに乗ってきたばかりだ。フロワリーテがすごく叫んでいたな」

「やめてください、恥ずかしいです」


 俺の言葉に答えたアトレナスさんはからかうようにフロワリーテさんを見る。フロワリーテさんは少しばかり赤くなった頬を片手で抑えて、小さく訴えるようにアトレナスさんへと言った。彼女の反応をアトレナスさんは朗らかな笑みを浮かべつつも、すまないと言いながら謝る。

 その様子はさながら夫婦だ。いや、実際は主従だけれど。


「今日はこちらにお泊りで」

「あぁ、遊技場内にあるホテルの一人部屋を二つとっているんだ。この五大祭の間は下の祭も含めて楽しんでいくつもりだ」

「そうですか。お二人とも、ごゆっくりとお楽しみください。何かありましたら、従業員にどうぞ」

「わかった。俺達も世話になるんだ、こちらこそよろしく」


 アトレナスさんはそう言うと、新しいアトラクションにフロワリーテさんを伴って行った。後ろから見る二人の足取りはどこか軽く、この祭をどれだけ楽しんでいるのかが分かる。

 楽しんでいただているならば、こちらとしても嬉しい。他のお客が楽しそうにしているのを見ても嬉しいのだが、それが見知った相手であればよりそう感じる。

 それにしても傍目から見ると恋人だなぁ、二人。こっちに来て綺麗な人と出会うことはあっても仕事の忙しさとかでそんなことあんまり感じないんだよな。仕事で忙殺される日々、何とも複雑である。

 少しばかり感じた嬉しさと複雑さを胸に見回りを再開しようとすると、再び後ろから声をかけられた。


「久しぶりじゃあないか。あれから元気にしていたか?」


 声のした方向を向くとそこには短い金髪に橙の瞳を持った偉丈夫、ヴィレンドーさんがいた。

 再び一礼しながら、ヴィレンドーさんに笑みを向ける。


「お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました」

「あぁ、まだ来たばかりだが本当にすごい出来だな。眠そうな顔をしている辺り、昨日夜遅くまで作業でもあったのか?」

「すみません、元からです。お気遣い、ありがとうございます」


 ヴィレンドーさんの言葉にすぐさま返す。この目つきは元からだ、昨日は少し悩んだものの比較的安眠である。

 しかし彼の言葉は城での悪意あるものではない、どちらかと言えば体調などを心配したものである。それならば腹は立たない。むしろ心配してくれたことへの感謝だってある。

 だからこそ、先程返した言葉には怒りは含んでいない。

 俺の返事にヴィレンドーさんは安心したような表情に変わった。


「それならば良かった。では、そろそろ失礼するよ」

「はい、ゆっくりとお楽しみください」


 手を振りながら笑顔で去るヴィレンドーさんにこちらも笑みを浮かべながら一礼して見送る。ヴィレンドーさんの姿が見えなくなったのを確認して見回りを再開した。

 傍にいたロルは早く遊技場内を歩き回りたいのか、鳴き声を上げながら早く行こうと催促してくる。そこまで催促しなくても、すぐに行くって。

 

「それじゃ見回りを再開するか」

「ピニョ」


 ロルが大きく頷きながら鳴いた直後、ポケットが小さな音を伴って震えはじめる。誰かからの通信だ。

 ロルの嬉しそうな表情はその音を聞くやいなや、楽しそうな雰囲気を消してがっかりしたような顔でこちらを見る。や、やめろ、そんな目で見るな……これも仕事なんだ。

 じっとこちらを見るロルの訴えかけるような視線に耐えかねて視線をそらしつつも、通話に出る。


「主様、木馬です。少しよろしいですか?」

「あぁ、どうかしたか?焦っているようだが」

「少し、困ったことがありまして」


 通話の相手はメリーゴーランドの従業員の木馬、その様子はどこか焦るようなものだ。緊急の用件だと思い、思考を切り替えて真剣に対応する。

 木馬は戸惑った声のまま何かをためらう様子だったが、少しして再び言葉を紡いだ。


「実は落し物でして」

「……は?」


 木馬の言葉に思わずそう返した。いや、だって落し物の場合は拾った客は受付へと運ぶし落とした客も受付へと確認に向かう。そして受付にも人がいるからそっちに伝えれば済む話だと思うのだが。

 少し疑問に思いながらも行くことを伝えると、木馬は上級神エリアのメリーゴーランドで待っていると言って通話を切った。

 よっぽど大切なものでも落としたとか、か?それなら遊技場全体を探さなければいけなくなるな。あぁ、疲れはしないけどしたいものではないな、それ。


 起きるかもしれない未来のことに少し憂鬱になりながらも、残念そうなロルを連れて件の場所へと向かった。




 件の場所である上級神エリアのメリーゴーランドに辿り着くと、その脇に木馬と一人の神、そしてリリアラが立っていた。誰もが深刻そうな顔である。

 リリアラまでいるとは、本当にただの落し物じゃないかもしれない。一体何を落としたのだろうか。

 その集団に近づいていく俺に気付いたリリアラはこちらに視線をやると、一礼した。


「リリアラ、お前も来ていたのか」

「事態が、事態、ですから。ルルアラは、ジェラルドさんに知らせた後、こちらに、来る予定です」


 リリアラはそう言うと、傍にいた神に視線をやる。

 そこに立っていたのは、眼鏡をかけた中年ぐらいの茶髪の男性だ。整った顔立ちなのだが、今はそれを焦りでゆがめている。どこかひょうきんな感じの男性は、うつむいて顎に手をやり何かぶつぶつとつぶやいている。「あそこじゃない、もしかたらあそこか?」と言っている辺り、自分が行った場所を思い出しているのだろう。


「すみません、お客様?」

「え、は、あぁ、これは主殿。来てくださったのですか」

「えぇ、落し物をしたと伺ったのですが、詳細を教えていただけますでしょうか?」

「はい、もちろんですとも!」


 男性は俺の声に気付くと幾分か顔を明るくして頷き、そして詳細を語り始めた。

 目の前の男性はここ『アトレナス』とは異なる世界に住む商売の神であるという。上級神のエリアにいることからも分かる通り、その世界では商売に関して最も上の神だそうだ。

 そんな神が落としたもの、それは袋だという。しかしただの袋ではない、商売の神が持つ袋だ。そのためそんじょそこらの袋とは異なる。

 彼が言うには、『アトレナス』で言うアイテムボックスの機能がある袋だそうで、どんな大きさもどれだけの量も入るというものだそうだ。何でも城も入るらしい、それは袋じゃない気がする。

 加えてその中には、城や聖剣もかくやと言わんばかりの武器が入っているらしい。そしてその袋を持った者には商売で失敗をすることがないという効果がついている。

 なんとも商人にとっては喉から手が出るほどおいしい袋なのだ。いや、商人だけでなく誰にとっても欲しい袋だなこれは。

 袋につけられた名前は商売袋、なんとも安直である。まぁ、難しすぎてわかりづらいよりはいいか。


 で、その商売袋の行方なのだが落し物として拾われていないらしい。となるとまだどこかに落ちたままか、最低でも誰かに盗まれたということになる。

 可能性ではあるものの、遊技場内で盗難が起こったとしたら客まで疑わなければならないしチェックをしなければならない。

 話しを聞き終えた俺は、木馬と話し込んでいるリリアラに話しかけた。


「ひとまず、この遊技場内に無いかちょっと探してくる」

「わかり、ました。どれぐらい、かかりますか?」

「なに、上空を飛びながら<レーダー>で探す。それじゃ、行ってくる」

「お願い、しますね」


 リリアラはそう言うと一礼する。分かったと一つ頷き、俺は遊技場の上空へと飛んだ。

 <レーダー>に商売袋が表示されるように設定すると遊技場の上空を飛び回る。飛行速度は速くしているのだが先程からなかなか引っかからな……ん?

 入場門前に差し掛かった時、<レーダー>のはしにちらりと赤い点が映る。設定は間違えていないから、この赤い点は商売袋ということだよな。よし、見つかったか!

 見つかった喜びと共に入場門前に着地し、赤い点へと向かって進む。盗まれたか、それとも落ちているかどっちだろうか。どっちにしても持ち主に返すのだが。

 そう思いながら赤い点へと向かっていたのだが、少しして足を止める。いや、だって、これは。

 目の前には三つの尖塔、そして眼下には噴水のある広場とパレードが行われている通りがある。こうやって上から見れば街のおよそ半分が学園の敷地なのだと実感するが今はどうでもいい。

 少しばかり現実逃避をしてしまったが、もう一度<レーダー>を見る。間違いない、俺の前方に赤い点は表示されている。俺が立っているのは遊技場の端、そして<レーダー>に表示される中心から赤い点までの距離を考えて結論が出る。


 商売袋は遊技場ではなく魔法学園にありました、何故だ。




 すぐさま戻って商売の神に報告すると、来る際に下の噴水広場から来たが魔法学園には行っていないと言う。では、何故魔法学園にあるのだろうか。落としたのは今日らしいから、前々から学園が所持していたということはないだろう。加えて商売袋は別世界のものであるし、似たものがあるという話は俺もリリアラも聞いたことがない。いや、聞いたことが無いだけであって実際に会ったりするのか?


「す、すみませんなのです! ちょっと遅れてしまったのです!」


 学園にあるものが同じものか悩んでいると、遠くから響いてきた声が徐々に大きくなり、それと共に足音が聞こえてくる。

 そちらを向くとルルアラが焦った顔でこちらへと向かっていた。こちらへとたどり着き、荒い息を整えようとしている辺りどれほど急いでいたのかが分かる。

 最後に大きく息を吐いて呼吸を整えたルルアラは焦った表情はそのまま話始めた。


「ジェラルド執事長に聞いてみたところ、商売袋はこちらの世界にはないので探しやすいだろうとのことです。ただ、少し気になる情報がありまして」

「気になる情報? それって何だ?」

「何でも第一闘技場が開催する大会の優勝賞品に新しく袋が追加されたとか。賞品として出すならただの袋じゃないと噂になっているそうです。今は管理が厳重な場所に置いてあるって……秋人様?」


 ルルアラの話を聞いて頭痛がしてきた。ルルアラは心配そうにこちらを見上げてくる。周りを見るとルルアラを除く全員が予想できているようだ。

 

「もしかして、自分の袋、賞品に出されちゃってます?」

「みたい、ですね」

 

 悲壮な顔で言う商売の神にそう返すが、ぎこちない笑みしか返せない。先程のルルアラの話で納得する、魔法学園に表示されていた赤い点は商売の神の所有物である商売袋だ。

 優勝賞品として出されている袋はまず商売袋で間違いないだろう。学園という性質上管理が厳重だろうし、『第一闘技場』は魔法学園の闘技場を借りて大会を開催するのである。運ぶことも考えると、近くのほうがいいだろう。

 闘技場より近くて管理が厳重、なるほど魔法学園に置くのもうなずける。


「秋人様、逃避せずにこれからのことを考えてほしいのです」

「……すまん」


 ルルアラの言葉に謝ると、思考を切り替える。いや、だって商売袋を持ち主に返すには保管場所に押し入るか大会で優勝を取る必要があるのだ。どちらもやろうと思えばやれるのだが。

 しかし押し入る場合は『第一闘技場』、最悪『第二図書館』の主も相手取らなければならない。そう考えると、何もなしに無事取り返すことができるとは考えづらい。

 それに何より。

 

「どうやって商売袋を取り返すのです? 押し入るのです?」

「いや、正直押し入る際に払う注意のことを考えたら、真正面から大会に出てストレートに優勝の方が楽だと思うのだが。実力的には問題ないだろうし」


 そう、そちらのほうが楽なのだ。経路や人目につかないよう考えなければいけないのとは違って、正々堂々と取り返しにいけるのだ。これで実力が足りなければ考えるのだが、あいにくと実力はある。

 手間を考えればそちらの方がいい。


「優勝して取り返してくださるのですか? ありがとうございます! 明日はモニターで見て、応援していますね! では!」


 俺達が優勝して取り返すと早合点したのか、商売の神はそう言うと喜色満面にその場を去っていった。心なしか足取りも軽い、本当に明日モニターで見るつもりだろう。

 しかし、これで取る方法は一つとなった。


「大会は明日、だよな」

「そうなのです。今からエントリーに行けば間に合うのです」

「秋人様は、明日、仕事がありますよね?」

「あぁ……明日は大会開催の際、その前に通知と見回り、後モニターのある広場でトラブルがないか張り付いていなきゃならん」


 そう、明日は見回り以外にも仕事がある。書類仕事が無い分ましと言えばましなのだが。


「では私とリリアラが出るのです」

「私、も?」

「確率は高い方がいいのです」

「それも、そっか……」

「と言うわけで秋人様、私達が行くのです」

「お、おう」


 二人の言葉に思わずうなずく。まぁ、そっちの方が都合はいいか。オルブフは点検で明日も忙しいし、リアナはホテルでの接客及び管理、そしてジェラルドさんは受付の管理と案内を受けている。

 一方リリアラとルルアラの二人は、明日ホテルでの接客のみである。人員を調整すれば他の人よりも抜ける穴は小さいと言えるだろう。


「それじゃ二人とも、頼んだぞ」

「了解なのです」

「わかり、ました」


 俺の言葉に二人は元気よく頷く。早速と二人は大会のエントリーへと向かった。きちんと『第五遊技場』からとは言ったりしないようにとは注意してある。

 念の為にオルブフやリアナ、ジェラルドさんにも連絡を入れておこう。そう思って水晶玉を手に取った時、服の裾を控えめに引っ張られる。


「何だ……って、ロルか。あ……」

「ピニョ~」

 

 どこかふてくされたような顔のロル。そういえばこの騒ぎの間中構ってあげることはできなかった。いや、できるわけないけども!

 三人に連絡を入れると了承の意を得ることができた。ジェラルドさんからは二人に代わる従業員のシフト移動をお願いされたので、さっそくやらなければならない。

 その前にだ。


「ロ、ロル、見回り行くか」

「ピニョピ~」


 いまだ不機嫌そうなロルに苦笑を浮かべながらそう言う。ロルは嬉しげにはしないものの、ついて来た。そのうち機嫌は直るだろう、そう信じたい。

 見回りに行きながら二人の代わりの従業員は誰にしようかと考える。モニターで大会の様子を流すので、見ながら食べるという客もいるかもしれない。となると飲食店、特に片手で食べれるものを扱っている軽食店は移動できないな。手が余っているアトラクションから一人ずつ選ぶか、あ、でも接客できるような従業員でないと。該当者には特別手当もいるかな。

 そんなことを考えながら、少し機嫌がよくなったロルと一緒に見回りを続けた。


 兎にも角にも、お客の早合点によって大会参加が決定である。



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