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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第一章
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第2話~プロローグ3~

「は、え、は?」


 突然のことに戸惑う。視界は未だ真っ白に染まったまま――――いや、違う。俺の周りにはかなりの数のよく見た顔、よく見た学校の制服を着たやつらがいる。つまり、俺の通う高校の人たちだ。中にはスーツ姿などちらほらと違う格好の大人がいるが彼らは教師だ。

 ということは、どうやら今この空間には高校にいた人間がほぼ全員いるのだろうか。高校のクラスは一学年六クラス、一クラス四十人ぐらい。加えて教師の人数を考えたらこれぐらいいてもおかしくない。ただ、全員を数えたわけではないからはっきりとそういうことはできないが。


「ちょ、ここどこだよ!」

「いや、出してよ!ここから出して!」

「いったいどうなっているんだ!」


 あちらこちらから聞こえる不安、恐怖、焦りの声。見ず知らずの場所へと突然移動したことによるものだ。泣き叫ぶ者や教師へ説明を求める者もいる。一方の教師は、生徒の質問に荒々しく知るかなど返答している。そして、たいていこの手の混乱は伝播しやすい。あっというまに全体へと広まった不安や恐怖は混乱を生み出しかけていた。


(さてと……とりあえず観察、だな)


 が、俺はそんなことはお構いなしにあたりの様子を探る。訳がわからない状態である以上、周りの雰囲気に呑まれて混乱してはいけない。冷静な判断ができなくなるからな。


(あたりの風景は……ま、白一色としか言いようがないな。なんというか、部屋?みたいな空間だな)


 白一色で作られたドアのない巨大な部屋、いや、部屋というよりも箱といったほうが適切だろう。多くの生徒や教師がいてそれでもまだ広いと感じさせるほどに巨大なのだ。


(天国って言われたら納得しそうだな……ん?)


 きょろきょろと観察に徹していた俺は学校の連中に動きがあることに気づいた。よく見ると前に五人が立っている。ってあれは天ヶ上達五人組じゃねえか。


「みんな、落ち着いてくれ!」


 どうやらこんな状況でも天ヶ上のスペックは発揮するらしく、生徒や教師全員が彼らに注意を向けた。


「とりあえず、各クラスごとにまとまろうと思う。それでいいですよね、先生」

「あ、あぁ、そうだな」


 全員を静めた天ヶ上が教師に聞くと教師はどもりながら賛同する。立場ひっくり変わってんじゃねぇか。まぁ、別にかまわないが。さて、俺も指示に従うかね。

 俺が自分のクラスが集まっているところへと向かうと、全員がちらとこちらを一瞥して再び話し始める。ここまできて自分が浮いているのだという事実を確認するとは。とりあえず端っこのほうにでも座っておくか。

 天ヶ上たち五人組も自分達のクラスへと戻っていく。そのとたん、まるで見計らったかのようにさっきまで五人がいた位置に光が現れた。どことなく神聖さを感じさせる光だ。その光の登場に辺りが騒がしくなる。


≪みなさん、落ち着いてください≫


 突如空間に響く声。目の前の巨大な光から発せられた声は澄んだような声だった。すると、目の前の光が徐々に形を変えて女性の姿へとかわる。

 絹糸のように細く、滑らかな長い金髪。澄んだ蒼の瞳。シルクのような布で作られた衣服を身にまとう女性。誰もが息を呑むほどの美女。彼女の姿を見て卑しい考えなど抱けない、それほどまでの神聖さを感じさせる姿。この場にいる誰もが彼女の雰囲気にのまれていた。


(この空間の主ってところか?テンプレでいうなら神ってところだが……。少なくとも現時点で彼女が一番この状況を説明でき得る人物だよな)


 誰も何もしゃべらない中、俺は考えにふける。すると、彼女と目があい、ニコリと微笑まれる。……びっくりした、俺の目を見て微笑むなんて。コンプレックスといえるジト目を真正面から見て返ってきた反応はこれまで皆一様にマイナスなものだった。


≪お初にお目にかかります、私の名前はフロワリーテ。皆さんが把握しやすいように言うなら神です。といっても末端の、がつきますが≫


 神、という一言に辺りが小さくざわめく。神とか、テンプレか。学校の連中は半信半疑のようだ。突然この空間へとつれてこられたことを思えば神といわれても納得できる。しかし、神が本当にいるのかという疑問がある。そのためだろう。まぁ、これがただの撮影ですといわれれば俺だってうれしいのだが。いや、この場合だと誘拐になるのか?


≪今回皆さんをお呼びしたのは、私の主が管理する世界で『勇者召喚』が行われたためです。私は召喚の魔方陣に従い、条件に合致する皆様をここへお呼びしました≫

「すみません」

≪なんでしょう?えっと・・・≫

「天ヶ上勇気です。質問をいいですか?」

≪はいよろしいですよ≫

「どうして僕たちが勇者として召喚されるのですか?こんなに大勢いるのですか?」

≪今までも『勇者召喚』は行われてきましたがいつも二、三人でした。理由は召喚先の世界で聞いてくださるとよりはっきりとわかります。私はただ、召喚の魔方陣の中身どおりに人を選び、送るだけですから≫


 申し訳なさそうな顔で天ヶ上の質問に答えるフロワリーテ。どうやら彼女は魔方陣とやらにしたがって送るだけであり詳細な内容はわからないらしい。おそらくそこらへんの事情を知っているのはフロワリーテの主、そして召喚した相手側だろう。

 そのあとのフロワリーテの話によると、どうやら「勇者召喚が行われたために勇者を召喚する」という事実があると彼女は把握しているが、それしか知らないということ。魔王が出てきたからなのか、他国との外交で必要になったからなのか、理由もわからないということ。いや、わからないというよりもフロワリーテの主から知らされていないということだ。ただ魔方陣の中身(何人とかどんな条件、どの位置に召喚するかなど)に従って送って来いと主から言われただけらしい。

 そして最後、元の世界に戻ることは不可能だということ。この空間に召喚された時点で俺達がもといた世界では俺達は存在しなかったと『修正』されたそうだ。だから、戻ることはできない。

 その事実を知った学校の皆は悲嘆にくれるもどこかあきらめの雰囲気を漂わせていた。半ば想像していたのだろう。


≪ただ送るだけではありません。皆さんには大小あれど力を授けると主は申しておりました≫


 その言葉に目を輝かせる生徒達。中には「よっしゃ、テンプレチートきたああ!」「俺Tueeeができる!」と喜んでいるものもいる。

 確かにうれしい。生存確率が格段にあがる。しかし「大小あれど」か。つまり以前いた世界よりも少しだけ強くなるということもあるのだろうか。……少々不安になってきた。


≪あちらの世界は皆様が知る「Free Style Game」に似ている世界でございます。主からそのゲームをしている人がいたらそのゲームでのステータスにしてやれとも≫


 おぉ、これは本気でうれしい。息抜きの合間に結構やりこんだからな。周りでも多くの人が喜んでいる。ってあの五人組もじゃねえか。あのゲームやってたんだな。

 まあ、「Free Style Game」(これからはFGSと言おう)の説明は後々するとしよう。


≪ゲームの経験有無にかかわらず大小の力はさしあげます。それでは皆様、そろそろ召喚をよろしいでしょうか。わからないことは召喚された世界で学んでください。それでは参ります≫


 すると足元に巨大な魔方陣が現れる。どうやら一気にと言うわけではなく、いくつかの団体で向かうようだ。

 みんなが召喚される風景を見てみる。教師は教師だけで転移してしまった。大体がクラス単位のようだ。どんどん送られていく中、とうとう俺のクラス、そして天ヶ上五人組が最後となる。俺もとうとう異世界へと向かうのか。


≪それでは、また(・・)


 小さな声でフロワリーテは確かにそう、俺に向かってつぶやいた。


「え、なん――――」


 理由を聞くことができないまま、天ヶ上五人組、そしてクラスの全員と異世界へと転移した。


 

次回から異世界です。でも、ゆっくりと行きます、たぶん。

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