第27話~冷や汗、そして到着~
魔法学園を目指して早五日である。地図を確認しながら行っているのだが、おそらく目的地まで後半分と言ったところか。
四日目くらいに今まで歩いていた道が二つに分かれていた。地図を確認してみるとどちらを行っても魔法学園に辿りつくようなので、比較的人通りが少ない道を進む。ロルのことを考えると人が少ない方がいいのだ。
もしも見られた場合、帝都のギルドと同じような展開になるのが目に見えている。
現在歩いている森林を突き抜ける道は石畳ではなく土で整備されており、幅は広くはない。人が少ない道を選んだだけあって道中人とすれ違うことは殆どなかった。すれ違う時は<レーダー>で事前に知り、ロルにヴィジョンの魔法をかけて過ごした。
大きな方の道を馬車が通っているのだろうが、それに護衛として同行している冒険者の影響か魔獣と出会うことが少ない。会うとしても二、三匹といったところだ。まぁ、順調に進める分には文句などない。
今までは空いた時間は五大祭で開く遊技場にて何を出すか、仕事を回す時の分担などを念入りに打ち合わせたり訓練を行ってつぶしていた。
この旅の道中のことを思い出していると、リアナがこちらへと顔を向ける。
「秋人様、そろそろ休憩にしましょうか」
「ん、あぁ、もうそんな時間なのか」
時間を確認してみるとすでに昼近くである。そろそろ休憩場所を見つけて昼食をとるべきだろう。
リアナの案に頷くと、俺達の会話を聞いていたオルブフがこちらへと意識を向けた。
「それなら近くに水場があるっすから、そこで昼にするっすよ」
そう言いながらオルブフは周囲の空気を嗅ぐような仕草を見せた後、道から少し外れた先を指差す。彼が指さす方向を見てみると、少し行った先には開けた場所があった。その近くには頭上から降り注ぐ陽の光が反射されてきらめいている。おそらく泉か湖だろう。
オルブフの意見に賛同した俺達は、彼が指し示していた方へと進む。道から少し外れるものの、そこまで奥といった場所ではない。<レーダー>もあるしオルブフだっているため、迷うことはないだろう。
木々を避け、茂みをかき分けて少し行くと開けた場所に出る。
開けた場所の中央には泉があり、それを木々が円形に囲っている。泉の周りには枯れたであろう巨木が倒れ、誰かが木を伐った後の切り株が点在していた。
泉の水は陽の光を反射してきらめいており、近づくと澄んだ水独特の匂いが鼻をくすぐる。
荷物を地面に置いて、各々切り株の上に座った。一息吐きながら水を飲む。
各自水を飲んだりして休んでいたのだが、ロルがこちらへと近づいてきた。
「どうした、ロル?」
「ピニョ、ピニョピ~」
俺が問うと、ロルは泉の向こう側と俺を交互に見るようにして鳴く。
「散歩でもするのか?」
「ピニョ!」
俺の言葉に強く頷くロル。散歩か、人は……いないな。<レーダー>で確認してみたところ、近くに人はいないようである。それならば、まぁ、いいか。
「行ってこい。ただし、人と出会わないようにな。珍しいからって理由で捕獲や討伐されたくないだろう?」
「ピニョピニョ!」
ロルも捕獲や討伐は嫌なようで、強く頷いていた。まぁ、ロルの実力ならそこらの冒険者でも大丈夫だろうがな、念のためである。
「んじゃ、くれぐれも気を付けてな」
「ピニョピプ~」
ロルは嬉しそうな声を上げて泉の向こう側へと行ってしまった。その足取りもどこか楽しげである。楽しそうなら良かった。
それにしても、今度はピプか。あいつは何通りの鳴き声があるのだろうか。そのうち鳥らしい鳴き声さえもしなくなるのでは?
先程の鳴き声に思いを巡らせながらも、水をもう一度含んだ。
「秋人様、そろそろ出発しましょうか」
「そうだな、もう十分に休んだし」
しばらくの間休んだ後、リアナの言葉に頷いて出発の準備をしようと立ち上がる。リアナやオルブフも立ち上がって荷物を再び背負っていた。
しかし、ロルの姿がない。いつもならもう戻ってきてもおかしくはないのだが。<レーダー>で確認してみるか。
「ロルは……って何だこれ」
<レーダー>を見て思わず声に出る。声に反応したオルブフとリアナが不思議そうな顔でこちらを向いた。
<レーダー>を見ると方角は泉の向こう側、一つの赤い点を三つの赤い点が追うという様子が映し出されている。そして追われている赤い点はまっすぐにこちらへと猛スピードで近づいてきていた。いや、まさか、もしかしなくてもこの追われている赤い点って。
そう考えている間にも、追われている赤い点は三つの点との間の距離を離しながらこちらへと近づいてきている。
次の瞬間、泉の向こう側の茂みが激しく揺れたかと思うと慌てた様子のロルが飛び出してきた。こちらの姿を視認したロルは後ろを気にしながらも俺の元へと辿りつき、背後へと隠れる。
急いで背後へと隠れたロルにハイドの魔法をかけた。次の瞬間、先程ロルが飛び出してきた茂みが音を立て、三人の冒険者が現れた。男一人に女二人のパーティなのだが、三人共獣寄りの獣人である。茶色のボブカットの女性は猫、焦げ茶色の髪をポニーテールにしている女性は鳥、短い焦げ茶の髪の男性は犬だ。
三人は開けたところに出た為か辺りを見回した後、こちらの存在に気付き近寄ってきた。
「すまない、少々良いだろうか」
「はい、なんでしょうか?」
男の言葉に答えつつも、相手に気取られないように警戒を続ける。ロルはいまだ背後で隠れるようにしていた。
女性の冒険者二人はロルを探しているのだろう、辺りをしきりに見回している。
ハイドの魔法をかけたけど、気づかないよな?獣人特有の鼻の良さとかで気づいたりしないよな?こっそりと重ね掛けをして威力を高くしたが大丈夫だよな、大丈夫……。
冷や汗が出そうになる俺をよそに冒険者の男性は言葉を続けた。
「これぐらいの鳥のような魔獣を見ていないだろうか。鉤爪があり、色は薄い灰色なのだが」
そう言って男性の冒険者は手で高さを示した。手で示されたそれは丁度ロルの高さぐらいである。
「魔獣ですか。そのようなものは見ていませんが、襲われでもしたのですか」
「いや、滅多に見ない魔獣だということで依頼主に捕獲を頼まれてな。そうか、見かけていないのか」
冒険者の男性はそう言うと少しばかりこちらを伺う様に見た後、小さく息を吐く。どうやらごまかし通せたか?
「それにしても珍しい魔獣の捕獲ですか。五大祭用なのでしょうか?」
「あぁ、俺達の護衛依頼主である『第三商店街』の主が丁度見かけたらしくてな」
男性の言葉に思わず反応してしまいそうになるが、それを抑える。
「『第三商店街』の主の護衛ですか。しかし、護衛から外れてもよろしいのですか?」
俺の質問に男性は大丈夫だと答える。
「大丈夫だ。俺達以外にも護衛はいる」
なるほど、確かに主ならば複数の護衛がいるか。それにしても、『第三商店街』の主はゲートを使わないのだろうか。俺達と同じく、オーライト独立国に行ったことがないからか?
そう思って尋ねてみると、案の定その通りだった。まぁ、それならゲートは使えないわな。
冒険者の女性二人が探しに行ってくると言ってその場を離れている間、その場に残った冒険者の男性の話を聞いた。
『第三商店街』の主はオブリナント大帝国にゲートを使って来たのは丁度俺達が帝都を出発した日らしい。連れていく人の中に魔法学園へ行ったことのある人がたまたまいなかったらしく、帝都から向かうことにしたそうだ。
護衛の依頼をギルドに出す際、新種の魔獣の話を聞いて興味を持つことになる。ギルドにて特徴を聞いた矢先、その新種の魔獣であるロルに遭遇した為捕獲を命じたそうだ。
捕獲したら見世物にでもするか、『第一闘技場』主催の大会に出すために売り払うかのどちらかだろうというのは冒険者の男性の言葉である。
本当に良かった、ロルが捕まらなくて。
そうこうしているうちに冒険者の女性二人が戻ってきた。残念そうな顔で、冒険者の男性に見つからなかったことを伝えている。
それもそうだろう、何せその探し物であるロルはすぐそばにいるのだから。遠くにいるわけがない。
冒険者の男性は嘆息すると、こちらを向く。
「迷惑をかけてすまない。それでは失礼する。二人とも、行くぞ」
男性は一礼すると、出てきた茂みへと戻って行った。その後を鳥の獣人である女性がついていく。猫の獣人である女性は未だ何か気になるのか辺りを見回していたが、小さく嘆息すると諦めて男性の後を追いかけて行った。
三人がある程度離れた後、小さく息を吐く。冷や冷やしたが、ハイドの魔法でごまかし切れて良かった。
「それにしても近くに『第三商店街』の主が来ていたとはな」
「五大祭で全ての主が集合するとはわかっていても、今日近くを通るとは予想できないっすよ」
俺の言葉にオルブフが重ねる。『第三商店街』の主とはロルがいる状態で直接出会わなかっただけ、ましかもしれない。しかしこれからは常時ハイドをかけておいた方がいいな。
ロルは俺の背後から出たものの、近くで辺りを警戒するように見回している。まだ怯えているのか。出かける前の言葉が効いたのかもな。
ロルにハイドの魔法をかけていると、リアナがこちらを向いた。
「ハプニングもありましたが、そろそろ出発しましょう」
リアナの言葉に俺とオルブフは頷く。
ハプニングは起きたものの、何とか乗り切り再出発した。
あれから五日である。野宿しながら順調に進んだ現在、時刻は昼過ぎだ。
森を抜けた俺達の目の前には、辺りを見渡せる丘のない平原が広がり、冷たい風が吹いていた。
陽の光の下、歩いている道が続く先には街を守る壁が見える。そしてそれよりも高い尖塔らしきものが三棟程空へと伸びていた。
近づけば近づくほど、その尖塔がどれほど高いか実感する。赤茶色の煉瓦らしきもので作られたそれらは横一列に並んでいるように見えた。中央の尖塔が最も高く、天辺付近には時計と鐘らしきものが見えてさながら時計塔のようである。
「でかいな、あの尖塔」
「本当っすね。城って感じではないっすけど」
俺の呟きにオルブフが答える。
別の人通りが多い道から来たのか行き交う馬車や人の数が増えており、門には長い行列ができていた。街の入口は横に大きい為、左端は馬車、中央が馬車以外、右は空いているという状況である。一応二人に言ってステータスを偽装した後、俺達も中央の列に並び順番を待つ。
近い為、様々な人の声が届いてきた。五大祭に何かしらの店をだそうという商人もいれば、楽しもうと観光に来た人もいるようである。
そんなことを考えながらオルブフとリアナと話している間にも、自分の番が迫って来る。目の前に並ぶ人の数が少なくなっていき、気づけば次は俺達の番だった。長くかかると思ったのだが、短かったな。
「では、ステータスを」
門番の男性に言われ、前の人がステータスを見せる。目の前に表示されるステータスを門番の男性は確認するのだが、妙に名前辺りを重視しているように思えた。
「よし、いいですよ。ようこそ、オーライト魔法学園へ」
門番の男性は何かを探していたが見つからなかったようで、視線をステータスから前の人へと移し言う。前の人は「大変ですね」と門番を労いながら街の中へと入っていった。
次は俺達の番である。
「ステータスをお願いします」
門番の男性の言葉に偽装済みのステータスを出す。やはり門番の男性の視線は名前辺りに固定されているような気がした。
「ここまで長かったですかね。チェックはもう少し短かった気がしたのですが」
リアナが不思議そうな顔で言う。その言葉に門番の男性はステータスのチェックをしながらも申し訳なさそうな顔をした。
「すみません。『第五遊技場』の主がなかなか見つからないので、どの国も見つけようと躍起でして。世界の安定は保てているのでどこかにはいると思うのですが。よし、いいですよ。ようこそ、オーライト魔法学園へ」
そう言った門番の男性は次の人へと取り掛かる。彼に一礼しながら俺達は街の中へと入った。
辺りはお祭りムードが漂い始めており、屋台の場所取りに励んでいる人達もいる。石畳の通路の両側には店が並んでおり、魔法学園が近くにあることから魔法専門の店が多いようだ。
そして目の前、歩きながら見上げれば先程壁の外から見えた三つの尖塔がそびえたっている。視線を下げれば噴水の向こう側に巨大な両開きの鉄格子の門が開かれていた。そこを学生と思しき生徒達が出入りしている。
尖塔と同じく赤茶色の煉瓦で建てられた横長の巨大な校舎は四階建てだ。学園の敷地は鉄格子で区切られているのだが、前から見てもそれが広大であることが分かる。
そして校舎の左手にこちらからでも確認できる闘技場のような建物、あそこで『第一闘技場』の催し物が開かれるのだろう。
とにもかくにも中枢が城ではなく学園の国、オーライト魔法学園独立国に到着である。




