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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第二章
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閑話~勇者、そして決定~

この話は三人称で書いています。

以降閑話の時は三人称視点です。

 秋人が第五遊技場で過ごしている一方――――


 季節は秋も終盤である。アグレナス王国王都、その王城内にある訓練場は年若い声で満ちていた。声の持ち主である彼らは誰もが十代後半であり、あどけなさが残っている。

 彼らは訓練場の中央部で訓練をしており、それを囲むように周りには近衛騎士達が訓練を行っていた。

 その中のある集団の存在が浮いている。

 子供同然だからではない。近衛騎士、兵士の中には彼らと同年代の者も少なくない数はいるのだ。

 では原因は何か、それは訓練を行うその集団の様子にあった。


「勇気様、さすがです!」

「そうかな?でも僕はまだまだだよ、シェルマ」

「いいえ、そのようなことはありません。そうよね、ミレイア」

「はい。とても見とれるような剣筋でした」


 彼らの中央に一人の少年と二人の少女がいた。二人の美少女――アグレナス王国第一王女シェルマ=アグレナスとメイドのミレイアは陶酔するような目で少年を見ている。

 視線を集めている少年――天ヶ上勇気は遠慮した言葉は言うものの、その端正な顔を見るとどこか当然のように受け止めている感じがあった。

 天ヶ上の傍にはシェルマとミレイアをけん制したそうにして見ている女子三人の姿がある。

 少なくとも周りにいる年若い彼ら――生徒達の約半数は真面目に訓練が行われていた。といっても召喚された当初よりは人数が減っており、三十人に行くか行かないかと言ったところだ。

 生徒達の多くがレベルの高い者であるが、中にはレベルの低い者もいた。

 彼らは森での初戦闘で命を失うという事実がすぐ傍にあるのだと感じ、自主的に近衛騎士に訓練を頼んだ者達である。

 そして訓練をしている者の中には樹沢がいた。彼も最初は天ヶ上の輪の中にいたのだが、最近では訓練に真面目に参加している。

 その他の生徒は自分が強いのだと思い、訓練も碌にこなさない。近衛騎士が訓練を進めても適当にこなしてしまっていた。

 街の人々は彼らを純粋に強く、そして自分達を守ってくれると思っている。しかし彼らがこの姿を見ればその思いも消え、不安で揺れるような光景だった。


 どこか歪なその光景は、訓練が終わるまで続いた。




 夕食時、訓練が終わった生徒達が食堂へと向かっている。雑ながらも列をなしているが、前と後ろではその様子が異なっていた。

 天ヶ上達のいる列の前部分は疲労の色を見せていない。すれ違う貴族の何人かはこの国の訓練を軽くこなしているのだろうと囁きあい、この国の訓練では物足りないのだと誉めている。

 しかし中には通り過ぎた後で後ろを振り返り、前部分の生徒達を見て顔をしかめる者もいた。その貴族は誰もが戦闘に関係する貴族である。

 彼らの目からは訓練終了のはずなのに、一切疲れていない様子が奇怪に映ったのだ。

 しかし相手の中には第一王女が贔屓している勇者がいる。本当に訓練をしているのか、などと問えばどのようになるか想像に難くない。だから誰もがしかめ面はするものの、何も言わないのだ。


 貴族の視線を浴びながら食堂に着いた生徒達を迎えたのは食欲を刺激する料理の匂い、そして貴族の華やかながらどこか毒も含まれた会話である。

 生徒達は料理を取りにそれぞれと向かった。天ヶ上はシェルマや他の女子達と話しながらその列に並ぶが、その時何やら小声で話す声が天ヶ上の耳に届く。

 声のした方には数名の貴族がいた。その誰もが最近貴族となった新参である。

 彼らの着る服は貴族らしく所々に金銀があしらわれ装飾も派手だ。貴族らしいといえばそうなのだが、食堂ではなかなかに存在が浮いていた。


「第一王女なのだが、何でも勇者に気に入られたいがために召喚された生徒を城から追い出したらしい」

「あぁ、確か弱いからという理由だったとか。追い出すとは酷いものを」

「器が知れるというものですな」


 注意深く聞かなければ聞き取れないほどの小声で話す貴族達はそのまま噂話に花を咲かせる。といっても誰にもばれないように小声なのだ。実際天ヶ上の傍にいるシェルマには何も聞こえていないようだった。

 しかし天ヶ上勇気の耳にはその言葉が届いた、届いてしまった。

 天ヶ上は貴族の言葉に頭がかっと熱くなるのを感じる。シェルマに対して悪口を言った貴族への憤りが彼の胸中に渦巻いていた。

 天ヶ上は怒りをあらわにした顔で悪口を言っていた貴族達に近づく。


「シェルマの悪口を言うな!」


 天ヶ上の口から発せられた怒声は食堂の空気を震わせ、それまで談笑していた貴族達も何があったのかと天ヶ上達の方へと視線を向けていた。

 一方の怒声を浴びせられた貴族達は一瞬呆けたような顔をしていたが、すぐさま事態を理解し顔を青ざめさせる。へまをした、しかも第一王女シェルマのお気に入りである勇者の前で。加えて近くにはシェルマ本人もいる。噂話をしていた貴族達は生きた心地ではなかった。


「シェルマがそんな卑怯なことをしたはずがない、シェルマは良い人だ!」

「勇気様、突然どうしたのですか?」


 激昂している天ヶ上にシェルマが寄り添うように体を近づけて尋ねる。その姿に元の世界から傍にいた橘達女子は少々不機嫌だ。

 天ヶ上はまだ怒りが晴れていないながらも、先程の出来事をシェルマへと話す。

 詳細を聞いたシェルマは天ヶ上には見えないように当の貴族達へと鋭い視線を向けた。もしそれを天ヶ上が見ていたら思わずシェルマ本人か確認してしまうような程である。

 向けられた貴族達はまだ青くなるのかと言わんばかりに顔を青ざめさせた。


「私はそのようなこと……ひどいです」


 先程纏っていた空気を消し、よよよと泣き崩れるような格好のシェルマ。天ヶ上はそれを優しく抱き留めた。シェルマは心底その噂に傷ついているといった様子で、天ヶ上はそれを憐れに思うような顔つきである。

 どちらも容姿が優れているがゆえに、その姿は絵になった。悲しむ第一王女にそれをたくましく支える勇者、まるで貴族達が悪役のように仕立てられている。


「大丈夫、僕はシェルマの味方だよ」


 甘い声、甘いマスクで言葉をささやく天ヶ上。その言葉にシェルマは頬をほんのりと赤く染めていた。近くにいた女性の貴族も心なしかほんのりと赤く頬が染まっている。

 しばらくシェルマへと向けられていた天ヶ上の視線は、今度は貴族へと向けられた。先程とは異なる厳しく咎めるような視線である。


「彼女は、シェルマは良い人だ……」


 静かに、しかし怒りを宿した声を貴族へと向ける天ヶ上。誰もが彼の言葉の続きを聞こうと、食堂内は静けさを増したためさらに彼の声は反響する。

 天ヶ上は小さく息を吸うと、貴族達に向かって大声で言った。


「シェルマは僕の味方だ、だから彼女が悪いはずがない!」


 その言葉は誰もが聞こえるように、食堂の中を満たした。


 ある者は彼の人を信じる心に感銘を受けた。傍にいた女性達はさらに彼への思いを強くした。ある者は勇者である彼がそう言うなら第一王女は良い人なのではと考えた。

 

 誰もが勇者である天ヶ上の味方で誰もが彼に賛同する、何故なら彼は「勇者」だから。

 勇者なのだから間違ったことは言わないのではないか、そう多くの貴族達が思い込んでいた。

 しかし貴族の中には彼の言葉を聞いて呆れたものがいる。自分に良くしてくれる人は無条件で良い人なのかと、純粋の言葉で片付けるには度が過ぎているのではないかと。

 自分が信じること、自分を信じてくれる人は正しいと本気で思っているようだと彼らは思っていた。


 その後、噂話をしていた貴族達は姿を見せなくなる。シェルマ曰く、勇者に諭されて恥ずかしくなり身分を捨てたのだとか。天ヶ上はその言葉を鵜呑みにした。

 無邪気に信じる天ヶ上を見るシェルマの瞳には小さな、しかし確かに狂気が宿っている。

 噂話の貴族達がどうなったのか、その瞳を見れば想像に難くない。


 この騒ぎは結局、噂といえど真実を言っていた貴族が姿を消すというなんとも皮肉な結末で幕を閉じた。




「皆様、よろしいでしょうか」


 騒ぎの数日後、勇者らしく人々を困らせていた魔獣を倒した天ヶ上、橘、緋之宮、小峰は息抜きに街へ繰り出そうと王城の門にいた。樹沢は何を思ったのか訓練場へと再び戻っている。いざ出ようとすると、後ろからシェルマに呼び止められた。

 かなりの間探していたのだろう、シェルマは少し肩で息をしていた。その様子を見て申し訳ない思いが天ヶ上の胸に湧く。


「ひとまず一回深呼吸をして。僕たちを探して疲れているだろう」

「勇気様、私を気遣ってくれてありがとうございます。それで話があるのですが」


 天ヶ上の言葉にお礼を言ったシェルマは、本題を切り出す。天ヶ上は黙って続きを促した。


「勇気様、五大祭に行ってみませんか?」

「五大祭?」


 天ヶ上は五大祭のことを思い出す。五大祭は確か近々開かれる各主が主催の祭である。天ヶ上にとってはこちらの世界に来て初めての祭であるため、できることなら行ってみたいとも思っていた。


「別に構わないよ。皆は?」

「わ、私だって!」

「私も……行きます」

「あら、私もよ」


 天ヶ上が橘達三人に聞くと、対抗するような雰囲気で自分も行くと言う。その様子に天ヶ上は不思議に思いながらも、シェルマに行くと伝えた。

 シェルマはその返事を聞いて嬉しそうに手を合わせ花のように可憐な笑みを浮かべる。


「良かった! 一緒に行けたらなと楽しみにしていたのです!」

「あ、そうだ」


 嬉しそうなシェルマに天ヶ上は何かを思いついたような顔でシェルマに話しかけた。シェルマはきょとんと天ヶ上を見上げる。


「勇者の僕たちが突然来たらすごく喜ぶと思うんだ。だから五大祭に行くことは知られないようにしよう?」

「ドッキリですわね、勇気様。良い提案だと思います」


 天ヶ上の提案にシェルマは二つ返事で了承した。天ヶ上もそのことに笑みを漏らしながら五大祭を楽しみにしている。


 後日、樹沢にも誘いをかけたが断られた。樹沢は訓練場で訓練を行いたいと言ったのだ。

 こうして天ヶ上達四人の勇者と第一王女シェルマの五大祭来訪が密に決まった。

 当日までの時間はもうあまり長くはない。


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