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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第二章
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第24話~二日目、そして偶然~

今日は二話投稿です。

 一夜明け、オブリナント大帝国に来て三日目である。

 朝食を済ませた俺達はヴィレンドーさんに連れられて次の目的地へと向かっていた。

 目的地へと向けて通りを歩いていると、今まで歩いてきた通りよりも一回り大きい通りに出る。その分人の多さも先程より増えた。

 石畳の広い通りには沿うようにして木が植えられていた。ヴィレンドーさんが言うにはこの通りは帝都のメインストリートであるらしい。

 メインストリートは中央から四本伸びており、まるで十字のように帝都を通っている。目的地はその中央らしい。

 ちなみに転移のゲートがある広場は南に伸びる大通りの半ばにあり、外から帝都へと入ってくる門がある北側の大通りの反対側にある。


 大通りへと出て中央に向かっているのだが、中央に近づく程街の雰囲気が変わってきた。

 建ち並ぶ家々は大きくなり、どれもが貴族でも住んでいそうな程である。家の中には家が二軒程建つような広さの庭を持っている家もある。広いな、あの庭。

 並んでいる店はどれも高級品を取り扱っているのか、店先に並ぶ品々をガラス越しに見てみるとどれも値段が高い。金貨、白貨がどうしても必要になる値段である。

 その品々を見ている人の中には明らかに上物である服を着て通りを歩いていたり、店へと入っていく人もいた。

 大通りには馬車が行き交い、音を通りに響かせている。

 目的地である中央に近づくにつれ、その空気の中の活気が濃くなっていく。どこか楽しげな顔の人々とすれ違ったり、俺達を追い越していく。そして徐々に見えてくる巨大な影。


「すごいな……」

「だろう。これが帝都の中心であるオブリナント城だ」


 巨大な影を前に立ち止まり見上げながら呟いた俺にヴィレンドーさんが自慢げに紹介し始める。

 そこは転移のゲートがあった広場よりも一回り大きく、中央には巨大な城――オブリナント城がそびえていた。

 城をぐるりと囲むように水路が掘られており、水路を通る水は透き通って清涼感を感じさせた。季節が季節なだけに、冷たそうではあるが。

 その水路の内側に沿うように城壁が建っており、のぞき窓のような穴が城壁の所々に見える。城壁の内側には高さが異なる尖塔が複数そびえ、城門の真正面には城の中枢と思しき一際巨大な尖塔が建っていた。

 灰色の石造りであるがためか、城よりも要塞という言葉が頭に浮かんでしまうような雰囲気を放っている。


「城というよりも要塞のような雰囲気ですね」

「この城は戦時には国を守る強固な盾であり拠点にもなるから要塞というのも言い得て妙だな」


 俺の感想にヴィレンドーさんはうなずく。なるほど、どうりでのぞき窓があるわけだ。

 俺達は城を見上げているのだが、広場には大勢の人々がいる。いや、帝都の中心であるならこれが当然なのか?

 それにしてはまるで何かを期待しているような雰囲気である。


「ヴィレンドーさん、今日ここで何かあるのですか?」

「今城に『第一闘技場』の主が来ていてな。『第一闘技場』の主はここ帝都で出たから人気者なのだ。だから主を一目見たいとこうやって来る者達がいる」


 『第一闘技場』の主はオブリナント大帝国から出たのか、なるほど。主は国を挙げて探されるような存在だ。それが自国で出たのなら嬉しく思う人が多いだろうし、人気者になるのもうなずける。


「確か五大祭について打ち合わせ、だったな。秋人殿達がこちらに来る前に城に来たのだが、その時はさながらパレードだ」


 その時のことを思い出しているのかヴィレンドーさんの顔には苦笑が浮かべられている。

 余程凄かったんだな、そのパレードもどきは。


 その後は城を一周周り、昼食を近くの食堂でとった。窓からは人が途絶えることなく城へと見学に来ている。

 昼食を食べ終えた俺達は楽しげな空気の中、次の目的地へと向かった。




 時刻は昼過ぎ、太陽は真上をすでに過ぎておりわずかばかり陽が傾いている。時間的には最後の場所だろう。

 目的地はどうやら帝都に出入りする門の近くにあるらしく、先程いた城からまっすぐに大通りを歩いていた。遠目からでも帝都を囲む壁、そして立派なおそらく鉄製であろうと思わしき巨大な扉が見える。

 それにしても街並みは綺麗だし、活気がある。通りの所々には屋台はもちろんのこと花を売る少女や何かしらの芸を披露している人もいた。

 馬型の魔獣という違いはあれど、大通りには馬車が行き交っている。馬車の種類は様々で荷馬車だったり、人が乗っているであろう馬車も見える。


「良い街ですね」

「そうだろう。私はこの街が好きなのだ」


 俺の言葉にヴィレンドーさんは柔らかな笑みをこぼした。本当に好きなんだな、この帝都が。

 しばらくの間、周りの風景を楽しみながら目的地へと向かった。


「ヴィレンドー様、ここは?」

「ここは第一訓練所だ」


 目的地へとつき、リアナはヴィレンドーさんに疑問を投げかけるとヴィレンドーさんはそう答える。

 現在地は帝都に出入りする門の近くで、俺達の目の前には館が建っていた。

 館の入口にあたる鉄格子の両開きの門は左右ともに開け放たれており、先程から何人かが出入りしている。門には木製の看板が掛けられており、確かに第一訓練場と書かれていた。

 人の出入りは訓練場であるから兵士もいるのだが、中には一般の人や貴族、馬車も出入りしていた。ここ訓練場なんだよな、ならばこの人達も兵士に関連しているのだろうか。


「ひとまず入りながら説明するとしよう。このままここで突っ立っていては邪魔になるだろ」

「わかりました」


 ヴィレンドーさんの提案に頷く。門の入口が広いとはいえさすがに邪魔だったな。

 敷地内に入るとまっすぐ館へとのびる石畳の道とその途中で左へと曲がる通路がある。扉の前には門番であろう兵士が二人、槍を片手に立っていた。

 左へ曲がる道の近くに行くと看板が立てられており訓練場の見学はこちらへと書かれている。なんとも親切だな、迷わなくて済む。

 左の通路に入ると、左右ともに木々で囲まれていた。館は大きいのでなんとか見えるが、まるで林の中を歩いているようである。


「帝都には四か所訓練場があるのだが、ここだけが特定の時間には見学ができるようにされている。理由としては兵士と一般の人々の間の垣根を取るというらしいが、まぁ兵士志願の人が増えてほしいというのもあるだろう」


 上から降り注ぐ木漏れ日の中、歩きながらヴィレンドーさんが話出した。まぁ、軍としても志願者が増えてくれれば御の字だろうな。

 そういえば、館があったがあの中は見学が出来たりするのだろうか。そう思いヴィレンドーさんに尋ねてみる。


「ちなみに館内は見学ができるのですか?」

「いや、一般の人はできない。貴族となれば視察などで話は変わってくるが。できるのは訓練場のみだ。ただ、そこでは見学するだけでなく兵士達との交流なども行える。時には傍に兵士がいることが前提だが剣の素振りを教えてもくれる」


 なるほど、見学だけではなく触れ合いもあるということか。剣の素振りとかは兵士志願の人からしたら嬉しいことだろう、本職が教えてくれるのだから。

 

 そんなことを話していると、道の左右を挟んでいた木々が消えて開けた場所へと出る。 

 林に囲まれた広大な敷地はきちんと整備されており、所々訓練用であろう案山子などが見受けられた。館の近くには用具入れであろう平屋の倉庫が建っている。

 訓練場では現在進行形で訓練が行われており、見学者は邪魔にならないように林のすぐ近く、木陰のところで見ていた。

 見学者を思ってのことだろう、木製のベンチが数個設置されている。数人はベンチに座って訓練の様子を見ていた。

 俺達もベンチへと向かい訓練の様子を見る。国が違えば訓練の内容も違うのか……。

 俺の時は主に武器に慣れて違和感を消すことだった。後は様々な武器の使い方を習得することも入るな。加えて基礎体力作りである。

 目の前で繰り広げられている訓練はアグレナス王国よりも武器になじむ訓練に比重が置かれているように思えた。


「見学の方ですよね、参加しませんか?」


 見学している俺達に一人の兵士が近づき、笑みを顔に浮かべながら声をかけてきた。訓練参加のお誘いである。


「どうします?」


 リアナの言葉に俺達四人は顔を見合わせた。兵士はその様子を見て全員参加でもいいですよと言うのだが、そういう問題ではない。

 ひそひそと四人で話し合いを始める。


「リアナ、お前が行くか?」

「秋人様、私は魔法専門ですのでお断りしますわ」

「あぁ、そうか」


 俺の提案にリアナはやんわりと拒否の言葉を示す。となれば俺達男衆なのだが。


「ヴィレンドーさんは駄目ですよね」

「一応軍神だからな……」


 俺の確認の言葉に申し訳なさそうなヴィレンドーさん。神様と人では元からの馬力が違うのである。


「秋人様も駄目っすね」

「やっぱりそうなるよな」


 オルブフの言葉にリアナとヴィレンドーさんも頷く。いや、手加減はできるはずだ。大丈夫……今まで神様が相手で練習ぐらいでしか戦闘での手加減をしていないが。


「それじゃ俺が行くっすね。すみません、俺が行くっす」

「わかりました。ではこちらへどうぞ」


 相談の結果、結局オルブフということになった。オルブフは兵士に連れられて他の見学者達が訓練に参加しているところへと向かう。どこか意気揚々としているあたり、内心参加してみたかったのかもしれない。

 確かにこの面子だと残るのは結果的に彼になるのだが……。


「でも、あいつも十分強くないか」

「不安ですわね……」

「うむ」


 俺の呟きにリアナとヴィレンドーさんが答える。

 参加を拒否する、というのも考えておけば良かった。



 俺達はオルブフの練習風景をベンチに座って見る。オルブフの傍には先程声をかけてきた兵士が剣の握り方などを丁寧に教えていた。

 暇になったので、オルブフ達従業員のことでも考えるか。

 『第五遊技場』だからなのかは知らないが、従業員は総じて強い。最低でも下級神を相手取れるぐらいには。

 そしてジェラルドさん、リリアラ、ルルアラ、オルブフ、リアナは上級神と対等に戦えるレベルである。つまりそれぞれ実力派であるということだ。

 先程リアナが言ったように、彼女は魔法が得意である。ではオルブフなのだが、彼は見た目通り――


「んなっ」


 俺の思考を遮るように兵士の驚きの声が訓練場に響く。そちらの方を見るとどのような経緯でなったのか知らないが、オルブフは剣を持って立っており、声をかけた兵士がしりもちをついていた。

 隣にいるリアナに聞いてみると、オルブフの武器の扱い方がなかなか良いらしく軽い模擬戦でもしてみようということになったらしい。

 そして結果は目の前で繰り広げられている光景の通り、オルブフの勝利である。

 さすがに手加減していたとはいえまさか負けるとは思っていなかったのだろう。兵士は笑みを引きつらせていた。

 オルブフは危なげなく剣を握っている。それも当然だろう。

 彼は見た目通り武器による攻撃が得意である。獲物は大剣だ。大きさの違いはあれど、彼にとって剣は得意分野と言えるだろう。


「も、もう一度やってみましょうか」


 男性は引きつった笑みのままそう言うと立ち上がり、剣を構えた。オルブフも了承して剣を構える。

 二人の模擬戦に注目する視線が増えている。


「ピニョ~」

「ロル、もう少しの辛抱だ。静かにしていてくれ」


 我慢できないようにロルが小さな声で鳴いたので我慢するように言う。今までさすがに街中で鳴き声を上げてはいけないだろうと我慢してきたのが少々辛くなってきたらしい。

 ロルは俺の言葉にしぶしぶといった様子で再び黙りこむ。ごめんな、ロル。

 オルブフと兵士の間に審判係の兵士が現れる。双方を確認した兵士は再び正面を向いた。


「はじめっ」

「でやっ!」


 審判係の掛け声とともに兵士はオルブフに切りかかる。気のせいだろうか、素人を念頭に置いたものではない剣筋だ。まぁ、オルブフは素人ではないからいいのだが。

 突くようにして切りかかる兵士、そしてそれを構えて待つオルブフ。

 切り結ぶかと思われたが、模擬戦の終わりはあっさりと訪れた。

 切りかかった兵士の剣を自分の剣で受け流すようにしながら、最小限の動きでオルブフは左へと避ける。

 急いでオルブフを視界で確認しようと振り向こうとする兵士。しかし彼ののど元には剣が突きつけられようとしていた。

 兵士は剣で防ごうとするも、剣先は下へ下がっている。これではのど元に剣が突きつけられるスピードに間に合わない。

 防ごうとするも時すでに遅し、オルブフの剣は既に兵士ののど元まであとわずかなところに突きつけられていた。兵士の剣はオルブフのそれを防ぐことは出来無かったのだ。

 ほんの一瞬の出来事である。しかし辺りは静かな空気に包まれていた。それほどまでに二人の模擬戦が模擬戦らしくなかったのだ。俺やリアナは見慣れているので空気に呑まれていることはないのだが。

 オルブフは剣を静かにおろし、まだ固まっている兵士に向かって一礼する。


「模擬戦、ありがとうございましたっす」


 そう言って握手を求めるように右手を出すオルブフ。


「あ、あぁ、こちらこそありがとう」


 硬直から解けた兵士はいまだ困惑している様子を見せながらもオルブフの握手に答えた。




 現時刻は夕方である。もうそろそろ帰ろうということで俺達は訓練場を後にしようとしていた。

 隣にいるオルブフはどこか疲れたような顔である。まぁ、あれだけ勧誘されたらな。

 あの後、オルブフは兵士にならないかとひっきりなしに勧誘されていた。なんでも相手をしていた兵士はそこそこ強かったらしく、それを打ち負かす技量があるのならぜひ兵士にと、らしい。

 傍で負けていた兵士が複雑そうな顔でこちらを見ていたのは、少々気まずかったが。


 俺達が帰ろうとしたその時である。


「疲れたな~」

「もう今日の仕事は終わりだよ、早くご飯食べたいよ」

「あっちの世界じゃこんなことまず経験しなかったからな」

「今更でしょ、それ」


 声は誰だか覚えていない。しかしその内容ですぐさま相手が特定できる。

 幸いにも今いる場所が訓練場に入る前の林で相手側からは見えないようになっていた。そっと別方向からきた団体へと視線を向ける。


 オブリナント大帝国の鎧を着てはいるが、おそらく帝国に召喚された生徒達が訓練場へとやってきていた。


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