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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第一章
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第17話~悲鳴、そして救助~

「うああああああああっ」


 出口が見えて来たころ、森の中に響き渡る誰かの絶叫。急いで<レーダー>を見るが……くそ、範囲外か。

 助けたほうが……いいだろうな。近くにいて見捨てるのは、ちと夢見が悪くなる。声のした方はおそらく前方、割と森の奥深くだろう。そのような場所からここまで響くほどの絶叫とは、それほどまでの緊急事態なのだろうか。


「俺は声のした方に言ってみる。リリアラ、ロルを持っていてくれ」

「かしこまり、ました」


 頭の上に乗っているロルをリリアラへと預ける。ロルも空気を読んでいるのか、先ほどのような抵抗を見せることなくリリアラの手に収まった。

 俺はすぐさま声のした方へと向かっていった。



 現在、声のした方へと向かっており、木々が後ろへと流れていく速さが徐々に早くなっていく。<レーダー>を確認すると、先ほど範囲外で表示されなかった複数の赤い点がこちらへと急速に近づいていた。どの点か分からないが、絶叫の持ち主がいるであろう。

 近づいてきたために目的地から音が聞こえてきた。助けてくれと叫ぶ声、剣戟であろう音、焦りを含んだ雄叫び、それらが森の中で響いている。

 唐突に視界が開け、広い道に出た。目の前には魔獣に囲まれた馬車、そしてそれを守るようにして魔獣に立ち向かう冒険者三名。商人だろうか、武器を持っていない人が三名、命乞いの声や悲鳴を馬車の中で響かせている。

 魔獣は俺がハイデラの街へ行く際に倒した灰色のオオカミの魔獣、グレイウルフだ。それが十五頭ほど、馬車を襲っている。グレイウルフは一匹だけならいいが、集団でのオオカミ特有の連携は脅威だからな。

 パーティの構成は前衛が二人に後衛である魔法士が一人。グレイウルフの数が多いことからさばききれなくなっているようだ。


「加勢するぞ、構わないか」

「頼む!」


 状況を確認してすぐさま魔獣に立ち向かっていた冒険者の一人に声をかけると、了承の意が返ってきた。すぐさま≪駿影≫を抜こうと構える。


「魔法士か、ならそこから援護を頼む」

「え、あ、おう」


 刀を抜こうとした矢先、先ほど声をかけた冒険者に魔法士と誤解された。魔法による援護の依頼に思わず答えてしまう。……刀より魔法使ったほうがいいよな、これ。

 瞬時に刀の構えを解き、杖の持ち手の部分をグレイウルフへと向ける。それに反応したグレイウルフはこちらを敵と認識して三匹ほど、俺の前に立ち塞がった。


「ファイアーボール!」


 ごくごく初歩的な火属性の魔法、ファイアーボールを放つ。野球玉サイズの火の玉で殺傷力は小さい、しかし見た目と反した威力を持っている。スキル<制御技術マスター>で大きさはそのまま、内包する魔力を通常よりも多くしている。

 威力はもちろん、普通のそれより高いわけだ。

 ファイアーボールが爆音とともにグレイウルフの一匹に直撃した途端、グレイウルフは小さくうめくように鳴いたかと思うとその場に倒れた。ピクリとも動かないことから、死んだのだと分かる。

 仲間が易々と殺されたことに、残り二匹のグレイウルフは躊躇したような様子を見せるが、すぐさま同時に攻撃を仕掛けてくる。左右からならば避けるしかなかったが、二匹とも真正面から飛びかかってきた。これでは魔法を撃ってくださいと言っているようなものだ。


「ウインドウカッター」


 仕込み刀である杖を二匹のグレイウルフに向け、ファイアーボールと同じく初歩的な魔法であるウインドウカッターを唱える。魔力は多めに注ぎ、二体を斬るに十分な大きさだ。

 唱えた瞬間、わずかに視認できる透明感のある緑のブーメランのような形の刃、ウインドウカッターが目の前に真一文字に出現したかと思うとそのまま勢いよく発射される。

 微かに聞こえる風切り音を伴い、ウインドウカッターは飛びかかってきたグレイウルフ二匹のちょうど腹に吸い込まれるように命中した。

 飛びかかっていた二匹のグレイウルフはその爪をこちらに届かせることもできず、地面へと音をたてて落下する。腹にできた傷はどちらも重傷で、血が流れ出ていた。

 こちらの二匹も微動だにしない。念の為にとスキル<全対象解析可能>で先ほどの一匹も合わせて三匹を見てみると、死亡状態となっていた。

 しかし、最初の武器による戦闘よりも魔法による戦闘のほうが危なげがないとは……。いや、今はそのことは置いておくとしよう。

 すぐさま冒険者達の方を見ると、先ほどよりも魔獣の数は当然ながら減っていた。俺の方に来た三匹を除くと十二匹、そこから七匹へと減っている。


「ファイアーボール!」


 後衛の魔法士と同じく、援護へと回る。俺が相手取るのは前衛が相手をしているのとは別のグレイウルフ。多対一の状況を作らないようにし、前衛が一対一で戦えるような状況へと持ち込んでいく。

 不意打ちを狙うグレイウルフをファイアーボールで倒したりとしているうちにグレイウルフを全て倒し切った。辺りには剣や魔法による傷で死に絶えたグレイウルフの死体が点在している。

 これにて戦闘終了、加勢に間に合ってよかった。



 戦闘終了とわかり、力を抜いて小さく息を吐いているとこちらに近づく影が三つ。先ほど共闘した冒険者達である。


「さっきは助太刀、ありがとう」

「いえ、構いませんよ」


 最初に話しかけた冒険者がお礼の言葉を述べてきたので小さく笑って返しておく。

 そのあと殺したグレイウルフの素材の件になったため、いらないと伝えておいた。目の前の冒険者、加えて残り二人の冒険者もその言葉に驚き、倒したのだから遠慮はしなくてもいいと説得をされたがそれでも断る。本当に要らないのだがな……『第五遊技場』で今のところ入用はないし、あったとしても城からハイデラの街までの道中で狩っておりアイテムボックスにストックがある。

 最終的に三人の冒険者達は申し訳ないという顔でお礼の言葉を述べ、素材の剥ぎ取りにかかった。

 それにしてもリリアラとルルアラが遅くないか?もしかしてバリエレイアに向かっているとか?

 そんなことを考えていると再びこちらに誰かが近づいてくる。そちらに顔を向けると、馬車の中で恐怖に震えていた商人と思しき三人組だった。

 先導するのは腹が突き出て、頭は禿げ上がり顔の脂ぎった男である。後ろからついてくるのは対照的に痩せており、一人は神経質そうな顔、もう一人は先導する男に対してにやけた笑みを浮かべながら何かを話している。

 雰囲気からして優しさとは程遠いような三人組である。


「お前、助けてくれたこと、礼を言ってやる」


 俺の前に先導していた男が立ち、言い放つ。その態度は感謝をしているとは程遠く、言葉にも感謝の意は感じられない。

 というかこの男、感謝の言葉を述べながらこちらを蔑んだ目で見てくる。もっと早く助けろよと言わんばかりの目だ。


「このお方が誰かわかっているのか!レア商会の長、ギシャス・レア商会長だぞ!」


 神経質そうな男がこちらをいかめしい顔でにらみながら耳に障るような大声を上げる。レア商会?やはり商人であっていたのか、しかしそのような名前の商会は聞いた覚えがないな。

 何の反応も見せない俺を見て、商会長は小さく鼻で笑う。


「ふん、構わん。容姿や身なりからしてどこぞの辺境の村にいたのだろう。そんな田舎者でなおかつこのような目つきの男が、王都で有名なこの私のことを知らないのは当然だ」

「へへ、その通りですね」


 商会長の人を見下した言葉ににやけた笑みの男が媚びを売るような声で答える。

 へーへー、田舎者で悪かったな。あと目つきは生まれつきだ、どうしようもない。この様子から見るに先ほどの感謝の言葉は見かけだけで、早く助けろよという思いを抱いているのではという考えが正解のように思える。

 何も言わない俺に、目の前の三人組は商会の自慢を始めた。……別に頼んでいないのに。

 彼らの話曰く、レア商会というのはアグレナス王国で急速に力をつけ始めたルーキーであるそうだ。武器、薬などの他にも『第四工房』から買い取った商品など多方面に取り扱っているらしい。

 要約するなら最近儲かっている商会ということだ、端的に言えばいいものを。多方面の商品を扱っているだけで済む話を、商会長の自慢話を頻繁に入れてくるのだ。商会長の自慢などいらん。

 約九割が商会長の自慢だった商会の話を右から左へと流しながら聞いていると、今度はここで襲われた経緯を仰々しく話し始めた。おい、まだ話は終わらんのか。冒険者達は剥ぎ取りをすでに終えているぞ。

 苛立ちが募る俺に気づかず、目の前の三人組は仰々しい語りを続けていた。



 現在、俺は森の中を歩いている。商人の護衛をしている冒険者とは先ほど別れた。<レーダー>を頼りにリリアラたちを探す。

 探しながら先ほどの会話を思い出した。 

 襲われた経緯も聞き流そうとしたしたのだが、そうはいかなかった。というのも、その話があまりにも呆れるものだったからだ。

 彼らはアグレナス王国の王都からバリエレイアに護衛依頼を受けた冒険者とともに向かっていたらしい。ハイデラで休息をとり、バリエレイアに向かう道中の森、つまり俺と出会った森で商会長の理不尽な要求が出た。

 この森はホロホルの棲みかなのだが、そのホロホルを捕えたいと言い出したのだ。狙いはホロホルの卵、捕えたホロホルに卵を産ませそれを売ろうとするためだとか。

 それまでにも唐突な無理難題があったのだが、冒険者は仕事だと割り切ってホロホルを探したそうだ。商人の話の後に、その時のことを思い出して疲労を顔に浮かばせた冒険者三人には思わず労りの言葉をかけた。

 しかしなかなか見つからないことに業を煮やした商会長が、冒険者を叱責して見本だと言ってホロホルを探し始める。といっても傍に控えていた二人にやらせて、商会長は馬車の中でふんぞり返っていただけなのだが。

 護衛としてついていこうとした冒険者に「役立たずはそこで見ていろ。行くならギルドに苦情を言ってやる」といったようなことを商会長が言う。傍に控えていた二人に探させることしばし、突如森の中に二人のうち一人の悲鳴がこだました。俺が聞いた悲鳴はこれだろう。

 そして次の瞬間、二人は真っ青な顔をして大慌ての様子で茂みから現れた。


 ――――多くのグレイウルフを引き連れて。


 その後は、魔獣を恐れた商人の三人は馬車の中で恐怖に震え、冒険者は二人が引き連れてきたグレイウルフの群れと戦う羽目になった。数が多く苦戦する中、俺が現れたということだ。

 冒険者達は言われた通りにホロホルを探す際、グレイウルフなど危険な魔獣はあらかじめ倒しており、中には殺されることを恐れ逃げ出す魔獣もいたのだと冒険者達は教えてくれた。おそらく、森に入って魔獣と出会わなかったのはそのことによるものだろう。

 その後、冒険者に代わって一介の商人が護衛もないまま魔獣探しを始めた。……まぁ、結果はお察しの通りである。武器を持つ冒険者ではなく非力そうな商人が相手だ、襲うに決まっている。

 この話の後、商人達は冒険者達に隠すことなく罵声を浴びせていた。護衛が仕事だろだの、非力な我々を危険に晒しおって、だの。

 ……うん、明らかに商人達に責任あるよな。護衛に行こうとしていた冒険者を止めたの誰だよ、それに魔獣を引き連れてきたの誰だよ。非力というなら魔獣を探しに出た時点でどうなるか結果は分かり切ったものを……。

 別れる瞬間にも罵っていた商人達に冒険者達は笑みを浮かべていた。もちろん額には青筋、目は笑ってなどいない。商人達を一発殴ってもいいと思う、いや本当。


「思い出していたらむかついてきたな……お」


 苛立ちが再び湧きあがりかけている中、レーダーに反応が出る。三つの赤い点が表示されている。進行方向は先ほど商人達が襲われていた地点と同じ方角だ。

 リリアラ達であろうと思い、赤い点に進路を変え向かう。

 <レーダー>が示す赤い点のもとに着くまではすぐだった。目の前にはロルを持ち、走っているリリアラとルルアラの姿がある。


「おい、二人とも」


 後ろから、というのも意地が悪いと思い二人の前の草むらから姿を現しつつ声をかけた。二人は一瞬驚いたような顔をするも、俺を見るとすぐさま安堵したような表情を浮かべた。心配をかけたのだろう。

 こちらに駆け寄ってきた二人は俺が立ち去った後の話をしてくれた。何でもすぐに追いつこうとしたのだが、徐々に速さに追いついていくことが出来なかったそうだ。姿は見失っても方角は同じだということでここまで走ってきたとか。


「心配かけてすまない」

「大丈夫、です」

「悲鳴の人は助けられたのです?」

「あ、あぁ……。一応な……」


 リリアラの言葉に少しばかり歯切れが悪くなる。そのことに疑問を抱いた二人が理由を聞いてきたので、先ほどの顛末を要約して話した。 

 話を聞いた二人は、複雑そうな表情を顔に浮かべていた。


「それは、微妙、ですね」

「複雑な気分なのです」

「そうなんだよ……」


 二人の言葉に同じように複雑な気分になりながらもうなずく。

 冒険者達を助けることができたのは純粋に嬉しいのだが、あの商人達は助けてよかったと素直に思えないのだ。非力であるという点なら、冒険者達よりも助ける優先順位は高いのだろうが……。


「ピピッ、ピッ……ピニョッ」

「うわっと」


 突然ロルが鳴きながら俺の腹に、出会った時と同じように飛びついてきた。そしてそのまま必死によじ登り、今度は肩の上に。

 そして再び鳴きながら顔にその綿のような柔らかさを持つ体をこすりつけてくる。まるで励ましているかのようだ。


「まぁ、過ぎたことは仕方がないか」

「そう、ですね」

「その通りなのです。それよりも早くバリエレイアに向かうのです。予定が大幅に遅れているのです!」


 苦笑しながら出た言葉にリリアラが答える。ルルアラもそれに答え、出発を促す言葉を言った。

 ルルアラの言葉を聞いて、思わず空を仰いだ。雲一つない青空だった昼頃の空は、すっかり夕暮れのそれへと変わりつつある。このままいけばこの森で野宿となるだろう。

 野宿をするか否か俺達は相談したが、最終的に出発することとなった。

 ロルは肩から俺の頭の上へと移動している。頭が定位置となるのか。

 そんなくだらないことを考えながら、俺達は最初よりもスピードを上げてバリエレイアに向かって森の中を進んでいった。


 

「到着……か」

「これで野宿は回避されたのです」

「それにしても、ハイデラと、違った街、です」


 俺達三人は安堵したような声で、口々に言う。

 あれから一、二時間は経っただろうか。俺達は森を抜け、ようやっと目的地へと到達していた。太陽は沈みかけており、夕暮れ色だった空は今では夜のそれへと変化している。目を凝らしてみれば、一番星が輝いているのが見て取れた。

 森から出た広がる草原は丘になっており、見下ろすようにして見た。

 ハイデラとは比べ物にならないほどの大きさを誇るバリエレイアからは、夜が近いというにもかかわらず視認できるほどの煌々とした明かりが漏れでている。入口の門に近づけば、騒ぎ声が外まで漏れ出ていた。

 王都ではないのだが、ハイデラよりも断然大きく、そして賑わっている。

 広大な街は二階建てほどの高さの塀で囲まれており、入口である門はハイデラとは比べ物にならないほどだ。

 門の両脇には槍を持った兵士が、二人ほど門番として立っている。


 涼しい風が草原の草花を揺らし、体へと当たった。

 道中、魔獣が仲間になったり救助などいろいろとあったが、俺達は無事に目的地・バリエレイアに到着したのだ。

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