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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第一章
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第15話~ハイデラ、そして宿~

 一瞬視界が真っ白に染まり、徐々に色を取り戻していく。

 転移のゲートから出ると、目の前に広がる光景は三か月前に見たハイデラの街だった。現時刻は昼で、真上から照らす太陽の暖かな光を浴びる。リリアラとルルアラは俺のそばで辺りを興味深げに見ていた。

 俺は街の様子を見ながら呟く。


「三か月で街が変わるわけ……ん?」


 言っている途中で気が付いた。無いと思っていた変化が確かに一つ、すぐそばにあったのだ。


「どうしたのです、秋人様?」

「いや、三か月前は転移のゲートが使われていなかったんだが……今では使われているんだな」


 ルルアラが不思議そうな声で問うてきたので答える。俺達が通ってきた転移のゲートは確かに三か月前には使われていなかった。しかし、今では異なっている。

 商人や長いローブを着た人、中には剣やら武器を下げている人々がゲートをくぐっている。そしてくぐった瞬間その姿が霧のように消えた。反対に突然ゲートから現れる人々もいる、俺達と同じように転移してきたのだろう。

 気になって、ゲートを行き来する人々の話に耳を傾ける。


「いや~、許可証が発行されて良かったよ」

「本当にな。これで『第一闘技場』が使える」

「あぁ、早く『第三商店街』に行かなければ……商談に間に合わない」

「『第二図書館』で調べものもできたし、そろそろ帰るか」

「作り手にとって『第四工房』は天国じゃの~」


 会話を聞いて納得した、第一から第四の許可証が発行されたのか。『第五遊技場』の話が出ないのは……まぁ、当然だろう。俺、許可証なんて発行した覚えないし。

 そんなことをぼんやりと考えてると、ゲートから出てきた人にぶつかりそうになる。うおっと……危なかったな。

 隣を見てみるとリリアラやルルアラも人とぶつかりそうになっていた。決して人が大勢行き来しているわけではない。行き来する人々がまるで俺達の姿が見えないかのように(・・・・・・・・・)歩いているのだ。そのためどうしてもぶつかりそうになる。

 リリアラとルルアラはこの現象がどうして起こっているのか理解したような顔をこちらに向けた。俺はそれに小さく一つうなずくと二人に手招きをして、人の目が無いところへ向かう。

 人目のつかない場所へ着くと、ついてきた二人がこちらを向いて言った。


「これは遊技場で売られていたハイド付きのローブなのです」

「さっきの、人の様子で、わかりました」


 二人の言う通り、このローブにはハイドの魔法が付与されている。人にぶつからない限り、音・姿・気配を隠すことができるという隠密に長けた逸品だ。十枚セットになっていて同じセットのローブを着た者同士はハイドが無効になっている。ローブを着ればハイドがかかり、「解除」と唱えれば解くことができる。『第五遊技場』に一セットのみしか売られていなかったこのローブは安物っぽい見た目に反して割りと高機能なのだ。

 余談だがこの十枚セットのローブは機織りの神と魔法の神が気まぐれに作ったものらしい。なんでも酒に酔った勢いで作ったとか。酔った勢いで作ったものが隠密に長けたローブとは……誰かから隠れたかったのだろうか。


「でもどうしてこのローブを着てきたのです?」

「ん?いや、こっち側がまだゲートを使える状況か分からないしな。もし使えない状況で俺達がゲートから現れたら、明らかに第一から第五のどれかの世界の関係者って思われるじゃないか」


 ルルアラの質問に答える。最終的には杞憂に終わったのだが念には念を、だ。


「とりあえず、ハイドを解いて街に繰り出すか」


 俺の言葉に二人はうなずいて「解除」と唱える。俺もそれに続いて唱え、三人で街に繰り出した。

 


「あ、ギルドがあるのです」

「ギルド?」


 道なりに歩いているとルルアラがある建物を指さしながら言った。

 ルルアラが指し示す先には他の建物よりも一階分ほど高い建物が立っている。薄い茶色の木製の建物は陽の光を浴びて柔らかな光を放っていた。先ほどから剣や斧などを持った戦士や杖を持ちローブを羽織った魔法使いが多く出入りしており、賑やかに笑いながら、はたまた緊張した面持ちで黙りながらと千差万別の様子だ。ギルド内からは外からでも聞こえるほどの賑やかな声が漏れ出ている。

 入口に大きく掲げられた看板には剣と盾をモチーフとしたマークと『アトレナス』で使われている文字が描かれている。あの文字は……ギルドと書かれてあるな。<異世界言語使用可能>のスキルのおかげで分からないということはない。

 しかしまぁ、FSGにおいてもギルドは存在していたが、こうやって現実として見るとなんとも感慨深いものがある。このように賑やかな音を聞くことも活気を感じることもなかったからな。

 以前城にいたころガイゼルさんに聞いたところによると、ギルドはFSGと同じで先ほどの戦士や魔法使い、総じて冒険者と呼ばれる者達のための施設らしい。冒険者になるにも、依頼を受けるにもギルドを利用する。冒険者になる理由は様々だとか。生活だとか名誉のためだとからしい。


「秋人様、ギルドに、興味が?」


 ギルドの建物を見上げていた俺にリリアラが話しかける。

 まぁ、少しはな……。ギルドに興味はあるのだが……。


「入るのです?」

「ギルドに入るメリットがな、思い当たらないんだよな」


 ルルアラの言葉にそう返す。ギルドというのは金、または名誉などのために命を懸ける職業である。まぁ、もっとも多い理由としたら金だろう、生活のための。その点で考えると俺がギルドに入るメリットがないのだ。


「メリット、ですか?」

「いや生活のためってわけでもないだろう。もう俺、職業決まっているし」


 リリアラの言葉にギルドの建物を見上げながら答える。俺の職業は『第五遊技場』の主だ。正直言ってこちらの金銭を稼がなくともよい。『第五遊技場』でもこちらの金銭は手に入れることも可能だ。『第五遊技場』で働いて館で生活を送る日々なのだ、わざわざ『アトレナス』でものを買うなどしなくてもいい。

 職場も生活の拠点も決まっている俺にはわざわざ冒険者になる必要はない。

 そんなことを考えているとリリアラがこちらを見上げながら言った。


「とりあえず、ギルドは、後にして、宿を、とりましょう」

「そうだな。宿探しとするか……あ、でもお金が」

「大丈夫なのです。こちらに来る前にジェラルド執事長からきちんといただいているのです。どうぞなのです」


 金銭を心配した俺にルルアラがそう告げ、小さ目の革袋を手渡してきた。革袋を受け取った瞬間、手に決して軽くはない重さを感じる。一体どれぐらいの金額が入っているのだろうか……。

 革袋を念のためにと持ってきたナップサックに入れるふりをしてアイテムボックスに入れる。盗られないようにの予防だ。加えてアイテムボックスというのは少なくとも『アトレナス』の人達は持っていないので厄介ごとに巻き込まれないためにも隠しておいたほうがいいとジェラルドさん達に言われたため、このように入れるときに偽装している。ちなみに隠さなかった場合を聞いたら、貴族や王族に物のように利用される恐れがあるだとか。……うん、それはいやだな。

 アイテムボックスに入れ終えた俺達三人はその場を後にして宿屋を探しに行った。



 現在時刻は夜である。宵闇色の空に星々が輝いており、周りの店の明かりが昼よりもまぶしく感じる。帰宅途中であろう食物の入った袋を持つ女性や、宿屋に入っていく冒険者、はしゃぐ子供とその子供に手を引っ張られるようにして歩く微笑みを浮かべた親が店の明かりに照らされた道を歩いていた。

 そんな中俺達は二階建ての宿屋の前に立っている。まぁ、客の邪魔にならないように入口から少し離れたところにだが。

 宿屋・止まり木と看板に書かれてある木製のこの宿は、先ほどから多くの冒険者が出入りしていた。もちろん冒険者以外もいるのだが、よっぽど繁盛しているのだろう。先ほどから漏れ聞こえてくる賑やかさからもそれがわかる。宿探しの途中に屋台で品物を買いながらどこの宿がいいのかと聞いてみたところ、この宿屋がいいと言われたのだ。

 そして来てみたのだが……ずいぶんと人が多い。空いている部屋はあるだろうか。


「秋人様、とりあえず中に入るのです」

「あぁ、そうだな」


 部屋がとれるかと不安に駆られていた俺にルルアラが話しかける。俺がそれに返事をすると、リリアラとルルアラは先に宿屋へと入ってしまった。俺は慌ててそのあとを追う。

 中に入ると、外で聞こえていたのとは比較にはならないほどの喧騒に包まれる。思わず俺達三人は呆気にとられて一瞬その場に立ち止まってしまう。一階は食堂のようになっており入って右手にはカウンター、そして左手には大小様々なテーブルが設置されていて静かに食事をしている者、大人数で賑やかに飲み食いをしている者と様々だ。


「いらっしゃいませ~!宿屋・止まり木へようこそ~!そこに突っ立ってないで、こっちこっち!」


 喧騒に負けないほどの大きな声で声をかけられた。慌てて声の主を探すと、カウンターのところに立っている女性がこちらに来るようにと手招きをしていた。あ、入口に立ってて邪魔になってるからか。

 小走りで女性の元へ向かうと、女性はこちらへ微笑みを向けた。栗色の髪を背中の中ほどまで伸ばした、スタイルのよい女性だ。


「改めまして、いらっしゃい!食べに来たの?それとも宿泊?」

「宿泊なのですが、部屋は空いていますか?」

「人数は、三人だね。それなら同室でなら可能だよ。構わないかしら?」


 宿泊の方だと分かった女性は同室で構わないかと俺達に聞いてきた。俺は傍に立つリリアラとルルアラに顔を向ける。


「私は構わないのです」

「私も、構いません」


 顔を向けられたリリアラとルルアラはすぐに答えた。まぁ、二人が構わないならいいか……。俺も同意すると、女性は微笑みながら部屋の鍵を渡す。部屋は二階の廊下一番奥だそうだ。

 鍵を渡された後、女性は宿の説明を始めた。


「ここ、食堂は朝の六時から夜の十時まで開いているわ。朝昼晩のご飯が欲しいなら食堂で食べてね。別途料金はいただくけど、部屋に泊まってくれる人はいくらか割引してあげるわ。トイレは二階にあるからそれを使ってね。お風呂は無いけど体を拭くぐらいなら用意するから事前に言ってね。それで泊まる料金なのだけど、料金は一泊につき銅貨十枚よ」

「ん、わかりました」


 宿の説明が終わり、宿泊料金の話になる。俺は一つうなずくと気づかれないようにアイテムボックスからお金の入った革袋を取り出す。

 革袋を取り出した俺にルルアラがこちらを向いて言った。


「一泊分だけ払うのです」

「なんでだ?」

「せっかくの羽休めなのですから、ハイデラ以外の別の街にも行きたいのです」

「なるほど、それもいいな。それじゃ一泊分で」


 ルルアラの提案にうなずく。確かにハイデラ以外の街にも行ってみたい。他の街は一体どんな雰囲気なのだろうか。

 ルルアラの提案に賛同した俺は一泊分の料金である銅貨十枚を渡した。

 ちなみに『アトレナス』におけるお金は価値の低い順に銅貨、銀貨、金貨、白貨(はっか)となっている。銅貨一枚は十円の価値で、銀貨、金貨と上がるたびに価値は百倍となる。

 白貨一枚で一千万円、金貨一枚で十万円、銀貨一枚で千円、銅貨一枚で十円の価値だ。

 晩御飯はどうかと聞かれたので、屋台で色々と食べているから構わないと言うと女性は残念だという風に肩をすくませた。


「お~い、そろそろ戻ってきてくれ~」

「は~い!それじゃ一泊だけだけど休んでいってね」

「はい」


 料理のいい匂いが漂う店の奥から呼ばれた彼女は俺達にそう言ってから慌てたように声のした方へと小走りで去っていった。宿の受付だけでなく食堂でも給仕などの仕事があるのだろう。

 邪魔をしては悪いと俺達はすぐさま喧騒の続く食堂を後にして部屋へと向かった。



「さてと……ハイデラを出るのは明日でいいんだよな。泊数は一泊にしてるし」

「そう、ですね。目的地は、ここから、なるべく近い方が、いいですよね」

「だったら、どこがいいかな……」


 部屋に入った後、ローブを脱いで各自決めた自分のベッドに畳んでおく。窓が一つあるこの部屋にはベッドが三つ並び、枕元の近くには渋い茶色のサイドチェストが一つのベッドに一つずつ置かれている。反対側にはサイドチェストと同じ色の小さな机が設置されていた。 

 今は小さな机の上にガイゼルさんからもらった地図を広げ目的地を決めている。ハイデラから近い街と言えば……バリエレイアだろうか。行くには森を通る必要があるが、他の街よりかは近い。


「バリエレイアなら近いんじゃないか」

「確かに近いのです」

「森を抜ける、といっても、このメンバーなら、大丈夫でしょうし」


 森を抜けるということは俺がハイデラに来る際、オオカミに襲われたように魔獣に襲われる可能性があるのだが……問題はないだろう。リリアラとルルアラも結構な強さがある。これは『第五遊技場』にて知ったことだ。『第五遊技場』でも素振りなどの訓練を行っていたのだが、その際リリアラとルルアラが練習相手として付き合いたいと言ってきたのだ。

 そうして二人と模擬戦をたびたび行っていたため彼女達の強さがわかる。


「それじゃ目的地はバリエレイアで決定だな。距離的に朝飯を食堂でとってからでも大丈夫だろう」


 地図でハイデラからバリエレイアまでの距離を再確認した後、地図をたたんでナップザックへと入れる。


「用意は朝飯食ってからだな。テントに食物、あとは衣服とかか?」

「そう、ですね」

「ならご飯を食べたらすぐに買いに行くのです。買い物は結構時間がかかるのです」

「んじゃ、もう寝るか」


 窓から見える外は宿に入る前よりも暗くなっている。気づけば下から聞こえていた喧騒も前より小さくなっているように感じた。用意は明日であるから、もう今日のうちにやるべきことは見つからない。

 俺の言葉にリリアラとルルアラもうなずいて賛同を示すと、自分のベッドへと向かった。

 ベッドはもっとも入口に近いところにルルアラ、真ん中にリリアラ、そして窓側に俺である。


「それではお休みなのです」

「お休み、なさい」

「あぁ、お休み」


 しばらくすると二人の寝息が聞こえる。俺はまだベッドに横になったまま寝つけないのでぼんやりと窓の外を眺めていた。

 窓からは夜空に浮かぶ満月の光が差し込んでいる。街のどこからかなのか、小さな喧騒が窓から部屋の中へと入ってきていた。

 ……もう寝よう、明日は用意もある。バリエレイアまで比較的近いとはいえ、寝過ごして昼になどなれば予定が狂ってしまう。

 そう考えた俺は眠ろうと目を閉じた。

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