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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第一章
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第12話〜オオカミ、そしてゲート〜

「あとどれぐらいなのやら……」


 地図を片手にぽつりとつぶやく。

 現在は昼である。あれから干し肉を一枚食べながら地図とにらめっこしつつ目的の街、ハイデラを目指していた。

 しかし、当初方角を確かめることができず立ち止まってしまった。まぁ、地図を見る限りハイデラは森を挟んで城から一直線上にあったため現在城の位置を確認しつつ向かっている。

 まだ着く気配を見せないので現在の装備を確認する。今の装備はトリックスター専用装備、≪ディーラー風セット≫である。まさしく、ディーラーのような装備で脇に赤い線が入った黒ベストに白いシャツ、そして同じく横に赤い線が一本はいった黒いスラックス。ネクタイは蝶ネクタイではなくふつうのもので黒く、一方で絹のような手触りの手袋は白い。靴は革靴なのだが、動きづらさはなく、むしろ動きやすい。見た目に反して防御力はトリックスターが着用できる防具の中でも最高値の防御力を誇っている。さすがに最高ランクの鎧とかとは少しばかり劣るが。

 しかし≪ディーラー風セット≫は防御ではなく素早さ、そして運の上昇度が高い。耐えるよりも避けるが前提なのだ。

 次に武器である。武器は近接攻撃のために仕込み刀を一本、遠距離として銃を一丁、腰のベルトにさしている。

 焦げ茶色の木製のステッキに中には刃の波紋が美しい日本刀≪駿影(しゅんえい)≫。ステッキの持ち手部分は刀として扱う際に握りやすいよう黒の革でおおわれている。刃は折れにくいミスリル製だが比較的薄く重さも片手で扱えるほどであるため、撃ちあう場合は刀身を魔法で強化する。薄い刀身は撃ちあいのときに不利なため魔法で強化するのだとガイゼルさんが訓練のときに教えてくれた。

 銃はハンドガンタイプの≪魔銃・ヴォルカス≫である。グリップ、銃身ともに夜のように黒く金属独特の光沢を放っており、またグリップには五芒星に似てはいるが複雑な紋様の魔法陣が刻まれている。これは弾の代わりに銃口から魔法を発射するためだ。

 この≪ヴォルカス≫、最初は鉛玉を使用する普通の銃だった。しかし、この世界において弾丸を調達できるかわからないということで朝のうちに<鍛冶>、<錬金>で弾丸の代わりに魔法が撃てる銃にしたのだ。グリップの両側に魔法陣を刻むのは<錬金>で行い、魔法陣から銃口へと魔力が通る為の回路は<鍛冶>で作った。まぁ、途中で面白くなって色々機能を付け加えたのだが、それは今はいい。


「武器も大丈夫みたいだし、あとは目的地につけ――――」


 武器の確認を終え、独り言をつぶやく途中でやめる。歩みも止め、視線を左に向ける。


(数は……五か。魔獣か人か……)


 視線の先にはステータスに似たものがある。中央に緑の点、その前方十五メートル先に赤い点が五つ映し出されていた。これは<レーダー>というスキルで、自分が探したいものを設定するとそれがレーダー上に赤い点で映し出される。

 加えて<察知>というスキルもあるのだが、これは五メートル以内でないとわからない。ただし範囲内なら魔獣なのか人なのかの区別がつく。

 赤い点が迫る前方に体を向けたまま、視線だけで<レーダー>を再び確認してみると先ほどの場所からこちらへと近づいている。おおよそ五メートル前方だろう。


「なるほど、魔獣か。さて、構えておかないとな」


 <察知>で魔獣とわかり、呟いて刀を抜いて片手に刀、もう一方の手にステッキの鞘となっていた部分を持ち構える。一人となって初めての戦闘だ。緊張しないといえばうそになるが、緊張のし過ぎで体が固くなってはいけない。

 緊張した体をほぐすように腕を回して構えた直後、目の前の茂みから五つの影が踊り出る。

 唸り声をあげながら現れたのは灰色のオオカミだ。灰色の毛並みに獰猛そうな金の瞳をもった魔獣である。姿かたちがオオカミだから、連携して獲物を仕留めるのだろう。

 現れたオオカミはこちらを囲みながら襲うタイミングをうかがっている。

 引き延ばしても仕方がないだろう。とっとと片づけることにするか。

 刀の刃先を下に向けるようにして構え直し、目の前の一匹に向かって一気に踏み込む。踏み込んだ瞬間、足元から大きな音がして瞬時にオオカミの目前に到着する。

 到着するやいなや、下から上へと掬い上げるように刀を振るうと何の抵抗もなくグレイウルフの首が地面へと落ちた。一拍遅れて吹き出る血に気を割くことなく、持っていた鞘を前に向きながら振る。

 キャインと悲痛な声をあげながら襲い掛かろうとして殴られたオオカミが一匹遠くへと飛ばされた。それと代わるように左右から二匹が同時に攻撃を仕掛けてきた。


「よっと!」


 タイミングを見計らい後ろに数歩飛ぶと二匹のオオカミがぶつかり一瞬動きが止まった。そのすきを見逃さず、瞬時に二匹に近づくと流れるように刀を振るって首を落とす。これで残りは二匹だ。

 後ろから殺気を感じ、鞘で防ぐように構えながら振り向く。一匹のオオカミの攻撃を鞘で防ぎ、腹に刀を突きたてる。目から生気が失われたのを確認し、刀を死んだオオカミの腹から抜きざま右から襲い掛かろうとしていた最後の一匹を真正面から切り伏せる。


「ふー……」


 戦闘での昂りをおさめるように大きく息を吐き、≪駿影≫についた血を振り払う。≪駿影≫の刃は敵を切る前となんら変わりない輝きをもっていた。

 周囲を見回してみると五匹のオオカミの死体、そしてその死体を中心に広がる血。後になって殺したのだという実感がわいてくる。前の世界でなら味わうことが無かった感覚、しかしこの世界では身近なそれにいまだ馴染めていない。城での実戦ではガイゼルさんやアキトラさん達がいたからその実感が薄れていたのかもしれない。一人だからこそ、自分の手で殺したという感覚を強く認識できた。

 これからはこの感覚に慣れなければならないだろう。殺した感覚に麻痺するということではない、命を失うことへの感覚を麻痺すれば取り返しがつかないだろうとはおぼろげながらもわかる。

 ためらってたら死ぬよな、気を引き締めねば。


「貴重な食料だ、アイテムボックスにそのまま……できるだろうか」


 死体となったオオカミを見ながらそう呟いた瞬間、目の前の死体が消える。驚いてアイテムボックスを確認すると、それまでなかったオオカミの肉や皮といったものが入っていた。


「便利だな。ただ、剥ぎ取りの練習をしておいた方がいいだろうし次は剥ぎ取りを試してみるか」


 剥ぎ取りなどしたことがないから最初はひどいものだろうが……。

 残るのはあちらこちらに広がった血だけとなった。そろそろハイデラに向けて再出発した方がいいだろう。


「……今度は余裕をもって戦えるようにしよう」


 実際に武器を使った訓練でもしようと考えつつ、その場を後にした。



「つ、ついた……」


 現時刻は昼。あれから二週間、ようやく目的の街ハイデラへと到着した。途中から目印としていた城が見えなくなったため<浮遊>を使い確認しなければならず面倒だった。

 道中灰色のオオカミを含めた魔獣に襲われたが、その都度倒し剥ぎ取りの練習を行った。最初は本当にひどかった……きれいに剥ぎ取れないやらで苦労したな……。今ではある程度ましにはなったと思う……たぶん。

 野宿の際に≪駿影≫と≪ヴォルカス≫に慣れるため実際に使った訓練なども行った。そのおかげか最近では最初よりは戦いに余裕が出始めたな。オオカミのときは倒したが、余裕というものがなかった。


「しかし、これで野宿も終わり……ってそういえば街に入るときって何もなくていいのか?身分証明みたいなのが必要だったり?」


 街の入口となる門には兵士が二人ほど立っている。証明するものが必要だとしても、現状どうしようもない。このままいくしかないのか……。

 もし必要なら村から出てこの街を目指したが途中グレイウルフに襲われて失ってしまったとでも言おう、嘘ではないからな、うん。

 ディーラーのかっこうは怪しいので茶色のローブをアイテムボックスから出し、着て門へと向かう。立っていた二人の兵士の視線がこちらへと注がれる。外見は何でもない風を装うが内心は不安でいっぱいだ。


「そこのもの、止まれ」


 門の左側に立っていた兵士が呼び止める。なんだ、やはり証明するものが必要なのか?


「はい」

「身分証明としてステータスを見せろ」


 呼び止めた兵士に顔を向けると、厳しい顔つきのまま兵士は言った。ステータス?それって念じたら出るやつのことであっているよな?


「どうした、出し方を忘れたのか?ステータスと念じれば出てくるぞ」


 返答がないことに俺が出し方を知らないと思ったのか、兵士は疑わしいといった目つきでこちらを見ながら言う。早く出さないと不審人物として捕まってしまう!

 慌ててステータスを出し、他人に見えるようにする。もちろん出したステータスは異世界人であることを隠した偽物のステータスのほうだ。


「……ふむ。名前の下に犯罪歴らしきものはなしか。よし、通っていいぞ」


 どうやら犯罪者の場合、名前の下にそれらしきものが出るようだ。盗賊とか表記されるのだろうか?


「あぁ、言わねばな。ようこそ、ハイデラへ」


 怪しいものではないと分かった兵士はにこやかにそう言った。反対側の兵士は「目つきが怪しい……」などとのたまっている。失礼な、これは元からだ。

 軽く一礼してハイデラの中へと入る。広い道の両側には食べ物を売る屋台、薬や武器などを売る店が並んでいる。道行く人も多く、賑わいをみせていた。

 まっすぐに伸びる道を屋台に目移りしながら進むと、おそらく街の中央であろう広場に行き着く。その広場の中央にそびえるものに思わず目を奪われた。


「なんだ、これ……」


 広場の中央にそびえたっていたのは黒い額縁のようなもの。俺の身長をゆうに超えており、周りの建物より少しばかり高い。黒曜石のような光を放つそれの形はまさしく額縁のようだが、下の部分は存在しない。地面に埋もれているのか、それとも元からないのか。パッと見、黒い額縁を地面にすこしだけ突き刺したような感じだ。


「お、あんたこれを知らないのかい?これはゲートだよ」


 唖然としていた俺に笑いかけながらひげを生やした中年の男性が話しかけてきた。


「第一闘技場とかの許可証を持っていればこのゲートをくぐってその場所にいけるんだよ」


 なるほど、この埋まった黒い額縁はゲートなのか。では、『第五遊技場』へもここからいけるだろう。いいことを聞いた。


「教えてくれてありがとう」

「おうよ!しかしこれを知らないたぁ、よほど田舎だったんだろうな。このゲートはどこの街にでもあるからな。ただまぁ、今は許可証なんて発行されていないから誰もいけないんだがな!」


 お礼を言うと、男性は朗らかに笑いながら言いその場を去っていった。どこにでもあるのか、このゲートは。村にもあるのだろうか、まぁ移動手段が特定の街だけと限定されていないなら便利だし良かった。

 さて、宿にでも止まるつもりだったが『第五遊技場』へ行けるのならすぐにでも向かいたい。しかし許可証が誰も持っていない今、ゲートを使えば目立つことこのうえない。昼ということもあり、人どおりが多いしな。


「腹も減ったし、屋台で何か食いながら夜まで待つか」


 タイミングよく鳴る腹を押さえつつ呟き、屋台のひしめく通りへと向かった。




「さてと、人どおりも少なくなってきたし腹ごしらえもした。そろそろ向かうか」


 辺りは暗闇に包まれ、昼時の喧騒がうそのように静まり返っている。あの後、珍しい食べ物を試しつつ時間をつぶしていた。キックラビという魔獣の肉を焼いて串で刺したものが一番おいしかった、色がオレンジと歪だったが。食べるまではゲテモノのように思えたよ……。


「念のためにっと」


 人目がつきにくい店と店との間で魔法ハイドを自分の身にかける。この魔法は他者から自分の姿を認識させないようにする魔法だ。

 魔法をかけ、道に出る際念のため辺りを見渡す、人の姿はないようだ。

 足音を忍ばせてゲートへと向かう。初めて『第五遊技場』へと向かうのか。すこし緊張しつつも、ふっと小さく息を吐き気合いを入れ足を踏み出す。

 闇夜の中、緊張を残しつつも足音を立てないように俺はゲートをくぐった。


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