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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第一章
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第10話~言葉、そして裏切り~

「いや、まじでどこにいったんだよ……」


 起きてから部屋中を隅々まで探してみたが緑光草は見当たらない。念のためにと昨夜行かなかったところも探してみたが無い。でも、確かにこの部屋に入って寝たときは持っていたのに……。

 俺が昨日の記憶を必死に引っ張りだしながら探していると、ドアをノックする音が聞こえた。


「神楽嶋様、そろそろ朝食の時間です」

「あ、はい!」


 朝食の時間だとミレイアさんが呼びに来たのだ。慌てて返事をする。ここまで探してないのなら、最悪誰かに盗まれた?確かに昨夜寝る間際まで存在していたのだが、部屋に無い以上そうとしか考えられない。しかし、誰が?一番は第一王女辺りが疑わしいのだが……。

 そんなことを考えながら部屋を出る。一応、ミレイアさんにも昨夜俺が緑光草を持っていたか聞いてみようか。


「あの、ミレイアさん。俺、昨日は緑光草を持っていましたよね?」

「知りません」


 間髪入れずに返された答え。しかし、言葉に棘が含まれているような気がする。何か、怒っているのだろうか?しかし、怒られたようなことをした覚えはないし、何より先ほどの言葉の調子は怒っているとは別物のように思う。

 ミレイアさんの突然の変貌に驚きながら食堂に着いた。ミレイアさんはすぐさまどこかへと行ってしまう。結局、ミレイアさんの態度が変わった理由がわからないまま、別れてしまった。後で機会があれば聞いてみるとしよう。

 しかし、食堂の中が騒がしい。物騒なというよりは称賛で騒がしいのだが。気になって称賛の中心に向うとそこには天ヶ上率いるハーレム組がいた。称賛されているのは天ヶ上と第一王女のようだ。


「本当、相変わらず凄いよな天ヶ上は。そんなレアなものを手に入れたなんて」

「うらやましいわ。かなり価値が高いものなんでしょう」

「それにしてもこの草、淡く緑に光っていますな。名前通りだが、明るい中でこれを見つけるのは至難。いやはや、さすがシェルマ王女」

「シェルマ王女が天ヶ上様のために摘んで差し上げたそうですよ。なんと運がよく、お優しいお方なのかしらシェルマ王女は」

「そんなシェルマ王女から贈られた天ヶ上様も良い運をお持ちで」


 あぁ、また称賛されているのかといつものように考えられなかった。価値が高い、淡く緑に光る、見つけるのが難しい。まさか、とは思うが……。

 俺は人の波を縫うようにして中心へと向かう。天ヶ上が見慣れたものを掲げるようにして持ち、傍では第一王女がそれを嬉しそうに見ていた。周りのハーレム組の女子は抜け駆けされたといわんばかりに第一王女を睨んでいる。

 いや、あいつらの様子などどうでもいい。問題は天ヶ上が持っているものだ。

 近づいてようやく分かるほどの淡い緑の光を放つ緑光草を天ヶ上が持っているのだ。


「っ!」


 まさか天ヶ上が?いや、落ち着け。さっきの話だと第一王女が摘んだと言っていたから盗んだのは第一王女か?そもそも、あれが昨日まで俺が握っていた緑光草だとは判断できない。もしかしたら俺のとは別で本当に第一王女が摘んだものなのかもしれない。

 悩んでいる俺をよそに、ハーレム組は天ヶ上を先頭にして食堂を出ていく。その場にいる人たちはハーレム組に向かって称賛の言葉を投げかける。さながら英雄の凱旋だ。

 ハーレム組が俺の前を通り過ぎようとしたとき、小さく微笑む声が耳に響いた。目の前には怪しげに笑う第一王女。


「お礼を言いましょう。緑光草を摘んでくれてありがとうと」


 そう言うと第一王女は酷薄な笑みを俺に向けて浮かべた後、すぐさま天ヶ上の元へ向かい寄り添う。そのときの笑みは先ほどの酷薄なものではなく、可憐というべきものだった。

 なるほど、俺の予想通りだな。緑光草は第一王女によって盗まれたのか。頭の中がスッと冷え、ただただ第一王女への恨みがわく。

 周りはそんなことは知らないとばかりにいつもの食堂の様子へと戻っていった。




 今は訓練の休憩時間、俺は先ほどの食堂での出来事を思い出す。

 第一王女が緑光草を盗んだ、と先ほどまで納得していたが少し疑問を感じる。あの第一王女が自ら盗みに俺の部屋に来るだろうか。あの性格なら「そんなところに私が行くとでもっ?」と言って使用人にやらせそうである。

 自分でやるような行動力があるのか、それとも使用人にやらせる黒幕タイプなのか判断がつかない。ガイゼルさんあたりに聞いてみるか。あ、でも、緑光草が盗まれたこと誰にも教えてないから変に勘繰られたりするかもしれない。正直に言ったほうがいいだろうか?

 悩みながら俺は休憩中のガイゼルさんに近づく。


「すみません、ガイゼルさん。少し聞きたいことがあるのですが」

「ん、何だ?」

「第一王女ってどんな人なんですかね?こう……自分で行動するタイプとか、そうじゃないとか?」


 俺が曖昧にたずねるとガイゼルさんは訝しげな目をしている。突然ですよね、こんな質問……。今までそんな話したことないから疑われてもおかしくないよな。


「なぜそんなことを聞く?」

「あ、えっと、ですね……」


 正直に話したほうがいいだろうか。というか嘘を言ったとしてもガイゼルさんにはすぐ見ぬけられそうな気がする。


「嘘をつかずに、正直に言ってほしい」


 心を読んだかのようなガイゼルさんの言葉。はい、わかりました……正直に言います。


「実はですね――――」


 俺はガイゼルさんに不敬罪覚悟で今までのことを話す。起きたら緑光草が無く部屋中を探しても見つからなかったこと、ハーレム組がそれを持っていたこと、そして去り際に第一王女が俺に向かって言った言葉。

 話すごとにガイゼルさんの眉間のしわが増え、現在誰が見ても不機嫌なのだとわかるほどのしわを眉間に刻んでいる。


「それで、第一王女が犯人かと考えたのですが、俺が思うに自分で動くタイプよりも人にさせるタイプのような気がしまして……」

「なるほど、だからあの質問か……。納得した」


 ガイゼルさんは眉間を揉みながら小さくため息をつき言った。話している途中で「王女になんてこと!」と怒られずに済んでよかった。これで不敬罪だと言われたら俺は死刑、少なくとも牢屋送りだろう。そう考えると寒気がする。まぁ、そうなったらすぐさま逃走するつもりだが。俺の力なら逃げることができるだろうし。


「シェルマ王女は確かに自分で盗むよりは他人に盗ませる方法を選ぶようなお方だ。聞くが、さっきの話は全て本当だな?」

「本当です!」


 ガイゼルさんの質問に思わず口調を強めて答えてしまう。今までの他人と同じように俺が悪いと考えているのだろうか。

 ガイゼルさんは俺の口調の強さに驚いた顔をしていたが、すぐに微笑みを浮かべる。


「シュウトを疑っているわけではない。立場上、一応な」

「あ、すみません……」


 ガイゼルさんの言葉を聞き、謝る。ガイゼルさんを疑ってしまって申し訳ない気持ちになる。


「まずシェルマ王女が絡んでいると見て間違いないだろうが、誰を使ったのかだな」

「それなら、使用人じゃないかい?」


 俺とガイゼルさんの言葉に割って入ったのはアキトラさん。というか、もしかしてさっきの話を聞いていた?

 俺がそう思ってたずねると、アキトラさんは苦笑を浮かべる。


「まあね。休憩時間は過ぎているのに2人で何やら真剣に話し合っているから、何事かと。邪魔をしてはいけなかったかい?」

「いや、かまわない。シュウトは?」

「俺もかまいません」


 俺に向かって言ったあと、アキトラさんは申し訳なさそうに言う。ガイゼルさんと俺はそれに対して首を横に振りながらかまわないと言った。しかし、使用人か。思えばそれが第一王女が使いそうな人材の第一候補だよな。


「アキトラの言うとおり、十中八九使用人だろう。確か王女付きの使用人がいるはずだから、使うならその使用人だ」

「ただその王女付きの使用人、あたし達兵団のことが嫌いなのか関わりがなくてね。顔を知っている人はこの兵団にはいないんだよ。王女の警護は近衛がやるから、傍にいるのは王女が私室にいたときとかじゃないかい?」

「そうなんですか、その使用人が誰なのか分かれば……あ」


 王女付きの使用人が誰なのか、突き止める方法があるじゃないか。探す人が使用人なら、同じ使用人に尋ねればいい。ちょうど、ミレイアさんという人がいるしな。

 俺がその考えを二人に告げると、同じ使用人なら関わりもあるだろうし知っているだろうと賛成してくれた。そして、これから城に戻って聞いてくるといいとガイゼルさんが告げる。

 まだ訓練中なのだがいいのだろうか?そう思ってガイゼルさんに聞くと、首を縦に振った。


「実戦を見て、武器での経験は十分に積めていると判断した。これなら知識、身体能力を十分に生かせるだろう」


 ガイゼルさんの言葉に嬉しくなる。この二ヶ月ちょっと、毎日旧訓練場で一日最低二、三種類の武器を扱ってきたかいがあるというものだ。何より、ガイゼルさんの教え方の上手さがこの短期間での実現を可能にしたのだろう。


「しかし、シュウト」


 ガイゼルさんは顔を険しくしてこちらを見ながら言う。一体何だろうか。


「お前は知識、身体能力、武器の経験、どれだって最高値だ。だからといって(おご)るな。驕りは油断だ。それに<アトレナス>では魔獣はもちろん、盗賊といった犯罪者など命の危険にさらされることが多い。驕れば命の危険は確実に高まる。玄人でも驕りで死ぬことだってある。生きるために驕らず研鑽(けんさん)しろ。驕りはいずれ死を、それに近い状態を招くと胸に刻め。いいな」


 ガイゼルさんの言葉に思わず全身が強張る。理解していると思っていたのだが、どうやら自分が『第五遊技場』の主だから、レベルがカンストしているからと知らず知らずのうちに驕っていた。何とかなると、俺なら、俺だから大丈夫だと過信していた。

 ガイゼルさんの言葉を聞かなければ、俺は無自覚の驕りで死んだかもしれない。


「分かりました」


 真剣にガイゼルさんの言葉にうなずく。ガイゼルさんもそれを見てひとつうなずいた。


「それなら、私からも言おうじゃないか」


 アキトラさんが俺に向かって一歩踏み出す。いつもの快活そうな笑みは消え、兵士としての厳しい顔つきになっている。


「あたしから送る言葉は失いたくないのなら見誤るな、だね。団長の言う通り生きるために驕らないことは必要。そして、見誤らないことも必要だよ。敵の力量を、策を、自分の力量を、相手の思惑を、変化する状況を見誤らない。もしもしたなら危機に陥り、最悪大切なものを失う。見誤らなければ、窮地でも活路を見出しやすくなる。大切なものを失いたくないのなら、見誤るんじゃない。このことを胸に刻むんだ」

「はい」


 アキトラさんの言葉にうなずく。見誤ることで大切なものを失う。たとえば命や仲間だろう。どれにしろ大切なものは失いたくない。

 アキトラさんは厳しい顔つきを変え、いつもの快活な笑みを顔に浮かべる。


「以上で終わり。団長と副団長から言葉をもらうことは、この兵団での一人前と見られた証みたいなもんだよ」


 なるほど、これで晴れて一人前って……うん?さっき、何か聞いてないことが聞こえたような?


「アキトラさんって副団長だったんですか?」

「あぁ、そうだよ。言ってなかったかい?」


 言ってません、アキトラさん。初耳です。よかった、敬語使ってて……。

 ガイゼルさんはアキトラさんが言ってないと分かったのか小さくため息をつき、自己紹介のときに言えと注意している。一方のアキトラさんは笑いながらまぁ、いいじゃないですかと受け流していた。周りの兵士はあぁ、またかと苦笑いを浮かべている。アキトラさんが副団長だと言わないのは恒例なのか。


「先ほどの言葉は忘れないでくれ。それより、城に戻って聞かなくていいのか?」

 アキトラさんへの注意をあきらめたガイゼルさんはこちらへ向き直ると聞いてきた。

「そうですね、それでは先に失礼します」


 俺はガイゼルさん達に一礼して旧訓練場を出る。この二ヶ月同じ道を歩いてきたため迷うことはなく、いつも通りに城へと戻っていった。


 

 さてと、城へ戻ったのはいいがミレイアさんは一体どこにいるのだろうか。

 城での時間が少ない俺にとって旧訓練場への道より城内のほうが迷路のように感じる。食堂、部屋、城門といった場所なら分かるが、それ以外はあまり分からない。

 とりあえず部屋へと向かうように歩いてみる。どこかで出くわしたらいいんだがな……。

 


 自分の部屋の前まで来た。生徒達の部屋はひとつの区域にまとめられており、俺の部屋は一番端っこである。廊下は俺の部屋の前で行き止まりだから、ここにミレイアさんはいない。仕方がないと来た道を戻る。

 次は食堂のほうへといってみるかと考えていると、どこかから声が聞こえた。この声は第一王女と……ミレイアさん?


「――で、彼は――ません」

「そう――なの、なら――ね」


 何故二人が?以前廊下で出会った際剣呑な雰囲気を放っていた二人が何の話をしているのだろうと気になり、二人の姿を探す。

 生徒達の部屋の区域に入る一歩手前の廊下はトの字になっており、その廊下を右に行ったところに二人はいた。

 もしかしたらミレイアさんが第一王女に何かしらの嫌がらせを受けているのでは?

 そう思って角から出ようとしたが、二人の会話を聞き動きが止まる。


「それにしても、あんな奴が緑光草を持つなど。相応しくないのに」

「まったくでございます、シェルマ王女様。相応しいのは勇気様のようなできたお方です」

「えぇ、まったくよ。ミレイア、緑光草を持ってきてくれてありがとう。さすが私に付いている使用人ね。もうあいつには用はないし、明日から迎えはやめていいわ」

「ありがとうございます。迎えは明日からやめます」


 ミレイアさんの言葉が氷のような冷たさで突き刺さる。全身が硬直し、思考が止まる。

 ミレイアさんが王女付きの使用人?いや、それはいい。

 第一王女が黒幕だと予想はついていたが、ミレイアさんが盗んだ?慕っているといってくれたミレイアさんが?あれは全部演技だったというのか……。

 事実が分かっても、それを受け入れたくない自分がいる。ミレイアさんがそんなことをするはずがない、と訴えている自分がいる。

 しかし、その訴えは無意味だった。


「ミレイア、あなたはあの神楽嶋というクズをどう思っていますか?」

「文字通りクズでございますよ。今まで我慢してきましたが、もう傍にいたくはありません」


(あぁ、なるほど……。ミレイアさん、いやあの使用人(・・・・・)も他の人たちと同じだったか)

 すべては演技だったと、そう認めざるおえない。

 今思えば、あの使用人の行動の端々に俺への嫌悪が見えている。食堂に入りたくなかったのは俺を嫌っていたから。緑光草を持って帰る際何か言おうとしていたのはあの時自分が預かると言おうとしたためではないだろうか。

 緑光草を手に入れた後、態度が急変したのはもう関わりたくなかったから。もしかしたら、使用人に手を出しているというデマはあの使用人が原因なのかもしれない。デマが流れたのは確かハーレム組とのいさかいがあった後だ。あの時小声であの使用人が天ヶ上に何か言った後、天ヶ上はこちらをにらんできた。もし、その際脅されているだのと言ったら?その後の天ヶ上の言動も納得がいく。

 それに実戦の際、見ていないといったはずなのに天ヶ上の攻撃だと光を見ただけで分かったのは見ていないという言葉がうそだったから。勇気様、といっているあたり天ヶ上をよほど慕っているのだろう。


 2人は会話をやめ、どこかへと去っていく。しかし、俺はその場を動かない。

 異世界で少なからずも信頼を寄せていた人に裏切られた瞬間だった。


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