黒髪の彼女は「クリスマス」を考える
「『クリスマス』は、どうしたら実現できるかな?」
彼女は今日も唐突に言った。いつもそうだ。彼女はいつも唐突にものを言う。
「それは……どういうことですか?」
俺はまず、本日の命題について問う。
「つまりね、子供たちが実際に『サンタクロース』という存在からプレゼントを受け取ることができるようにするためにはどうすればいいかな……ということだよ」
彼女はそう答えた。
「へえ、今回はなんだか、メルヘンチックな疑問ですね」
俺は思わず吹き出しそうになるのを堪えながら言った。どうにも彼女とメルヘンは結びつかない。
「お伽噺を現実的に解釈してみるのも面白いと思うからね」
「はあ、なるほど。―――で、『サンタクロースの具現化』ですか」
「そういうこと。……さて、まずは何から検証していく?」
「人数とか、問題じゃないですか……?」
俺は取り敢えず思いついたことを言ってみる。
「そうね、人数……。世界で10億人を超える子供たち全員に一夜でプレゼントを届けるとなると、大変だね」
「小さな区画ごとに1人サンタが必要になりますよ。でもそうなると、親がサンタやるのと大して変わらないような気が……」
「いや、それは違うよ」
彼女は手に持ったペンで俺を指して言う。
「子供たちにとってサンタクロースっていうのは、両親とは別の存在なんだ。彼らの知らない人間がサンタとして現れることには、十分意義があるって言える」
「まあ、そうか……」
「あと、これは『気持ち』の問題だ。逆に言えば、やってくれる大人たちがいれば人数はそれほど問題じゃない」
彼女はペンを、空に何かをメモするように動かしながら言った。
「他には? どんな『壁』があるかな?」
「じゃあ、お金はどうします? 人件費とか、プレゼントの費用とか……そういう、資金の問題」
「君は『サンタクロース』を職業として見るんだね」
彼女は頬杖をついて言った。
「私は、サンタクロースはボランティアであるべきだと思うね」
「無報酬による、強制的な自己満足感ですか」
「違う、そういう心理学的話じゃないの」
彼女ははっきりと俺の解釈を否定した。
「『サンタクロース』の本来の姿を守らなければ、今回の議論の主軸がずれてきちゃう」
彼女はペンでコツコツと机を叩きながら言う。
「サンタクロースは『子供のために頑張る大人』であるべきでしょう? お金のために動いたら、その時点で『サンタクロース』は本来あるべき姿を失うの」
「……なるほど」
それが、今回の議論において彼女が設けた規則なのだ。
「―――で、あとはプレゼントの資金だけど……これは寄付金かな」
「うーん、サンタクロースって心優しい大人がたくさんいなきゃ成立しないんだなぁ……」
「それが今回生まれた1つの結論だね」
彼女はペンで机をコツン、と1つ叩いた。
「素敵な結論じゃない。それってつまり、『サンタクロース』が人の心の温かさの象徴ってことでしょう? 私たちは、そういう象徴が生まれたことを喜んでもいいんじゃない?」
「そう、なのかな……」
普段よりも穏やかな口調の彼女に俺は少し戸惑ったが、
「……もちろん、生まれたものを守っていく努力を忘れてはいけないけどね」
と、そう付け加えた彼女は、やはりいつもの「彼女」だった。