表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Transparent Dark  作者: 文字塚
伍:中央行路
82/160

81.夜道2

「このバギーは特別な仕様になっていると、ネリーさんは仰っていました」


 充希が反応する。


「どの辺がでしょう」

「少しわがままにつくられている、とお話しされていました」

「わがまま。作り手のですか?」

「はい。丈夫ですが整備し辛くしてある。誠心誠意とても丹念に、と」

何故(なにゆえ)?」


 嫌な予感がしてきた。ひとつ間を置いてヨシカは言葉を紡ぐ。


「戻ってきて欲しい。そんな気持ちだったのではないかと、ネリーさんは仰っていました」

「それはマリーという方の元にですか?」


 沈黙が降りてきた。続きは聞かずとも分かる、分かるだけに聞きたくなかった。


「このバギーには抑えがたい相反する気持ちが込められている。そんな気がする、だそうです」

「そうでしたか……国樹殿、だそうです」


 充希のとどめを知らぬ振りしてやり過ごす。

 確かにマリーはそういう女性だった。


 ――デートのお誘いは断るわ。でもメカニックとしてなら一緒に行ってあげてもいいわよ。


 艶やかな髪が思い出される。明るい笑顔と整った容姿。彼女は美しかった。だから真に受けなかった。

 あの時もし彼女の申し出を受けていたらきっと後悔したろう。守り切れない、足手まといだ。帰ってくれ、シンガポールに。どこかでそう告げることになった。


 運がいいのか悪いのか、バギーを購入し手持ちも少なくなった。そして奴隷船襲撃に参加した。もしマリーがいたら奴隷船など無視しただろう。そうするとゼスを助けられなかった。さらわれた人々、子供達を解放出来なかった。


 いいんだこれで。あの時俺はその程度だった。マリーには、彼女には都市が良く似合う。洗練された彼女には都市国家こそ相応しい。

 マリーの真意は分からない。それでも当て所ない旅に連れていく訳にはいかないのだ。大体男と女が旅をして理性を保てる訳がない。向こうだってそんなことぐらい――


「おい」

「はい、なんでしょう」

「どうかされましたか?」


 二人はいやに素早く反応した。


「自棄になって奴隷船襲ったわけじゃないからな。それだけだ」


 むきになりいらんこと言ってしまった。すぐに後悔してしまう。別に言わずともいいことなのに。


「はい、私はよく理解しています」

「ご主張確かに承りました」


 ヨシカめいらん話を……充希も事実なんだから素直に受け入れろよ。そもそもネリーはなんでこんな話したんだ。恨むからな。

 内心で愚痴っているとゼスが口を開いた。


「タガロ自棄っぱちだったの? ダメだなあ、よくないよそういうの。昼間から酒飲んでる奴とか嫌いでしょ? 人生投げたらなにも変えられないよ」


 お前が言うのか。

 こいつ、返しに行こうかな。金払ってでも引き取ってもらいたい。



 灯りを点けるわけにもいかない。グーシーに確かめると零時に近いらしい。

 後部座席を占有し横になるがどうも寝つきが悪い。これでは明日の運転に差し障る。


「周囲はなにもなく、共通語も聴こえません。朝まで見張っています。どうかゆっくり休んで下さい」


 充希はそう言って睡眠を促してくる。恐らく全員起きている。安心して眠れるはずだが、昨日との落差だろうか。


「眠れないのでしたらお話し致しますか」

「そうね。途中で寝るかもだが」


 適当に振ると、


「ではひとつ。私もヨシカさんも、グーシーさんも恐らく疑問に思っているでしょう。なぜ統一言語があるのに、統一通貨は存在しないのか」


 結構深刻な話題を持ってきた。


「国樹さんの仰る通り、統一言語は創るのも広めるのも簡単ではありません。言語の統一は元の文化を抑え込む、帝国主義的手法ともとれます。一方、統一通貨は比較的容易い。ヨシカさんはどう思われます」


 水を向けられヨシカが応じる。


「そうですね、通貨同盟は実際存在しました。順番が逆に思えます」


 恐らくユーロ圏の話をしているのだろう。充希が先を拾う。


「とはいえそもそもの経済圏が存在しない。物流があるのなら資源は流通しているようですが、経済的繋がりは薄い。となれば統一通貨はそもそも必要ない」

「そうかもしれません。ではどうして言葉のみ統一したのでしょう」


 それが分かれば苦労はしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ