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Transparent Dark  作者: 文字塚
伍:中央行路
76/160

75.得体が知れない

 全員参加で入口の自動ドアを開きエントランスに入る。ロビーは広く吹き抜けのフロアになっていた。

 上に視線を移すと屋内照明が複数備え付けられ、凝った白いカバーは(かいこ)の繭のようだった。

 視線を戻すとロビーは些か南国な雰囲気で、インテリアもそこそこ値が張りそうである。ここは超高地の入口、南国ではないのだが……。


 フロントを確かめるが誰もいない。ロビーにも人気はなく、そもそも町自体人が少なかった。これじゃゴーストホテルだ。


「どうする。客もホテルマンもいない」


 雰囲気に呑まれ呟くと、


「フロントで聞いてみます! 誰もいないということはないでしょうし」


 ヨシカが率先し動き始めた。サポートしてくれるのは嬉しいが、なんかはしゃいでないか。


「あの、すみません! 受付はこちらでよろしいですか?」


 ヨシカははっきり通る声で確かめた。しかし返事はない。冗談、国樹は懐に手を入れ拳銃を握っていた。そして周囲を見渡す。

 ホテルの外観でもそれとは限らない。もし厄介者の巣窟ならいかにも迂闊。そもそもこんな場所で商売が成立するのか? もっと慎重に行動し――、


「お待たせ致しました。お部屋はすぐご用意出来ます。何泊のご予定でしょうか」


 声の先、浅黒いタジク人スタッフがフロントに立っていた。



 フロント係は当初ヨシカに笑みを向けていた。しかし全員の視線が国樹に向けられると、すぐ誰と話すべきか理解したらしい。こちらににこりと笑みを浮かべている。


「あ、いや一泊」

「分かりました。お部屋はいかがいたしましょう。四名様ならスイートもご用意出来ます」


 スイート? カモるつもりか? いやそれ以前に、


「いや待ってくれ、ここホントにホテル?」


 怪訝な顔で尋ねると怪訝な顔が返ってきた。少しの間を置き、


「もちろんでございます。歴史と由緒ある当ホテルを選んでいただき光栄です」


 フロント係は気を取り直したのか丁寧な対応を見せる。だが国樹は気を抜かない。


「今客何人いる」

「シーズンを外しており、お客様方のみとなります」

「シーズンはいつよ。もう七月だぜ?」

「……八月や九月は沢山のお客様で賑わいます」

「じゃあシーズン外れてるわけだ」

「はい、そうなります」

「スイート一泊いくらだ」

「日本円をご利用でしょうか?」

「いや、ソモニで頼む。待った、なんで日本人だと思った」

「職業柄皆様の国籍はなんとなく判別出来ます。失礼がありましたでしょうか?」


 そういうものか。皆を確かめるが特に意見はないらしい。フロント係も微笑みを崩さない。


「ソモニでいくらだ」

「スイートは一万ソモニになります」


 日本円で十万。ヨシカが稼いだ分を除けば手持ちが吹っ飛ぶ計算だ。


「シーズンじゃないんだよな。いくらに出来る」

「そうですね、九千ではいかかでしょう?」

「五千だ」

「……八千五百で。これ以上はちょっと……」

「分かった七千。これで手を打とう」

(かしこ)まりました。七千ソモニでスイート一泊、ご利用ありがとうございます」

「どうも。デポジットは?」

「当ホテルでは必要ありません。シーズンから外れておりますので」


 そう、と国樹は納得した。

 振り返り皆を見回すと、ヨシカだけ嬉しそうに胸の前で両手を組んでいた。


「では四名様スイート一泊。お部屋までお荷物お運びします」


 そうしてフロント係が奥へ回ろうとする。


「ちょっと待った。もしかしてだけど、スタッフ君だけ?」

「はあ、まあ。どうぞお気になさらず」


 そういう問題じゃない。おかしい、まだ油断してはならない。


「じゃあルームサービスとかレストランとかどうなってんの?」

「申し訳ございません。当ホテルは――」

「宿泊専用」

「はい。シーズンから外れておりますので」


 フロント係は変わらぬ笑みを浮かべ同じ台詞を繰り返した。



 荷物は自分達で運ぶと断った。部屋の番号を聞き、アンティークなエレベーターに乗り込む。手動で蛇腹(じゃばら)式、時代がちぐはぐだ。フェンスのような扉が閉められ、フロント係がお辞儀で見送ってくれた。


「趣深いですなあ。どうも理解に苦しみますが」

「不思議です。でも、こんな豪華なホテルに泊まれるなんて思いもしませんでした」


 充希とヨシカの会話を国樹は聞き流していた。頭にあるのは、まだなにかあるかもしれないという警戒だ。そして宿泊専用ならもっと値切れたのでは? という後悔に苛まれていた。

ホテルは実際に存在するそうです。作中のものは架空のホテル。

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