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Transparent Dark  作者: 文字塚
肆:素晴らしき世界、新しい仲間
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68.タジキスタンの夕暮れ2

 事情を理解するのは難しいだろう。首都圏が陸の孤島だと知っているのは自分だけだ。しかし事実だ。だから曲げられない。

 沈黙に覆われた僅かな時間を裂いたのは充希だった。


「私と国樹様だけで参ります。皆々様へ迷惑はおかけしません」

「それは認められません。あなたの行いは必ずしも信用に足るものではないのです」

「確かに。ですが国樹殿曰く"博打"だそうですので、当方以外に適任者はおりませぬ」


 ヨシカは最初、強い視線を向けてきた。博打という表現が気にいらないのだろう。しかし視線が合うと一転、寂しげな表情を浮かべた。


「記憶を失って人格まで奪われた。ああいうのをマインドハックというんだろう? させない、という強い意思表示が必要だ」


 加え軍用機で無理なら恐らく防ぐ手段はない。帝石も魔石も、まだ使いこなすどころか解析も出来ていない。


「グーシー不満があれば今頼む」

『私は参加するつもりだ、仕方ない』

「グーシーさん……」


 ヨシカは弱々しく俯いた。


『今となればこちらも聞きたいことがある。危険はあるが、避けて通るを良しとするなら多賀朗はそもそもここにいない』


 決定打だ。確かに避けて通るを良しとはしない。ちょいと無茶をし過ぎかもしれないが。

 再びヨシカと視線が合う。受け入れるよう頷くと、ヨシカも渋々頷いてくれた。

 翻りネリーの元へ戻る。ネリーは変わらずバギーの下に潜っていた。


「近いうちに出ることになりました。整備が終わって装備品を揃えたら、我々は出立します」

「そう、寂しくなるね」

「残念です。費用はヨシカが上手くやってくれました。足りなければ言って下さい」

「そんな吹っ掛けないわよ。それにもう受け取ってるわ」


 思わず妙な声が出た。ヨシカが払ったのか? 確かめると、


「違うわよ。グーシー君と取引したの。いざとなったらマリーを頼るつもりだったんでしょう?」


 そうだった。物を捌いて渡航費に充てろと言い含んだ。つまり金ではなく物品を受け取ったのか。


「あなた凄い旅してるわね。パラシュートで飛んだり、地下に落とされたり」

「はあまあ。我ながらなんでこんなことに、と毎日思ってます」

「空に女、地下に女。整備するのも女なら、バギーを設計したのも女で私の妹。楽しそう、私も男に生まれたかった」


 それは一緒に行きたいということだろうか。そんなこと出来るわけが……しかし、男なら話は変わる。

 本気か、好きにすればいい、頼りにする。

 きっとそう言えた。

 だが女性を連れれば責任が発生する。命懸けで守ると言えないなら、きっぱり断るべきだ。


「ネリーさん」

「私は行かないわよ。やだよ、仕事あるし。無茶するだけの男なんてごめんだね」

「そうですね。それより、ご迷惑かけることになるかもしれません。以前お話したオビガルム近くで襲撃された件。それと、俺は逆に奴隷船を襲撃しています。蹉跌の塔じゃグーシーを持ち去りました。シルケントの塔でもトラブルを起こしています。誰にも俺の話をしない方がいい」

「マリーにも?」


 頷くが見えているだろうか。


「はい。もしネリーさんに迷惑おかけしたら詫びようもありません。警察や軍に知り合いはいますか?」

「さあ、どうだったかな。いると思うよ」

「彼らは頼りになりますか?」


 ネリーは背に引く寝板を転がし、汗ばんだ顔を覗かせた。


「頼りにするなら、情報かお金掴ませないとダメだね」

「分かります。それで、その支払いもしたいのです。なにも起きなければいいのですが、迷惑料と考えて下さい」

「迷惑持ち込むねー君、何様だい?」


 笑みを浮かべネリーは工具を突きつける。そうして身体を起こした。


「いいよ受け取る。次いつ来るか分かんないもんね」


 悲しいが現実だ。タジキスタンは遠過ぎる。飛行機も飛ばないこの世界ではもう二度と来ないかもしれない。


「あのさ、私は詳しく聞いてないし知らない方がいいんだろうけど、空の女は何者だったの?」

「分かりません。白人の女としか言えません」

「何人? 何系か分かる?」

「この近くではないかと。ロシア系と見ますが断定は出来ません」

「塔の女は?」


 そういえば人種を確認していない。そこそこイケてる女としか認識していなかった。


「ゼス! 蹉跌の塔の地下の女、お前顔見てるよな?」


 リビングに向け大声で尋ねるとのんびりとした声が返ってきた。


「見てるよ。そう言ったじゃん」

「そいつは何系だ?」

「さあ、嫌な奴だったし文系かな」


 ……喧嘩売ってんのか。学業の方向性など聞いてない。というかなぜ文系だと嫌な奴になるんだ。


『ガルゴル、ギザツ!』

「グーシーが南とか中央アジア系だって言ってる。年は二十歳から三十前半だって」


 なるほど、グーシーなら確かな情報だ。伝えると、


「了解。気をつけるわ。まさかここに来やしないと思うけど」


 ネリーはまた車体に潜り込み作業を再開した。

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