64.タジキスタンの午後
昼食は全員でとることになった。
リビングはいっぱいでグーシーとゼスもいる。
上座にネリー、四人で向き合いグーシーだけはいつも通り床に陣取る。
「せっかくタジキスタンまで来てさ、料理のひとつも楽しまないなんてあり得ない。私は許さないよ」
ネリーはそう言って笑い「晩ご飯もこの面子、厳守」と宣言した。グーシーを含む四人は深く礼をして、ゼスだけは首を掻いていた。
以降会話は共通語に統一した。主催のネリーに配慮してのことだ。
地元料理が二人と四人に少し分並べられる。
ここ数日と比べればほんの少し手間がかかる量だ。
ナンは必ずついてきて、本来上下逆さまにしてはいけないらしい。とはいえ日本人の国樹がいるので地元のピラフ料理がついてきた。
このピラフ、タジクではプロブと呼ばれ歴史をたどればアレクサンドロス三世まで遡るらしい。東方遠征で饗応に出されたのが最古の出典であるという。最初の妻がここら辺の出身、とネリーが教えてくれた。
「よくご存じで。それは歴史の授業で習うんですか?」
「実際はアフガニスタンのバルフ州辺りかな。いつだっけ、確か授業で話してた。その先生はこっちのはずだと言い切ってたけど」
そりゃ結構と国樹は笑ってみせる。紀元前の話だ。"こっちのはずだ"は要するに分からんということである。
「午後から買い物に行かれるそうで」
「そう、夕暮れまでには帰るけどヨシカにまともな服を買ってやろうと思ってね」
気の利かない仮の所有者に代わりネリーが買って出てくれた。なんて様だ、と情けなくなるが事前にヨシカから聞いていた。感謝の気持ちを伝え、費用もあとで支払うと約束する。そう言ったが、あやふやな返事が返ってきた。
「いえ払いますって。大丈夫金はあるんです」
「それよりさ、留守時に誰か来たらとりあえず荷物だけ受け取っておいて」
「荷物ですね。了解しました」
なら戻るまでは待機ということだ。
周りを眺めるとヨシカ、充希は満足そうに食事を終えていた。ヨシカは落ち着きを取り戻し、時折充希と日本語で会話している。
グーシーはさらりと食べ終えゼスも口はつけている。
『とても美味しかった。ご馳走様だ』
「美味しいのは分かるよ。ネリー、晩ご飯も出ないとダメ?」
「ダメ。味ぐらい覚えて帰りなさい。でないとこの国語れないよ?」
断じられゼスは腕組みしている。ちょっと気の毒かもしれない。しかしネリーの言い分もよく分かる。
「さあ片づけよう。国樹君、手伝い給え」
快く了解し、すっかりキレイになった料理皿をキッチンへと運ぶ。ゼスの食べ残しはグーシーが片づけ、全員が揃った初めての昼食は終わりと相成った。
ショッピング兼物品の取引にゼス、グーシー両人を同行させた。お陰でネリーの整備工場は主がおらず、充希と二人きりとなった。
バギーを思うと些か不安は残るが今までの流れを考えれば仕方ない。なによりこの状況は希望に合致する。願ったり叶ったりという奴だ。
「二人きりになりましたな」
充希が不穏な声色を奏でる。
四人の背中を眺めていた国樹は振り返り、
「予定通りではないが、気の利かない自分に感謝してるよ」
自らを皮肉った。
ヘルメットを上げた充希は元の席に腰かけたまま動いていない。四人を見送りもしなかった。そもそも興味がないのだろう。
「国樹殿、昨日の続きをせねばなりません」
「そう? じゃあそうしよう」
国樹も元の席に腰を下ろし、急かす自称軍用機と向き合う。そして先に口を開いた。
「そもそも君のことを知らな過ぎた」
「お互いですね。昨日は忙しなく致し方ない面もありました」
明るい緑色の髪は揺らぎもしない。素材が違うのだろうか。見つめる瞳も日本人のそれとは違う。緑が混ざっている。
頭と心を整理し国樹は問いかける。
「こちらのことは大方把握しているよな?」
「まだ分からないことはありますが、簡単な説明は受けました」
「君は自分のことをどれぐらい把握している」
「はて、大方把握出来ております」
「じゃあどれぐらい話せる」
端から切り込む。前戯はなしだ。
「軍用機所以、軍機に触れることはお話し出来かねます」
「だろうな。どこからどこまでなら話せそうだ」
「それを話すと意味がなくなります」
「そうか? 軍事的なことなんて俺は分からないぜ」
「一層口が固くなりますな」
呆れた笑みを浮かべ充希は少し顔を傾けた。
逆効果か、と小さな溜め息をつく。
「失礼。しかし一から確認するのもなんだ、そちらから確かめたいことがあれば聞くぜ」
「では今後の予定を是非に」
「それはあとで話すよ」
「そうですか。何故に?」
怪訝な顔は女学生のそれと変わらない。だが徹底している。軍用機、軍人としての実用主義、プラグマティストだ。
昨日の続き、確かにそうだが既にこの小娘は先を見ている。
そこから読み解けるものは多く、彼女をより理解出来た。




