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Transparent Dark  作者: 文字塚
肆:素晴らしき世界、新しい仲間
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62.タジキスタンの深夜

「え、じゃあみんなもう寝るの?」

『夜も更けた。朝になっては後々響く。私も賛成しよう』


 グーシーも賛成したことで流れは決まる。

 解散、お開きだ。


「タガロだけじゃん疲れてるの」


 ゼスは口を尖らせるが、グーシーが舌でなだめている。

 充希は一礼すると「許可を頂いておりますので、当方ガレージにて」とリビングを後にした。

 グーシーはゼスと共に空いてもいないグラスを片づけ始めた。

 解散なのか、と改めて自覚する。

 構わないが今後の予定はどうするのだ。

 加え、正直なところ恐らくまだ眠れない。


「国樹さん今晩はこの辺りで」


 納得させるかのようヨシカが顔を近づけてくる。


「いいけど、急だよな」


 戸惑いを抑え顔をしかめると、


「では」


 とヨシカは告げた。これにて終わり、解散。腑に落ちないとはいえもう覆せない。受け入れねばならんのか。しかし彼女は国樹の傍を離れなかった。謎に俯いている。


「どうした?」

「いえあの……さっきのお話です」


 さっき、どれだ。ネットワークか、充希の言い分か。議論を思い出していると、


「あとで部屋に、と。伺いますが、よろしいですか?」


 上目遣いのヨシカは告げてから頬を染めている。

 細い腕が国樹の服に触れ少し揺れていた。

 国樹は深く息を吸い込み、


「アナログハックだな、騙されんぞ」


 頑として断った。



 視界に木製の天井が映る。

 寝床に着いても当然眠れなかった。

 むしろなぜ断ったのだ。

 ゼスとグーシーがいるからというのは表向きで、素直に受け取るべきだった。ゼスなどグーシーの腹に仕舞えばいい。グーシーとて人の営みにケチはつけないだろう。

 いや別にそこまでするつもりはないが、どうせ眠れないのだ話と写真ぐらい……果たして理性を保てただろうか。


 覚めた思考は眠ろうとする今褒められたものではない。それでも感覚は冴えている。

 ヨシカの変化、その振り幅は確かに凄まじい。ひとつひとつを気に留めないで、とはよく言ったものだ。充希のなにが気に入らないのか、ヨシカは感情を殺し怒気を纏っていた。

 違う、ヨシカの喜怒哀楽は殺すものではない。ではあれこそアナログハック。姿勢を示し、国樹に向けたものであるならそうだ。しかしただ充希自身に向けたのなら、それはアンドロイドによる議論でしかない。


 アナログハックの対義語は、知らない。

 デジタルハックとでも言うのか?

 それだと人間によるAIの操作とならないか?

 あれは人工知能による、人工知能に対するハッキング行為。

 意図的に他のAIをコントロールし誘導出来るとしたら、どちらが勝った?

 いや勝敗をつけるのはおかしいか。

 唯一分かっているのは、


「端から日本に帰るつもりだった、ということぐらいだ」


 呟くとグーシーが反応した。部屋は暗いが腹の中から光りが漏れている。データを確認していたのだろう。更にボードが照らされる。


『眠れないか』

「ああ、どうも揉めた理由が分からない」

『揉めたという訳ではない。少し確かめただけだ』


 あっさりと言い切る。こういう時は結論を出してくれるんだよなあ。やや不満気に国樹は続ける。


「人間なら軽い口論だ」

『そうだ。あれも軽い口論と思えばいい』

「そうかもしれんが、なにが気に入らん。相手は自称軍用機だぜ? 仕様の違いはお互い様だろう?」


 見知ったのは今日の今日、いきなり揉めることはない。それを国樹に見せつけることもない。それでも二人は思い切った。なぜだ?


「なにが問題だった。一応仮の所有者で契約者だ。押さえておきたい」


 素直に確かめると静寂が訪れた。間を置き、ペンを動かす音が聴こえる。


『結論を言うと多賀朗は機嫌を損ねる』


 お見通しか……思考を読み解くのはグーシーの得意技とみえる。


『私の不在も考え、少し自分で考えてみるといい』

「そりゃま、確かに」


 充分あり得る話だ。グーシーと別行動を取り二人と行動を共にする。嫌だな、両手に危なっかしい華が咲くのは。


「そうする。悪かった」

『私も悪かった』

「うん? なにが?」


 意外に思い光を帯びた箱に問いかける。


『せっかくヨシカと二人きりになれたのに。空気は読んだが、足りなかった』

「…………」

『私はそこまで鈍くない。しかし足りない、自覚させられた』


 しばし沈黙が降りてくる。率直に言って「そこ?」だ。国樹は声を荒げた。


「やめてくれ、口説くなら堂々と口説く。舐めるな」

『そうか、失礼した。よく眠るといい。明日、また一波乱ある』

「おいやめろよ」

『帰国の決断歓迎する。ルートは想定してあるのですり合わせは起床後行おう』


 そうして蓋は閉じられた。闇に包まれたマリーの部屋に再び沈黙が降りる。やはり女性らしさは感じられないが、頭の中には女しかいない。

 やめてくれ、仲良くしよう。

 こんな言葉で解決するはずもない。

 グーシー、君に足りないのは眠ろうとする仮の所有者への配慮だ

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