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Transparent Dark  作者: 文字塚
参:蜘蛛の糸
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43.三十二発のお守り2

 人質を取ることになるとは思わなかった。

 だが幸運だ、これを利用しない手はない。

 浅黒い少女はタジク人に見えたが、絶句し固まり、動けずにいる。

 ゼスと同年代、体格も似たようなものだ。


 国樹に銃を突き付けられ、ゼスが羽交い絞めにしている。

 実に申し訳なく、人としての道もかなり踏み外しているが、知ったこっちゃない。こちとら宇宙でやり合うわけにはいかんのだ。モラルは命あればこそ、命懸けで守るほど悟っちゃいない。


「あなた外道ね」


 アナスタシアのそれは、侮蔑より悔恨が勝っていた。


「そうかもしれませんが、でなきゃゼスを助けられなかった」


 彼女は訝しむが、奴隷船の話を知らんのだろう。

 この状況を想定していなかったのも確実だ。

 実のところ、最初から相当慌てていたのか?


「開けろ、我々は帰る」


 今分からないことはどうでもいい。足を踏み鳴らし、階下への扉を開くよう促す。


「分かったわ。とにかくその娘を離しなさい」

「開けろよ。解放はその後だ」

「帰りたければ好きに――」


 銃をぐいと、人質に突きつける。こめかみに銃口が食い込み「あ、え、う」と、声にならない音を少女が発した。


「飼い慣らした猫が鳴いてるぞ。"ただいま戻りました"と言ってるんだ。"お帰りなさい"と労ってやるのが、大人の務めじゃないのかね」


 ゼスは小声で「タガロ、間違えて撃たないでよ。あくまで振りだよ、振り」と囁くが、それこの人質にも聴こえるからやめて欲しい。


 暫し、睨み合いが続いた。アナスタシアの顔に、焦りと疲労が見て取れる。

 諦めを促すため、なんなら一発撃っても構やしない。その程度で船体に穴は開かないだろう。宇宙船はブリキの玩具じゃない。人類が造り上げた、技術の結晶だ。

 もし女が石を使う気なら、とロックを外し牽制の一発を撃とうとしたその時、足元から光が放たれた。

 思わず飛び退いたが、


「二人でそこに立ちなさい。下に降りられます。さあ、その娘を離して。二度とここに来ないで」


 落ち着きを取り戻し、強い口調でアナスタシアが迫りくる。


「冗談。下に降りてから解放だ。そこまでは一緒に来てもらう」

「あの、私はどうすれば――」


 少女が口を開いたので、


「ゼス、そのガキの口閉じろ」

「どうやって? 僕、手二本しかないよ?」


 そうですね。仕方なく銃口を口元に持っていく。


「暴発したらこの娘の顔が大変だ。世が世なら"お嫁に行けなくなる"って奴だな。私としてもそれは望まないが、あなたは傷物がお好みかね?」


 我ながら露悪的挑発だが、こっちは仕組みを知らんのだ。あの引き伸ばされる感覚、その間なにかされたら堪らない。


「下で解放。約束しよう」

「分かりました」


 アナスタシアのそれには、無念が込められていた。

 決断を促すことに成功した国樹は、


「お嬢ちゃん、よかったな"お互い物分かりのいい大人"で。悪いが少し付き合ってくれ」


 そう言ってからわざと背を見せ、光る床面へと歩きながら懐に手を入れる。ゼスと人質も光の中に並び入った。


「どうぞ始めて下さい。永遠のお別れです。二度と来ねーよ」

「確かに解放なさい。約束なさい」

「しつこい女は嫌われる。世界共通です」


 捨て台詞を投げつけると、ふっと浮かぶような感覚が身体を包む。

 今だ、と国樹は瞬時に察した。


「そう紅茶ありがとう。味とか全然興味ないや、緑茶持って来い日本人つっただろ。お返しに、フラッシュバンはお好きかね!」


 こちらが消える刹那、船内が強烈な光と音に包まれ――そんな期待を込めながら、再び引き伸ばされる感覚を味わっていた。



 気が付くと、また屋内菜園が視界に広がっている。だだっ広い空間は、確かに階下だと確信出来た。

 賭けに勝った。移動の最中になにかされたら、詰んでるところだ。


「よかったーごめんね。苦しくなかった? タガロは本気じゃなかったからね。

 そんな悪い奴じゃないんだ、僕もだよ。そうだ名前は? ないなら僕がつけたげる!」


 ゼスが早速少女を解放し、速射砲のように話しかけている。固まっていた少女は、


「いえ、あの、名前はあるので、大丈夫です」

「なんていうの? 教えて!」

「え、でも言っていいのか分からなくて……」


 戸惑いを表した瞬間、


「言え、撃ち殺されたくなかったら」


 国樹は再び、銃口を突きつけていた。


「ほへ?」


 少女の間の抜けた反応に、


「タガロ! なんでさもう終わったろ!」


 ゼスも呼応するかのよう、彼を非難した。

 国樹は再び銃口を押し付ける。


「あの女何者だ、お前は誰だ。聞かせていただこうじゃないか」

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