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Transparent Dark  作者: 文字塚
参:蜘蛛の糸
40/160

39.天空の先、それはバベルかラピュタ4

 犯行現場は奥の一室だ。

 現場検証を終え、国樹は呆れまじりで口を開く。


「被害者はアナスタシア、性別は女性。頭部を殴打されている。凶器は花瓶。いかにも高そうだ。

 死亡推定時刻は十分ほど前だろう。犯人は自称天使のゼス。取り調べに対し被疑者は"むしゃくしゃしてやった。かなりすっきりした"と開き直っており――」

「開き直ってないよ! 言ってないそんなこと!」


 カメラに録画する素材だが、ゼスは必死に抗弁している。


「分かってる。大丈夫死んじゃいない」


 頭に手を乗せると、ほっとしたのか力が抜けたようだ。


 アナスタシアはうつ伏せで倒れていた。周囲には花瓶の破片が飛び散って、確かに殴打したのだと分かる。

 ゼスに知らされすぐ奥へと向かい、状況を把握したがさすがに焦った。幸い脈はあり、流血もなく気絶しているだけと判明し、安堵した。

 恐らく大丈夫、という素人の見立てに不安は残るが、呼吸はしている。一応仰向けにし、気道を確保しておく。


「なんでこんなことした」


 国樹は呆れ、ゼスに冷たい視線を送ったがすぐに外した。本命は別にある。


「おかしいんだ、タガロ。この女も部屋もおかしいと思わない?」


 ゼスの声色に後悔は滲むが、正当性を主張しているらしい。「部屋ねえ」と呟き、国樹は周囲を観察する。

 こちらも先の部屋と変わらず簡素だった。特段飾り立てるものはなく、無駄は徹底的に排除されている。

 ただし、


「例えばさ、これとか絶対おかしいよ」


 ゼスが指差したものは確かに話が違う。

 大きな壁のようなものが斜めに傾き、座席から扱いやすくなっている。

 それは画面であり、なにかの装置と計器だ。

 すぐコンピューター的なものだと理解した。

 恐らく大型化したパーソナルコンピューターかコントロールパネル、モニターだろう。

 国樹は、失神したアナスタシアを冷たく一瞥してから確かめる。


「奴はこれを操作してたのか?」

「うん。なんか僕が登録されてるはずだとか言ってた」

「登録されてたのか?」


 ゼスは大きくかぶりを振る。


「そんなことありえないよって言ったんだ。でも全然聞いてくんなくて"大丈夫大抵登録されてるものよ"とか言ってた」


 アナスタシアの声色を真似するが似ていない。画面に触れていいか迷ったが、意を決し指先で触れる。だが反応はなかった。


「指紋か生体認証という奴だな」

「タガロは使えない?」

「そうだろう。で、なんで殴りつけた」


 操作出来ない無念を抑え、肝心の話に戻すと、


「こいつ怪しいんだ。最初からおかしいとは思ってたけど……」


 ゼスの言葉に"シヴァと呼ばれた像の女"を語ったあの時と、同じ嫌悪を感じた。


「そういやお前、最初から警戒してたな」

「うん。喋り方もおかしいし、詐欺師みたいだったから」


 そうだった。こいつは一度奴隷船にさらわれている。経験が生きたか。ゼスに甘い言葉は通用しない。やるじゃないか、と思うがノコノコついて行ったのは……いや、警戒して紅茶の種類を確認する振りをした。自分がいるから、と納得しておこう。


「どこで揉めた。なんで殴ると決めたんだ」


 国樹は彼女と、まだまともに話していない。さすがに気絶させてしまうのは困る。困惑を浮かべると、


「タガロ違うよ、こいつはタガロと話す気なんてない」


 珍しく、ゼスは強い眼差しを向けてきた。


「なんでそう思う」

「こいつが、そうはっきり言ったからだ」


 思いもしない台詞に、国樹の目が細くなる。


「この女はタガロに用なんてない」


 畳みかけるよう、ゼスは言った。ゼスが「こいつ」や「この女」なんて表現することはなかなかない。先ほどから、話し方がゼスらしくない。


「そう言ったのか。なぜか、まで話してたか」

「僕に相応しくないからだって」

「なんだそりゃ」


 脊髄反射で零し、少し笑ってしまった。ゼスに相応しいかどうかなんて考えたこともない。救出して保護までした自分が相応しくない。なら、誰なら相応しい――そこまで考え、


「自分は相応しいと、このアマは抜かしやがったわけだ」


 国樹が言い切ると、ゼスははっきり首肯した。

 なるほど、この女の考えは分かった。

 もう一つ分かっていることがある。

 分からないことはそれ以上に多いが……。

 国樹は敵意の視線でアナスタシアを見下し、それから再び部屋を見回した。


「ここがコントロールタワーなら、この世界の謎は半分以上解けたと言っていい」

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