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Transparent Dark  作者: 文字塚
参:蜘蛛の糸
39/160

38.天空の先、それはバベルかラピュタ3

 部屋にひとり取り残された。

 国樹は改めて周囲を確認する。

 やはり最も気がかりなのはあれだ、と目星をつけ歩を進めようとした。すると、奥からゼスが小走りで戻ってくるのが見えた。


「タガロ、紅茶でいいんだよね」

「それ聞きにきたのか?」

「ううん違う、僕喋り過ぎたかな?」


 言葉に詰まり、国樹は顔をしかめた。


「いや、もういい仕方ない。ひとつ、下での話はするな。特に仲間の話だ。天使がどうとかは好きにしていい」


 小声で告げると、


「分かった、ダージリンだね! 探してみるよ!」


 ゼスは大袈裟に言って、また奥へと小走りで駆けていく。

 国樹は素直に驚いていた。ちぐはぐな面もあるが、ここまで気が利くとは思わなかった。ゼスへの評価を根本的に見直すべきかもしれない。


 国樹が一通り確認し終える頃、アナスタシアと名乗った女がようやく戻ってきた。テーブルにひとつだけ、高価そうなティーカップが置かれる。


「アールグレイしかなかったの、いいかしら?」

「全く」


 国樹はテーブルに向かい、湯気の立つカップを手に取った。一口つける素振りをして、


「凄まじいですね。どういうことです、これは」


 上目遣いで窺うと、アナスタシアは少しだけ肩を竦めた。


「そう? お話は後でいいかしら?」


 言っておきながら、身体はもう奥へ戻ろうとしている。一体奥でなにをしているのか。確認したくもあったが、国樹は止めなかった。

 流れのまま、アナスタシアは戻るのかと思われたが、


「あなた一体何者?」


 カップを見つめていた国樹の視線が上がる。アナスタシアはこちらを向いており、胸の下で腕を組んでいた。


「わざわざこんな所まで、あの子を連れて来た理由が聞きたいわ」


 成り行き、というのが事実だが素直に吐く気はしなかった。言葉を選び応ずる。


「私の方もあなたを知りたい」

「お互い様よね。お名前は?」

「国樹です、国樹多賀朗。そこらにいる日本人ですよ」

「そう日本から。よく来れたわね」

「そりゃゼスに言って下さい」

「そうね。後で詳しく聞かせて」


 気持ち柔和な表情を浮かべ、アナスタシアは立ち去ろうとする。


「失礼ひとつ」


 国樹は言葉を切って、


「姓はなんと仰るんです、アナスタシアさん」


 背中に問いかけた。アナスタシアは振り返らず、


「後で話しましょう」


 と言い残し再び奥へと消えた。


 手持無沙汰になった。

 この一室には物が少ない。奥は分からないが、照明が酷く明るい割に簡素だ。彼女はミニマリストなのだろうか。

 本でもあれば、と思うがなにもない。

 カップからは湯気が消え、時間の経過を示していた。


 やることもないので、カメラを取り出す。

 葉書のように薄いそれに、データは残っていない。それでも一応中身はコピーしてある。グーシーは解析してみると言っていたが、期待していいのかも分からない。ここに来るまではそう考えていた。

 この部屋の撮影は終えている。写真も動画も、国樹の感想も含め残しておいた。このカメラはかなり大容量だそうだ。もう少し撮っていいかもしれない。


 頭にそんなことを浮かべていると、ガシャンと陶器が割れるような音が耳に届いた。奥からだろう。カップでも落としたか、と気に留めることなくアールグレイをいただく。

 冷めているのは当然として、茶葉の違いが分からなかった。種類が豊富なのは知識としてあるが、拘りがなければ意味もない。


 ふっと小さな溜め息をつく。思うのは長いな、ということとなぜ国樹だけ取り残されたのか、という点だ。ゼスの様子から察するに、奥で特別なものと対面したようには見えない。気になればさっき一言あっただろう。

 俯きまた溜め息をつく。それからすぐ気配を察した。

 顔を上げると、呼吸を乱したゼスが立っている。


「どうした。音がしたけど、なんか割ったか」


 息上がるゼスは珍しい。こいつに呼吸器系があるとは新しい発見だ。真っ先に思ったのはそんなつまらないことだったが、


「わ……割っちゃった」

「そうか、仕方ない。高価そうだが謝ったのか?」


 ゼスは小さく首を振った。


「おい、非常識だろ」

「でも割ったんだよ、どうしよう」

「そんなに怒ってるのか?」


 意外に思い尋ねると、


「違うんだタガロ……」

「なにが」

「あの女の頭をカチ割ったんだ」


 ちょっとなに言ってんのか分からない。

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