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Transparent Dark  作者: 文字塚
参:蜘蛛の糸
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34.天を貫く2

 ネリーの整備工場に着くと、心と頭の疲労はピークに達していた。そもそも今日は街を見て回る予定だったのだ。有名どころのオペラハウスや美術館、歓楽街もあるだろう。ヨシカも連れ、ちょっとした観光に興じるつもりだった。


 一番は物品の売買、その目途だ。今日明日結論は出さないが、噂の広がりは知っておきたい。ところが実際は買い物ばかりで、それどころでなかった。


「お帰り遅かったわね。どう、あった?」


 視界には国樹のバギーと誰かのトラックが並んでいる。整備していたネリーに声をかけられ応じたのはゼスだ。


「当然、あるに決まってるじゃん」

「へえそりゃ凄い。地元民でも知らないよ」


 ゼスは「ふふん」と胸を張る。

 一方国樹は疲労と懸念で頭が一杯だった。


 ネリーに風呂やシャワーが使えるかを確認する。「昨日入ったのに?」と疑問を呈されるが、ヨシカはたぶん限界だ。一度ゆっくり休んだ方がいい。深刻なバグとやらを抱える身に、今日という日はきつかったろう。

 伝えると「そうさせてもらいます……」とヨシカは奥へと消えた。

 国樹はグーシーとリビングに入り、とりあえず頭を休ませた。


「ふざけんな……と言いたいところだが、もう受け入れるしかない」


 独り言ちると、


『本気で行くのか? どこまで昇るつもりだ?』


 グーシーの舌使いは珍しくノロノロとしていた。彼も疲れたのだろう。

 どこまでかも問題だが、それ以外にも懸念すべきことがある。


「グーシーあれなんだと思う? 軌道エレベーターって実現したのか?」

『分からない。軌道エレベーターに関しては、テロに対し脆弱過ぎるという解釈が為されていた。一方あれは棒状、連絡通路のように見える』


 同感だ。

 もしかするとだが、あれは天界への連絡通路――。

 現実的でない構造を推察するなら、無理やり解釈するしかない。

 まさか、とは思うがここまでまさかの連続だった。


「覚悟は決めたよ、無茶苦茶だが確認しちまえばいい。もうひとつの問題は君が昇れない、ヨシカも連れていけないということだ」

『所有者と離れるのは好ましくない』


 もうひとつの問題はここで、だからグーシーは怒ったのだ。

 ヨシカの不安も恐らく同じだろう。国樹の身を案じているのは間違いない。しかし自身の存在が揺らぐ状況は歓迎しない、という意思表示でもある。

 疲弊した頭をなんとか回転させ、国樹は万が一を想定する。


「もし俺が戻らない場合、ネリーを所有者として登録出来るか」

『可能ではあるが、多賀朗自体正式な所有者ではない。仮の所有者を頻繁に変更すると、私はともかくヨシカに深刻な不具合をもたらしかねない』


 そうなのか、と国樹はため息をついた。グーシーですら自分はまだ仮の所有者である。これはいい、所有者権限の話は聞いている。


 ヨシカの場合問題大有り、ということは考えていなかった。

 しかしすぐに理解出来た。

 あの美形だ、所有者が転々として起きる事態は容易に想像がつく。

 ヨシカは物ではない、立派な日本国民だ。


『多賀朗、どこまで昇るつもりなのだ?』

「4000メートル、これが限度だろう」

『それなら戻ってこれる。体力は必要だが』

「そうなんだが、ゼスが見つけたものだぜ? 最悪の事態を考えよう」


 天井を見上げてから、国樹は告げる。


「ネリーは女だ。ヨシカに不具合は起きづらい、違うか」

『女衒という言葉を知っているか?』

「やめてくれ、ネリーと一生過ごせとは言ってない」


 思わず顔を歪めてしまうが、懸念も最大化すればなにが起きるか分からない。


「ネリーに頼んでシンガポールのマリー・ホージャ、彼女の妹を頼れ。パキスタン経由で海路シンガポールへ行くんだ」

『都市国家か』

「マリー・ホージャとその同僚達は信用していい。報酬さえ支払えば日本行きの手段を教えてくれるし、手伝ってくれる」

『マリーという人物はなぜシンガポールにいるのだ。皆外国に行かないのではなかったのか?』

「そこは分からない、ネリーに訊いてくれ。バギーの設計まで出来るんだ、仕事の関係だと思う」

『了解した。そうならないことが一番ではあるが』


 話し終えるとネリーが来て、紅茶を淹れてくれた。ピヤーラという取っ手のないカップが、薄紅色に染まっている。グーシーの分まであるのは、ギャグだろうか。


「ネリーさん、ドゥシャンベの標高って分かりますか?」

「確か700メートルぐらいかな。どうして? ホントにその建物上がってくつもり?」


 ネリーは少し驚いた顔をしてから、グーシーに紅茶を勧めた。

 しばらくじっと固まっていたグーシーだが、少し舐めてから『砂糖を』とボードに記した。飲めるのか。

 毎時600メートル。休憩を入れたとて、六時間あれば3000メートルは昇れるだろう。

 机上の計算に過ぎないが、指標がないよりマシだ。


 ネリーが砂糖を入れると、グーシーはまた舐めて『美味しい、ありがとう』と記してみせた。

 彼女が仕事に戻るのを確認して、国樹はそっと顔を近づける。


「グーシー、もうひとつ大事な話がある」

まさかのきっかり二千文字

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