21.起動したそれと昂るなにか
なんでもっと早く! クソッ、まずい時間がない。国樹は歯軋りしたくなる気持ちを抑え、女型を睨みつけた。
「どしたの?」
ゼスの呑気さには反吐が出る。
そんなもん、動き出したら撮りづらいじゃねーか!
逃げられたらどうする、なぜ分からん。
いや、いけるまだきっと大丈夫だ。撮るだけなら今から、ここからでも……ってコートかけたの誰だ! どこの紳士気取りだ、ぶっ殺してやりたい!
国樹がいっそ剥がすか剥くか逡巡していると「あ……」とゼスが呟いた。そうして目が合う。
「タガロがなに考えてるか分かった」
「あん? うるさい今それどころじゃねーんだ」
視殺戦になったが、国樹に譲る気は毛頭ない。一方ゼスにもその気はないらしい。気迫がぶつかり合う。
「失望したよ、タガロ」
ゼスは気味の悪い生き物を見るような、白い目を国樹に向けていた。だが、今はそんなことどうでもいい。「そうか、そりゃ残念だ」と言って立ち上がろうとした。したが、舌が足に絡んで動けない。え、なんで、お、おのれぇぇぇ!
「貴様、どういうつもりだグーシー! ぶっ壊されたくなかったらこれどけろ! それかコートを剥げ、剥け! ここからでもズーム機能を使えば!」
『ゴル……』
「タガロ、グーシーが"死ねばいいのに"って」
グーシーが絶対言わなそうな台詞ナンバーいくつだよ。
「ふざけんな! なんでお前らは邪魔するんだ! 関係ないだろ!」
「あるよ、僕が回収して僕が起動したんだ。というか、気持ちの悪いことするな! この変態が!」
明確に罵声を浴びせられたが、なに言ってんだ、こいつ。
「ゼス、お前に理解しろなんて言わん。グーシー! お前所有者敵に回してどうなるか分かってんだろうな! 生きて日本海渡れると思うなよ!」
『ガ、ガルゴ……』
「やめろよ卑怯だぞ!」
なにが卑怯か、普通だろこんなの。国樹は、
「グーシーぃぃぃぃいいんだなぁぁぁ覚悟出来てるわけだぁぁぁ」
怨念を込めて迫るが、自称セキュリティーボックスは頑なだった。ゼスが頑として譲らず、グーシーはそれに流されている。国樹の願いとは逆に、むしろ締め付けが強くなってきた。痛い、痛いって! 骨が折れそうだ!
「分かった、分かったから! カメラは諦めるから一個だけお願い聞いて、大したことじゃないから!」
「どーせくだんないことだろ。いいよグーシーもうそのままで」
『ガル……』
「違うグーシー聞け、もしこれに逆らったら本気で縁切りだ、覚悟しろよこれは最後通牒だからな!」
『ゴルズ……』
ゼスは「ちょっと」と止めるが国樹はグーシーに飛びつき、迫った。ゼスに聴こえないよう、迫った。『ゴル!?』と戸惑うが国樹は顎で行けと指示する。
『起動まで残り……』
という電子音声が聴こえ、国樹はグーシーの舌を掴む。なにこれ、ぬるっとする。いやそんなことはどうでもいい。
「いいんだなグーシー、自力で帰るのは不可能だぞ。お前は動く箱だ、既に手配書も回ってるだろう。人目に付くなんてもんじゃない。しかもここは中央アジアだ、分かってるか、超高地だ!
飛行機もないこの世界じゃ船でビューンってわけにはいかないんだ! それでもお前は独りで、たった独りで日本海渡れると思ってんだな!」
「僕がいるだろ! なんでグーシーにそんなこと言うのさ!」
だが、グーシーは国樹の脅迫に屈した。いや、熱意が届いたのかもしれない。ゼスでは頼りないと思ったのかもしれない。舌は国樹を離れ、箱の中に仕舞われる。
「グーシー!?」
「いいんだ、お前は俺とあっち向いてればいいんだ」
そうして起動間近だという女型に背を向け、ついでにカメラをゼスに手渡す。「?」と浮かんでいるがこれでいいのだ。ガリガリと地面を擦る音が聴こえる。しばらくして、またガリガリと鳴って、それは近くで止まった。
「どうだ?」
国樹の問いにグーシーは勢いよく蓋を閉じた。答えはシンプルに。なるほどそうか、それは朗報だ。まだ望みはある。国樹は両手を握り締め、振り回した。いわゆるガッツポーズ。これは勝利だ。
「あーそうか、直に見たかったが、穴まで精巧に再現されているんなら、使い道はいくらでも――」
あ……思わず口から……。
「タガロぉぉぉぉぉ……タガロには失望ではなく、絶望したよ!」
ゼスの絶叫が中央アジアに鳴り響いた。
『起動しました』
電子音が鳴り、女型の目が開いた。顔をまじまじと見るのは初めてかもしれない。
少し小顔、丸顔で、頬が印象的だ。まつ毛が長い、目元はくっきりとして、鼻は小さい。口元は唇がやや薄いのが特徴だろう。ほー身体はエロイのに可愛い系か。腕組みし「ふむ」と感嘆すると、ゼスが物凄い目で睨んできた。が、国樹は構わない。被せたコート次第では一波乱あるのだから。
「痛っ」と女型が初めて言葉を発した。国樹はまた「ほう」と感心する。なるほどそうなのか、と。ゼスはもう切り替えたのか「わあ」と声を上げている。
女型はゆっくり身体を起こすと、
「いったあ……」
はっきり発声した。おお、声も可憐だ。ゼスが興奮を抑え、グーシーも注視する中、女型は完全に身体を起こし、自分の姿を確認してから、周囲の様子、そして三人を見た。皆一瞬のけ反り、それから期待で前のめりになると、
「え……えええぇぇぇなんで裸なんですか! 誰ですかあなた達! いやああぁぁぁ!」
叫び声が響き渡った。
なぜこうなった。と思いますが、ミステリ要素が含まれていたりします。




