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Transparent Dark  作者: 文字塚
玖:首都圏
118/160

117.京丹後から大阪へ

 夜半、京都丹後の港にフェリーが入った。上海を出て二日弱、タジキスタンを出てから計十八日間の旅路が終わる。


 国樹にとっては四年振りの帰国。

 残る三人は分からない。それは今がいつなのかで変わる。

 日中なら風情ある京丹後の景色が広がっていただろう。だが日も暮れ灯りも乏しい。田舎町だ、夜景と呼べる代物はなかった。


 フェリーが着岸し係留され、下船の案内が流れた。

 皆と顔を合わせ、国樹は先を譲る。


 グーシーは音もたてず製造元の大地へ降りた。

 ヨシカは緊張の面持ちで下船すると、大きく夜空を眺めた。

 充希から特別なものは見て取れない。ただ下船したとしか言えない。

 国樹はゼスを先に歩かせ、日本へと降り立った。

 それぞれの感慨を抱えたまま、まずは京都中心部、京都駅を目指すこととなった。


 零時近く、国樹達は京都市内のホテルで宿をとった。

 京都タワーの鮮やかなライトアップを眺めながら、明日以降の予定を改めて確認する。逆方向になるが一度大阪へ、それから首都圏を目指すのだと。



 ――翌日正午近く、国樹は大阪駅構内から電話をかけていた。ヨシカ、充希、ゼスの三人は散策に出かけた。デパートも多い、買い物でもすればいいと伝えてある。

 型は古いのであろう公衆電話を前に待つが、件の相手はなかなか出ない。受話器を指で叩いていると、ようやく繋がった。久しい声を聴き懐かしくなったが、挨拶もそこそこ用件を伝える。

 国樹は「そうですか」と小さく溜め息をつき、それから丁寧に断り電話を切った。


「久野さんから連絡はないらしい」

『実家に音沙汰なしとは。少なくとも四年、日本に戻らず連絡もしていないということになる』

「ああ、死亡通知も届いてないって笑ってたよ」

『そうか。システムは分からないが、事実なら喜ばしい』


 そうね、と返事し久方ぶりの大阪駅構内を見回す。恐らく2000年辺りを再現しているのだろう。国樹が零すと、グーシーはそうだろうと同意した。

 確かこの姿は、大規模な工事が終わってからのはずだ。以降神戸から奈良市内まで繋がるようになった。細かな歴史だが、お互いよくもまあ知っているものだ。


「京都駅も似た時代のはずだ。なんでこの時期に拘る?」

『分からない。比較的安定していたのは間違いない』

「だからって再現してどうする。ここはテーマパークか」

『そうとは思えない。生活するに相応しい活況だと思う』


 見渡せば確かに人通りは多かった。京都は観光地として賑わい、大阪は近畿経済の中心と呼ぶに相応しい。

 二人して待ち合わせ場所の歩道橋へと向かう。ここらでは有名な場所だ。


「文化財は分かる。けど実用的な建物まで再現する理由はなんだ」

『まるで分からない。再現か再建なのかも定かでない』


 グーシーは冷静に記し、それから慎重にエスカレーターへと乗った。重量のほどは問題ないらしい。

 人通りを避けた場所は日差しがきつかった。一端デパートに入り、そこから待ち合わせ場所を眺めていた。たっぷり二時間後、三人は荷物を手に戻ってきた。

 こんなことなら飯を済ませればよかった。内心愚痴りながら、


「長い」


 一言告げると、


「はい、そうかもしれません」


 ヨシカはてらいなく応じた。


「とても楽しい買い物でした。それと、やはりなにもないですね。電力は消費されていますが、電子機器が見当たりません」


 時間を消費し過ぎ、と突っ込みたいところだが呑み込む。その確認作業なら文句は言えない。


「国樹さんの仰る通りでした。大阪がこれではもはや首都圏しかありませぬな」


 充希は呆れた笑みを浮かべ、お手上げと両手を広げる。


「ま、そういうことだ。名古屋は通るがどうする?」

「特段用事はありませぬ。買い物も済ませてしまいました」


 そうして充希は買い物袋をグーシーに渡した。なにを買ったんだ。ヨシカはともかく充希に必要なのは、化粧品? 整髪料じゃないよな。

 グーシーの腹に仕舞われる袋を怪訝に見つめていると、ゼスが口を開いた。


「タガロの水着買ってたよ。僕のも。グーシーのは売ってなかった」

「水着……?」


 二人を睨みつけると、充希は全ての責任を押しつけるようヨシカに視線を向けた。当のヨシカは、


「はい、好きに買ってよいと言われたので好きに買いました。きっとお似合いになると思います。私かなり自信ありです」


 見事に開き直っていた。

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