117.京丹後から大阪へ
夜半、京都丹後の港にフェリーが入った。上海を出て二日弱、タジキスタンを出てから計十八日間の旅路が終わる。
国樹にとっては四年振りの帰国。
残る三人は分からない。それは今がいつなのかで変わる。
日中なら風情ある京丹後の景色が広がっていただろう。だが日も暮れ灯りも乏しい。田舎町だ、夜景と呼べる代物はなかった。
フェリーが着岸し係留され、下船の案内が流れた。
皆と顔を合わせ、国樹は先を譲る。
グーシーは音もたてず製造元の大地へ降りた。
ヨシカは緊張の面持ちで下船すると、大きく夜空を眺めた。
充希から特別なものは見て取れない。ただ下船したとしか言えない。
国樹はゼスを先に歩かせ、日本へと降り立った。
それぞれの感慨を抱えたまま、まずは京都中心部、京都駅を目指すこととなった。
零時近く、国樹達は京都市内のホテルで宿をとった。
京都タワーの鮮やかなライトアップを眺めながら、明日以降の予定を改めて確認する。逆方向になるが一度大阪へ、それから首都圏を目指すのだと。
――翌日正午近く、国樹は大阪駅構内から電話をかけていた。ヨシカ、充希、ゼスの三人は散策に出かけた。デパートも多い、買い物でもすればいいと伝えてある。
型は古いのであろう公衆電話を前に待つが、件の相手はなかなか出ない。受話器を指で叩いていると、ようやく繋がった。久しい声を聴き懐かしくなったが、挨拶もそこそこ用件を伝える。
国樹は「そうですか」と小さく溜め息をつき、それから丁寧に断り電話を切った。
「久野さんから連絡はないらしい」
『実家に音沙汰なしとは。少なくとも四年、日本に戻らず連絡もしていないということになる』
「ああ、死亡通知も届いてないって笑ってたよ」
『そうか。システムは分からないが、事実なら喜ばしい』
そうね、と返事し久方ぶりの大阪駅構内を見回す。恐らく2000年辺りを再現しているのだろう。国樹が零すと、グーシーはそうだろうと同意した。
確かこの姿は、大規模な工事が終わってからのはずだ。以降神戸から奈良市内まで繋がるようになった。細かな歴史だが、お互いよくもまあ知っているものだ。
「京都駅も似た時代のはずだ。なんでこの時期に拘る?」
『分からない。比較的安定していたのは間違いない』
「だからって再現してどうする。ここはテーマパークか」
『そうとは思えない。生活するに相応しい活況だと思う』
見渡せば確かに人通りは多かった。京都は観光地として賑わい、大阪は近畿経済の中心と呼ぶに相応しい。
二人して待ち合わせ場所の歩道橋へと向かう。ここらでは有名な場所だ。
「文化財は分かる。けど実用的な建物まで再現する理由はなんだ」
『まるで分からない。再現か再建なのかも定かでない』
グーシーは冷静に記し、それから慎重にエスカレーターへと乗った。重量のほどは問題ないらしい。
人通りを避けた場所は日差しがきつかった。一端デパートに入り、そこから待ち合わせ場所を眺めていた。たっぷり二時間後、三人は荷物を手に戻ってきた。
こんなことなら飯を済ませればよかった。内心愚痴りながら、
「長い」
一言告げると、
「はい、そうかもしれません」
ヨシカはてらいなく応じた。
「とても楽しい買い物でした。それと、やはりなにもないですね。電力は消費されていますが、電子機器が見当たりません」
時間を消費し過ぎ、と突っ込みたいところだが呑み込む。その確認作業なら文句は言えない。
「国樹さんの仰る通りでした。大阪がこれではもはや首都圏しかありませぬな」
充希は呆れた笑みを浮かべ、お手上げと両手を広げる。
「ま、そういうことだ。名古屋は通るがどうする?」
「特段用事はありませぬ。買い物も済ませてしまいました」
そうして充希は買い物袋をグーシーに渡した。なにを買ったんだ。ヨシカはともかく充希に必要なのは、化粧品? 整髪料じゃないよな。
グーシーの腹に仕舞われる袋を怪訝に見つめていると、ゼスが口を開いた。
「タガロの水着買ってたよ。僕のも。グーシーのは売ってなかった」
「水着……?」
二人を睨みつけると、充希は全ての責任を押しつけるようヨシカに視線を向けた。当のヨシカは、
「はい、好きに買ってよいと言われたので好きに買いました。きっとお似合いになると思います。私かなり自信ありです」
見事に開き直っていた。




