109.尋問
下りてすぐ、国樹は充希の元に向かった。
「国樹殿、二人だけ拘束致しました。残りは申し訳ありません、この有様です」
仕事を終えた充希は抑揚なく報告してきた。まるで夜の散策を済ませてきたように。
返り血を浴びたアーマーを見て、国樹はしばらくなにも言えなかった。視線に気づいたのか充希が窺うような顔をした。
「どうされました。これらはすぐ落とせます。それより尋問を始めましょう」
そう言って明るい笑顔を向けてくる。それは少女の笑顔で、わざとそうしているのが伝わった。
「そうだな。けど悪かった、先に謝らなきゃならんことがある」
真顔で向き合い、国樹はじっと目を見た。
「はて、何事です。後でよろしいかと」
「そうだな……後にするけど、手の内明かせないのはお互い様だよな」
呟くよう零すと「なるほど」と充希は反応した。
「問題ありません。後ほど詳しく教えていただけると、当方とても嬉しく思います」
どこまでも穏やかな笑顔を向けられ、国樹は思わず苦笑した。
男を引きずり、周囲は死体だらけだ。
それでも彼女はなにも変わりないのだから。
全て無駄だと悟るのにそう時間はかからなかった。
誰一人言葉を発しない、反応も見せない。
麻酔銃で眠らせた連中も、目覚めたという事実しか残らなかった。
身元も分からず誰も喋らず動かない。
これ以上我慢する理由もなかろう。
国樹は簡単な確認作業を済ませ、充希に合図を送る。
一人ひとり目掛け引き金を引くことに、特に躊躇いはなかった。
それらが崩れ去る光景を冷たく一瞥していたのは、国樹だけではなかった。振り返るとヨシカも同じ目を向けていた。倫理的観点から止めに入るかもしれない。そう思っていたが彼女はなにも言わなかった。
グーシーは当然として、ゼスですら興味がなさそうだ。
国樹は最後のひとり、罵り合った男に近づく。彼は未だ気を失ったままで、唯一の生き残りである。
弱い麻酔だ、叩き起こすと男は小さく呻きながら目を覚ました。
時間はかかったが意識をはっきりさせると、周囲を見回し案の定絶句した。
状況を理解したであろう男に成り行きを説明する。致死性の猛毒ではなくただの麻酔銃であったこと。そして生き残りはたったひとりであること。なぜ、という疑問は尋問のためであること。
男は観念したらしく地面に腰を下ろし、絶望と後悔が滲む表情で国樹の問いに答え始めた。
彼は一年前まで上海警察に勤めていたらしい--
不祥事を起こし懲戒免職処分となり、金を目当てにすぐそこの深センで彼らと合流した。
懲戒の理由は押収品の窃盗。微罪だが処分を免れず、彼は無職となった。妻と共に逃げるよう上海を離れ、内陸部を転々とした。
そして妻が身ごもったことをきっかけに、危ない橋を渡る決断を下した。そういう経緯らしい。
「俺のことは記事にもなった。写真は出てないが上海に行きゃ身元は確認出来る。一年前の記事だ、探せばあるだろう。署に出向いて金でも掴ませりゃ、経歴も含めてぺらぺらと話してくれるさ」
男は投げやりで、自らを蔑み嘲笑っているのだろう。こんなつまらない男を殺さねばならない、お前も気の毒なものだ。男の言葉にはそんな意味合いも含まれているようだ。
周囲は死体だらけ、死を覚悟するのも当然と言える。
「おいくつですか、年齢を教えて下さい」
国樹は努めて落ち着いた素振りで話していた。
「三十五だ。お前は」
「二十歳になりました」
「若いな。なんで追われてる」
「それもご存じありませんか」
「強盗だか殺人だか、そう聞いたよ」
「にしては重武装だと不思議に思いませんか。ただの強盗を追うのに七十人以上かき集めた」
男は一瞬躊躇い、それから苦虫を噛み潰すよう口を開いた。
「まさかこれで足りないとはね。どうやったかは知らんが……女に子連れ。秘密はその箱か? それともそっちの鎧着込んだ奴か」
「こちらの武装をご存じない?」
「妙な箱と銃しか聞いてない。数でどうにかなると思ってたんだろ。お陰でこの様だ」
ロケットランチャーを知らない……するとオビガルムで襲撃してきた連中、そして死体を片づけた奴らとも関係ない。なるほど、そういうことか。




