第6話その1
アッシュがユイファと対面している時、アリーシャはフェルを連れてギルドのシャワールームへと駆け込んでいた。
幸いにして人影がないことに安堵し、装備を外してフェルに向き直った。
と、フェルがぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、私……」
「いいのよ」
泣きながら謝るフェルを、アリーシャは抱きしめてやった。
「ううっ……漏れちゃうなんて……」
泣きながらつぶやかれたフェルの言葉に、アリーシャは何ともいえない顔になった。
「ま、まあそれだけアッシュも本気になってたって事よ」
「……けど、本当に怖かったです……」
慰めるアリーシャにフェルはわずかに身を震わせながらつぶやいた。
それを聞いて、アリーシャは軽く息を吐いた。
「……アッシュは、傭兵をしていたからね」
すこし寂しそうに、言葉を漏らすアリーシャ。そんな彼女にフェルは首を傾げた。
現在のゴルディア大陸では、戦争はほとんど起きていない。七つの大国と、それを取り巻く小国家群にとって、現在最大の脅威は獣魔だからだ。それに対する防衛に手一杯で戦争をする余裕が無いのだ。しかし、小国同士の小競り合いや、戦争はたまにある。傭兵はそういった戦場でよく使われる。国としては正規の兵士は獣魔への対処に当てたいからだ。そのほうが、強力な獣魔を討伐した際に自国の手柄を喧伝しやすいからだ。そして、これがその国の発言の強さに繋がる。この辺りは政治の巧い下手にも関わるが、今は置いておく。
つまり、人同士が殺しあうような争いは、少なくとも表面上は多くない。
これは、多くの登録冒険者たちにも言えることで、規約で極力人命を尊重する事となっている(故に山賊などの犯罪者も極力生かして捕縛することを推奨されている)。
しかし、傭兵は違う。人と人が命を穫り合う戦場で戦い続けることになる。
それは、人の命を奪うという禁忌を自らの生を繋げていく糧を得るために数多く背負うものだ。
アッシュはそんな世界で生きていた。
だからこそ、アッシュは自分が生きる為に相手を殺す技能に長けている。それが噴出した際、たとえ訓練でも人の命を奪うという覚悟と殺気の乗った剣戟になる。この辺り抑え切れていないのがアッシュの危うさと未熟さの現れだ。
実際、アリーシャも訓練中に自分が死んだとイメージできるときが何度もある。それが、彼女の成長を促しているのは皮肉と言えよう。
ともあれ、現在はアッシュと“まともに”訓練できるようになったアリーシャではあるが、一緒に冒険者になった頃には……。
「……あたしも……やらかしたことあるから……」
「ふぇ?」
観念して赤くなりながら言ったアリーシャに、フェルは呆気にとられた。しかし、アリーシャは遠くを見るような目で続けた。
「ていうか、あたしのがもっと派手にやらかして、あいつにバレたわ。まあおかげであいつへの羞恥とか吹っ切れたところもあるけど……」
「……」
うつろな瞳で語るアリーシャに、フェルが、“それはうら若き乙女としてどうなんだろう?”という顔になった。




