第5話その3
「……ユイファ、ほかにはどんな魔法が使えるんだ?」
アッシュは思わず彼女に問うていた。対してユイファは刃を止めてきょとんとなった。
「……えっと、基本は習得してますから初等魔法は全部使えますよ?」
軽く思案して答える。それを聞いてアッシュ軽く考え込んだ。
初等魔法はギルドが定めた魔法の階位であり、冒険者に必要とされる魔法が数多くこの階位にある。
明かりの魔法や浮遊の魔法、守りの魔法や解毒、治癒など。むろん高い階位なら、強い効果の魔法はいくつもある。だが、この階位にしかない特殊な魔法も数多くあるのも事実だ。
「……全部ってことは、眠りや鍵開けもかい?」
アッシュは慎重に訊ねた。このふたつは厳重に管理されている魔法だ。ギルドに登録した魔法使いしか教えて貰えない。犯罪への利用が容易な魔法だからだ。非登録でこれらの魔法を習得、使用することは犯罪を行うことと同義であるとされるほどだ。
しかし、ユイファはあっさりと首を縦に振った。
「はい、習得してますよ? 不本意ですが魔法使いの免状も持っています」
魔法使いの免状は、国が発行する魔法の使用を許可する許可証だ。コレを持たずに魔法を使っても犯罪とされる。
これは、古くに犯罪冒険者が横行した故の制度だ。
現在の冒険者はギルドへの登録制となっており、その身分は国が保証してくれる。この登録契約も専門の魔術師によって成されるほどだ。
その反面、無法に対して厳しく取り締まりがなされ、冒険者自身が冒険者としての法に従うことを推奨している。
そう、冒険者は国に所属する立派な職業なのだ。
とはいえ基本的には自由に探索することも認められているし、無法を行わない限りは行動を制限されることはない。
かわりに給料などは出ないのだが。
しかし、どうしても生活出来ないとなれば、ギルドの簡易ベッドを借りることも出来るし、一日一食程度のパンとスープまで貰える(少額ながら借金扱いとなるが)と、至れり尽くせりである。これも世界の国々にとって、最大の脅威が獣魔あることの証なのだ。
「それは助かるな。遺跡の罠は魔法でなけりゃ解除できないものもあるって言うし」
アッシュは相好を崩した。偵察兵をしていた手前、機械系の仕掛けや、自然を利用した罠などはアッシュでも解除は可能で、傭兵時代には実際に解除したことも少なくない回数ある。
だが、魔法の罠は魔術の基本知識や実際の魔法無くしては解除できないものも多い。魔法は初等魔法とはいえど厳しく管理されている。中等以上が使えないとしてもユイファの持つ魔術の知識は非常に有用だ。
「……勝手な言い分で申し訳ないけど、俺たちのグループに入って貰えないか? ユイファ。俺と相棒のアリーシャで作ってる“ブルーフェザー”は問題があって仲間のなり手が居ないんだ。頼む」
頭を下げる灰髪の少年を見ていたユイファはタカツナを見る。だが、師はなにも言わなかった。
ユイファは軽く天井を見上げて思案し、ふたたびアッシュを見た。
「……その、問題というのは?」
「あっ?! すまない。ちゃんと話すよ。もちろんそれを聞いた上で決めてくれ」
ユイファに訊ねられたことで、まだ呪いのことを話していないことに気づいたアッシュはあわてて頭を上げてから謝罪し、自身の呪いのこと、新たな段階を仲間が欲しいものの呪いを理由に断られていることなどを話した。
それらを聞いて、ユイファは少し考えてから師を見た。
「……師匠はアッシュさんの呪いの内容を知っていて私を同行させようとしたんですか?」
「……いや、詳しい内容までは知らなかった。俺もお前も流れてきたばっかりだったしな。どうする? さすがに断りたいなら俺も一緒に頭を下げてやるぞ」
勝手に決めたのも俺だしな。とタカツナは頭を掻きながら続けた。ユイファは天井を仰ぎ見た。少し思案してから、不意に手にしていたオサフネを正面に持ってきて真っ直ぐ立てた。金属音を響かせ、刃を右に向け、曇り無き刀身に自分の顔を映した、
「……」
数瞬刃に映る自身を見つめるユイファ。
「……わかりました。ご一緒させてください」
意を決してそう言ったユイファは、深々と頭を下げた。




