すべてはここからはじまった
「…眠いなぁ…」
月夜が眠そうに目を擦っていると、ハムスターがヒマワリの種をかじっているような音が聞こえてきた。カリカリカリと静かなほど目立つ音だ。
うちはハムスターを飼っていないし…何の音だろうとキッチンの方を見てみた。
月夜が、キッチンに足を踏み入れるとあたりが白金の光につつまれた。
「うわぁぁっ!!」
思わず目を伏せると、そこには今までに見た事が無いような美しい少女が座っていた。
白金の髪を肩くらいまで伸ばしてボブヘアーにしていて、その髪を白い指でいじっている。
「も…もしかして…あなたは月の神のアルテミス…ですか!?」
アルテミスと呼ばれた少女は、月夜を澄んでいるがどこか冷たい紫水晶のような目で見た。
「私がアルテミスだったらなんだというのだ?あと、この菓子と紅茶をもってまいれ。あとは…うーんと…」
月夜は思った。アルテミスってこんな人だっけ…??本で読んだことと全く違う…と。
「あの…アルテミスさん…なんでここにいらっしゃるんですか??」
「そなたが思ったのだろう??神話の世界の人物とかが実際に現われたらな~って。だからここへとやってきたのだ。あと敬語を使うのはよせ」
アルテミスは自分のイメージを崩すような食べ方でクッキーを食べながら言った。
「じゃあ…この家には…」
「もちろん、他にも居るぞ」
月夜は椅子から立ち上がり、リビングの方を見た。
「アポロン…アテナ…ネプチューン…??」
そこには3人の神がゲームで対戦していた。別にゲームをするのはかまわないのだが、何か違和感があった。
「あの…あなたがこの家の所有者さんですか??」
突然、紅い炎のような髪と琥珀色の目をした少し背が低い少年が月夜に話しかけた。
たぶんこの少年がアポロンだろう。
「うん、そうだけど…」
「それなら姉さんのアルテミスに伝えてください。もうボクをパシリに使うのはいい加減やめろって」
月夜は誰もが知らない神話の世界を知ってしまった。アポロンとアルテミスがまさか兄弟だったなんて誰も知らないだろう。
(アポロンはアルテミスに神話の世界で何をパシられていたんだろう…)
月夜はそんなことを思いながら、今度は夜桜家の大きな庭へと急いだ。
「どうしてこうなった……」
月夜がそう言ったのも無理は無い。そこには下半身が魚の山羊や、おひつじ座と呼ばれる羊や牛が庭の草を食べているのだから。
そして噴水の方では神話のなかでの勇者、ヘラクレスと髪がヘビのメドゥーサがなぜか本の取り合いをしていた。
(幼稚園児のケンカかよ…)
半分呆れた月夜は庭に花が植えられているほうを見て、石の彫刻のように固まってしまった。
そこにはおとめ座と星座の中で呼ばれる人物が花畑でぐるぐるまわっていたり、ふたご座と呼ばれる2人が追いかけっこをしていた。
「どうだ、こいつらが今日から地上で生活するのだ。光栄に思えよ。月夜」
いつのまにか月夜の隣にアルテミスが居て、えらそうな態度で言った。
「なんでこうなるのぉぉーーーー!!!!!」
月夜は庭の真ん中で空に響き渡るくらい叫んでいた。