1.
「なんで俺は貧乏の家に産まれたんだよ……。親ガチャ大外れだわ」
パトリックはいつも嘆いていた。
「金持ちの家に産まれたら、家のことをしてくれる魔法人形だって多数買えるのに……。しかも、自分の代わりに魔法人形を働かせれば金まで稼げる。いいよなあ……。金持ちの家に産まれたやつは」
実際、このトレーイル国では、産まれによって貧富の差は激しかった。
「金持ちの子どもは親に好みの魔法人形を作ってもらって何もせずに暮らすんだろ?それだけで一生安泰だ。金持ちは魔法人形との情事に飽きれば生身の人間と交わるパーティーなんかもあるらしいけど、魔法人形ほど顔が良くて劣化しない男女もいないしな。いいよなあ……」
パトリックはブツブツ言いながら肉を焼いていた。今日の夕飯は鶏肉をタレで焼いたシンプルな肉料理である。
「こんなの自分で作らなくても、家に帰ってきたら魔法人形が笑顔で出迎えてくれて、風呂も飯も完璧に出てくるんだろ?ほんと、いいよなあ……」
そこまで高性能な魔法人形は、最高級のものだけであったが、販売会社としても宣伝に使うものは当然、最高級の商品である。
だから、最高級魔法人形の性能は国内に知れ渡っていた。
「カタログ貰ってきたけど……1番安くても100万ギードだったな……。しかも、顔も既製品のままだし……。買うならせめて顔はオーダーメイドじゃないと意味ないよな」
家事してくれる、見た目はほぼ劣化しない人間に近い魔法人形というだけでもかなりの優れものであるが、人間はそれ以上のものを見てしまうと最低限の機能だけでは満足出来なくなる難儀な生き物である。
勿論、それは販売会社の思う壺であった。
「最高級の魔法人形は触り心地もほぼ人間らしいからな……!外に連れて行っても、他人と会話させなければ人形とはあまり気付かれないようだし……。美女を連れて歩いてる男ってなんか……自慢できるよなあ」
パトリックは常日頃から独り言が多かった。
「でもやっぱり、好みの女に情事を断られることがないってのが1番いいな!ハニートラップなんてあり得ないわけだし」
パトリックはニマニマした。
「でも、1番安い魔法人形はメンテナンス頻度も高いからな……。半年に1回メンテナンスに出さなきゃいけないのはめんどくさい。せめて2年毎のメンテナンスだな。そうなると自己メンテナンスシステムを搭載してなきゃいけないから、500万ギードからか……高ぇなー!」
鶏肉のソース焼きはほかほかと湯気を立てており、まさに今、白いお皿に移し替えられたばかりである。
「毎月の給料が25万ギードで家賃が10万ギード、光熱費が2万ギード、交通費が2万ギード、食費が3万ギード、その他で1万ギードだから……節約して残りが……7万ギードかあ」
お米も茶碗に盛り付け、パトリックはそれらをテーブルに運んだ。
「最低限の魔法人形を買うにも1年半かかるのか。自己メンテナンスシステムと顔のオーダーメイドができる魔法人形となると600万はいるから、9年後……道のりは遠いな」
パトリックはご飯を食べる前に十字を切り、手を合わせた。親に躾けられてから形式的に続けている、食事の前のお祈りである。
「あーあ。昔みたいにそこら辺の女で用を済ませられたら良かったのにな。テキトーにナンパして家に連れ込んでヤっても、不同意だなんだと訴えられる時代だもんなー。結婚してヤろうとしても不同意だとか言い出すクソな女も多いらしいし。冗談は魔法人形並みの容姿になってから言えっての」
パトリックは鶏肉を口に運んだ。ちょうど良い具合に切り分けられた肉は、濃いタレが上手く絡んでいてなかなかの出来である。
「うまーっ。やっぱり食事してる時が1番幸せだよな」
ついでにご飯をかきこんだ。
「女どもも最近は魔法人形のせいで目が肥えてるから、量産型魔法人形以下の容姿の男を完全に見下してるしな。大体、あの容姿に勝てる男は男の中の10%もいないっての!夢見すぎなんだよ!あいつら!」
パトリックは肌も白くて髪の色は茶色であるが、その肌は日焼けしてもなかなか黒くはならず、女からは「弱そう」と蔑まれることもあると知っていた。
「毎日毎日仕事で疲れてるってのに筋トレまでする時間があるかっての!」
パトリックは少しだけ、自身のぷよぷよとした腕や腹を見た。モテる男の条件なんてもう分かり切っていた。
見た目がそれなりに良く、金があり、人当たりが良くて不潔ではなく、犯罪歴がなければ良いのだ。
「結局は親ガチャだろ!ほんと世の中不公平だな!」
狭いアパートの中でパトリックは毒付いた。
魔法人形の出現で、世間的に、見た目というアドバンテージはかなり優先順位が下がることとなった。完全にゼロではないが、見た目は遺伝的なものが大事であるとされ始めるようになったのである。
「結婚相談所でも最近は幼少期の顔写真持参が義務付けられてるらしいしな……。それすら持ってこれないような人間はまず結婚できないとか……ほんと、変な世の中だよ!産まれがダメなら結婚は諦めろってか!?」
皿は、いつの間にか空になっていた。
「やっと実家を出られて一人暮らしも始めて一人前になれたってのによ……」
パトリックはまだ20なのに、その表情は随分と暗く、社会の辛さを物語っているかのようでもあった。安いアパートのため、灯りが暗いせいかもしれなかったが。




