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一人百物語

ひとつめ

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/18


私の母が、まだ小学校低学年だった頃の話。

母はとある山奥の村で生まれた。

母は七人兄弟の六番目で、年長の兄弟たちとは歳が離れており、兄弟一番目の佐和子姉さんは母より十四歳年上で、母が小学校に上がってしばらくした頃、姉さんはお嫁に行った。

姉さんの嫁入り先は山から下りた海辺の街で、山育ちの母は姉さんの嫁入り先に時々遊びに行く事を楽しみにしていた。

ある日何かの用事で母は母親(私の祖母)に連れられ、姉さんの嫁入り先(義実家)をたずねた。

姉さんと母親(私の祖母)は何かを話していたが、母にはそんな事はどうでもいい事で、さっそく姉さんの嫁入り先の裏にある浜辺へと遊びに出た。

浜辺で貝殻を集めたり、蟹を捕まえたり、岩場の中をのぞいたりして散々遊び、気がつくといつの間にやらあたりは暗くなりかけている事に気付いた。

母はもっと遊んでいたかったが、もう帰らないと叱られるかな、と思っていると

「嬢ちゃん」

と後ろで声がした。

その声に母が振り向くと。

母の後ろにはいつの間にか知らないおじさんが立っていた。

知らないおじさんは褌と頭に手拭いのねじり鉢巻きを巻いただけの姿だった。

そしてその鉢巻きを巻いた頭には


目がひとつしかなかった。


顔の真ん中より少し上にちょっと大きめの、ぎょろりとした目がひとつ。その下に鼻と口が並んでいた。

「……」

母はその姿に驚いたが、目がひとつしか無いのは病気か何かなのだろうと思った。

「嬢ちゃん」

驚いている母に、目がひとつしかない褌姿のおじさんは言った。

「もうそろそろ家に帰んな。でないと人さらいにさらわれっどぉ」

「……」

そう言われて母は急に怖くなり、集めた貝殻をハンカチに包み、おじさんに背を向けて姉さんの家へと走り出した。

すると姉さんの家の方から姉さんと母親(私の祖母)が、母の名前を呼びながらやって来ていた。

「もう帰るで。あれ、この子はまたこんなに貝殻ばっかり」

「姉ちゃん」

「え?」

「あのね、目がひとつしか無いおじちゃんがね」

母は後ろを振り向いて言った。

しかしそこには。

もう誰もいなかった。

目がひとつしか無いおじちゃんに、もう帰れと言われたんだよと母が言うと、姉さんも母親(私の祖母)も、浜にはお前しかいなかったよ、と言うばかりだった。





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