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悪役令嬢のざまぁは、静かなカフェで  作者:


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第七話 名前をつける

 その日、私は店の扉の前に立っていた。


 机と椅子は揃った。

 厨房も、最低限使えるようになっている。

 毎朝ここに来て、掃除をして、湯を沸かし、豆を挽く。


 気づけば、それが当たり前になっていた。

 私は扉を開け、店内に入る。


 窓際の一席。壁際の机。

 カウンターの内側に立つと、自然と気持ちが落ち着く。


 ここでなら、無理をしなくていい。

 声を張らず、愛想を振りまかず、ただ、丁寧に淹れたものを差し出せばいい。


 それはもう、「準備中」と呼ぶには、少し違っていた。

 私は、カウンターの奥で立ち止まる。


 ――名前が、いる。


 看板のためではない。

 呼び込みのためでもない。


 ただ、自分の中で区切りをつけるために。


 この場所を、曖昧なままにしておかないために。

 私は、しばらく考えた。


 この店で、何をしているのか。

 何を提供したいのか。


 答えは、ずっと変わらない。


 休むこと。

 立ち止まること。

 息を整えること。


 ――ルポ。


 その言葉が、自然に浮かんだ。


 休息。

 再び歩き出すための、短い停留所。


 私は、紙とペンを取り、小さく文字を書いた。


「喫茶ルポ」


 それを、扉の内側にそっと貼る。


 外からは見えない。

 けれど、私にはそれで十分だった。


 私は厨房に戻り、湯を火にかける。


 ポコポコと、いつもの音。


 豆を挽く。

 

 ざり、ざり。


 その音は、もうこの場所の一部になっている。


 私は、最初の注文を待つように、

 カウンターの内側に立った。


 扉は、閉めない。

 鍵も、かけない。


 誰かが来てもいいし、誰も来なくてもいい。


 それでも――

 今日は、開店の日だ。


 私は、静かにそう思った。

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