第六話 椅子と、机と
翌日から、私は王都の街を歩いた。
目的は、家具だ。
まずは椅子。それから、机。
大人数で囲むためのものは必要ない。
二人が向かい合えば十分で、
基本は一人で使うことを想定した大きさ。
私は、木工職人の工房と古道具屋をいくつか回った。
最終的に選んだのは、木目の残る、素朴な机だった。
天板は広め。肘を置いても窮屈にならず、本や書類を広げても余裕がある。
触れると、ほんのりと温かい。
椅子と同じく、机もすべて同じではない。
高さや幅が、わずかに違う。
それでいいと思った。
一人で過ごす時間に、決まった形は必要ない。
建物に運び込まれた机と椅子を、
私は一つずつ配置していった。
窓際に、机を一つ。
光を独り占めできる場所だ。
壁際に、机を一つ。
視線を落ち着けたい人のための席。
カウンター前には、机は置かず、椅子だけ。
短い時間を過ごすには、それで十分だろう。
机と机の間隔は、広めに取る。
隣の人の気配は感じられても、視線や声がぶつからない距離。
最後に、窓際の椅子に腰を下ろしてみる。
机は、一人分としては広めだ。
肘を置いても余裕があり、本を開いても、まだ余白が残る。
悪くない。
私は小さく頷き、厨房へ回った。
棚を拭き、器具の位置を整える。
カウンターの木目も、布で丁寧に磨いた。
湯を沸かす。
豆を挽く。
ざり、ざり。
その音は、机と椅子のある空間に、自然と溶けていく。
私はコーヒーを淹れ、
カウンターの内側で、一人飲んだ。
そのときだった。
――こつ。
扉の向こうで、控えめな音がした。
私は手を止める。
看板は、まだ出していない。
それでも、気配は消えなかった。
少し考えてから、
私はカウンターを出て、扉へ向かう。
そっと開くと、見知らぬ男が一人立っていた。
地味な服装。
年の頃は、三十代半ばだろうか。
「あ……すみません」
男は申し訳なさそうに言った。
「まだ、やっていませんよね」
「ええ。準備中です」
それは、事実だった。
男は一度、店内をちらりと見た。
机と椅子。空いている窓際の席。
「……静かそうですね」
それだけ言って、頭を下げ、立ち去ろうとする。
私は、気づけば声をかけていた。
「よろしければ、一杯だけ」
男は驚いたように目を瞬かせ、
やがて、ほっとしたように微笑んだ。
「では……少しだけ」
彼は窓際の机に腰を下ろした。
一人分には、十分すぎるほどの広さ。
けれど、落ち着く。
私は厨房へ戻り、もう一度、豆を挽いた。
ざり、ざり。
この音を、誰かが机に座って聞いている。
それだけで、この場所は、
少し違う意味を持ち始めた。
私は、丁寧に湯を注ぐ。
机と椅子は、人が留まる理由になる。
そんなことを、初めて実感していた。




