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悪役令嬢のざまぁは、静かなカフェで  作者:


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第十八話 静かな評価

 変化は、噂話の形では訪れなかった。


 誰かが褒めたわけでも、推薦の言葉が回ったわけでもない。


 ただ、店に入ってくる人の雰囲気が、

 少しずつ変わっていった。


 喫茶ルポの扉を開ける人々は、派手さとは無縁だ。


 だが、入ってきた瞬間に分かる。


 ――考える人だ。


 彼らは、席に着く前に店内を一度だけ見渡し、

 音と香りを確かめる。


 それから、何も言わずに腰を下ろす。

 私は、それを特別だとは思わない。


 この店では、誰も急がない。


 ある日の午後、

 壁際の席に、紙束を抱えた客が座った。


 万年筆を取り出し、

 何行か書いては止め、コーヒーに口をつける。


 書く音も、カップを置く音も、

 不思議と、店の静けさを壊さない。


 別の日には、

 窓際の席に、分厚い本を抱えた客がいた。


 頁をめくるたび、指先がわずかに鳴る。

 それでも、空気は乱れない。


 集中している人間は、場を壊さない。


 それを、この店に来る人たちは、

 よく分かっていた。


 私は、いつも通りに一杯を淹れる。


 豆を挽き、

 湯を注ぎ、

 蒸らす。


 それだけだ。


 帰り際、壁際の男が、

 ぽつりと呟いたことがある。


「……進んだ」

 何が、とは言わなかった。


 窓際の客は、本を閉じると、

 小さく息を吐いた。


 それで、十分だった。


 ある時間帯になると、

 自然と決まった席が埋まる。


 窓際には、考え込む人。

 壁際には、緊張を解きたい人。


 カウンターには、言葉を交わさずに、

 ただ一杯を飲みたい人。


 互いに干渉しない。

 視線も交わさない。


 それでも、同じ空間を共有しているという

 安心感だけがある。


 私は、それを誇らしいとは思わない。

 そういう場所を、作りたかっただけだ。


 静かで、寂しくない。


 集中できて、追い立てられない。


 評価とは、貼られるものではない。


 使われ続けることで、

 いつの間にか、揺るがなくなるものだ。


 喫茶ルポは、今日も変わらない。


 ただ、この店で過ごす時間を

 必要とする人の種類だけが、増えていった。


 私は、明日の豆を用意する。


 それが、私の仕事だから。

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