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悪役令嬢のざまぁは、静かなカフェで  作者:


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第十六話 選ばれたその後

 部屋は、広すぎた。


 第一王子エドワード・アルベルト・リヒトハイムは、

 机の前に座ったまま、何も書かれていない書類を見つめていた。


 視線は、そこにある。

 だが、文字を読む気力はなかった。


 ――国政への直接関与を禁ずる。


 その言葉は、罰のようでいて、罰ではない。

 猶予でも、叱責でもない。

 ただの、評価。


 それが、これほどまでに重いとは思わなかった。


 誰かに怒鳴られた方が、

 まだ楽だったかもしれない。


 扉が開く音がした。


「どうして……!」

 感情が先に飛び込んでくる。


 リリアーナ・フローレンスだった。


 目は赤く、声は震えている。


「どうして、何も言ってくれなかったんですか!」


 エドワードは、彼女を見た。


 以前なら、その感情の強さに

 守らねばならないと思っただろう。


 今は、違う。


「……何を、考えていた」


 問いは、自分自身にも向けられていた。


「考える必要なんて、なかったじゃないですか!」

 リリアーナは、そう言い切った。


「殿下が、全部守ってくれるって……!」


 その言葉に、胸の奥が痛んだ。

 ――守る。


 それは、誰かの代わりに責任を背負うことではない。

 彼は、それを取り違えていた。


「……君は、あの場で話す立場ではなかった」

 静かな声だった。


 だが、逃げ場はない。


「ひどい……!」

 リリアーナの声が、かすれる。


「わたし、ずっといじめられてきたんです!あの人に……!」

 

 エドワードは、名前を思い浮かべた。

 だが、口にはしなかった。


「……証拠は」

 それは、初めて口にする問いだった。


「そんなの、気持ちの問題じゃないですか!」

 その瞬間、はっきりと理解した。


 ――彼女は、何も背負っていない。


 背負う覚悟も、その必要性も、理解していない。

 そして、それを許してきたのは、自分だ。


「……もういい」

 エドワードは、手で制した。

 感情ではなく、判断として。


「君は、ここに来るべきじゃない」


「え……?」

 リリアーナの表情から、色が消える。


「君には、王城に残る理由がない」

 怒鳴らない。

 責めない。

 ただ、結論を告げる。


「……そんな」

 リリアーナは、言葉を失った。


「わたし、何もしていないのに……」

 その言葉が、すべてだった。


 何もしていない。

 だから、何も残らない。


 彼女が去ったあと、

 部屋には、静けさだけが残った。


 エドワードは、深く椅子に身を沈める。


 ――選んだのは、自分だ。


 守られていたのも、自分だった。

 それを失って、ようやく分かる。


 支えられていたことを。

 整えられていたことを。


 そして、その価値を、理解できなかったことを。


 後悔はある。

 だが、取り戻せるものではない。


 それが、評価の結果だった。


 一方、リリアーナ・フローレンスは、

 王城を去る準備をしていた。


 誰も責めない。

 誰も引き止めない。


 それが、彼女の立ち位置だった。


 怒鳴られもしない。

 裁かれもしない。


 ただ、守られなくなっただけ。


 それが、最も残酷な結末だと、

 彼女はまだ知らない。

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