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悪役令嬢のざまぁは、静かなカフェで  作者:


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第十二話 静かな断罪

 その日、王城の大広間には、多くの貴族が集まっていた。


 名目は、定例の政務報告。だが誰もが理解している。

 隣国との外交交渉が破綻した件について、正式な説明と判断が下される場であることを。


 広間の奥、玉座には国王が座していた。


 病を理由に政務の前線から距離を取っていた王が、

 今日に限って姿を見せている。それだけで、空気は否応なく引き締まった。


 第一王子――

 エドワード・アルベルト・リヒトハイムは、

 玉座より一段下の位置に立っていた。


 かつての自信に満ちた表情はない。

 ただ、強張った顔で前を見据えている。


 宰相が一歩前に出た。


「先日の外交会談について、経緯と判断を報告いたします」


 声は淡々としていた。

 そこに感情はない。事実だけが、順に並べられていく。


 事前に交わされていた書簡。

 合意されていた条件。

 そして会談の場で、エドワードがそれを感情的に覆した発言。


 一つ一つが簡潔に示され、

 反論の余地は残されていなかった。


「以上により、隣国は我が国に対し、

 強い不信を抱いております」


 広間に、低いざわめきが走る。


 エドワードは拳を握りしめ、

 一歩前に出た。


「……待ってください」


 声は低いが、わずかに震えていた。


「私は、民のためを思って発言しただけです」


 宰相は、彼を見た。


 咎めるでもなく、諭すでもなく、

 ただ“評価する者”の目だった。


「エドワード殿下。

 その“民”とは、具体的にどの層を指しておられますか」


 答えは、返ってこない。


「そして、殿下がその場で口にされた内容は、

 誰が事前に精査しましたか」


 沈黙。


 宰相は続ける。


「これまで殿下の発言は、

 常に事前調整が行われておりました」


 貴族たちが、息を呑む。


「その調整を担っていたのは――

 アデリア・フォン・ローゼンベルク嬢です」


 エドワードの肩が、目に見えて揺れた。


「彼女は、殿下の言葉を縛っていたのではありません」


 宰相の声は、変わらない。


「殿下を、守っていたのです」


 重い沈黙が、広間を満たす。


 そのときだった。


「……十分だ」


 玉座から、低い声が響いた。

 国王が、初めて口を開いた。


 広間が完全に静まり返る。


 国王は、エドワードを見下ろした。


「エドワード」


 そこに、父としての情はなかった。

 あるのは、王としての判断だけだ。


「お前は、王になろうとしていたのではない」


 言葉は短く、しかし重い。


「王の立場を、借りていただけだ」


 エドワードは、何も言えなかった。


「よって」


 国王は、宰相へ視線を移す。


「第一王子エドワード・アルベルト・リヒトハイムには当面、

 国政への直接関与を禁ずる」


 それは、事実上の失脚だった。


 異を唱える者はいない。

 それが、国家としての結論だった。


 エドワードは、その場に立ち尽くしていた。


 罰ではない。

 感情でもない。


 ただ、王としての評価が下されたのだ。


━━━━━━━━━


 一方、王都の外れ。


 喫茶ルポでは、いつもと変わらぬ午後が流れている。


 厨房では、豆が挽かれていた。


 ざり、ざり。


 湯が注がれ、

 香りがゆっくりと広がる。


 ここには、

 エドワードの失脚も、

 リリアーナ・フローレンスの涙も届かない。


 ただ、

 一杯のコーヒーと、立ち止まるための時間があるだけだ。


 悪役令嬢のざまぁは、怒号の中で起きない。


 王の判断と、静かな場所の積み重ねによって、

 すでに終わっていた。

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