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Little Boogie man & Me 小鬼と俺の黄泉奇譚  作者: クリステル


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8/8

「She came in through the bathroom Window」


毎日風呂に入るのは日本人くらいだというけれど…、

そう、御多分に洩れず俺もほぼ毎日風呂に入る。そして長風呂だ。最低でも1時間はバスルームから出ないだろう。

前回女王様から頂いた能力は〝風呂場テレポーテーション〟だ!

クソッ!


①行き先の風呂をイメージする。


②深く潜る。


③風呂から顔を出すとテレポーテーション完了。


こんな能力クソ喰らえだ!

問題は二つ。

①そもそも他所の風呂なんか知らんからイメージしようがない。

②裸で移動してどうする? よしんば服を着て風呂に潜ったとして、行った先でビショビショの服でどうする?

極穏便な言葉を選んで俺は女王様に文句を言ったんだ。商品の中身も教えずに対価を先払いさせるなんてペテンだから返品させろと。

「オーケー、ご不満なのね。じゃあオマケをつけちゃうわ!」

そんなの口実で二回戦がしたかっただけに決まってる。貰ったオマケ能力は〝お風呂場グッズと話しができる能力〟だった。

「あーお疲れ様。新入りのボディシャンプーに髪まで洗わせてるってどういう事っすか?」

「やめなさいよアナタ。そんなカサついた物言いするんならいっそリンスインシャンプーにしてもらっちゃうわよ!」

風呂場がうるさくて落ち着けない!

いっそスーパー銭湯にでも行くかとも思ったが、家よりうるさくなりそうで諦めた。



「ジョーン!」

「Did you call me ,dad ?」

「オイオイ、よせよ父ちゃんなんて呼ぶのは。」

満更でも無い俺。

「着替えたら出かけますよ。」

最近〝ジョンが生き返ったらしい〟と口コミで噂が広がって〝小鬼ジョンレノン〟は人気者になりつつある。今夜も桜ヶ丘インジャゴでライブだった。

トップバッターは貧乏神が見えなくなって絶好調の武蔵さん。いい感じに酔った赤いクシャクシャな笑顔で今夜もマダムたちをとろけさせる。

二番手上野まこと。愛用のセミアコで若いくせに渋みと暖かみのあるギターでオリジナルソングを歌う。俺が知る限り最高のロック詩人だ。

今夜のトリの小鬼ジョンが歌う頃には狭いホールは満員御礼、オールスタンディングで酸欠状態だった。


「かんぱーい!お疲れ様ー!」

ライブ後の歓談タイム。お酒も進み馬鹿話しに華を咲かせる。

「こないだのFBI 事件、すごかったっすね!アベさんとお二人も捕まっちゃってビックリでしたよ!」

「あぁ、アレは人違いだったって。でもスリリングな経験だったね。」

適当に誤魔化す俺。

「そー言えばアレ以来座敷童さんと貧乏神さんの姿が見えないんすけど…。」

「あー、アイツらね、転勤移動になったって。」

誤魔化してばかりの俺。

「そー言えば知ってます? マーク・チャップマンが釈放されたってニュース?」

上野まことが通な話題をぶち込んできた。

マーク・チャップマンは本物ジョンレノンを射殺した犯人だ。刑期はとっくに終わっていた筈だったが、暗殺を危惧して収監され続けていたのだ。

「そー言えばThe Rolling Stonesのキースも〝アイツが出てきたらオレが必ずぶっ殺してやる〟なんて言ってたし、キースじゃなくてもそう思ってるやつらは五万といるでしょうね。」

物騒な話しである。



今回インジャゴ土日の2デイズ。日曜の朝はお寝坊してお風呂でポヤポヤ長湯していたら風呂の窓がガラリと開いた。

「Hi, nice to meet you again!」

風呂の窓の外にポール・マッカートニーが立っていた。

「あ、どうも…。」

「あなた、ジョンに言ってくれましたか? あの世で?」

「あ、あぁ、気にすんなって言ってましたよ。

本当はもっと辛辣な物言いだったけどソレは言わんとこう。

「オー、それは良かった。やはりアナタに頼んで正解でした。ところでワタシ、リトルブギーマンのジョンを観に来ました。今夜歌いますか?」

「あ、はい。桜ヶ丘インジャゴで7時オープンです。」

「オーケー。また会いましょう!」

まじか! どんな騒ぎになるか想定出来ないから、取り敢えずサー・ポールが来ることは内緒にしておこう。

「He came in through the bathroom Window♪」

お風呂場グッズが大合唱!

「うるさーい!だまれ!」



7時少し前にインジャゴに入ったが、サー・ポールはまだ来てないらしい。

今夜の演者はインジャゴマスタージュン。荒削りなイカレタロックと心に響くしんみりバラードで客の心をガシッと掴む。

ジュンが歌い終わり店を見回すと、怪しい二人連れの外人がいて、俺の方に手を挙げて挨拶してきた。どうやらサー・ポールとお付きの人は変装して来てくれたらしく、ホッと胸を撫で下ろす。

2番手は以前ポセイドンアドベンチャーで一緒だったユキとジギの兄妹ユニットだ。相変わらず繊細なジギのギターに、伸びやかなユキの歌声。そして二人のハーモニーは昇天ものだった。サー・ポールも大満足で拍手喝采している。

そして今夜もトリの小鬼ジョンレノン。セットリストは…。

①A Hard Days night

②If I Fell

③Don't Let Me Down

④I've Got a Feeling

⑤A Day In the Life

完全にサー・ポールを釣りにいったセトリである。

案の定、一曲目のBメロからサー・ポールは我慢ができず、変装に被っていたハゲズラを脱ぎ捨ててステージに上がってジョンと歌い始め、インジャゴは興奮の坩堝であった。



俺は初め酔っ払い客だと思ったんだ。

だから気にも留めなかった。

ラストのA Day In the Lifeが終わり観客のボルテージは最高潮に達した。

一人の男がステージに上がりマイクを掴んで辿々しい日本語でこう言った。

「ミスターレノン! サインをして下さい!」

右手にはペン…。そして左手にあったのは〝キャッチャー・イン・ザ・ライ〟。

そう、忌まわしいあの本だ。

なんで襟足チリチリの警報が作動しなかった?

せっかく女王様に貰った未来を読む能力は?

その本を見てピンときたが遅かった。

男はペンを捨ててポケットからナイフを取り出して無造作にグサグサグサと小鬼ジョンの腹部にナイフを突き刺していた。何回?

分からない…、何回もだ。

ポールのお付きの人が何か大声で叫ぶ。

サー・ポールはその人に向かって、

「キース!」

と叫んだと思う。その声にハッとして彼を見ると、そう、キース・リチャーズだった。

キースは背中から銃を取り出してステージの男に向かって、バンバンバンと撃ち放った。

男は倒れたが、ジョンもお腹を真っ赤な血に染めて倒れてしまった。

俺は観客をかき分けてジョンの元に駆け寄って抱き起そうとしたが、ステージに流れた夥しい血に滑って上手く起こしてやれなかった。

銃声の耳鳴りのせいで全ての音が遠くから聞こえるようで、まるで現実味がなかった。

救急車と警察が来るまで、俺はジョンの亡骸を抱きながら只ひたすら泣いていた。

そんな自分もまた現実味がない映画の中の世界にいるようだった。

FBI と書かれた帽子とジャンパーを着た女王様が俺を近くで覗き込んでいた。そしてふと我に返った。

「そもそもヒトじゃないんだから死んだりしないよね?」

女王様は悲しげに首を横に振った。

「変化している間はヒトなんだよ。」



世間では事件をスキャンダラスに扱っていた。

「ジョンレノン、マークチャップマンに2度殺される!」

DNA鑑定の結果も小鬼はジョンレノンと特定された。変化の精緻さが彼を殺したとも言える。

俺は相棒への愛の大きさに驚いていた。



何もする気が起きない。

ダメだ、風呂にでも入ろう。

「風呂嫌いなクセに彼がいつも洗ってくれた。」

バスタブが沈んだ低い声で呟く。

そう、俺のためにいつも風呂を洗ってくれていたんだ。

「潜っちゃえば?」

「潜っちゃいなよ」

シャンプー、リンスカップルが囁く。

「何言ってんだお前ら? 潜って何処に行けって?」

「僕のいない世界に…。」

今度はボディシャンプーだった。

「えっ…?」

「あっ!」

閃いた途端に俺は潜っていた。イメージしたのは自分の家のコノ風呂!

ボディシャンプーを買う前の家の風呂だ!

深く深く、潜れ潜れ!

「プハーーッ!」

「ジョーーーーン!」


「Did you call me ,dad ?」


エンディングテーマ

She came in through the bathroom Window

Lennon=McCartney

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