陰陽師レジェンドがやってくるヤーヤーヤー
いつも俺にくっついている小鬼が、独りにして欲しいと言ったのは式神昇進試験の合否発表の朝だった。
家にPCくらいあるが、ネカフェで見て来ると言って(ゼスチャーでね)出て行ったのは2時間前だった。
遅いな…。
チョット心配になって来る。母親の期待が過度な子供は壊れやすい。ガキの頃に仲の良かった友達がソレで自殺してしまったんだ。流石に鬼の自殺は無いとは思うが…。地獄のプリンスという立場上、プレッシャーは並々ならぬものがあるだろう。
ちょっと行って来るか…。
さて、どうやってアイツを探したものか…。
ネカフェはブースが細かく仕切られている。小鬼はそもそも会員カードなど持っていないし、殆どの人間には小鬼の存在は見えないのだ。きっと勝手に何処かのブースにはいりこんでPCを弄っている筈なんだが…。
「あっ!」
奥のブースが開いて小鬼が手招きしている。
「どうしたんだ? 遅いから心配したぞ…、うわっ、なんだお前ら!」
小鬼の両脇に人ならぬ者が立っていた。右側にはボロ着を着た見窄らしい小さな爺さんと、左側には赤い小袖を着た小さな散切り頭の子供だ!
「まじか⁉︎」
俺はこの二人の正体にピンときたが、このセットは超レアだと言わざるをえないだろう。
幸福をもたらす〝座敷童〟と貧乏を呼ぶ〝貧乏神〟のセットだった!
「どういう事?」
「This is the first mission of becoming a shikigami ! 」
「えっ? なんで英語? 英語は喋れるって事? えっ? 式神試験受かったって事?」
色々疑問が渋滞中…。
「Yes ! 」
小鬼ニコニコ。で…、どれにイエス?
「 I have to find a place to live in.」
「えーっと…、彼らの住む場所を探すのが最初のミッション?」
「Please help me, Master.」
なんとも小鬼Englishは気持ちが悪いし、例によって2匹は喋らないらしいし…。
「なんすか、センパイ? その気持ち悪い奴等は!」
コイツらの住まいに最初に思いついた桜ヶ丘のライブバー〝インジャゴ〟のマスター〝ジュン〟の言葉だ。
「お前、コイツらが見えるのか?」
「そんな気持ち悪いの3匹も連れて、センパイそーとーヤバいっすよ!」
「じゃあ話しが早い。紹介しよう、小鬼と座敷童と貧乏神だ。」
3匹は丁寧に腰を折ってジュンに挨拶をした。
「あ、あぁ…、どうも…。」
「お前、この2匹を飼っちゃくれないか?」
「えっ? 2匹って…、座敷童と貧乏神さんですか? ソレってアレっすよね…?」
「そう、♪プラスマイナス50点♪
だよ!」
小鬼の説明ではこうだ。
座敷童と貧乏神はそもそもセットで、住み着いた家にはなんの禍福も招かない。そこに訪れた者がどちらを見るかによって、その者に禍福を招くらしい。要するに両方見えるジュンは彼等の住まいの提供者として適任だという事だ。いちよう俺も適任者だが、2匹の住まいとしては人の出入りが多い方が良いらしいのだ。
「へぇ〜、そうなんすね。いいっすよ、なんか面白そうだし!」
ジュンのそういうところを俺が愛する由縁である。
「よし、お礼に良いもの観せてやろう。小鬼くん、アレを頼むよ!」
俺が指をパチンと鳴らして合図すると、小鬼はたちまち変化して白いスーツ姿のジョンレノンになった。
「♪Mother you had me ! ♪」
「オー! ジョンだ! でも、何でその曲?」
「まぁまぁ、小鬼にも色々あるんだよ。」
俺達は〝小鬼ジョンレノン〟の〝なんでその曲?生ライブ〟をタップリ2時間楽しんだ。
あの世から帰ってからもう一月経ったが…、
せっかく閻魔様に頂いた未来を見る能力をまだ使ってない事に今気がついた。そもそもこの能力って要る?
元々危険を察知する能力があるんだし…、それで十分な気がするでしょ?
「ジョーン!」
よっぽど気に入ったのか、小鬼は普段からジョンレノンに変化しっぱなしだ。
「Did you call me ,master ?」
「ちょっとココに座りなさい。」
「OK!」
俺は小鬼の両手を握って精神を集中する…。
そう…、女王様はあの時俺に言ったんだ。この能力を使うときは一つのビジョンをイメージしなさいと。
具体的には…、体操着とブルマ姿の女王様だ…。
精神を集中……。
よしよし…、ビジョンが見えてきた。
いや、精神を集中してるつもりが…、下半身がソワソワしてきた…。
「ワオッ!」
「Hey, What's wrong, Master?」
「平安時代の装束を着た爺さんだ。その爺さんが〝坊主!〟って叫んでた!」
「Oh, my God!that's my dad!」
「父ちゃんって、安倍晴明か⁉︎」
小鬼にしては珍しく笑顔無しの恐怖の表情だ。
〝Mother you had me…〟
おっと、コレは俺のスマホの着メロだ。
「もしもし…、おー、なんだジュンか、どうした? うーんわかった、後で顔出すよ。」
ジュンは座敷童と貧乏神を預けたライブバー〝インジャゴ〟のマスターだ。二人の事で何やら相談があるらしかった。
「あーどうも、センパイ!わざわざすいません。」
いつもと変わらずお気楽なジュンだったが、今日は彼女のミキちゃんが店を手伝いに来ていた。彼女はプロの占い師で、今タロットをテーブルに広げていて、その前には座敷童と貧乏神がお行儀良く座っていた。
「実は武蔵さんの事なんすけど…、どうも見えちゃったらしいんですよ。」
「見えたって、どっちが?」
「貧乏神さんの方に決まってるじゃないっすか。」
言わずもがなである。
武蔵さんはインジャゴの常連客でありギターで弾き語りをする演者でもあった。還暦過ぎのダンディなおっさんで歌も上手く、何より妙な愛嬌があり、店の皆んなに愛されている。お酒が大好きで酔うと更にその愛嬌が増す一種の艶福家だろう。いつも〝イイ女〟を連れている。
武蔵さんのウィークポイントは〝パチスロ〟だった。その所為でいつもカツカツの生活をしている。そんな武蔵さんが貧乏神に魅入られたなら自己責任とはいえお先真っ暗、ジュンでなくても心配になってくる。
本人は今日の演者の一人らしいが、貧乏神を見たショックからか店の隅のテーブルで頭を抱えていた。
「で、ミキちゃんの見立ては?」
「金運は底を突き破ってるらしいっす。」
「ジョン、何か打つ手は?」
「Nothing to do, sir. 」
「そっか…。」
「とりあえずギャンブルだけは当面自粛するように言っときますよ。ところで、今日の演者にお初の人がいるんすけど、見ていきませんか?」
「なんていう人?」
「えーと、〝アベノハルカス〟とか言ったかな…。」
嫌な予感しかしない…。
「ハアーッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ! 良き店かな良き店かな!」
和装のアベノハルカスはまるで狂言の言い回しで唐突に入って来た。
「あ、どーも、アベさんですよね。今日は宜しくお願いしまーす!」
「おー、木村氏ですな? 一つよしなにお頼み申す。」
〝きむらうじ〟ときたか! これぞ本当の時代錯誤!
「Hi , dad!」
「おー、坊主、久しぶりじゃな!」
ジョンレノンに変化していても流石に息子がわかるらしい。しかし、ジョンに作り笑顔一つないのが気がかりだ。
「おー、そなたが新進気鋭の陰陽師殿じゃな、坊主が世話をかけてますな。」
俺が地獄で関係を持った閻魔女王の元夫にして陰陽師レジェンドに返す言葉が見つからない。
「こちらこそ、色々助けられてます。」
当たり障りのない挨拶が出来た俺。上出来!
そうこうしてる内にライブが始まった。今日の一番バッターは元気のない武蔵さん。お酒を呑んでもいつもの精彩も愛嬌も色気も上がってこない。コレは重症だ。
二番手は本物陰陽師、アベノハルカスこと安倍晴明。なんと取り出したのは歴史の教科書でしか見たことのない〝琵琶〟だった。
「ベベン! 祇園精舎の鐘の声〜、諸行無常の響あり〜♪」
コレは古文の授業で習ったぞ! 確かそう、「平家物語」だ! メロディは演歌調かと思えば洋楽風になり、J-popかと思えばクラッシックに転調するという、圧巻のパフォーマンスに、店内の客を驚愕で釘付けにした。
そして本日のトリは我が相棒、小鬼ジョンレノンだ。
「Mother you had me!」
小鬼がここぞとばかりに十八番の「Mother」を熱唱してパパに苦い顔をさせたのには、俺も拍手喝采させてもらった。
30分づつ、三人三様のパフォーマンスが終わり歓談タイム。ライブバーの醍醐味はソコにあったりする。俺としては、この得体の知れない陰陽師が今日現れた目的に関して探りを入れておかなければ落ち着かなかった。
「ミキ殿は占術をなさるのですか?」
意外なところに絡んできたが、さもありなん。
「いえいえ、私なんてまだまだ勉強中なんです。」
謙虚で可愛いいミキちゃん。
「ミキ殿には土御門の血が流れておりますな?」
質問というよりは断定的な物言いである。
「えっ、そうなんですか? 私あまりそうゆうの疎くて。」
「ヘェ〜、土御門って言えば安倍晴明の血筋っすよね?」
何故か歴史だけは詳しいインジャゴジュン。
「ほぅ、木村氏はお詳しいですな。かく言うワシもその筋の者で占術も多少嗜んでおります。」
その筋の元祖がよく言う。
「えー、マジっすか! じゃあちょっと武蔵さん見てもらいましょうよ。今この人貧乏神に魅入られちゃって大変なんっすよ。」
「ほうほうどれどれ、観てしんぜよう。」
ヤケ酒でヘベレケ武蔵さん、少し目が据わっている。
「あれぇ〜.何処かでお会いしましたかぁ〜?」
「どれどれ、ほうほう…。」
晴明の瞳が怪しく光を帯びて武蔵さんを覗き込もうとしたその時だった。
〝ばーーーん!〟とバーの扉が開き、
「 F B I! Freeze!」
数人の武装集団が入ってきて晴明を取り囲んで椅子から引き摺り下ろし床に押さえ付けて無力化してしまった。あっという間の出来事だった。
さらに彼等はジョンと俺にも手錠をかけて、外に連れ出し、待機してあったFBIと描かれた映画でよく見る車に押し込んだ。
そして俺とジョンを連行したFBIが防弾ヘルメットとサングラスを取ると、なんと閻魔女王様がニコリと笑いかけたのだった!
「座敷童と貧乏神は潜入捜査員で彼等から晴明が来ると連絡があったの。」
もう、混乱するしかないジョン&ミー。
「晴明の狙いは武蔵さんよ。」
以下は女王様の説明である。
嘉吉元年(1441年)当時魔王と恐れられていた将軍足利義教が、合戦の祝勝の能演を献上するとして自宅に招いた赤松満祐に殺された。〝嘉吉の乱〟である。その時あの世では赤松に〝魔〟を挿したとして、当時魔王の座にあった晴明が疑われた。容疑は現世への違法介入であったが証拠不十分で起訴と処分は見送られた。
次いで天正十年(1582年)やはり魔王として恐れられていた織田信長が明智光秀に討たれた本能寺の変の際に晴明の関与が浮上し、明智の元へ使いに走った式神の自供もあり、有罪、免職となったが、獄門島への護送中に看守を倒して逃走。以後晴明の消息は杳として知れなかった。
「それが武蔵さんとどう関係があるんですか?」
「彼は〝義則公〟〝信長公〟の生まれ変わりよ。」
風雲児と呼ばれるタイプは乱世でこそ英雄にもなるが、太平の世に生まれれば〝箸にも棒にもかからない〟人生を送るらしい。
「しかし、なんで晴明さんは風雲児に執着するんですか?」
「晴明の土御門家と魔王には少なからず因縁があるって専らの噂だわ。でも真相は晴明の心の闇の中ね…。」
成る程そんなものか…、とボンヤリ考えていると、女王様の目の色が急変した。
「ところでアナタ…、私があげた〝能力〟役に立ったでしょ…。」
なんだか急に悩殺モードだ。
「また別の〝能力〟があるんだけど…。」
「ギターを弾いて歌う能力でしたら…。」
「ソレはまたいつかあげるわ…。」
「御子息が見てますけど…。」
小鬼ジョンレノン、困り笑い…。
♪Mama don't go!
Daddy come home!♪
エンディングテーマ
ジョン・レノン
「Mother」




