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Little Boogie man & Me 小鬼と俺の黄泉奇譚  作者: クリステル


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「閻魔のひと」

〝ポチまろ〟登場!

俺と小鬼は河を渡っていた。

餓鬼の使いの〝牛頭〟が来たのだった。

「閻魔様からのお言伝けです。小鬼様には式神への昇進試験を受けられますように。それから、小鬼様がお世話になっているあなた様にご挨拶がしたいので御同行下さいますように。」

そんなわけで俺たちは今〝三途の川〟を渡って〝黄泉の国〟へ向かっているってわけだ。


世間では誤解しているようだが三途の川は何処にでもある。例えば今回舟に乗ったのは相模川だった。特別なのは舟なのだろう。これは謂わば泥の舟だ。餓鬼が櫂を漕ぐ泥舟は次第に沈んで行くが、河の底にまた河が流れていて、それが三途の川なのだった。俺たちは相模川の川底を流れる三途の川を渡っていた。

沈んでいっても濡れている感じはなく、船に乗り込んだ時、餓鬼に渡された〝地獄酒〟のお陰なのか川底でも苦しくはなかった。

若しくは俺がおっ死んでいるかのどちらかだ。黄泉の国へいくんだからそうであっても可笑しくは無いだろう。



舳先に座る小鬼が振り返って10時の方向を指さした。何かが河を泳いでいる。遠目には何か分からなかったが、どうやら犬のようだ。俺たちは今にも溺れそうな犬掻きをする犬を掬い上げて舟に乗せてやった。

「ぷわーっ、あ、ありがとうございます。」

なんと、話しをする犬だった。

「なんで犬は自力で泳いで渡らなきゃならんのですかね? 三途の川で溺れ死ぬなんて悪い冗談でしょ? あっ、俺ポチまろっていいます。」

「ポチまろさんはあの世へ向かう途中でしたか?」牛頭が尋ねた。

「そうなんすよ!飛行機の貨物室で寝ていたらどうやら墜落したみたいでして。」

「それは難儀をされましたね。ところでこの舟は黄泉へ向かってる途中でして、少々ルール違反ですが、これもご縁ですから送って差し上げましょうか?」

「本当っすか? それはまさに〝渡りに舟〟ってやつですね。ところで…、御一行は〝鬼退治〟ってわけじゃ無さそうですよね…。」

話しをする犬が仲間になった。



暫く行くと舳先に立つ小鬼がまた振り返って、今度は右舷1時の方角を指差した。見えたのは我等と同じような泥舟だ。

♪オレの借金全部でナンボや♪

聞き慣れた歌声が聞こえて来る。

「おーい、ろくちゃ〜ん!」

舳先でアコギを抱えて楽しげに歌っていたのはついさっき会ったろくちゃんだ。

「おーい、どうした?おまえも死んじまったのか?」

「そうじゃないんだけど、野暮用でね。お先に失礼!」

「あー、ちきしょう早えーな。おい、もっとスピード出せよ、餓鬼、こら!」

あっという間に我等に追い抜かれたろくちゃんは、漕ぎ手の餓鬼に文句タレながら舳先で地団駄踏みながら小さくなっていった。


暫くすると川岸が見えてきた。あれが黄泉の国なのだろう。一見したところ対岸の相模川と変わり映えはしないが、人出の多さは際立っていて、差し詰め連休中の相模川のバーベキューってとこか、中には団体さんも見受けられた。

「あれは先日の飛行機事故様ご一行ですね。」

餓鬼がご丁寧に説明してくれる。

「あー、あの中にお父さんとお母さんがいるよ!」

話しをする犬は飛行機事故ご一行様の方へ走っていった。


閻魔の庁への道すがらまさに〝地獄絵図〟だった。先ずは散々脅かしておこうという演出らしい。どんな地獄絵図かは割愛する。お楽しみはとっておいた方がいいだろ?


閻魔の庁へ着くと待合室で待たされ、暫くするとアナウンスが聞こえてきた。

「小鬼ご一行様、閻魔様が面会しますので執務室までお通り下さい。」

俺たち小鬼ご一行様は閻魔の庁の奥、執務室へ進んだ。

ガチャリと餓鬼が執務室の扉を開けて中へ入ると、正面のデスクには三十路過ぎの妖艶な色気を放つ美女が和服姿で我等を待っていた。

「小鬼様とお客人をお連れしました。」

餓鬼が丁寧に言うと小鬼は美女に深々と一礼したので、俺も小鬼に倣って気をつけ、礼。

「ボクちゃ〜ん、会いたかったわ〜!」

なんと、美女がデスクから駆け寄って小鬼にハグハグして頬ずりしだした。

コレってどんな展開?

俺が餓鬼に視線で?マークを送っても、餓鬼は俺と視線を合わせないようにわざと明後日を向いている。

「あらやだ、お客人の前で…。この子何も喋らないでしょ? 御免なさいね。」

美女からやっと解放された小鬼は困り笑い。

「私はこの閻魔の庁の主人で、ボクちゃんは私の一人息子なの。」

青天の霹靂 part 2である。


「あなた囚人の件でこの子がしくじりそうになったのをフォローしてくれたでしょ。だから暫くあなたについて修行するように言ったの。あっ、試験は明日だから!」

最後のは、まるで別人のように冷たく小鬼に浴びせられた言葉で、小鬼さらに困り笑い。

「式神になったらもう少し色々な力を出せると思うから、あなたに引き続きこの子を指導してもらいたいの。」

なんとも意外な展開である。

「俺と一緒にいて修行になるかはわかりませんが…、コイツ…、あ、御子息とは馬が合うって言うか、一緒に居て問題ないですよ。」

「そう、よかったわ。いま元旦那と親権で揉めてるから手元におけないのよ。元旦那って此処の元主人なんだけどね。」

なんだか、あの世も現世と大差なくイロイロあるらしい。

「あっ、そうだ!俺コッチで人探ししなきゃなんないんですけど、ジョンレノンって人こちらに来てますかね?」

「あぁ〜…、宗教なんか無いって言ってた異人さんね。確か〝無宗教〟って言う宗教の神様やってるわ。おい、餓鬼!客人を案内してやんな。」

どうも今の閻魔様は性格に二面性があるようで、餓鬼に対する態度はまるで極妻のようだ。



〝コンコン〟

俺は餓鬼の牛頭の案内でジョンレノンの神の家を訪ねた。

「Yeah! Yeah! Yeah! キミがもし孤独なら僕と話しが出来るよ!」

そー来たか!

「丘の上の馬鹿なセイウチからご伝言ですよ!」

「オー、それはポールの事だね!どうぞ、come In!」

〝無宗教〟の神の部屋は白いピアノが置かれた真っ白な部屋だった。

「想像してごらん!」

「サー・ポールはクレジットの名義変更の件であなたが気分を害されていないか非常に気にされております。」

「オーマイガッ!だからポールは丘の上の馬鹿なんだ!未だに僕と張り合っているつもりなんだから。人が神と張り合ってどうする?そんな必要が無いことくらい想像すればわかるだろ?」

「では、そんな些細な事はあなたは気にしてないのですね?」

「想像してごらん?」

どうもこの人は調子が狂う。

「俺の想像通りなら良いのですが…。」

「そんなことより、これから〝毛沢東〟の家に花火を打ち込みに行くんだが、一緒にどうだい?」

どうも〝天才〟にはついていけそうにない。俺は丁寧にその悪戯のお誘いをご辞退申し上げて神の家を出た。


あの世での宿舎に当てられた部屋に戻ると、小鬼は机に向かって必死に試験勉強をしていた。

邪魔しちゃ悪いから俺はその辺に置いてあった〝人生ゲーム(地獄編)〟を餓鬼の牛頭としていた。

「ボクちゃ〜ん、ちゃんと勉強してまちゅか〜?」

夕方、執務を終えた閻魔の母君が顔をだした。どうもこの親子の関係性がわからない。

「あらお客人、ジョンには会えたの?」

「はい、お陰様で用事は済みました。」

「そう、良かったわ。娑婆も相変わらず大変でしょ?」

「そりゃもう、ヒッチャカメッチャカですね。」

「此処に来ると皆んな口を揃えて言うのよ、娑婆の方がよっぽど地獄だったって。賽の河原から庁舎までの地獄ショーを見たでしょ?」

「そりゃもう地獄そのものって感じでした。」

「あれは餓鬼どもに演らせてる演出なのよ。」

女王はペロリと舌を出した。

「マジっすか?」

「血の池はトマトジュースでマグマはオレンジジュースなの。」

なんとまぁ、此処はテーマパークか?

「此処でやる事は来世の振り分けだけで、悪行に刑を課したりはしないわ。」

「じゃぁ、嘘つきは舌を抜かれるとかも…?」

「人は嘘をついて騙される生き物だからこれだけ繁栄したのよ。これ人類学の常識!まぁ、あんまりにも邪悪な人間は来世は畜生に堕とすわ。毛沢東の来世は豚ね。」

そんな感じなんだ。

「あっ、一つ聞いていいですか? 式神って…?」

「式神は人の善行と悪行を見分けて陰陽師に使えたりするの。変化の能力もあるわ。」

「陰陽師っていうと、安倍晴明とか…。」

女王の顔色がたちまち曇って眉間に皺が寄った。

「そいつが元旦那。元閻魔大王。ボクちゃんの親権で係争中。」

「あっ、…そうなんですね。」

そこが地雷だったかぁ。

「でも、小鬼が式神になっても今の時代陰陽師なんているんですか?」

「そうね、自称陰陽師はけっこう居るけど、本物はいないわね。でもお客人!」

「あっ、はい。」

「あなた才能有り有りだわ!」

マジか!

とんでもない言葉を投げつけて女王は部屋を去っていった。

その夜は、〝陰陽師って何するんだ?〟とか〝陰陽師って職業か?〟とか様々な疑問が俺の頭に降り積もって寝付けなかった。小鬼は文字通り、徹夜で一夜漬けの試験勉強だった。

今は亡き友ろくちゃんに捧ぐ。

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