「真夜中の公園で天使と踊る」
ショートスリーパーという程ではないが最近睡眠時間が短くなった。
平均8時間から5時間へ。日中寝不足感もなく、疲れが溜まるという事もない。
原因は不明だ。不安やストレスで眠れないという事でもなく、只眠れないのだ。体質が変わったとしか言いようがない。
一日3時間は大きいが何をしていいかさっぱりわからない。
「わたしもショートスリーパーなの。」
「え、あぁ、そうなんですか…。」
夜の公園のベンチで天使に声をかけられた。
「変わったお連れさんですね。」
「あぁ、コイツの事は気にしないでください。害はないですから。」
天使だから〝小鬼〟が見えているらしい。
「こうしない? 毎晩一緒にお喋りしたり散歩したりするの。独りで時間を潰すなんて馬鹿げてるわ。」
「それは助かります。時間が余っても何をしていいかわからないんです。」
「よかった。じゃあ取り敢えず〝鬼ごっこ〟なんてどうかしら?」
この天使のユーモアのセンスには脱帽だ。コレを受けた小鬼の困り笑いの表情に二人して大笑いさせてもらったのだ。
夜の公園で2時間、二人と1匹はヘトヘトになるまで鬼ごっこを堪能した。
「じゃあ、また明日!」
そんな懐かしいような会話を交わしたその夜、家に帰るなりベッドに沈み込み、夢も見ずに眠った。
次の夜、天使が〝隠れん坊〟をしようと言い出し、二人で小鬼をいじめっ子みたいに睨むと、なんと、小鬼は顔をクシャクシャにして涙を流し出してしまった。
「あらあら、ごめんね、小鬼さん。毎回鬼じゃ嫌よね。じゃあ、今日はわたしが鬼をやるわ。」
天使は鬼にも優しいのだ。
「1、2、3………10。もーいーかい!」
俺が隠れたのは滑り台にもなる黄色い潜水艦のオブジェで、トンネルを潜って中の梯子を登って2階に上がれるようになっている。小鬼は公園の隅のキンモクセイに登っていったようだ。
「もーいーよ!」
紛争地を渡り歩いてきた俺は隠れるのが得意だ。本気を出せば一切の気配を断つ事が可能だが、今夜は小鬼よりも先に天使に見つけて欲しかった。
「♪We all live in a yellow submarine! みーつけたー!」
「参ったな…。」
潜水艦の2階へ登る梯子の穴から歌いながら顔を出した天使の笑顔には心底参った。
こんな毎日が続くためならどんなものでも差し出すだろう。
だが諸君、素晴らしい日々は永遠には続かない!
「小鬼は?」
「あの子が隠れる場所ならわかってるわ。北東の鬼門にあるキンモクセイね。でもアナタを先に見つけたかったの。ごめんなさいね。」
前回〝カミナリ〟に打たれて以来気になっていた事がある。それは新しく授かった能力の事だ。〝自分の望みを相手に移す〟能力である。
「あなたカミナリに撃たれたのね。」
「えっ? なんでソレを…?」
「あなたは自分の望みを他人に移す能力を貰ったと思っているみたいだけど…、あなたが貰ったのは〝自分の思っている事が顔に出る〟能力だわ。」
「えぇ!! そうなのー?」
なんだか急に顔を見られるのが恥ずかしくなってきた。いや、ちょっと待てよ。それって彼女が天使だから人の心を読めるんじゃないだろうか?
「違うわ…。」
うわっ、今のも顔に出ていたのか⁉︎
「あなたはこのままでは人前に出られなくなるでしょ? 私があなたのその能力を引き取るわ。」
「そんな事ができるの?」
「意思の疎通が上手く出来なくてあなたの能力を必要な人もいるのよ。」
「そうなんだ…。」
「さ、潜望鏡のポールに捕まって。あなたには他の能力をあげるわ。」
天使の悪戯っぽい笑みが消えた次の瞬間だった。
ガラガラ、ドッシャーン‼︎
意識を取り戻した俺を小鬼が心配げに覗いていた。どうやらカミナリに撃たれたらしい。
「彼女は?」
小鬼が首を横に振る。
「なぁ、俺が何を考えてるかわかるか?」
小鬼はまた首を横に振った。
「そうか…。家に帰ろうか。」
小鬼が嬉しそうに首を縦に振った。




