15の夜
コレはアレだね、〝魔物の森〟スタートってやつだ!
しかも大概は森の深部で強い魔物を倒しながら街へ出るまでにレベリングしてチートするパターンか、それとも魔物に襲われている馬車に乗った公爵令嬢を助けて序盤の援助を受けるかどちらかだな…。
〝ガサゴソ…。〟
ホラ言ったそばから魔物襲撃?
「あ……、れ……? スライム?」
「キュピー!」
キュピーじゃねえよ、脅かしやがって!
「ライトニング!」
ドーン!ガラガラ!
オーバーキルだよ。だって武器も何もないんだから、仕方ないじゃん!
「あれ…? 薮の向こうに…、街?」
うん、森の深部じゃなかった。街外れの森だよココ!
で、城壁の門からワラワラと人が出てきてこっちに向かって来てる。
うーん今の雷魔法で驚かしちゃった感じかな? 言えない! スライムにライトニングぶっ放したなんて言えないよ!
俺、人々が向かって来るのを迂回してコソコソと街の門を目指す。
「すいませーん、身分証もお金も無いんですが、街に入れてもらえますか?」
門番さん、やれやれまたか…、みたいな溜め息混じりで、
「しょうがねぇなぁ。ちょっとココ任せていいか?」
ともう1人の門番さんに了解を取ってから、君君、ちょっと一緒にいらっしゃいと詰め所に2人きりナウ。
「路銀を使い果たしてココに辿り着く田舎者は週に2、3人いるんだよ。」
「はぁ…、」
スッカリ田舎者扱い、間違いじゃないけどね。
「本当は門前払いなんだけど、そうすると死んじゃうでしょ。そうなると俺たちも夢見が悪くなるからね。」
「はぁ…、」
「で、ココに領主様からお預かりした裏金がある訳よ。」
「はぁ…、」
「銀貨5枚で宿代一週間分と冒険者ギルドの登録費、最低限の装備を整えて、後は稼いで返しなさいって話しよ。」
「なんと、至れり尽くせりですね!」
「そーだろー、ウチの領主様は出来たお方なのよ!」
「有難う御座います、大変助かります!」
「おう、頑張って稼いで返しに来いよ。ところで、この晴天にそこの森で雷が落ちたらしいんだが、何か知ってるか?」
「あ…、俺は、何も知りません!」
ん〜、ヤバかったぜ!
異世界転生早々お騒がせ男になるところだった。
しかしどうしたものだろうか?
どうしたら帰れるんだろうか?
果たして俺は帰れるんだろうか?
向こうへの帰還が長期戦になるようならとりあえず借金返済と食うために生計を立てなければならないなぁ。
やはり冒険者になるのが手っ取り早いのだろうなぁ。
などとつらつらと考えながら門番さんに教わった冒険者ギルドに辿り着いた。
ドアを開ければソコはイメージ通りの冒険者ギルド。
依頼を貼り出す掲示板に受付カウンター。パーティーで打ち合わせが出来そうなテーブルが多数。
今の時間は分からないけど人はまばらだ。うん、これなら先輩冒険者に絡まれるイベントは無さそうだな。
「すいませーん、冒険者登録したいのですが…。」
「ようこそ冒険者ギルドへ!それではこちらの申込用紙にご記入ください。」
なんと、異世界語が読める!自動翻訳か!助かるー!
ツラツラツラのツーラツラっと!
「じゃコレでお願いします。」
「はい、承りまし…、ん? ちょっとボク、28歳は背伸びし過ぎですよー!」
はっ!
まさか!
ギルドの窓ガラスに映る俺!
14、5歳に若返ってるー!
そうかー!
そうだよねー!
そう言う特典もあるよねー!
異世界転生だもの!
「すいませーん!ちょっと大人ぶってみましたー!華の15歳でーす!」
うん、15歳ってコレくらい軽いノリかな?
「おい、坊主!」
絡まれイベントきたー!
声をかけてきたのは厳つい冒険者じゃなくてビシッとした高そうなスーツを
着た妙齢の美女!
うん、ちょっとツンデレ系かな?
「何だい、嬢ちゃん?」
俺の受け答えに美女は顔を顰め周りが騒つくがココは舐められないように無頼系キャラで押し通す。
「自分に敬意を払って貰いたければ先ずは相手に敬意を払うのが当然だろ?」
「プハーハッハッハッー!」
一瞬走ったギルド内の緊張を破ったのは美女の豪快な笑い声だった。
「貴殿面白いな!イヤイヤ失礼した。私はギルドマスターを任されているセシルという者だ。この一帯を領しているカーマイン家の長女でもある。どうか見知りおき願いたい。」
「コレはご丁寧に…。」
思わぬ権力者の登場に内心アタフタだが、ココは〝絡むと面倒キャラ〟にジョブチェンジして開き直る。
「では、当方も名乗るとしよう。我こそは魑魅魍魎を配下とし死後の世界を司る地獄の支配者〝エンマー・ダイコーーーー〟見参!」
鋼のメンタルでやり切ったぜ!
セシル様もお付きの方々もお口がポカンと開いてますよ!
「お、おう…、そうか…。ではエンマー殿、少し奥で話しを聴きたいのだがいいか?エマ、応接室を借りるぞ。」
うん、対応に戸惑う感じ、計算通りだぜ!本当だぜ!
「で…、君は何者だ?」
「地獄の支配者です!」
単刀直入にはバサリと対応!
「それは…、〝チューニビョー〟と言うやつか?そういうのはいいから!」
う、こっちの世界に〝厨二病〟が伝わっているとは…!本当に地獄の支配者なのに…代行だけど。
「そもそも君の〝魔力量〟だ!」
「あ、そういうの分かっちゃうんですか?」
「まあそうだな。私自身魔術師だし特別魔力には敏感な方でな。」
鑑定とかではないらしい。あぁ良かった。
「そう言われましても登録したばかりの駆け出し冒険者ですから…。魔力量は生まれつきとしか…。」
「もう20年程前の話しになる…。」
セシルさんは少し考え込んだ後に語り出した話しはこの街の過去に起きた悲劇だった。
冒険者を装って街に魔神が紛れ込み、あっという間にランクを上げてとうとうSクラスの魔物の討伐を果たし、セシルさんのお父さんである領主のライス伯爵が褒美を出す為に館へ招いた。
領主一族に街の市長に重鎮達が集う中、授与式と晩餐会は恙無く終わり冒険者が栄誉に浴して帰ったその深夜。ライス伯爵が異様な気配で目覚めると、ついさっき褒美を与えた冒険者が赤く光る瞳と背中に翼、頭からは凶々しい角を生やした変わり果てた魔神の姿で彼の妻であるリーシア伯爵夫人を小脇に抱えて窓から飛び立とうとする姿が目に飛び込んできたのだった。
「貴様ー!」
伯爵は怒りに任せて用心の為に枕元に置いてある長剣を引き抜き魔神に斬りかかったが、長剣は届かず、魔神はニヤリと笑って夫人を攫って逃げてしまった。
伯爵はギルドに魔神討伐の依頼を出し、自身も領軍を編成して討伐に奔走したが、ダンジョンに逃げ込んだ魔神を追い詰めることが出来なかった。
程なく王都から来た勇者に魔神はあっさりと討伐され、伯爵夫人は救出されたのだが、帰ってきた夫人は生気の無い変わり果てた姿となり、以来深窓で寝込んだままで、愛する妻の変貌にショックを受けたライス伯爵も政務への意欲を失い、いつからか長女のセシルさんが執務を代行しているとの事。
「そう言うわけで街に入る怪しい者には警戒していて、門番からすぐさま報告が入るようになっているんだ。」
うー、あの門番さん、いい人そうに見えたのになぁ…。まぁ仕事なら仕方がないか。
「俺は魔族じゃないですよ。」
閻魔女王様の眷族ではあるけどね。
「ならばちょっとした試験に協力願いたい。」
セシルさんはそう言うとポケットから小さな小瓶を取り出した。
「コレは魔族や魔獣が嫌がる〝聖水〟でな、君の手の甲に垂らして反応が見たいのだ。」
そうゆーのもあるんだ!異世界って感じするする!
「どうぞどうぞ、なんならぶっ掛けて貰ってもいいですよ!」
「なんかムカつくな!ほら、早く手を出せ!」
「………。」
「うん…。私の勘違いか?」
「そうですね。」
「そうか…。時間を取らせて悪かったな。何か困った事があったら何でも言ってくれ。出来る限り力になろう。」
んー、セシル様には俺を元の世界に帰してくれる力が有るだろうか…?
うん、ないだろうなぁ。そもそも俺の印象悪そうだし、今のは社交辞令のお為ごかし、若しくは自分の勘違いを誤魔化すヤツだ、うん。
で、ギルドに紹介してもらった安宿にチェックインして、フーッと人心地。何だか疲れたー。
〝Mother you had me…♪〟
おっと、スマホの着信?
着信? へ?
: あー!ハナちゃん! もしもしー!オレオレ!
: ダーリン! 大丈夫? 転生しちゃったって聞いたけど?
: あー、俺の方は大丈夫!ギルドに登録して宿とったし。それよりハナちゃん、赤ちゃんは?
: うん、無事終わったよ!元気な女の子の双子ちゃんだよー!
: そっかー、それでハナちゃん体調は大丈夫?
: うん、ポーション飲んだし、直江に治癒魔法けてもらったから。
: そっかー、こんな時に側に居られなくてごめんね。
: その事なんだけどさ、ダーリン。
そっちから呼び戻すのは直江でも難しいんだよ。召喚も世界を跨げないし…。直ぐに対策を考えるからもう少し待って欲しいんだよ。
: うん、わかった。こっちは適当にやってるから心配しないでね。
: あ、それと、双子ちゃんの名前考えておいて!
おっと、パパの大事な役目を忘れるとこでしたよ!
明日から暫くは冒険者稼業かぁ…。
うん、とうちゃん頑張るから!
15歳でとうちゃんかぁ…。
ぬーすんだバーイクではーしりだす♪
うん…、
もう寝よ…。




