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Little Boogie man & Me 小鬼と俺の黄泉奇譚  作者: クリステル


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1/8

運命の囚人

時が流れて行く

バスは走り続けている

残り時間が窓の外の景色と一緒に過ぎ去っていく

次の駅まではまだまだ遠い

目的地となると皆目検討もつかない

このバスに乗り合わせたみんなも同じだろう

随分と眠い

睡魔は伝染するのだろうか?

乗客の殆どが眠っているようだ

意識が薄らいでいく中で

少しづつバスが揺れているのを感じる

アイススケートをしているたいに

ゆっくりと

右足をだして

左足を出す

バスは氷の上を走っているようだ

だんだん揺れ幅は大きくなっている

半分夢の中で自分自身も大きく巨大化しているから違和感は何もない

異変を感じたら警報がなるから大丈夫

そういうふうにできていると漠然と思い込んでいる

警報装置が壊れていたら?

いや、大丈夫だ

そもそもこの道は5車線?

10車線?

少しくらい蛇行していても大丈夫

交通量が問題?

いや、もうしばらく我らのバス以外の車両は見ていない

右足を出して

左足を出す

気持ちの良い揺れだ

運転手が眠っているんだろうか?

まあ今時のバスには自動運転くらいはついているだろう

前の方の誰かが立ち上がって運転席を覗き込んでいる

心配性なやつもいたもんだ

ご苦労さん

おーい、起きろ!

心配性が叫ぶ

耳障りな声だ

おーい、起きろよ!

心配性が運転手を揺すっている

おーい、運転手の様子がおかしいぞ!

心配性は必死だ


以前シリアに駐屯していた事がある

爆撃の10分前には警報が鳴るんだ

襟足の毛が逆立ってチリチリと電気が走る

電池を舐めた時みたいなやつさ

場所を移動して10分後には元いた場所が吹き飛んでいた

この能力は誰にでもある能力じゃない

メキシコの砂漠で雷に撃たれた時に貰ったギフトだ

大丈夫だから静かにしてろよ

根拠はチリチリ警報

誰にも説明はできないけどね


まあでもそうだな

次の駅でバスを乗り換えよう

昨日知らされた目的地の変更も気に入らない

そんな所へ行く筈じゃなかった


遠雷が聞こえている

辺りは快晴でも地平線の先には鉛色の雲が垂れ込めていて微かに走るイナビカリが見える

あの雲の手前で乗り換えたいものだ

日の当たる道を歩いて行こうって曲もあるだろ?


だめだ、意識を失ってるぞ!

それ、またぞろ心配性氏だ

だったらお前が代わればいい

起きてるのはお前だけなんだから

おい、ちょっと待てよ

あんな所にバス停なんかあったか?

しかも誰かバスを待っているじゃないか

どうも様子がおかしい

遠くてまだ見えないが…

赤鬼と青鬼が馬鹿でかい囚人を連れているじゃないか

おい、Mr.ウォーリー!

運転手を退かせ!

ほら、いいからそっちを持てよ!

ほら、さっさと座れよ、そうだよお前が運転するんだよ

バス停がみえるだろ?

ブレーキを踏め

よしよし、よく出来た

やれば出来るじゃないか

ほらドアオープンのレバーだよ

ようこそ、お三人、席は空いてますからどうぞどうぞ


なんと馬鹿でかい囚人かと思ったら鬼がチビじゃないか!

囚人の頭には麻袋がスッポリと被せられて両手には鎖がはめられ片方づつ鬼がしっかりと持っている

しっかりと?

いやいや、囚人が暴れたらこの小鬼達はひとたまりもないだろう

乗客達はこの小さな異変に気がついてゴソゴソと起き出している

突如現れた三人のストレンジャーに興味津々だ

囚人は絶えず呻いているが、言葉を話せないようだ

喋らないのは小鬼達も一緒で、愛嬌のある目配せだけで乗客達に挨拶をしながら最後部まで囚人を引っ張って席についた

どちらまでいかれますの?

近くの席のご婦人が小鬼の一人に話しかけるが、小鬼はニコニコと笑うだけで応えない

この囚人はどんな罪を犯したの?

小鬼はニコニコしながら手で首を掻き切るゼスチャーで応えた

まぁ、恐ろしい! じゃあ当然死刑になるわけね

小鬼ニコニコ頷く


バスは走りだし

遠雷は近づいてくる

小鬼はニコニコ

囚人は呻く

ご婦人も乗客達も鬼と囚人イベントにはもう飽きたらしい

そちこちでいびきが聞こえだしている

性懲りも無くバスはスケートを始める

心配性の心配も結局はそんなものか

今はもう道さえもない

さっきまでの舗装された道はがたかたの荒野に変わっていた

心配性が道を間違えたらしい

襟足の毛がチリチリと逆立ってきた

電池を舐めた時みたいなチリチリ

これはまずい

本物の警報だ!

でも俺に何が出来る?

心配性を退かして俺が心配性になる?

いやいや俺はそこまで心配性じゃない

小鬼を振り返るとどうやら俺と同じものを感じているようで、さっきまでのニコニコは消えて眉間に皺を寄せて前方を睨みつけている

さらに言えば囚人の呻き声まで消えていた

乗客は眠りこけている

心配性もだ

そう、運命の歯車を変えられない時もある

運転手が大きな欠伸をしながら伸びをしている

心配性じゃなくて元の運転手

あーれー?

どうなっちゃってるのー?

呑気な寝ぼけ声だ

バスは荒野を走っているんだよ

スケートをしながらね

進行方向に岩が見えてきた

荒野の中に岩が一つ

運命の岩だ

こんなだだっ広い荒野で普通に考えればスケートをしながらあの岩に追突するなんてあり得ないだろう

でも俺にはわかっていた

あの岩は運命の岩だからだ

おい、Mr.ウォーリー! なんであんたがバスを運転してるんだ! それは私の仕事だろ!

運転手が眠りこけたMr.ウォーリーを必死に席から退かそうとする

スケートの振り幅は更に激しく広がり、バスにかかる横Gは揉み合う二人を更に混沌へと導いていく

おーい!起きろ! 俺の仕事だぞ!

運命の岩はドンドン近づいてくる

それでも乗客達は眠りこけている

目覚めていなさい! 主はいつやって来るかわからないのですから!


ガーーーーーン!!!!


ドシャーーーーン!!!!


ガシャーーーーン!!!!


バスはカーブしながら斜めに自分からぶつかっていき、衝撃で捻り前回天しながら岩の後方にすっ飛んで上下逆さまで止まった



どうやら俺は生きている

車内には悲鳴が一切上がらなかった

みんな寝たまま逝ってしまったか


俺は逆さまになったバスの天井にあぐらをかいて座り込んでいた

視界にはいる限りでは4、5人の乗客が天井に転がっていて、ピクリとも動かない

首を慎重に動かして座席面を見上げると、乗客の大半はシートベルトにぶら下げられてブラブラと揺れていた

どうやら首には痛みがないようだ

更に慎重に後ろを振り返って見ると瀕死の小鬼も座席面からぶら下がっていた

囚人がいない!

俺と小鬼の目があった

小鬼は必死にバスの後方を指差してニコニコしている

見ると割れたリアガラスの向こうに見える荒野を囚人が片足を引き摺りながら逃走しているのが見えた

小鬼は片手拝みに俺に懇願する

俺が追うの?

小鬼ニコニコ

なんでだよー!

とりあえず俺は立ち上がって身体の具合を確認

因果なことに怪我はないらしい

更に小鬼ニコニコ

しかたねぇな

俺は割れたリアガラスから荒野に足を踏み出した

囚人は遥か先を小走りに逃げている

目眩がしてきた

おいコラ! 待てー!

囚人の影がふと立ち止まった

よしよし、いい子だ

と思ったのも束の間、囚人の影はまた動き出した

仕方なく走る俺

荒野には何もない

俺と囚人とひっくり返ったバスと運命の岩

動いているのは俺と囚人だけ

囚人が片足を引き摺っているのが唯一の救い

差は500m

俺と囚人の差を縮めるには3〜5kmは走る事になるだろう

俺と囚人は走る

囚人は生きるために走っている

俺は何のために走る?

すでにそこそこ遠ざかったバスを振り返って見る

バスの割れたリアガラスの中からぶら下がった小鬼がニコニコ

こんなに離れてもニコニコしているのがわかる

チクショウ!

俺は小鬼のニコニコのために走る?

俺に勝ち目があるのか?


しかし何で囚人は麻袋を脱がない?

前は見えてるのか?

躓いて転べ!

憎い囚人を呪う言葉はすぐに尽きてしまう

俺はアイツを知らないからだ

小鬼のニコニコだけでは走る原動力が足りずに囚人への怒りをエネルギーに転嫁する試みは簡単に挫折してしまった

知らないヤツを憎める筈もない

まずは相手を知らなければどんな感情も生まれようがない

先ずは観察だ

そこから始めよう

あの筋肉質の身体を見てみろ

きっと日常的に肉体労働をしてきたんだろう

歳の頃は?20〜40代?

顔も見ていなければ呻き声しか聞いてない!

あの鎖!

なんて太くて重そうなんだ

あんなものを両手に引き摺りながら走るなんて

可哀想?

イヤイヤ、殺人鬼だぞ!

イヤ、ちょっと待てよ

誰が殺人鬼だと言った?

小鬼はゼスチャーしただけだ

だいたい小鬼ってなんだ?

人間でもない

大鬼でもない

鎖に繋がれているから囚人?

それは固定観念というものだ

彼はなんだ?

ベイルートで武器商人が面白いものを見せてやると言って見せてくれた檻に入った全身体毛に覆われた幼児を思い出した

この世には逆らえない運命がある

ここで彼と走っているのもそうだ

でも彼を知ったら状況は変えられるかも知れない

ほら、見てみろ

鎖を繋いだ腕輪のところから血が出ているじゃないか

彼は人間だ

生きるためには走りもするだろう

バスを振り返ればもうニコニコは見えなくなっていた

それどころかもうバスも見えない

もう一度前を向いてみると意外にも彼は立ち止まって屈み込んでいた


見ず知らずの二人が荒野で出逢う

俺は走るのをやめて歩きながら息を整える

息が上がっていたら会話もできないじゃないか

どうした?

もう諦めるのか?

君は死に値する事をしたのか?

なぁ、頼むからその麻袋を脱いで顔を見せてくれよ

そして声を聞かせてくれ

そうた、いい子だ

なんだ男前じゃないか

喋れるのか?


それは予想外の素早い行動だった

男は繋がれた鎖を俺の首に巻きつけて在らん限りの力で締め上げにかかった

薄れゆく意識の中で

あぁ、そうか…

君は殺人鬼か…

それとも生きるために俺を殺すのか…

まぁ、どちらでもいいか…

遠雷が鳴っている


薄れゆく意識の中で



ガーーーーーン!!!!


ドシャーーーーン!!!!


ガシャーーーーン!!!!



俺とアイツは地面に倒れていた


どうやらカミナリが鎖に落ちたようた


メキシコのヤツと同じ


アイツは?


なんと生き絶えていた


なんと…


仕方ない事だ


俺は小鬼のいるバスに向かって歩き出していた


小鬼はニコニコしてくれるだろうか?


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