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Episode18

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いつのまにか眠ってしまっていた。

久遠の朝の気配は、音も光もやわらかく透き通っていて、目覚めをそっと包み込む。


視線を横に向けると、聖が口を半開きにして気持ちよさそうに眠っていた。


「……っ!」


昨夜のことが一気に蘇る。

聖は俺の話を聞いて、優しく包み込んでくれた。撫でられた頭のぬくもり、抱きしめられた胸の鼓動。あの温度がまだ身体の奥に残っている。


どうやら俺は、そのままその鼓動に包まれて眠ってしまったらしい。

慌てて身体を離そうとして、気づく。


聖の手が、しっかりと俺の手を握っていた。

まるで「離さないよ」とでも言うように。


胸の奥がじんと熱くなる。

頬が赤くなり、顔がじわりと熱を帯びる。


ど、どういう状況……これ。


だけど、不思議と嫌じゃない。

むしろ安心して、居心地がいい。そんな感覚が胸いっぱいに広がっていく。


今、隣で俺の手を握りながらむにゃむにゃ寝息を立てているのは、初めて会ったとき最悪な印象だった同級生、秋月聖。


寝顔を見ては布団に顔を埋め、またそっと見上げて。

何度も繰り返しながら、現実なのに夢のような。同級生の胸の中で眠るという変な時間を過ごしていた。


やがて聖が寝返りを打ち、ゆっくりと目を開ける。

その気配に気づいて、俺はあえて寝たふりをした。

聖がどんな反応をするのか、少し見たくなったから。


聖もまた、俺が胸元で眠っていることに気づいたらしい。慌ててギュッと握っていた手を離した。

だって、胸の鼓動が早くなったのが伝わってきたから。

まだ少し、手汗で湿っている。握られた手の感覚は温かくて優しい。


気まずさと照れの空気の中、俺も同時に起きたように見せかけて顔を上げた。


「お、おはよ、聖。なんか昨日そのまま寝ちゃったみたいだね……」


そう言うと、聖は顔を真っ赤にして、照れ隠しみたいにいつもの調子で返す。


「あ、あ、ああ。そうみたいだな!へへっ、ま、まあ仕方ないだろ!瑠偉ちゃん眠そうだったし!」


また気まずい時間が流れそうになったそのとき、

廊下をドタバタと走る音が近づいてきた。


俺と聖は慌てて身を離し、俺は自分の布団に転がって「今起きました」みたいな顔を装う。


ドアが勢いよく開き、蒼空が大声で飛び込んできた。


「おはよーっ!!」


俺と聖の顔を見て、首をかしげながら言う。


「ん?なんか……お前ら顔赤くね?熱でもあんのか?」


すかさず聖が立ち上がり、蒼空の額をこづく。


「ねーよ!!」


「いってぇ!」

大げさに頭を押さえる蒼空。

その様子がおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。



あっという間に過ぎた久遠での旅は、終わりを告げた。


旅館を出るとき玄関では、ばあちゃんが優しい笑顔で見送ってくれた。


「ありがとうねぇ。」


その声を聞いた瞬間、俺は思わずばあちゃんを軽く抱きしめていた。


「また来るね。ありがとう。」


そう伝えると、ばあちゃんは目を細めて少し涙を浮かべ、静かに頷いた。

そして聖たち3人に向かって言う。


「瑠偉のこと、これからもよろしくお願いしますね。」


3人は声をそろえて頭を下げた。


「はい!こちらこそ!!ありがとうございました!」


俺たちはそのぬくもりを胸に刻んだまま、旅館を後にした。


港に着くと、潮の香りと夏の海風が身体を包み込む。

青く透き通った水面が陽射しにきらめき、フェリーの白い船体がゆっくりと揺れていた。


その船を前に、聖は明らかに顔色を悪くしていた。


「撒き餌パフォーマンス、期待してるからな!」と蒼空がニヤリと笑い、

「盛大なの、希望してまーす!」とはるひが追い打ちをかける。


「うるせぇ!うるせー!うるせー!」

聖は低く唸りながら手を振って一蹴する。


やがてフェリーに乗り込み、甲板へ出た。

夏の空気を胸いっぱいに吸い込んで、大きく伸びをする。


「本当に、あっという間だったな。」

蒼空が遠ざかる久遠を見ながら呟く。


「そだな。また来ような。んで、島に戻ってもまた集まろうぜ。」


聖が少し照れくさそうに言い、はるひも俺も力強く頷いた。


白い航跡がきらめきながら遠くへ伸びていく。

揺れる夏の海の上で、俺たちの笑い声が風に溶けていった。


「バイバイ久遠。ただいま、雅。」


誰かの小さな声が、夏の風に乗って儚く響いた。


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