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Episode17

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「そんな簡単にはいかないのかもしれないけど……独りで抱え込まないでほしい。」


聖の声は、夜の静けさに溶けるようにやさしく響いた。


「俺は、瑠偉ちゃんにもっと笑っててほしいよ。前にも言ったけど、俺は瑠偉ちゃんの笑顔、好きだからさ。」


その真っ直ぐな言葉に、胸の奥で固くなっていたものが少しずつほどけていく。


「……ありがとう。」


小さく囁いた瞬間、堰を切ったように涙が頬を伝った。


「泣いてもいいよ。大丈夫。誰にも言わないから。」


追い詰めるような強さではなく、包み込むような声。

その優しさに触れた途端、心の奥が揺れて、どうしようもなくあふれていく。


どうして?

どうして俺なんかに、こんなに優しくしてくれるの?

どうして、こんなにも気にかけてくれるの?


今まで誰からももらったことのない温かい言葉。

嬉しいのに、胸が苦しくて。どう返していいのか分からない。

ただ涙が止まらず、聖の言葉だけが心の奥に沁みていった。


涙が落ち着くまで、聖は一言も挟まず、ただ隣で待っていてくれた。


やっとの思いで息を吸い込み、小さな声で言葉を絞り出す。


「ふぅ……ありがとう。落ち着いた。」


ダメだ。喋るとまた涙が出てきちゃう。

また涙がこみ上げて、視界が滲む。


その様子を見て、聖はゆっくりと身体を起こし、

そっと俺の頭をポンっと撫でた。

次の瞬間、俺の顔はそのまま聖の胸にすっぽりと包まれた。


けれど、その腕には強さも、無理やりさもなく、

ただ受け止めるための柔らかさだけがあった。


「……っく、ひっ……ひぐっ……ううっ……」


肩を大きく上下させながら、必死に呼吸をしようとしても、

涙としゃくり上げがそれを邪魔する。


胸の奥にしまい込んで我慢していたものが、一気に壊れた。

もう声を殺せなくなって、子どものように泣きじゃくる。

恥ずかしさも、強がりも、この瞬間にはもう意味をなさない。


「ひっ、ぐす……っ、ひぅっ……っ……」


言葉にならない泣き声が次々と漏れ出していく。

聖の手は優しく背中を撫でる。

繰り返すその温もりは、夜の闇をすべて遠ざけてしまうみたいで。


「大丈夫。全部出しちゃいな。大丈夫だよ。」


静かで、力強い声が、心の奥深くまで沁みていった。

長い間閉じ込めていた扉が、少しずつ開いていくのを感じた。



どれくらい泣いていたのか分からない。

気づけば俺は、聖の胸に顔を埋めたまま、子どもみたいに泣きじゃくっていた。


やがて涙が少し落ち着いた頃、小さな声で「ごめん」と呟いた。


「……なんか、こんな泣いたの久しぶり。スッキリしたかも。」


聖は少しだけ照れたように口元を緩めて、

「へへ、それならよかった。たまには泣かないとな?」と微笑み、

俺の頭をやさしく二度、ポンポンと撫でた。


その手の温もりが、胸の奥の不安を少しずつ溶かしていく。


しばしの沈黙のあと、聖は真剣な声音で口を開いた。


「聞いていいのか分からないけど……あれだけうなされて苦しむくらいの夢って、どんな夢なの……?」


「無理なら話してくれなくてもいい。でも、話すことで少しでも軽くなるなら……って思った。」


その言葉に、鼻の奥がツンと痛む。

自分の過去のことを人に話すなんて、考えたこともなかった。


聖の優しさはありがたくて、救われてもいる。

だけど、まだ話す勇気が持てない。

この話をしてしまったら、嫌われてしまう。

また、俺は『孤独』に戻ってしまうよ。


すすり泣きながら、震える声で答える。


「……ごめん、聖。それは話したくない。ごめんね、聖。」


肩をすくめて身体を震わせる俺の姿を、聖は見逃さなかった。

そっと身体を少し離し、俺の顔を覗き込むようにして、まっすぐ瞳を合わせる。


「へへっ、謝るなって。俺こそごめん。デリカシーなく踏み込んじゃって。」


普段の彼からは想像もつかないほど真剣で、澄んだ瞳。

まっすぐ見つめられた俺は、返す言葉もなく、

また静かに、聖の胸の中へと帰っていった。


(ありがとう。聖。心の整理がついたら、話させてね。)


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