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黒猫クロの大冒険

家猫に生まれた雄の頃猫は皆に黒は縁起が悪いとただそれだけで嫌われ捨てられる。それでも生き抜こうと子猫なりに頑張ってるとキジの元家猫が現れ、トカゲや虫の捕え方、川の場所を教えてくれる。彼を敬愛するクロは彼のようになりたいと素直に必死ですくすく育っていく。川で魚の取り方も覚え体も大分大きくなりネズミの捕り方も上手く行くようになるが・・・

 5月の気持ちのいい朝だった。僕はまだ生まれて2か月半の赤ん坊の猫。今日も猫のお母さんのおっぱいを飲みドライフードも本の少し食べ、ついでにカツオの缶詰めもいただいたんだ。今日も元気一杯遊び回って大きくなるぞ。

「本当に捨てに行くの?もう少し大きくなるまで待ったら、自分でエサも見つけられないし・・・」

「駄目だよ、この頃は梅雨も早く来るし・・第一俺の気持ちが変わらない時が今この時だと言ってるよ。他の子猫は全部貰い手が見つかったのに、この子は黒くて縁起が悪いと貰い手がないんだ。捨てるのは今しかない、それとも捨てるの止めて家で買うか?でももう3匹もいるからなあ」

「分かったわ、捨てて来て。なるべく遠くにお願い」

「うん、分かっているよ、良いとこ見つけたんだ、道路の向こう側が半分山になってるところさ。あそこなら結構人通りも多いから拾ってくれる人もいるさ」

「だと良いね」

この話は人間の父ちゃんと母ちゃんが話しているんだけど、僕にはちんぷんかんぷんで全然分からなかった。

「さあチビ出かけるぞ」と言うと父ちゃんは高い所を上ったり下りたりして遊んでいる僕をつまみ上げ、自動車の中の小さなダンボールの箱の中に入れ逃げ出さないようにふたを閉めた。

父ちゃんの車が発車した。どこに行くんだろう?いくら考えても分からなかった。で、仕方がないので箱の中でしばらく寝る事にする。

やがて父ちゃんが車を止めた。僕の入った箱を持ち少し歩いて止まる。箱が下ろされふたが開けられた。でも父ちゃんは僕に外に出ないように制止のポーズをして立ち上がった。

「じゃあなチビ、良い人に見つけてもらえよ」

父ちゃんはそう言うと再び車に乗って走り去ったんだ。

僕は暫くその箱の中でごそごそやってたけど、つまらなくなって周りを見渡した。周りにはいろんな草が生い茂り、白や黄色の小さな花をつけているのもある。後ろは森になっててどうなってるかは全く分からない。前は父ちゃんの車が走り去った道路。その向こうには何軒か家が立ち並んでいるのが見える。

あーでも今僕は喉が渇いたなあ。飲み物はないの?きょろきょろ見てもそれらしきものはない。うーんこんな箱に入ってる場合じゃあないぞ。父ちゃんはこの箱に入ってるように言ったけど言われたとおりに入っていたらきっといつか、僕はにゃんこの干物に成っちゃうぞ

そう言う訳で僕は箱を抜け出して、目の前の柔らかそうな草をかじってみた。

「うん、まあ食べれない事もないけれど決して美味しいものではないなあ」

ふと目を移すと葉陰に小さな蛾

「うんこれはたべられそう」と僕はそいつに飛びついた。

「こりゃ旨い」もっといないかキョロキョロ探す。でも獲物はそう簡単には見つからない。どれだけ探したろう、大きくて立派なのは確かに見つかるけど僕より運動神経が勝っていて小ばかにした様にささっと逃げていく。手に入るものはだんごむしみたいなもので、これはとてもまずくて僕の口には合わなかった。

「あー、もっと美味しいものが食べたいよお」でも誰も僕に美味しいものをくれる人はいない。段々辺りが薄暗くなってくる。父ちゃんは迎えには来てくれないのか?困ったなあ。

「父ちゃーん、父ちゃーん」2,3回呼んでみるが誰も来てくれない。空っぽの僕が入ってきた箱があるだけ。でも日が沈むと気温が下がって来て寒くなったので箱の中に戻った方がよさそうだ。

箱の中の方が大分あたたかなので僕は腹ペコのまま寝てしまった。目を開けるともう朝なのか、辺りが明るくなっていた。僕は箱から出ると大きく伸びをしてこわばった体をほぐす。

「何か食べれるものを探さなくちゃあいけない、このままだと本当に日干しになちゃうよ」僕は又草原の中の虫を探す。収穫合った、小さなガを3匹捕まえて食べた。少し元気がついたかな?もう少しもう少し大きな虫を捕まえなくちゃあ元気でないよ、もう少しもう少しね。大きめのガを見つけた。でもすぐ飛び出さないであいつが油断した所をしとめるんだ。ほうれ上手く行った、これはさっきのガの数倍の収穫だ。うん、これは旨い。でもさあこれじゃあすぐお中へちゃうなあ、キョロキョロ周りを探す。叢にはトカゲもいるがあいつを捕まえる事が出来たらこの腹ペコから抜け出れるんだけどな、如何すれば、このチビ助の僕に捕まえる事が出来るんだろう?でも少したつとむくむく捕まえる気持ちが僕の中に湧き上がる。狙いをつける、ああ駄目だ、あれは大きくて僕の手には負えないや。も少し小さいのを狙わなくちゃとてもとてもだなあ。あ、あっちの方が小さくていいぞ、お中の足しには本当はも少し大きい方が良いのだろうが、この身を思えばあのくらいが丁度いいと考えるな。ようしあいつに決めた、良く狙いを定めて、すばしっこく飛び掛かるのだ。

ほうら見ろ、取れたぞ。うんこれは僕が自分で取った最高の獲物だ。

トカゲのお陰でお中も何とか満ちた、もう一眠りしよう。箱に戻りまた眠った。

お昼を回る頃又目が覚めた。箱から出て伸びをする。やはりあれだけのご飯じゃ若い僕のお中を満たすには不足らしい、よおし、又探そう、僕は負けないぞう。よおく周りを見て目星をつけたら慌てないで相手の油断をついてから飛びつくんだ。

あー今度は中々見つからないなあ、もっと森の中に入らなくちゃダメなのかなあ。ようし、も少し中へ入ってみよう、もっと良いものが見つかるかもしれない。僕は怖くない、僕はとっても強い子なんだ。だからもっと奥へ進んでも平気だよ、たとえ体は小さくても、足腰は頼りなさそうに見えても大丈夫、きっと大丈夫。あの空飛ぶ烏だって、多分多分多分負けないぞ、まあ逃げるが勝ちとか隠れる方が安全だけどね。

奥へ進む。小さな虫が沢山いるみたい。食べられそうなものは全部頂き。でもそんなものでは僕のお仲は満たされないよ、あの目の先にいる大きなトカゲが捕まえられればいいだろうけれど、今の僕にはちょいと無理と言うものだ、残念無念。

そう思った時だ、何か大きなものが飛び出してそのトカゲを難なく捕まえたのだ。

オス猫だ、キジ猫で毛色も艶々して立派な体格。彼は僕をじろりと見た。僕も負けずにじろりと見た。

「これを取りたかったんだろう?」おじさんはまだぴくぴくしているトカゲを僕の前に置いた。

「早く食べないと逃げちゃうぞ」

「た、食べても良いのですか?」

「早くしないと逃げると言ったろう」

「あ、ありがとう」僕はおじちゃんが前足で抑えているやつに飛びついて無我夢中で食べた。久しぶりに感じる満腹感。

「お前、捨てられたのか?」

「父ちゃんが車で僕をここまで連れて来て、それからここで待つように言って戻って行ったんだ。でも昨日も今日も戻って来ないんだよ」

「ハハ、それを捨てられたって言うんだよ。もう君が待ってる父ちゃんは2度と戻ちゃ来ないよ」

「ででも僕、何にも悪いことしてないよ、ちょっと悪戯はするけど、殆ど言い子してたよ」

「そんなの関係ないよ、同じ家に猫がいたろ?」

「うん、僕の猫の母ちゃんと僕の兄ちゃんが二人いたよ。他にも同じ日に生まれた子がいたけど全部貰われて行ったんだ」

「つまり君は売れ残りってやつだな。君はその家にはいらない子供だったんだ。だから君はお払い箱になったんだよ」

「え、お払い箱?お払い箱ってなあに?」

「君はもう要らないってことだよ、分かった」

「じゃあ、じゃあ、もう僕はもうあの家には帰れないの、母さん猫にはあえないの、もうおっぱいは飲めないの?」僕は悲しくなって泣いた。

「泣くんじゃないよ、泣いてもどうにもならないんだ」

「おじちゃんも捨てられたの?」

「うーん、おじちゃんは別に捨てられたわけではないいんだ。帰ろうと思えば帰る家があるんだけど、ここいらの森は居心地が良くて、ついつい野良生活が板についてしまったのさ」

風が吹き始めた。

「おやいけない、もう少ししたら雨が降るみたいだ。お前寝るとこないんだろう?」

「寝る所?僕は箱に入れられてたから、その箱が今は僕の家だよ」

「そんな箱、雨や風ですぐ駄目になるよ。そうだな、暫く俺と一緒に暮らしてみるか?獲物さえ取れれば野良生活も楽しいもんだよ」

そう言う訳で僕はおじさんの子分みたいになっておじさんの後に付いて行くことになった。

「ほうらここが俺の家だ。俺とお前が暮らすには十分の広さがあるよ」

大きな木の根元にぽっかり空いた穴。成程ここなら雨にも風が吹いても大丈夫そうだ。しかも穴の中には枯れ葉が吹き溜まって寝心地もよさそう。

「ま、はいれよ。もうすぐ雨が降り出すから」

おじさんの言った通り木の穴の家に入ると間もなくパラパラ雨の音。

「雨が降ってる間なんもすることないから少し寝ておこうか?雨が止めば教える事も沢山あるけどさ」

おじさんはそう言って丸くなって寝てしまった。

僕は暫くごそごそやっていたけれど、おじさんのお中の毛がふわふわして気持ち良さそうに見えたのでそばに近寄ると、そこに顔をうずめて同じようにぐっすり眠ってしまった。目が覚めるともうおじさんは起きていて木の穴からジッと外を見ていた。雨はとっくに止んだらしい。僕も起きておじさんの隣に同じように座って外を眺めた。大分暗くなっているので夕方を回った時刻なんだろう。

「良く寝たかい?」

「うん、おじさんのお中とっても気持ちよかったのでぐっすりさ。あの箱も良かったけど、それよりも数倍気持ちよく眠れたよ」

「そうかい、それは良かった」

「これから何をするの?」

「そうだなあ、夜の方が獲物が多いからも少ししたら野ネズミでも見つけて捕まえようかと考えているんだ」

「野ネズミ?」

「ハハ、知らないだろうな、トカゲよりでかくて・・チビよりも大きいのがぞろぞろいるんだ」

「僕より大きいんだって・・そりゃ捕まえられないな、幾ら美味しくてお中一杯になるとしても」

「今は俺が捉えるのを陰から見ててどうやれば旨く捕まえられるか勉強する時だよ。ちょろちょろしてると邪魔になるし、何の手伝いにもならないからな」

「うん、分かった」僕はコックリ頷いた。

夜も深まる時おじさんが立ち上がる。僕も立ち上がる。

「じゃ行くぞ、さっき言った通り決して俺の前に立つんじゃない、俺が獲物を狙い始めたら身をかがめて身を隠し、音をたてないようにしてるんだぞ」

「うん、約束する、決して邪魔をしないし、音もたてないようにするよ」

僕はおじちゃんの後について必死に歩いた。おじちゃんの足が止まる。僕も止まる。しばらく待機するようだ。やがておじちゃんのしっぽがかすかに揺れる、下半身も揺れると思う間もなく飛び出していき、キューと言う声がした。捉えたネズミを加えておじちゃんが帰ってきた。

「す、凄いなあ、一発で仕留めたんだねえ」僕は称賛の目でおじさんをみやった。

「まあ、毎日の事だもの、失敗したら今晩のご飯抜きになるからな、敵も俺も必至だよ」おじさんは笑った。初めは自分が食べ、少し残すと僕にも食べるように言った。それはとても美味しかった。

「まだお前の体にはネズミは早いかも知れない。良くかんで食べろ。トカゲや蛾の方がお前のお中には合ってると思う。朝になったら蛾の取り方を教えてあげよう」

「うん、それにトカゲの取り方もね」

おじさんは優しくうないて「先ずは虫の取り方から行こうかな」とつぶやいた。

その翌日からおじさんによる虫の捉え方の特訓が始まった。

「駄目だ、初めから走り回っては相手も気づいて逃げるし、お前自身も疲れてしまうだろう?ここははやる気持ちを抑えて相手の油断してる時を待つんだ」

その待つことが優しいようで中々難しい。「待て、もう少し体を低くして。そうそれから的を定めたらしっぽで調子を整える。ここぞと思ったら尻で弾みをつけて思いっきり飛びつくんだ」

おじさんの教えは適格だ。でも最初からうまくは行かない、僕はもうへとへとだあ。おじさんは少し笑ってさっと何かに飛びついた。トカゲを見つけて捕まえたのだ。

「はい、疲れただろう?ご褒美だよ」僕の目の前にトカゲのプレゼントだ。

「少し休もうか?おじさんはそう言うと木の根っこにうずくまった。僕もふらふらしながら傍へ行きおじさんの横にうずくまる。おじさんは優しく僕の頭を2、3回舐めてくれた。僕はすぐに眠った。

目が覚めるとおじさんはもうとっくに起きていたらしく、何か捕まえてそれを食べていた。どうも鳥を捕まえたらしい。

「おじさんは鳥も捕まえるの・」

「勿論だよ、まあ滅多につかまらないけどね。鳥が一番の好物だよ」

「鳥を捕まえるなんて凄いなあ。相手は空を飛ぶんだよ」

僕はおじさんを尊敬のまなざしで眺めた。

「そうだ、お前に川のありかを教えてあげよう」

「川?」

「ああ、川だよ、水が何時も流れていて魚も泳いでいるんだ」

「魚が泳いでいるの?」

「うん、でも小さくてすばしっこくって中々捕まらない、しかも腹の足しにもならないぞ」

「そう、でも魚なんだろう、僕食べたいなあ」

「うーん、魚はこれは難しいな。人間は海と言う広い所で取って来てそれを売って生活してる者もいるが、猫にはそんな事は出来ない芸当さ。あともう一つ、ここの川ではなく、も少し大きな川だったら、魚の大きいのもいるから普通の人間もそれを釣って楽しんでる奴もいるけどさ。でもここいらの川は小さくてとてもとても無理だね」

おじさんに連れられ畑を抜け、木の生えている土手に上ると小さく水の流れる音が聞こえて来た。

「ここから下に降りるよ、この下を川は流れているんだ。足元には注意しろ、お前の足はまだまだ細くて力がない、爪も弱くて柔らかいからお前の体を十分支えられないんだ。俺が最初に行くよ、たいした事ないように見えるだろ、でもお前の体にとっては重労働だよ、分かったか?」

おじさんは念を押すと所々岩も見える川の方に降りて行った。今度は僕の番だ。なるべく岩のない所に目星をつけ飛び降りて行く。何とか川の傍までたどり着く。

「うん、良く出来た。もう少ししたらもっと旨く出来るようになる。そしたらここもお前の遊び場所になるだろうよ」

おじさんが川の浅いとこを見つけ顔を近づけて飲み始めて。とても美味しそうだ。

「チビも、そうだなあ、こっちの方がもっと浅くて飲みやすそうだ、ここで飲むと良い」

おじさんが教えてくれた場所の方が足場の石もあってずっと飲みやすそうだ。僕も久しぶりの水をぴちゃぴちゃ一生懸命飲んだ。水はたまらなく美味しかった。

「どうだ水は旨かったか?」

「美味しかったよ、もう長い事水そのものを飲んでなかったのでとても美味しかったよ」

「そうだろうと思ったよ、草をかじっていたものな、も少し早くここに案内すれば良かったなあ」

「うんおじちゃんが色んな事教えてくれて僕、凄く助かるよ。そうでなけりゃ今頃僕はどうなってたろう?」僕は又大粒の涙を落した。

「泣くんじゃないよチビ。君はもう飼い主をなくしたんだから一人で生きて行く方法を会得して行かなくちゃあいけないんだ。沢山学んでこの森で生きて行かなくちゃいけないんだよ」

「この森で生きて行かなくちゃいけないの?おじちゃんみたいに強く強くなって生きて行かなくちゃあならないんだ」

川を見つめる。ほんとださっき迄水を飲むのに夢中で気が付かなかったけど、小さな魚が沢山いる。

「魚がいる」

「ああ、そうだねえ。捕まえたいかい?」

「うん、捕まえたい。捕まえたいけど無理だろうね、水の深い所に行かなくちゃいけないし、直ぐ隠れちゃうし・・でも何時かきっと何時か僕が大きくなって強くなったら捕まえて見せるさ」

「そしたらおじちゃんにも御馳走してくれるかな?」

「勿論だよ、一番最初に御馳走するよ」

「ハハ、それは楽しみだなあ、待ってるよ、その日が来るのを」

翌日になった。

「昨日は小さな虫の取り方だったが、今日はも少し大きな虫の取り方をマスターしよう」

「ちっちゃい虫も中々取れないのに大きいの捕まるかなあ?」

「大丈夫だよ、チビは運動能力がずば抜けて探れている、頑張れば大きい虫も取れるようになるさ。第一大きい方が目につきやすいし、狙いやすい。力はあるけど捕まえやすい、もし逃げても最初に与えた打撃のため前より体力が落ちているんだ。そこを狙う。小さいのは大体食べがいがないし、味も今一だ」

「うん、おじちゃんの言う通りかも知れない。練習して大きい虫が捕まえられるようになりたい。僕頑張るよ」

「それこそ俺の弟子と決めただけの価値があるぞ」

「弟子ってなあに?」

「うん、まあ子供みたいなものさ」

「えっ本当、僕おじさんの子供みたいに思われてるの?」

「フフ嫌かなあ俺の子供みたいに思われるの」

「うううん、とても嬉しいよ、とても。心がほっこりするよ」僕は又涙があふれた。

「馬鹿だなあこんなことで泣いていたらこの世界で生きていけないぞ。さあ、大物捕まえる練習をしよう」おじさんは立ち上がった。

大物を取る練習は昨日の小物をとらえるよりも数倍難しかった。でも見つけやすく狙いもつけやすい。それからが問題だ。先ずは蝶を狙った。優雅にひらひらと目の前を飛んでいる。花にとまる。すぐには飛び掛からない。辛抱辛抱だ。昨日の特訓が生きている。今だ、今がチャンス、僕は飛びついた。何と一発で捕まえられた。

「旨い、旨いぞ。うん今度は蛾を狙え。蝶は羽がでかくて余り旨くない、蛾の方が羽も旨いし、身も大きくて蝶より数倍旨いんだ」おじさんは大いに褒めてくれたけれど、どうも蝶より蛾の方が獲物としては上のようだ。

「うん、そうだね、蝶はあんまり美味しくないね、今度は蛾にするよ」僕もおじさんに同意した。

その蛾は中々見つからない。蝶は蛾よりも高く飛んでいて羽が大きく目立つけど、蛾は目立たない所を動き回るのだ。でもやっと見つけた、大きいのを一匹。僕の顔位の大きさだ。蛾はそんなに動きが早くないが、それでも僕はすぐ飛びつかないで相手のスキを狙った。大物だもの必死で飛びつき暴れる奴と暫し格闘。僕が勝った。確かにこっちの方が旨い、羽の方まで旨かった。

「大したものだ、あの大きさの蛾が取れるとは。もうすぐしたらバッタやカマキリもぞろぞろ現れるぞ、カマキリは大きくなると少し手強いが今頃の奴は難なく捕まえられるさ」

おじさんは今日もトカゲを捕まえてくれていて僕にプレゼントしてくれた。

「僕も早くトカゲを捕まえられたら良いなあ」

「ハハそれにはまだまだ時間がかかる、も少し体がでかくならなきゃ駄目だな」

言われてみれば僕は本当にとても小さい。もし凶暴なトカゲがいてそいつが反対に僕を襲ってきたらかなわないと思う。

「ねえおじちゃん、トカゲは何を食べてるの?」

「トカゲが何を食べてるのかって。それはうんと小さな虫を捕まえて食べてるのさ」

「そう、小さな虫を捕まえて食べるんだ、それでお中空かないのかな?」

「だから一生懸命食べてるんだ。俺達猫みたいにグウスカ寝る事もなくね」

「ふーん、猫をかじってみたいなんて思わないのかなあ」

「まあ、思わないだろうな。その前に猫に食べられるだろうしね」

「成程ねえ、だから猫を襲う事はないんだ」

「でも烏は襲うよ、特にお前みたいな小さい奴は十分気を付けるんだ」

「うん、気を付けるよ、カラスは怖いねえ」

「それに、この森にはイタチもいて、これが強くてすばしっこくってお前みたいな小さい奴は勿論、俺達みたいなやつも邪魔と思えば襲い掛かって来る。十分十分気を付ける事だな」

「え、本当、そんな敵がいるの?怖いなあ、のんびり蛾や蝶を探していられないね」僕は怖くなってきた。

「ハハ、自分の獲物を取ったりしなければダイジョブだよ、あいつは体が俺達より少しでかいから腹が空くのさ、野ネズミだけじゃなくウサギも捕まえて食べるんだ」

「え、ウサギ、ウサギってあの縫いぐるみの?」

「ハハハ、縫いぐるみは食べれないな。ウサギは滅多にいないけどたまにいるんだ、大きさは俺達と余り変わらない、殆ど泣かないし草を食べて生きてるんだ。耳は凄く長くてよく物音を聞き分ける事が出来る。それに足が速くて競争したら負けるね」

「イタチはそれを捕まえて食べるの?」

「うん、もし捕まえられたら大御馳走だねえ、暫くは獲物を取らなくて良いくらいさ」

「そう、滅多に捕まらないのか、じゃあ、いつもは何食べてんの?」

「何時もは俺達と殆ど同じ、野ネズミが主食だろうな。蛇もトカゲも捕まえる、狩の名人さ」

「おじちゃんより上手なの?」

「勿論だよ、俺なんかあの足元にも及ばないよ。だからイタチを見たらさっと逃げるのが先決、相手が気づいていないなら向こうが立ち去るまで身を隠す」

「ふーん、イタチって怖いんだねえ、僕も気を付けよう」

「まあ、こんな所は余り姿を現さないけど、もっと山奥に行ったら気を付けるんだ。それからこの森には狸もいる」

「え、タヌキ?」

「タヌキは知らないか?タヌキは毛がふさふさしてるから大きく見えるけど、まあそんなに大きくないと思うよ。そうだな、俺より少し大きいくらいだろう。これは雑食性で果物も柔らかい草木も食べるんだ。ほらお前の横から伸びてるつる性の植物、それは山芋と言って今は葉っぱばかり茂っているけど、秋になると小さな茶色の実のようなもの出来てそれも食べられるけど、それより土の下には立派に大きくなった根っこ、イモが出来てるんだ。その方が大きくて旨いからそれを掘ってアイツの冬の食料になるんだ。勿論ネズミもトカゲも、それにバッタやイナゴも何でもござれだけどさ」

「へーそれは便利だねえ、何でも食べられるのって」

「そうだな、でもその代わり狩りはずっと下手だよ」

僕はこの森にすむ沢山の生き物についてもっと色んな事を教えてもらった。川の傍にはカエルが住んでいてそれを主な食料にしている蛇もいる、その蛇は又木に上って鳥の卵を狙って食べる事もあるとか。だが猫もその蛇と戦う事も辞退しない。何故なら蛇はとても旨いのだとも教えてもらった。でもそれは今の僕にはとても遠い所の物語、今はおじさんの指導を受けながら日々蛾や蝶、バッタやカマキリを捕まえる練習にいそしむしかない。

「よおし、虫取りは旨くなったな。今度は・・ハハ、まだまだネズミは無理だ、反対にお前の方が齧られてしまうぞ。今度はトカゲだ、トカゲが旨く捉えられたらもう半人前の猫として生きていけるぞ」

「半人前で僕生きていけるの?」

「うん、半人前でも何とか生きていけるぞ。たとえネズミが捕まえられなくてもトカゲが捕まえられればその日は何とかしのげるだろう?まあ十分じゃなくても後は虫を捕まえたりして辛抱すれば、体も大きくなって行くからネズミも捕まえられるようになるって事さ」

「分かった、僕トカゲ取りの名人を目指すね」

「うん中々いい返事だ。早く半人前に成れ。楽しみにしてるよ」

そしてその日からトカゲ取りの特訓が始まった。

僕が父ちゃんに置き去りにされてから半月以上立ったから、僕自身も大分大きくなったし足腰もしっかりして来たと思うし、身の動かし方も数段良くなったと思う。でも大きくなったのは僕だけじゃない、周りの生えてる草達も数倍大きく育っていて未透視は各段悪くなっている。

「身をかがめじっと待つ。これはどんな物も狙う時も同じだ。気配を感じたらそこでじっと待つ。相手もお前の気配を感じているのだから十分用心してるわけだ。で、どちらが待てるか二人の競争みたいなものだ。こっちが諦めて引き下がればお前の負けになる。分かったか?」

「うん、僕絶対に負けないよ、ジッとして待つよ」

でもトカゲは虫みたいに目立つところにはいない。トカゲも虫を捕まえるのに必死だから草陰に潜んでジッと相手が目の前に飛んできたり横切ったりするのを待っているんだ。だから中々目につかないし、動き回ってはくれない。でも待つんだ、時々場所を変えてトカゲが出そうなところでひたすら待つ。よくおじさんは僕にトカゲを御馳走してくれるけど、どうして難なく捕まえる事が出来るのか、とても不思議だ。

おっ、トカゲが今ちらりと姿が見えたぞ、しかも昔僕が捕まえたようなちっこい奴じゃない、おじさんが取ってくれるような大きさではないが普通の大きさは十分にある奴だ。これを捕まえられなくてどうしよう。おじさんが折角教えてくれた事が無に等しいと言う事だ。そうここでじっと待つ、あいつがぱっと隠れたあたり、そこに狙いを定めてじっと待つ。絶対に負けないぞ。だが相手も負けてはいない。だって命がかかっているんだもん。しかしトカゲは目の前に来た虫に負けて体を動かした。相手が虫を食べてるそこを狙って飛びついた。距離も丁度良い処にいたから難なく仕留められた。

「やったね、チビ。チビのいた所がトカゲのいた近くだったのが良かったな。何時もこうは行かないな、まあ少し休んでから次のを狙え」

おじさんも大きなトカゲを捕まえていてそれを食べた。そのあと木の根元に行って二人で寄り添って暫し眠った。

次のトカゲは失敗し、3匹目は何とか成功した。

「初めからそんなにほいほい捕まらないよ、毎日練習すれば、どこいら辺りにいるのかかも分かるし、もっと大きいのも捕まえられるようになる。なんでも練習次第だよ」

その日も川に水を飲みに行く。魚も元気よく泳いでいる。ジッと僕は魚を見つめて。すばしこくってそれはとても僕には捕まえるのは出来そうもない。

「チビはまだあの魚を捕まえたいと思っているのかい?」

「うん、捕まえたい、どうしても」

「ハハ、だったらここで時々来て稽古すると良いよ、取れるかも知れない。まあ秋になる前に取れたらいい、あったかい季節の時にね。水が冷たくならない内に捕まえないと、段々水が冷たくなったらもう魚取りは出来ないからな」

「段々水が冷たくなるの?」

「あー今は夏に向かっているから良いけど暫くすると秋と言う季節になるんだ。それから冬に向かって季節と言うのが進んでとても寒くなってくるんだ。目の前にある草や殆どの木がみんな葉っぱを落としてしまう。風も冷たい奴が吹きまくって獲物も野ネズミくらいしかいなくて、この時ばかりは人間の所に行って、魚の残り物を貰ったりしてあったかい季節が又巡って来るのを待たなくてはいけないんだ」

「冬って怖いんだねえ、いやだな、それは何時頃来るの?」

「ハハハ、お前の体がもっともっと大きく成る頃だ。だからその前に体を鍛え獲物もうまくとれるようになっていなくちゃならないんだ」

「そう、体も大きくなるけど冬も来るんだ。それまでにうんと練習してちゃんと魚も取れるように頑張らなくちゃダメなんだ」

「どうだ、本当にあの小さいのを捕まえる練習をする決心がついたか、それともバカバカしいからやめちゃうか?」

「うううん、僕、どうしても魚を捕まえたい」

「決意は固いんだなあ。まあやってみなよ、あきらめが着くまでね」

「寒く寒くなるまで暇を見つけて頑張るよ、魚に笑われながらね」

その日からトカゲ取りの練習に加え魚取りの練習も始まった。トカゲ取りはじっと待ちぱっと飛び掛かるのが大事だが、魚の方はジッと待つのは同じだがぱっと水に飛び込まなければいけない。冷たいし水と言う邪魔ものは魚のいる場所を紛らわせるからこれは難物だ。その間おじさんは笑いながら僕を見ている。おじさんはとっくの昔に魚取りは諦めたし、この小さな魚に興味もなくしたらしい。

「うんそうだなあ、これは早い時間にやらないと駄目だな、びしょ濡れで渇くまでに時間がかかる」

一日目のおじさんの感想だ。幾ら体をブルブル震わせても僕の薄くて細い毛はそんなに早くは乾かないのだ。

「そうだね先ずはトカゲを捕まえるよりこっちの方を先に済ませた方が良いみたいだね、濡れた体が渇くまで時間もかかるし、そんなに何回も水の中には飛び込めないから」

明日から魚取りの練習を先に済ませようと僕は決心した。濡れた体が渇くとまた少し虫取りを頑張り蛾を一匹とバッタを二匹捕まえた。

「よしよし今日はこのくらいにしときな、これからおじさんがネズミを捕まえる。お前にもそれを進ぜよう」

「え、本当、嬉しいな、ネズミは美味しいし食べ応えがあるもんな」

「お前がもう少し体がでかくなったらネズミの取り方も教えようが、今のお前にはちょっと無理だね」

おじさんはそう言うとネズミのいる畑に向かった。

 翌日から朝一番に川に向かう。腹ペコだけど、それが反って魚をとるのに適してるんだとおじさんは言う。成程とも思うけどちと辛い。蛾の一匹ぐらいはお腹に入れた方がも少し力も出るしスピードも出ると僕は思うけど、おじさんは絶対腹ペコの方が食べたいと言う気持ちが感を鋭くさせるんだって言う。

嗚呼、だけど4,5回ぐらいやったけど全部空振り。

「さあ、今日の魚取りの練習はこれでおしまい。次は虫取りだ。何回か取ってる内に体も渇くだろう」

蛾を3匹とバッタを2匹捕まえた。全部平らげ何時もより美味しかった。でもこれだけじゃあ腹ペコは収まらない。

「さあて今度はトカゲを捕まえるぞ、体も大体渇いただろう」

僕はうなずいた。大体トカゲ取りが今僕に与えられた日課だったのだ。うん何だか体が軽い感じ、ようし、頑張ってトカゲ取りの名人になってやるぞう。

おじさんは僕とは別にトカゲや蛾、バッタ、カマキリなんかをどんどん取ってさっさと食べている。それから僕のトカゲ取りを高みの見物と言う所だ。

ふむふむ今日は昨日より大分上手くなってるよ、ほうれ1匹目が取れた。うんこれも旨い、何か力がみなぎって来たみたいだ。もう1匹捕まえる。僕の小さな体にはこれで十分だ。

おじさんの横に行って一休み。

「そうだなあ、魚は取れなかったけど、なんだか狩りの腕は上がったみたいだな、感心感心」

「本当?僕狩りが旨くなったと思う?」

「ああ上手くなってるよ、も少し大物を取れればもっと良いけどね」

僕はおじさんの傍で横たわり少し眠った。おじさんが傍にいるだけで安心してくっすり眠れるんだ。

次の日も次の日も、そのまた次の日も同じように練習した。魚はかすりもしなかった。でもそんなに水の冷たさが苦にならなくなった。

「うんそうだな、大分気温が上がって来てるからな。虫たちも随分大きくなって来たし種類も増えた。トカゲも体が大きくなってきた様だ。だがもう少しすると梅雨と言って雨の日が続くようになるんだ。そしたら獲物が極めて取りにくくなるんだ」

「え雨が降り続くの?いやだなあそしたらもう魚取りの練習も出来ないね」

「虫も雨の日は嫌だから隠れて出てこないしトカゲも影をひそめるんだ」

「虫もトカゲも姿を消しちゃうの?」

「そうだね、みんな雨に濡れるの嫌いなんだ、お前だって嫌いだろう?」

「うん嫌いだよ。でも食べ物なくて困るなあ、如何したらいい?」

「うーん、先ずは動かず寝てる」

「えーでもお中は空くよ」

「ハハハ、そうなんだ、次に起き出して雨が降ってないとこを探して行って見る」

「雨が降っていない所?」

「木が茂ってる所は殆ど雨が当たらないんだ」

「へー雨の当たらない所があるんだ」

「そこに行けば天気の良い日みたいじゃないけど、それなりに虫は虫の活動をし、トカゲはトカゲの活動をしてるという訳さ」

「それを頂いて空腹を満たすってわけだ」

「でも基本は寝て余り体を動かさない、雨が降ってる時は獲物が全体的に少ない時だからね」

それからしばらく好天が続いた。僕は魚取りに精出した。手ではなかなか上手く行かないのでこの頃は怖いけども水の中に頭を突っ込んで魚取りに挑戦してみる事にしてみた。こっちの方が手で押さえるよりも口元を掠める魚を感じるようになって来ている。

「お前良く水の中に顔を突っ込めるようになったなあ、もしかしたらお前、魚取り、成功するかも知れないぞ、凄い凄い」

おじさんも感心し褒めてくれた。

「俺は手で取ろうとしかしたことがなかった、そこで失敗を繰り返し最後はバカバカしくなって諦めたんだ。お前は諦めずどうすれば良いかと考え、頭を水に突っ込んだ方が取れるんじゃないかと考えそれを実行に移したんだ」

「僕これからもっと練習して取れるように頑張ってみるよ」

おじさんもニコニコしてうなずいた。しばらくするとおじさんが言っていた梅雨と言うものがやってきた。しばらくは魚取りの練習もお休みだ。でも木の穴でおじさんと寝てばかりはいられない。大体ここの木の周りは余り雨が降らないから、虫やトカゲに困る事はないのだ。ただおじさんの大好物の野ネズミはここにはいない、木のない畑や野原を住みかにしてるから断念せざるを得ない。でもおじさんは文句を言わない。晴れるのをじっと待っているのだ。

雨が止むと夜だってかまわないで野原や畑に出掛けては野ネズミを捕まえる。僕にもちゃんと分け与えてくれるのだ。そんな日が何日か続いた。僕は魚取りの練習を早く再開したくて、時々川に行って見た。川は随分増水してて勢いも増している。

「駄目だよ、雨が降ってる時や降った後もしばらくは危険なんだ。後を追いかけて来て良かったよ」

「僕、早く練習がしたくて来てみたけど・・水かさは増してるし流れも凄く早くなってて、これじゃあとても練習出来ないと思っていたんだ」

「単に水かさが増してるだけなら、お前がおっこちても助けに行けるけど、こんなに水の流れが速くちゃあ助けにも行けないからなあ」」

「うん、そうだね、ごめんなさい、心配かけて」

「水は雨水がそこいらに溜っているのを飲めばいいんだから、むやみに川に入っちゃあいけないんだ、もっと激しく振って洪水になる時もあるんだから」

「洪水ってなあに?」

「うん洪水は雨が沢山降って川が自分だけでは処理できなくって、川の外へあふれ出すんだ。それにもっと上流の方では木が倒れたり下の方に流されたりしてこれまた危険なんだよ」

「そうなんだ、そんなのにぶつかったら僕なんか一たまりもないねえ」

「だから。雨を軽く見ちゃいけないよ、分かったかい」

「良く分かった、僕、心に刻んだから」

「よしよし、お前は賢い子だ、きっと立派な猫になるよ」

そんなこんなして洪水も起こる事無く雨の季節は過ぎさった。

「どうやら梅雨はさって行ったようだな」

「本当、もう雨は降らないの?」

「いや、雨は降るけどさ、あんなに長く降り続く事は暫くはないって事さ。でも前にも言ったようにまだ川に近づいちゃ駄目だよ、もう少しの辛抱だ」

「うん、我慢するよ。他にも大きな虫を捕まえたりトカゲを捕まえなきゃならないものね」

「そう、俺達があんまり虫取りできなかったり、トカゲの方も手を休めていたからその間にみんな大きくなっているぞ、頑張って今までの分取り戻さなくちゃあ」

「うん」と返事をして飛び出したものの、草丈もビックリするほど伸びていてこりゃあ獲物を探すのに苦労するぞと思っていたら、虫の方はそれをものともせず闊歩していたので、結構たやすく捕まえられた。

トカゲは?これは中々だ。

「良ーく落ち着いて、気配を感じるんだ。草丈の中に身を沈めて静かに静かに待つんだ」

そう言うおじさんはさっさと1匹捕まえて食べている。うーん何という速さだ、僕も早くああなりたい。その時気配を感じた。今だ、これを逃がしてなるものか。よっしゃ捕まえたぞ。それを食べると少しお中も満ちて来て元気が出てきた。よーし今度も捕まえるぞ、今度はおじさんに負けないようにも少し大きいのを捕まえたいなあ。こっちの方が見つかるかな?あっバッタだ、こりゃ大きいな、いただきます、と有無を言わさず捕まえた。

「おー、トカゲを捕まえる間にバッタ取り、中々やるねえ、野良で生きるにはその位出来なくちゃ生きていられないものな」おじさんも褒めてくれる。

そうやって一日は終わった。

「明日は川に行けるかなあ?」おじさんに聞いてみる。

「明日では早すぎるよ、あと、そうだなあ2,3日経ったら行って見て流れが収まっていたら、大丈夫と言う事になるだろう」

「そう、そんなに長くかかるんだ、川が元のようになるまでは」

「そうだな、流れは2,3日で戻るかも知れないが、水の量はうんと増えているはずだ。それもちゃんと頭に入れて行動しなくちゃならないよ」

「水の量が増えてるの、だったら魚の量も増えてると良いねえ」

「ハハハ、だったら良いねえ。そうだな魚が少しは大きくなってるかも知れないなあ」

「え、本当?だったら良いねえ、捕まえやすくなってるって事だから」

「そしたらチビの初手柄が見れるかも知れないってことだなあ。これは楽しみ楽しみ」

「でも、そんなに旨くは行かないさ、精々岩に生えた苔が口に入るだけだよ」

「こりゃチビにしては気弱な事を」

「気弱じゃないよ、それが本当の所だよ。うんその内絶対に魚は手に入れる、取ってみせるよ、本当だよ」

「そうかそうか、気弱になって言ってるんじゃないんだ、ちゃんと自分の力を知って本当の事を言ってるんだ、お前も事実をわきまえるようになって来たんだねえ」

おじさんとの幸せな木の穴の語らいは野ネズミ狩りの時刻まで続いた。次の日も良く晴れてまぶしいほどで、虫は増々活発で蛾やバッタ以外にもわんさかわんさかいるが、残念ながら名前を知らない。知らないながらも怪しげなもの以外は全部、御馳走さまと食べさせてもらう。でも虫よりもトカゲの方がもっともっと数倍も捕まえられたら嬉しいし食べ応えもある。第一絶対に美味しいよ。おじさんのように簡単に捕まえられたら良いけれどこれは僕には一仕事、でも頑張る、それしかない。

というわけでその日もトカゲ取りに精を出す。じっと待つ、気配を感じたらぱっと飛び掛かる。これを繰り返す。うん、取れた取れた今日は3匹も取れたぞ、昨日より一匹多く取れたんだ。

「うん、よく頑張ったな、明日はもっととれるかも知れない」

「本当?だったら嬉しいな、この頃体が大きくなったのでお腹が空くんだ。沢山取っておじさんの負担を少しでも減らさなくちゃあ」

「ハハハ、お前の食い扶持ぐらい負担だなんて思ってはいないよ。でも早く独り立ち出来るようになるとおじさんは嬉しいな。そしたらチビと二人で狩りが出来るし、もっと山奥にも行ける」

「もっと山奥?そこに何があるの、もっと良い獲物が居るの?」

「そうだよ、危険が一杯だけど獲物も一杯だ」

「ふうん危険と獲物が一杯かあ、楽しみな様な怖いような」

「でももっと先の話だ。体ももう少し大きくなって、野ネズミをドンドン取れるようになってからの話だよ」 

「僕、野ネズミ捕まえられるかな?あれってとても難しそうだもん」

「トカゲ取りより難しいねえ、一匹捕まえられるのだって相当かかるぞ、こいつもジッと待つことが大切なのさ」

その日も同じように夜が来ておじさんのネズミ捕りの見学と睡眠を取る。

また日が昇る。

おじさんが僕の顔をじっと眺めた。「?」僕も見返した。

「チビ今日は川がどうなってるか見に行こうか?」

「本当?僕さあ気になって仕方なかったんだ」

「でも様子を見に行くだけだよ、とても今は川岸に行くのだって憚れる、どんな様子かなあと近くでうかがうだけだ、分かったか?」

「うん、分かった、近くから川の御機嫌をうかがうだけだね」

それから二人は川へと向かった。もう草木はどれも湿っていないし、道もぬかるんでいる所はなくて快適に歩けた。川が近づくとこの間のように激しい音はしなかったが、やはりそれなりの音は聞こえてきた。

「まだ音が聞こえているねえ、この間よりも小さくはなってるけど」

「うん、まだ少し早かったかなあ、も少し音が小さくなってると思っていたんだけど、考えが甘かったみたいだ」

「でも行って見ようよ、見るだけなら構わないんじゃないの」

「そうだなあ、行って見るか、ここまで来たんだから」

「アッ、木が、木が折れて流されてきている。それに小枝もね」

「ウーム、上流の方はかなり降ったんだなあ、ここいらでは大したことないと思っていたらこんな大きな木が流されてきたとはたまげたねえ」

「水かさも増えてるようだね」

「そうだな水の量もうんと増えたみたいだ」

おじさん川を見つめる。僕も見つめたけど川を見つめても何の考えも浮かばなかった。

「こりゃまだ、2,3日かかるなあ、元の静かな川に戻るのに」

「あ鳥だ、鳥が魚を狙っているんだ」

そう言ってる間に鳥は川に飛び込み、難なく魚を捕まえた。

「鳥って魚捕まえるのが旨いなあ」僕は感嘆してしまった。

「目も良いんだよ、高い所から一番大きいのに狙いをつけて川の中に飛び込むのさ」

「一番大きいのに目を付けるのか」

「なんでも大きいのが目をつけやすいだろう?特に川の中の物は見えにくからねえ」

「でも陸にいるものは小さいものが足も弱いし防御も出来ない」

「だから親は子供を見えないように隠すのさ、見つかったら一環の終わりだ」

「用心が肝心て事だね」

「そうそう、用心が肝心なのさ、シャレでなくてさ」

「え、シャレってなあに」

「あ、シャレって意味が分かんないのか‥そうだなあ用心と肝心は言葉の響きが似てるだろう、でさ、意味は違う。それを合わせて一つの意味のある文にした時、シャレって言うのさ。これから色んな言葉に出会う内にはっきり分かるようになるよ」

「へー用心と肝心、成程音はよく似てるけど意味は全然違う。それをくっ付けて用いればシャレた言葉になるのか、これで僕は一つ利口になったな」

おじさんはそれを聞いて大笑いしてた。

「さあ今日は魚取りは駄目だと分かったからトカゲと虫取りに専念しよう」

おじさんはそう言うとくるりと体を川に背を向け草原の方へ上って行った.僕もその後から慌ててついて行く。

「今日は場所を変えよう、同じとこでトカゲを取っていたら、そこにはもうトカゲが居なくなってしまうからね、も少し離れたとこでトカゲ狩りをしよう。お前も随分取れるようになって来たからな、早めに手を打とう」

「え、トカゲって僕が取るといなくなるの?それ困ちゃうな」

「ハハハ、いなくなられたら困るから、もっと離れた場所で、良そうなところを探すのさ。こっちの方だもっと上の方に行って見よう」

おじさんは何時もの野原や畑のある所よりももっと上の方へ歩いて行く。僕もその後を追う。

おじさん、立ち止まってぐるりと周りを見回す。

「うん、この位離れていたら大丈夫だろう。木の茂りも前の所と変わらないし草の生え方も丁度良い。ここならお前の腕を十分発揮出来るだろう」

「僕の腕を発揮できるの?」

「ああ、トカゲもいれば虫も一杯いるに違いない。さあ獲物狩りを始めよう」

「うん、お中も空いてきたしね」

おじさんの言う通りだった。虫も大きいのが沢山取れたし、トカゲも難なく3匹も取れた、それも前捕まえたよりも大きい奴を。

「うん、ここでの狩猟は大成功だったな。今日の獲物はみんな今までよりも大きいものばかりだ。これで少し休もうか」

ここにも木陰が沢山あって風が気持ちよい。僕もおじさんの傍に横たわりまどろんだ。

目を覚ますともう夕暮れ時だった。大きな蛾が近くに止まっていたので捕まえて食べる。

「お、早速獲物を仕留めたな、感心感心」

おじさんはもうとっくに起きていてネズミ狩りをやっていたらしい。

「もうネズミ狩りしてるの?」

「ああ、ネズミ狩りは普通夜と決めていたんだが、お前の体も大分大きくなって来たから、食料としてのトカゲの量も増えて来た。俺が今まで見たいに食べたら、幾らトカゲといえど数が減ってしまうので俺様はネズミ捕りにも少し精出すようにしてみたのさ」

「そうか、ごめんなさい、僕この頃お腹が空いて空いて何にも考えないでトカゲ取って食べてた。おじさんはこの森の全体を考えているんだね、そしてトカゲも虫も丁度いいようにと考えて行動してるんだ」

「ハハハ、何も謝る事はないさ。ありがたい事に野ネズミはどんどん増えるしね、それを俺が取る、人間が喜ぶって訳さ」

「人間が喜ぶの?」

「うん、ネズミは畑に植えてある奴を食べるからね、それを退治してくれるから喜ぶんだよ」

「ふうんそうなんだ、猫も人の役に立つんだねえ」

「今の猫は殆どそんなもの食べないから分からないけど、ずーと前は人はネズミを退治するために猫を飼ってたんだ」

「じゃあ僕もネズミ捕りの練習をしようかな、小さいのなら捕まえられるかも知れない」

おじさん僕を暫く眺めていたがやがて頷いた。

「そうだなあ、ちょっと無理かもそれないが、稽古するのには早すぎると言う事はない。大きいのはねらちゃいけないよ、反対にかまれてケガするからな」

「うん、僕は自分の力のなさを心得てるから決して大物は狙わないよ、大丈夫、僕は僕の身の丈にあったちっこい奴を狙うつもりだ。でもそんなのいるかな?」

「いるよ、いる、結構それがいるんだ。俺は大物しか狙わないけど小さいのも沢山いるんだ。でも良く注意してないとトカゲよりもそいつは素早いからなあ大変だあ」

「トカゲよりもネズミの方が素早いの」

「ああ、素早いね。それに頭も良いんだ。何時も同じ所には潜んでいない、場所を変えて食料とするものを確保しに来るんだ。だからこっちも昨日はこっちで捕まえてから今日はあっちだなあと捕獲する場所を変えるんだよ」

「ふうーん、成程ね勉強になったよ」

「それに巣穴から出る時は一匹目は凄く警戒してるから2匹目を狙った方が捕まえやすいかもね」

「一匹目よりも二匹目ね」

「音は厳禁、トカゲより耳が良いぞ、ジーと音をたてないように体は何時でも飛びつける姿勢のまま静かに待つんだ。一匹目は大きくても二匹目は小さいのが普通だからがっかりするかもね」

その夜獏の一回目のネズミ狩りの練習が始まった。勿論おじさんとは別行動だ。ネズミを捕るのはおじさんにとっても大切な大切な仕事だから僕の相手はしてられないのだ。でもここいらが小さいネズミが出やすい所だとはちゃんと教えてくれた。

待つこと一時間以上、でもネズミは出てこない。僕は眠くなった。うつらうつら、何となくいい気持ち。その時僕の肩をたたく者あり。勿論おじさん以外そんなものがいる訳がない。

「ほら今一匹出て行ったよ、次だ、次を狙うんだ」僕は少し寝ぼけ眼の目で狙いをつける。ややあって次のネズミの耳が見えた。勿論僕はこの2か月間以上鍛えた動作と腕で飛びついた。捕まえた。ちっこいちっこい奴を始めて仕留めたんだ。

「ハハハ、初めてのネズミだ、とても小さいが立派にネズミと言える代物だ。その前にちょっと居眠りしてたのが少し玉に傷だがな」

「僕凄く眠くて溜まらなくって、つい居眠りしてしまったのさ。おじさんが起こしてくれなかったら、まだ寝ていたかも知れない」

「まあ最初はそんなもんさ。でもなれると居眠りしてても最初の奴が飛び出した音で目が覚めるようになるよ」

「えー、本当?居眠りしてても最初飛び出した音で目が覚めるようになるの?」

「ああそうだよ、猫の耳はとてもよく聞こえるんだ、甘く見ちゃいけないよ。耳を澄ませてご覧、暗い世界でうごめく動物たちの活動が伝わって来るヨ。この森の動物たちの生きざまを知る事が出来る」

おじさんは目をつぶって耳を澄ませている。僕も同じように目をうぶって耳を澄ませた。うん、風に揺らぐ木々の音や草達のざわめきの音しか最初は聞こえなかったが、暫くすると大きな何者かが何かを捕まえる音、何か長いものが動いて行って小さなものを捕らえる音。それを必死で逃れる沢山の物たち。もっともっと色んな音が聞こえて来る。

「色んなものが活動してるんだねえ」

「こうして耳を澄ませていると、今危険が迫っているとか獲物が巣穴にいるとかその内分かるんだよ」

「ふーんどうすればそれが分かるようになるんだろう?今の僕にはみんな混ぜこぜに聞こえて、その一つ一つをこれは必要なもの、これは必要でないものと分けるのは出来ないな」

「出来るようになるのさ、毎日毎日注意して聞いていればね」

「毎日、毎日注意して聞くの?獲物取りと同じかー、なんでも毎日やる事が大切なんだ」

「そうそう、毎日が訓練の日々、それを自分に言い聞かせてこれからも鍛錬して行くんだ。気を緩めちゃいけないよ」

おじさんと僕は木の穴に戻りその日もぐっすり眠った。

その次の日も日差しは増々強くなり、とても日の当たる場所には少しの間しかいれないほどだった。

「今日も川のご機嫌うかがいに行って見ようか?」

「うん、僕行って見たい」おじさんと僕はなるべく木陰を選んで川にたどり着いた。

「おー、大分音が静まっているぞ、これなら今日はもっと傍まで行けるだろう」

「本当、近くまで行っても良いかな?」

僕はおじさんの許しを得て川の石のある所まで行った。流れも元のように緩やかになり、魚も元のように沢山泳いでいる。何だか、少し大きな魚も混じっているみたいだ。

「おじさん、大きな魚がいるよ」

「どれどれ」とおじさんも川辺にやって来た。

「うーんこれはフナと言う魚だ。捕まえられたらこりゃ旨いぞ」

「ほんと、フナはおいしいの?」

「ああ他のちっこいのより数倍旨いぞ。取れたらの話だが」

「あ、他にもいるよ、ほらあっちにも、こっちにも結構いるよ」

「本当だ、あの雨で川の流れが変わってここにフナが住み着くようになったらしい」

「取れたらいいね、フナをさ。沢山取っておじさんに御馳走出来たらどんなに好いだろう」

「ハハハ、そんな日が来ると良いね、待ってるよ」

「うん僕きっとフナ取りの名人になる、そしておじさんに御馳走するんだ」

足を、前足を水に着けてみる。おや余り冷たくない。あ、目の前に小さな魚の群れが来た。思わず顔を水につけていた。一匹、一匹だけ口の中に入り込み捕獲した。

「坊主、やったなあ、魚取れたぞ。小さいけど魚は魚、魚一匹だ」

僕はその小さな魚を頂いた。あこがれた魚は美味しかった。もっともっと欲しくなった。でも魚の群れは僕のいる所から離れて遠い所を泳いでいたのでそれは出来ぬ相談だ。

「さあ、ここはそこまでだ、トカゲ取りに出掛けよう」

「うん、残念だけど今日の所はこれまでだねえ。トカゲ取りの方が今の所本命だから」

おじさんは大いに笑った。また強い日差しを避けつつトカゲのいそうな草原を目指しておじさんの後を追う。

「今日はここにしよう。ここはまだ一度もトカゲ取りしてないからきっと大物が取れるだろう。どこいらへんに出るかそろそろ分かって来たかな?」

「うーんまだはっきりとは分からないや、も少し鍛錬が必要だと思う」

「そうか、これからはどんなとこから出て來るのか良く観察しておくよう勉強するんだな」

「うん、どんなとこから出て來るか良く観察するよ」

「お前はとても素直なとこが最大の良い処だ。言われたことをきちんと守り実行する、お前の最大の武器だよ。さあ今日も頑張ろう」

「うん頑張ろう」僕はそう言うと草原に身をひそめた。ここから何処からトカゲが現れるのか息をひそめて観察するのだ。

あ、出てきた、かなりの大物だ。チロチロと舌が動くく。目玉も動く。相手の動きが止まる。ここしかない「エイヤー」飛び掛かる。しっかと捕まえた。

「よしよし、大きいのを仕留めたな、感心感心。もう一匹ぐらい捕まえられるだろう」

そ言うおじさんは僕がこの一匹を取る間に2匹のトカゲを捕まえていたのだ。僕もそれから必死になってもう一匹を仕留めるのに成功出来た。

「うん立派だ、少し休んだら今度は虫取りもやろう」

こうしてトカゲ取りが終わると、一番暑い盛りはおじさんと一緒に木陰の草原に寝そべって眠る。それはとても気持ちの良いものだった。

「さあ、今度は虫取りだ、もうどれが旨いか分かっただろう、それを捕まえて食べる。それが余計なエネルギーを使わないで生きる術と言うものさ」

「目の前の物をあれもこれも食べるんじゃなく、美味しいものだけを選んで取り、それを食べる。それが生きる術になる、なんだね」

「そうそう,それが生きる為の一番良い生き方さ。じゃあ虫取り始め」

「頑張るぞー」

その日も虫取りは大成果だった。バッタのでかいのも中くらいのも他にバッタによく似たものカマキリも捕まえたし蛾も色んな種類のを何匹も捕えた。

「では夜のネズミ捕りに備えてまた少し休もう」

おじさんはそう言って原っぱに近い場所を選んで寝床に決めた。僕はおじさんの傍でさえあれば一番最高の寝床だったし、幸せだった。

「さあ今日は2匹は捕まえる事を目標にしよう。小さくても2匹捕まえられれば上出来だし結構お中にもたまるだろう」

「2匹、2匹なの、が頑張ってみるよ」僕の心に言い聞かせる、2匹2匹捕まえるのだ。

「大丈夫だ、きっと2匹ぐらいは捕まえられるさ、胸を張って行きたまえ」おじさんの激励の言葉。

「俺はこっちの畑の方を見回るから、お前はこの野原の方に出る奴が小さいと思われるので、こっちを見張るのだ。畑の方がイモが取れるので今は大きいネズミの縄張りになっているんだよ」

「な、成程、そうなんだ。ようーし頑張って2匹取って見せるぞー」

「うんその息その息、健闘を祈ってるよ」

おじさんと別れて僕は原っぱでネズミの出没を静かに待ち受ける。今日は眠らないようにしようなと昨日の居眠りしてしまった事を思い出して、おじさんに起こされた事を恥ずかしくなった。うん今日は絶対に絶対に居眠りしないぞう。でもさ暗くってさ、誰もいない原っぱ、鳥も飛んでいないんだよ、眠くならない方がおかしくない?あ、思い出した、おじさんが言ってた事、猫はとても耳が好いんだ、他の動物たちが今何をしてるのか聞こえて来るって。じゃあその肝心のネズミは如何してる?聞こえるか、聞こえないか耳を澄まそう。うーん良く分かんないな、あいつらだって用心してなるべく音を出さないようにしてるだろう。お、何か何か音が、かすかにうごめく音が聞こえる。こっちの方向、近い近い近い場所だ。お、出て來るぞ。辛抱、辛抱。も少しの辛抱だ。

目の前に1匹目が現れる。きょときょとと頭の半分も覗かせないで周りを偵察。我慢我慢ここが我慢のしどころだ。出た、1匹目が遂に姿を現した。ごくりと僕は唾を飲み込んだ。2匹目を狙うのだと言うおじさんの声が頭の中で響き渡る。2匹目のネズミの耳が見えた。そして頭が、ぱっと日ごろの鍛え上げた手と口で有無を言わさず捕まえる。

「おめでとう、1匹目だね。後もう一匹捕まえたら今日の仕事は終わりだよ。場所をも少し変えてね待つんだよ」

おじさんはやっぱり僕の事が気になって自分の狩りが終わってから、少し離れた場所からじっと見守っていたんだ。

「どの位離れている所かなあ」

「そうだな彼らのテリトリーを考えるとあの石が見えるあすこぐらいなら大丈夫だろう」

「分かったあそこ辺りで2匹目を待つことにするよ」

僕はおじさんの言ったあたりまで足音を忍ばせて移動し巣穴がありそうな所を探して、そこで待機することにした。夜はもっと更けていく。風が吹き出した。暑い日だったので風は何ともありがたい。でもこれが雨の降る前触れだったらチョイ困るが、そんな風ではないようだ。じっと待つ。それから耳も澄ませてみる。うん、何の音もしない。又静かに待つ。耳を澄ます。おや巣の中からではなくその巣に向かって走り寄る小さな小さな足音。視線をじろりとその方向に向ける。居た、居たぞ、2匹が巣穴に駆け戻って来たのだ。エイヤーとそう言った設定は今まだなかったので近い方のに飛びついた。何とか爪にそいつが引っ掛かった。

「良くやった、今までそう言ったシチュエーションはなかったから、お前がどうするか心配してたけど、見事に切り抜けたな、感心感心」

シチュエーションがどう言った意味なのか分からなかったけど 、おじさんの言いたいことは直ぐ分かった。

「うん、兎に角夢中で飛びついたよ」口をもごもごさせながら僕は返事をした。それは多分今までで取った奴の中できっと一番大きな奴に違いなかったので、ボリュームも美味しさも一段と勝っていた。

「よしよし、じゃあ今日はここまでにしよう。寝床に帰って朝までひと眠りしよう」

おじさんと僕は連れ立って木の穴へ戻って行った。

「さあ朝だ、今日も川へ出かけるのだろう?」

「ええ行きたいです、又魚が取れたら良いなあと願っています」

「ハハハ、だと良いねえ」

「今日はもっと大きいのが取れたら良いんだけど、無理なお願いかな」

「それにはもっともっと練習するしかないな、さあ頑張って目指せ大物フナを捕まえよう!」

僕たちは胸を張って川へ出かける。今日も良い天気過ぎてきっと熱くなりそうな一日の始まりだった。

川は昨日よりももっと穏やかで前の流れと変わらなく見えた。

「もう元の流れにもどったみたいだな」おじさんもそう感じたらしかった。

「僕もそう思うよ、でも、ほらフナはちゃんと泳いでいる」

「うん、ここをどうも自分たちの住みかに決めたらしい」

「大きくなって子供が沢山生まれてこの川一杯フナだらけになると良いねえ」

「ハハハそんなに都合良く行かないよ、増えてら増えたでまた別の所でテリトリーを作るのさ」

テリトリーと言う言葉の意味も僕には良く分からなかったけど、おじさんの言わんとする所は分かった。

「じゃあそのテリトリーを探して逃げ出す前に、是非一匹戴きたいなあ。もっとこっちに来てくれないかなあ」

「うん、フナは・・少し無理かもね。やはりこの小さい奴の方が群れを作ってるし、岸部近くを泳いでいるからこっちの方が狙いやすいと思うよ」

足を、前足を水につける。「水、全然冷たくないや」本当に水は冷たくなくて却って心地良かった。

静かに水の中に立ち水辺に目を落としジッとその群れの動向を見つめる。じっと待つ。じっと待つ。それしかない。それしかない、何を捕まえるにしても。それがここで得た教訓だ。

来た、来たぞ。群れが行く先をを変え岸に近づいて来る。もう少し、もう少し。今だ、今しかないと顔を水に素早く突っ込んだ。勿論口を開けて。取れて取れたぞ今日も、同じようなちっこい奴だけど、確実に口の中に捕えられている。

「やったなあ今日も確実に一匹確保だ」

水から上がると足が思った以上に冷たくなっていた。

「で、でもあ、足がとても冷たくて少し歩きづらい」

「そうだろう、随分長く水に入って居たからなあ。まあ、ここに来て少し休むと良いよ。直ぐ治るさ」

僕はおじさんの横に座り足の回復を待つ。おじさんが僕のしびれた前足をなめてくれた。そのせいもあってか足のしびれは直ぐに消えて行った。

「もう治ったみたい」

「そうか、じゃあ上に上がってトカゲ取りに挑戦しよう。俺も少しお腹が空いたみたいだ」

「ごめんなさい、僕の魚取りに付き合わせて」

「ハハハ、そんな事は大した事ではないよ、お前がバンバン魚が取れる方が大事だからね」

おじさんの指揮で今日は畑の向こう側に回って取る事になった。

ここは初めてなので結構大物が捕獲できおじさんも僕もホクホクだ。

「うん、ここはこれまでにしよう。少し休んだら虫の捕獲に挑戦しよう」

僕たちは近くの木の下で横になって休む事にした。その頃になると夏の太陽がぎらぎら輝き周りは熱気むんむんだ。勿論僕たちの休んでいる所は少し中に入り込んでいたから寝苦しいと言う事はなかった。

「さあ昆虫取りに挑戦だ、トカゲも今日は順調に取れたし、虫も順調に取れるだろう」

「うん、僕もそう思う、きっと昨日よりも大物が取れると確信してるよ」

「お前も中々言葉使いが旨くなって来たな、確信なんて言葉、そこいらの子供には使えない言葉だ」

「おじさんの言葉使いを聞いてると自然にこうなちゃうんだ」

「そうか、そうか。まあお前の傍には俺しかいないからな。まあ虫取りに専念しよう」

さっきよりも幾分日の差し方が柔らかくなったぶん虫も活動する頃だ。

いたいた、大きなカマキリだ。カマを振り上げ僕を睨む。取ろうか逃がそうか、僕は迷う。

「逃がしてやったら?」おじさんの声。

「うん、他の獲物を探すよ」僕もさっさと視点を他に移す。

「あいつはなもう少しでお腹の卵を産むんだ。そしたら沢山カマキリが生まれて来るんだ。まあ腹ペコだったら食べてしまっても良いがな、でも今日はそれほどでもないから逃がしててやっても良いと思う訳だ」なるほどと思う。

今度はカマキリでない奴を。おお見つけた、大きな大きなバッタだ。パクリと頂いた。そんなこんなで蛾も頂いたし他のバッタに似た奴も御馳走さまと頂かせてもらった。

「じゃあ夜に備えてどこか涼しい所を探して寝ようかな」おじさんあっちこっち見回していたがやはり木の下の茂みの中に決めたようだ。

「どこもかしこも今は暑くて涼しい処なんて殆どないねえ」

おじさんはそう言ったけど下の草が冷たくってとても気持ち良かった。それにおじさんの傍ならば少々暑くても全然平気だよ。

「さあ行こうか、今日も2匹がお前のノルマだ」

ノルマの意味は分からなくてもおじさんの言ってる事は良く分かる。

「僕頑張る、早く一人前になっておじさんを安心させなくちゃいけないね」

「うん楽しみにしているよ」そう言うとおじさんは立ち上がり周りをぐるりと見まわした。

「そうだな今日はこっちの方が良いみたいだ。こっちの方が少し大きめの奴が出没すると思うよ」

おじさんには出て來るネズミの大きさも分かるらしい。それも感ではなくてちゃんと耳で聞き分けて行っているのだ。

「ここいらで待ち伏せしてたら現れるから頑張れよ。俺は畑の方に行く」おじさんは去って行った。

月が昇っていた。まだ満月ではなかったけど周りの様子が良く観察できる。でも夜だから鳥も飛んでいなかったし、蝶一匹も見れなかった。その代わりバッタみたいのは活発に動いている。今は虫を捕まえる時間でないからそれを捕まえるのはジッと我慢して体を低くしてネズミが出て來るのを只管待つのだ。

うん、待つのは辛い、眠くもなるし目の前を飛び交う虫を無視するのも辛い。あれれ、これっておじさんが言ってたシャレになっているのかな?後でおじさんい聞いてみよう。兎も角今は一匹目を見つけるのが大事、早く出てこないかなあ。耳を澄ましてみる。近くであいつらの動く気配を感じ取るのだ。おじさんはここいらをぐるりと見渡しただけで昨日より大きいのが居ると分かったのだ。僕だって何とか巣穴でうごめくあいつらの行動を少しでも知りたいよ。じっと耳を澄ます。もっと耳を澄ます。うーん分からない、僕にはさっぱり分からない。もう一回耳を澄ます。駄目だもう一回。何回か繰り返していると、聞こえた、あれはバッタの飛ぶ音や蛾がうごめく音ではない。そうあれが求めるネズミの音だ。アッ動き出した。もう少し、もう少し、出て來るぞー。一匹目がちらちら外の様子をうかがってる。辛抱辛抱、ここが我慢のしどころだ。出た出た次を狙うんだ。一匹目が少し警戒して動きを止めている。ややあってその一匹目が動いた。それに続くように2匹目が少し耳を出し、ややあるかないかの時間に顔がのぞいた。その瞬間、僕は逃がさなかった。しっかり2匹目をキャッチした。それから次の獲物を求めて移動する。どうやらここいらにも巣穴があるようだ。耳を澄ます。よーく耳を澄ます。フムフム何か聞こえるぞ、多分あれはネズミのうごめく音だ。も少し向こう、ここいらで様子をうかがおう、ここの草の茂みに身をひそめれば向こうからは全く見えないはずだ。またまた辛い時間の始まりだ。じっと待つ、じっと待つ。鳥も虫も気にしない。あいつらが出て來るのを待つだけだ。昨日みたいに巣穴から出ている事はないのだから。おじさんはこうして毎晩畑や野っぱらに出没ネズミを捕っていたんだなあ。それが楽しいと飼い主の元を離れてここで暮らし始めたと言うのは、おじさんよっぽど人間の買い与えるキャットフードよりも天然の方が良いと思ったんだろう。

あ、巣の中で動きがあったぞ、もうすぐ一匹目が出て來るぞ、油断大敵。見えた見えた、ネズミの耳の先。出て来た、一匹目が今度は躊躇することなくするりと出て来た。2匹目は今度は中々出てこない。ウームこれは駄目かなと考えているとやっと耳を現す。ちらりと顔をのぞかせ飛び出す体制だ。僕も負けずに息を整え飛び掛かる。今日のノルマ達成だね。

「うん良く2つ目の巣穴を見つけられたな、立派だよ」

「まだまだおじちゃんの足元にも及ばないけど、何とか取る事が出来たよ」

「感心感心、自分の耳で判断しようとした事自体が素晴らしいよ」

おじさんはとても嬉しそうにニコニコ笑っていた。

次の日も良く晴れていた。暑さも日向に出るととても厳しい。

「そうだな、こんなに暑い日は喉の渇きが肝心だよ。川の傍の近くを拠点に行動した方が良いな」

「川の傍でトカゲや虫取りをするの?」

「そうだ、今まで余り川の傍で活動しなかったけど、川の傍も沢山トカゲや虫がいるんだ。特にこう厚くちゃ虫たちも水辺に集まって来るんだ」

「虫も喉が渇くのかなあ?」

「勿論だよ、良く観察しててご覧、蝶や何かが結構水を飲みに水たまりに集まっているから」

「そう今度から注意して見てみるよ、僕、まだまだ観察が不十分なんだな」

「さあ川に着いたぞ。先ずは魚取りの前に俺達の喉をうるおそう」

川岸の余り流れの速くない所で二人して水を飲む。

「さて俺はこの日陰でお前の魚取りの練習を見学しようかな」おじさんはそう言うと木陰に陣取る。

僕は川辺に目を移す。その時ひらひらと2匹の蝶が舞い降りて来た。蝶も水を飲むんだと改めて知った。

さて今日はどの辺りで魚の群れを待とうか?あ、あそこの方が流れがせき止められて良いかもしれない。何時もより少し上流の方に場所を移し前足を入れた。水は昨日より幾分あったかい?いや、そうでもないな、でもあったかいと体に言い聞かせた。それに流れが昨日の所よりも穏やかで殆どないとも感じられるからこれはありがたい事だ。静かに静かにまとう、それが僕に出来る最大の方法だ。ちょっとここは日が当たるのがここは難点。まだ朝なのにもう差す日は容赦がない。うーんこれは日陰である事も魚取りの重要な注意事項なんだな。でも肝心の魚はやって来そうか、そうでないかそれが一番大切だけどね。

おお来たぞ、も少しの辛抱だ、こっちの石にも苔が生えてるぞーと心の中で叫んでみる。うーん分からないのか、近寄ったものの第一団は又離れて行った。ここで音を上げちゃいけないよ、次を待とう。辛抱辛抱、もう少しの辛抱だ。あ、来た来た、今度こそこっちに来るぞ「ほら来た」ざぶりと水に顔を突っ込む。取れた、取れたちっこい奴が僕の口の中にしっかり捕らえられた。

僕はおじさんの所に走り寄った。そしておじさんの目の前に捕えた魚を差し出した。

「俺に暮れるのか?ハハハ、まさかお前に魚を取ってもらえるなんて思いも寄らなかったよ」

まだピチピチはねてる小さな魚をおじさんはうまそうにたべた。

「うん、旨い。取れたての魚は実に旨い。ご苦労さんだったね、今日は手は痺れなかったかい?」

「うん、少しは痺れた感じもするけど、お日様が頭の上から照り付けていたのでそっちの方に気を取られて痺れの方は大丈夫だった」

「うん、丁度お前の立ってたところは日が当たる場所だったなあ、今度から気を付けないと魚を取る前にお前がぶったれるぞ」

「うん気を付けるよ、今度から」

「まあ、ここで一息入れて休みな。体も濡れてるし、頭は暑い、体も大変だよ」僕はおじさんの横で身を横たえた。おじさんの優しくなめてくれる舌が心地良かった。

一休みすると獲物狩りだ。今日はこの川の傍で行うとおじさんが言った通りここでトカゲ取りも虫取りも全部この周りで行った。有無有無、成程ここにも暮らしているトカゲも要れば虫もいる。それに水の心配もない。無事に昼の日課は終了した。

「ではここで一休みしてからネズミ捕りにいそしむとしようか。場所は・・まあ起きてから考えよう」

日が沈み吹かないより増しな風のある川の傍の木の下で二人して休む。

「ここはカエルがいるからそれをエサとしている蛇も出るんだ」

「え、本当?僕たちは狙わないだろうね」

「まあ余程じゃなければ狙わないだろう。カエルも沢山いるし、猫を襲っても怪我をするのもバカバカしいだろう?」

「そうか、でも襲わないとは言えないんだねえ」

「反対に猫が蛇を襲う事はよくある事だ」

「反対に猫が蛇を襲うのか?」

「勿論大きい猫じゃなくちゃ駄目だけどね。蛇はスタミナはあるし非常に美味しいらしいから時々腕に自信のある奴が来て捕まえて行くんだ」

「そう、おじちゃんは蛇は捕まえないの?」

『うん、まあ捕まえてみようかなとは思った事はあるけど、今の所はないなあ」

「そう、ないのか、でも栄養があって美味しいんだろう、取ってみても良いかもね」

「そうだな、自分の愛する者が病気に成ったら考えてみよう」

「愛するものか・・そのためには蛇と戦って取るんだね」

「ハハハ、そうだ愛する者のためにはみんな必死になるんだよ」

おじさんの愛する者とは一体どんなものかは分からなかったが、きっと素敵なものに違いない。

一寝入りした後僕たちはネズミ狩りに出掛ける。

「さあて今日はどこにするかな」おじさんはじっと耳を澄ませる。

「うん、お前の場所はこの土手を登った所の草原に少し大きめな奴が巣を作っているからそこにしな。俺はそこから少し離れた畑の近くで取っているから頑張れよ」

「うん僕頑張るよ。昨日よりも大きいのを取れたら嬉しいな」

「ハハハもうお前は立派なネズミ捕りの猫になっているよ、それで体がもう少し大きくなって耳をもっと働かせるようになったら、立派な野良猫の出来上がりだ」

立派な野良猫は今の僕にとっては最高の誉め言葉だ。人間に頼らず自分で獲物を取り暮らしを立てる。それはまさに神々しい響きで僕を魅了した。その証として今夜もちっこいのではなく、二回りは大きいのを捕まえたい、いや捕まえて見せるぞ。それにはおじさんが言ってたように耳を使う、耳をそばだて相手の行動を探るのだ。相手の大きさまでは今の僕にはちょいと難しいけど、相手が巣穴でどう行動してるかぐらいは分かる。これも日ごろのおじさんの教えがあっての賜物だ。

うん、こっちの方に巣穴がある。まだ動きはないが確実に獲物は潜んでいるのは分かる。あ、少し動いた。もう少し活発になるのを待とう。ああ、動いた。お、穴から一匹目が耳を現したぞ。周りの様子を窺ってる。ここが辛抱のし所だな、ジッと動かず我慢、我慢。あ、一匹目が出た。成程これは随分大きいぞ。2匹目は?お、耳が見える、うん頭が出る。飛びついた。獲物はキャチッされた。勿論僕の口に。

これも先程より小さめだったが今までよりもかなり大きめだった。

さて2匹目を自分の力で探さねばならない。ゆっくりと足を忍ばせながら歩いて行く、耳を澄ませながら。そう簡単には見つからない。こっちこっち、そうも少しこっち、居るぞ居る、ネズミの蠢く気配がするぞ。ここで待とう。体を沈める。茂った草が僕の体を隠してくれる。月は今日もいや昨日よりも明るくこの地を照らす。ここで待つのだ、ジッとジッと。おお、動き出したぞ、音が激しく聞こえる。ほうら現れたぞ小さな耳が見える。さっきより少し小ぶりだがこのくらいが僕にはお似合いだ。一匹目が出た.二匹目は?うん中々でない、辛抱辛抱、あ出て来た。さっと身をひるがえし2匹目ゲット。かなり小さめだがさっきのとでお相子だ。

「よしよし、そんなとこだ。よく自分で巣穴が見つけられるようになったな。感心感心」

「うん、おじちゃんみたいにはいかないけど、耳を使って突き止めたんだ。少し小さめだけどね」

「いやいや、中々小さいものの巣穴を見つけるのは難しいのだ。よく見つけられたよ、ホントだよ」

 夜の寝床は夕方寝た所と同じ場所で決まり。おじさんの横でぐっすり眠った。

翌日も強い日差しが照り付ける一日が始まった。もう川の水が冷たいだなんて言わない、水の冷たさがありがたいと言うべきだ。その心持で水の中に立ったのが良かったのか、小さい奴を2匹も捕まえる事が出来、おじさんと一匹ずつ分けて食べた。トカゲや虫取りは昨日より少し上流よりの土手に決め実行。そこもとても収穫が良かった。

「この所取るのに苦労しなくなったな」

「うん、おじちゃんの教え方が良いからね、僕みたいな初心者でもこうやって苦労なく取れるようになったんだ。おじちゃんには感謝しても感謝しきれないよ」

「ハハハ、お前が俺の言う事を良く聞いて、それをちゃんと守っているからだよ。お前の素直さにはおじさんもとても感心してるのさ」

夜が来た満月に近いのだろう、とても綺麗だ。おじさんは又取る場所を変えてネズミの巣穴を見つけてここが良いと教えてくれた。

「そうだなあ、明日からは自分でどこいらが良いか探してみたらいいよ。もうお前の能力だったら十分見つけられるだろう。ただ同じ場所を狙うのは良くないから、そこだけは気を付けるんだ」

「うん、まだ少し自信がないけど、やってみるよ。大きい奴が取れたら良いけど」

「大丈夫だよ、その時は3匹取れば好いんだから」

「そうだね、3匹取れば好いんだ。僕やってみるよ」

 その翌日夜は満月だった。

「さあ、今夜はお前のネズミ捕りの記念すべき独り立ちの日だ。もうおじさんはどこがいいとは言わないから、自分で場所を決めて捕獲するんだ。大丈夫、もうお前にはその資格が十分備わっているから」

僕は強く肯いた。必ずおじさんの期待にそってみせる。

「じゃあな、ここで別れよう。幸運を祈るよ」

「うん、絶対に良いネズミを捕まえるよ」

僕は土手の周りを忍び足で歩くそのたんびに今まで鳴いてた虫が泣き止む。も少し静かに歩いてみようか。うーんやはり虫には分かるみたい、まあ精々静かに歩いて巣穴の近くに成ったら身を隠し、音も消し去る、その作戦で行こう。

おお、聞こえる聞こえる、巣穴の中で蠢く気配。ここいらに今夜の第1号の巣穴があるらしい。身を隠す、ぴったっと草陰に伏せる。生い茂った草達が僕の体におおい被さり隠してくれる。ここからが僕とネズミの我慢比べだ。静かに静かにこの満月の夜、何の虫だか知らないけど彼らが奏でる音楽を聴きながら待つとしよう。

敵もさるもの中々出る気配を見せない。何匹この穴の中にいるのだろう?うーんちっこいのも入れると5,6匹はいるなあ。早く出てこい父ちゃんネズミ、母ちゃんネズミ。あ、少し動きがあったぞ、餌探しの時間だ。出た出た、耳が見える。うんかなりでかいぞ。一匹目が出た。次に・・2匹目の耳が見えた。頭が、頭が見えた。飛び掛かる。一撃のもとにやっつけた。うんこれは大物だ。大収穫だと叫びたかったがグッと我慢した。さて2番目の巣穴を探そう。又耳をそばだてながらなるべく音を立てないように歩いて行く。さっきの近くに巣穴はすぐ見つかったが、ここはちょっと遠慮してもう少し離れている所を狙おう。あ、ここが良いなあ、狙いやすいし確実に離れているぞ。頷いて僕は身を伏せる。2匹目をゲットした。これはさっきよりも小ぶりだったが、先程のが大きかったので今回はこれで良しとしよう。

「良くやった、上出来だよ。人間だったら乾杯と言って祝杯を挙げる所だろうが、俺達猫族はただ喜びおめでとうと言うだけだ、いや本当におめでとう」

おじさんは心から僕のこの日の収穫を喜んでくれた。

こうやって暑い夏が過ぎて行く。魚はまだまだちっこいのしか取れていなかったが、フナも時たま僕の縄張りにしてる水たまりに侵入してくるようになり、もしかしたら本の少しでフナを捕まえられるようになるかも知れない。

それと共に僕の体も大きくなった。日は少し遅く開け少し早く沈むようになった。でも昆虫達はぐんぐん大きくなり増々うるさく鳴くようになっていた。トカゲも豊富なエサのお陰で肥え太り我が世を闊歩している。

「でももうすぐ秋と言うものが来るんだよ。お前にとっては初めての秋だ」

「秋、秋ってどんなものなの?」

「秋はな冬と言うものの前にやって来るんだ。冬は凄く寒くて凍えて死んでしまうやつもいるくらいだ。秋と言うのはその前のトレーニング期間だ。食べられるだけ食べて冬になったらなるべくエネルギーを使わないようにし、ネズミみたいなやつを何とか捕まえて命を繋ぐんだ。虫もいなくなるしトカゲもいない魚も川底に沈んで上がって来なくなる。あるいは卵をどこかに産み付け、親は死んでしまうのさ」

「そう、じゃあおじちゃんは如何するの?それでもここで生活するの?」

「そうだなあ、まだ若い時はこの近くにある飼い主の所に戻っていたが、この2,3年はこの木の穴で冬を乗り越えて来たんだ」

「この穴の中でその恐ろしい冬を乗り越えて来たの、一人ぼっちで」

「ハハハ、そうだよ一人ぼっちで乗り越えて来たんだ。とても厳しいけどそれはそれで楽しい事もあるんだ。ネズミが全然取れない訳でもないし、いざとなればモグラもいる」

「モグラ?」

「うん、ネズミと同じ位の大きさで余り美味しくはないから余程の時じゃなきゃ取らないけど、死ぬか生きるかの時は取る事にしてる」

「ふうんじゃあ僕もいざと言う時の為にモグラの取り方教えてもらおう」

「出来たらお前にはあったかい人間の所で過ごさせてあげたいんだ。誰かお前と一緒に暮らしたい奴はいないかなあ?この畑に来る人でも良い、出来たら優しい人が良いなあ」

「嗚呼、あの人達ねえ、時々目が合うけど、あの人達余り猫が好きじゃないみたい」

「まあ、その時はこの車の通る道を渡って、お前を歓迎してくれる人を探さねばならないな」

「僕はずっとおじちゃんと一緒に居たいよ、腹ペコになったらモグラを取って食べるさ。絶対に絶対に僕はおじちゃんと一緒に居たいんだ」

でもまだその日も暑く冬の話をするのは早すぎた。野には虫があふれトカゲも意気揚々として虫を平らげ体重を増している。僕もおじさんの話を忘れ虫を捕まえ、トカゲを捕まえた。夜は夜でネズミの住みかを見つけてはいただきますと御馳走になった。

川の水もまだ暖かく秋の気配等全く感じさせない。その流れを見つめる。今は小さい魚だけだけど必ずあのフナの奴を捕まえる。僕は決意も固く向こう側を悠然と泳ぐ彼らを見つめる。その時僕は気づいた、フナはどうも苔よりも大きな水草の生えてる方を好んで泳いでいるようだ。もしかしたらあの水草の何処かに卵を産み付けたいと思っているのかも。そこで場所を変えた。も少し深くて流れが緩やかな所,勿論水草の生えている所だ。

何時もより随分深くて怖かった。前足も後ろ脚も突っ込んで踏ん張った。

「おい、大丈夫か、溺れるんじゃないぞ」

おじさんは吃驚して声をかける。僕はそこの場所でじっと待つ。うんやはり水は冷たい。この間降った雨の所為かも知れないし、もうすぐやって来るとか言う秋の所為かもしれないと流れる水の中で考える。

あ、来た、来たぞ。町に待ったフナがこっちにやって来る。もう少しもう少し、来た来た、今だ。ゲットした。初めてフナをゲットしたんだ。

「おーお前、お前、フナを捕まえたんだ。早く上がって来い、風邪引くぞ」

おじさんの声に我に返って急いで岸に引き返す。

「僕、僕取ったよ。フナを取ったんだ。ちょっと深くて怖かったけど、あそこならフナが来ると思ったんだ」

「そうか、そうか、フナは水草の所に卵を産み付けるのかもしれないからな。でもびしょ濡れだこっちの日の当たる所に来て体を乾かしな。」おじさんのいる所より少し離れた所に日の当たる場所があった。そこで僕は大きく体をふるい水を弾き飛ばし濡れた体をなめて乾かした。おじさんも愛おしむように優しくなめてくれた。

次の日もフナ取りに挑戦。今日は場所を変える。も少し上流で昨日より流れが穏やか、深さは余り変わらず水草のある所だ。何だか水温は昨日より落ちたように感じた。フナ取りもそう長くは続けられそうもないなと一人ごちた。その日そんな訳で成功したフナはおじさんに献上することに。おじさんは初め遠慮してたけど僕の決心が堅いのを知ると喜んで食べてくれた。

「うんこれは旨いよ、今までもらった小さな魚の数倍、いや比較できない位旨かったよ」

「おじさんが食べてくれたから言うけど、もう水が冷たくなって来てフナ取りは又あったかくなってからにするよ」

「そうだろう、日が短くなって水も温まらなくなって来てるんだ、早くお前が止めてくれてホッとしたよ」おじさんも笑って了承した。

勿論小さい方の魚はもう日課になっていたので取り続ける。それに手も足もずっと大きくなっていたから大した深さでない所は今の所冷たさを我慢できるのだった。

他の収穫物も今の所は順当だった、いやそれ以上だった。もう殆ど暑くはなく昔のあの木の家に帰って眠る日が戻ってきた。だがそれが秋なんだとおじさんは教えてくれた。

「こうやってだんだん寒くなって行くんだよ。今は寝心地の良いこの木の家も寒く感じられるようになって・・うんそうだな今のうちにも少し二人して落ち葉をかき集めこの穴へ入れておこう。そうすれば何とかしのげる様になると思う」

「落ち葉でこの穴を満たすんだね、きっと少しはあったかくなると思うよ」

その日から暇があれば二人して落ち葉をかき集め木の洞穴に入れる日が続いた。

「僕さ夕べ夢を見たんだ」

「ほう俺に聞いてもらいたいような夢なんだ」

「きっと落ち葉が増えて気持ちが良かったのと、おじちゃんがあんまり僕に良い人が居たら貰われて行く方がお前の為になると言ってるからきっとそんな夢を見たんだと思うよ」

「ふーん一体どんな夢なんだい?」

「変な夢なんだ、僕を捨てた父ちゃんが、あの父ちゃんが僕を迎えに来てくれる夢なんだ」

「お前を捨てた父ちゃんが迎えに来る夢だって。それはないよ、絶対ない。お前だって父ちゃんの顔覚えていないだろう」

「父ちゃんの顔?少しは覚えているよ、ここに来る農家のおじさん達より若くってさ、気が弱そうな顔してる、それに合えば絶対に直ぐ分かるよ」

「まあ父ちゃんは迎えには来ないだろうがお前を貰ってくれる奴がいたら良いなあ、そしたら俺も安心して冬が越せるよ」

「僕が居たら安心して冬が越せないの、僕はおじちゃんの傍に居たいのに。おじちゃんの傍が一番あったかくて安心していられる場所だよ。もし落ち葉が足りないならもっともっと集めてこの穴にぎゅうぎゅうづめにしてみせるよ」

「ハハハそうだなあ、もしそういう人間が現れなかったら、俺の元の家に行くか?そしたらお前も俺も一緒に居られて安心だろう。ただ、俺の元の家には怖い父ちゃんがいる。その代わり母ちゃんも兄ちゃんも姉ちゃんもみんな優しいんだ」

「怖い父ちゃんがいるの?それ嫌だねえ」

「うん、実は俺もその父ちゃんが嫌でねこうして野良暮らしを始めたんだよハハハ」

成程な誰が家に居れば美味しいご飯を毎回食べられ安心して寝られる寝床があるのに、毎回獲物を取って食べなければ生きてはいけない野良生活を好き好んで選ぶものか。その彼が僕の為に怖い父ちゃんのいる家に戻ると言う、ありがたい、でもそれで良いのか?

「ねえこの穴の中で僕と一緒ならきっと少しはあったかいと僕は思うんだ。その怖い父ちゃんが居る家よりも、ずっと過ごしやすいと僕は思うんだ。落ち葉を落ち葉を集めてこの中に詰めてさ二人で何とかすごそうよ」

「ハハハよく考えてみるよ、もしかしたら父ちゃんも少しは優しくなってるかも知れないし、一番優しい姉ちゃんも大きくなって父ちゃんから守ってくれるかも知れない。まだまだ時間はあるそれまでに考えをまとめてみるよ」

日は刻々と短くなり、木々の葉っぱも色付いて来て木の実が実り落ちるようになると、虫は激減しトカゲも姿を見せなくなりつつあった。ネズミだけは落ちた木の実をため込んで越冬の食料にするため活動が活発化してた。

「ネズミみたいに何か猫もため込んで冬の食料に出来たら良いのにねえ」

「うんまあそんなに出来たら良いけど、ちょっと難しかな。海辺だったら魚を日に干してどこか冷たいとこにためこむ事も出来るだろうけど、こんな山の中じゃそれは不可能だな」

「そう、あのさあ僕ね又父ちゃんの夢を見たよ、車で来てさ、僕を探してた」

「元の家に帰りたいのかい?」

「そうじゃないけど見ちゃうんだな。僕はおじちゃんの傍が一番好きだよ。おじちゃんとずっと一緒に暮らしたいんだ、本当だよ」

「今はそう言ってられるけどネズミもエサ取りに来なくなり気温もうんと下がってくればそうも言ってられないぞ。まあその時はあの家に戻るしかないなあ」

「僕はおじちゃんの行く所にはどこでも付いて行くよ、怖い父ちゃんが居ても平気だよ」

その時おじさんが耳をそばだてた。

「うん?何だか知らない車が、あの畑の人達が停める所に止まったぞ」

「誰か山に登るのかなあ?」

「こんな天気の日は人は-何故か知らないが死にたくなるらしい。こんな山の奥に入って死に場所を探しに来るんだ」

「ええっどうして人は働けば冬になっても食べるものは手に入るし、家だってあるでしょうに」

「まあそうだな、でも何だか無性に死にたくなるらしい」

「ふうんそんな気持ち僕には分からないや」

「歩いてくる、歩いてくる。こっちに向かってその人間が歩いて来る。一人、この靴音じゃあ男だな。お、立ち止まったぞ、どうも川の所に行くみたいだ」

「川で死ぬの?」

「いやそんな事はないだろう、少し川を見て考えたいのかも知れない」

「どんな事考えるの?」

「ハハハ、人間が何を考えるかは分からないが川を見て自分の生きて来た色んな事を考えるんだろう」

「僕凄く気になるな、見に行っても良いかな。悪い人だったら逃げて来るヨ」

「うん、気を付けるだよ。何時でも逃げられる体勢は取っているようにな」

「うん、分かった」僕はそう言うと何時も通い慣れている川岸に向かった。

川の土手に立つ。もう草の大半が枯れていて川の様子は直ぐ見渡せた。川の傍の石に腰掛けその男の人は川を見ている。その様子や着ているもの、どこかで見たことがあるような。そうだ、父ちゃんだ、父ちゃんが僕を迎えに来たんだ。あの夢は正夢だったのだ!

「父ちゃん!」「父ちゃん!」僕はそう叫ぶと夢中で駆け下りた。

男性は振り返った。ガーン、それは父ちゃんではなかった。父ちゃんより若かったし、少し瘦せていて顔色も悪い男性だった。

「なんだ猫か?お前、俺を知っているのかクロちゃんよ」

クロちゃんと呼んだ、懐かしい呼び名だ。そう、僕は生まれた時からクロと呼ばれて来たのだ。

「まあ好いやクロよ、ここに来て座れ。俺さあこの川の傍でどうして死のうかと考えていたんだ。でもさ、この水を見ている内にそんな事如何でも好いような気持になってさ、兎も角ボーっと川の流れて行く方を見ていたんだ」

僕はその男性が父ちゃんではなかったけど、まあ悪い人ではないと感じたので彼が座っている石の傍に座った。今日も魚は元気に泳いでいる。沢蟹もいる。冬に成ったらこの蟹だって食べなきゃならないだろうな。それをおじちゃんに知らせて置かなくちゃ。

「クロ、お前も一人ぼっちなのか?」

「僕には僕を育ててくれたおじちゃんが居るんだ。だからちっとも寂しくないよ」

                                                                                             僕は必死に説明したが僕の声はニャーとしか聞こえなかったので彼には少しも伝わらなかった。

「猫かあ、猫も良いもんだなあ。今日は死ぬのを止めて一度考えてみよう。クロよ、お前も元気でな、縁があったら又会おう」彼は立ち上がり僕に手を振り去って行った。

「どうだった?」おじさんは尋ねた。

「父ちゃんではなかったよ」

「当たり前だよ、お前を捨てた父ちゃんが何か月もたってお前を迎えに来るとまだ思ってるのかい」

「うんそうだねえ迎えに来る訳ないよねえ。でも僕の事クロって呼んだんだ」

「お前を見たら誰でもクロって呼ぶさ」

「そうなの?でもその呼び方が懐かしい感じの呼び方で僕一遍で彼が好きになったよ」

「でもその男はお前を飼いたいとは言わなかったんだろう」

「うん、今日、死ぬのは止めておこうとは言ったけど、猫を飼いたいとは言わなかったよ。縁があったら又会おうとは言ってたけど」

「そうか、兎も角男が死ぬのを思い留まったのは良い事だ、めでたいめでたい」

「あ、川に蟹がいたよ、ちっこい、ちっこい奴だけどね。も少し寒くなったら取って食べようよ」

「ハハハどんな時にもそう言った事は見逃さないのは中々感心な奴だ。今日はネズミを3匹捕まえて夕ご飯にしよう」

「うん、そうしよう、そうしよう」

僕はその夜あの男の人の事を思った。気の弱そうな、でも優しそうな感じの人だった。彼はもうやって来ないのか、少し寂しい感じがする。彼がおじちゃんと僕を彼の家に連れて帰ってくれたらどんなに良いだろう。でもそれはかなわぬ夢なのだと僕自身良く分かっている。

翌日僕はおじさんに尋ねた。

「ねえおじちゃんあの兄ちゃんが来ておじちゃんと僕を一緒に連れて帰ってくれるとしたら、一緒に来てくれる?」

「俺が?俺があの男の所に行くかと聞いてるのかい?」

僕はうなずいた、はかない望みをかけて。

「ハハハそれは無理だな、俺は前の家の飼い猫だ。不義理はしてるがやはりあの内が我が家なんだ。父ちゃんは嫌いだけど後はみんな好きなんだ、母ちゃんも二人の兄ちゃんも、そして一番下の姉ちゃんも大好きなんだ。それを裏切って他所の猫に落ち着く事は考えられねえよ」

「そう言うだろうと思っていたよ」

僕は夕べの風で葉っぱを大分散らした木々を見つめた。もうすぐやって来る冬を感じない訳にはいかない。

「お前の言っていた沢蟹でも見に行くとしようか」おじさんは僕を元気づけるように声をかけた。

二人は川の方へ歩いて行く。

「まだイナゴはいるようだな。色が枯草と同じ色だから分かりにくいが、ほれ良く見るとあっちにもこっちにも結構沢山いるよ」

ほんとだ、バッタのような奴がしきりに草を食べている。

「食べれる?」

「勿論だよ、人間も取って佃煮にして食べるくらいだ。味も栄養も満点だよ」

「じゃあ取って食べるよ」一匹捕まえて口に放り込む。

「どうだ、美味しいか?」

「うん美味しいよ、とっても美味しい」

「じゃあ俺も食べるかな」

おじさんと僕は暫しイナゴ取りに時を忘れて夢中になった。

「うん、イナゴでも腹は満ちるもんだなあ、良い朝ご飯変わりだ」

「うん、僕もイナゴ腹になっちゃった」

二人は顔を合わせて笑った。でもこのイナゴも直ぐにいなくなる。エサとなるものが確実に減って行くのだ。

「こうやってイナゴみたいな天からのプレゼントもこれからは無くなってしまうんだ。今度良い人間を見つけたら、その人間に付いて行くんだ。それがお前のこれからの冬を生き抜く唯一の方法だ。俺の事は忘れるんだ、俺も一緒に何てことはお前の頭の中から放り出すんだ」

おじさんの声には厳しさと優しさがふくまれていた。

「僕は・・僕は絶対におじちゃんを忘れる事はないし、忘れる事なんて出来ないよ。たとえこれから遠く離れる事になっても、僕はおじちゃんの事を心の一番大事な所に飾って置くんだ。決して決して忘れないよ、約束だよ」

川のある土手まで来た。

「あの兄ちゃんはこの川を見つめて今日死ぬのは思い留まったと言ったけど、又死にたくなったらどうするのかな」

「うん、如何するのかな?又川を見に来るのか他の方法を探すのか、ま、人間の考える事は分からないな」

川の流れの所にやって来た。

「ほら、カニがいるよ、沢蟹って言ううんでしょう」

「ああ、あれは沢蟹だ、ふーん、こんな所に沢蟹がいたのか。一匹だけかな?」

「そうだねえ、他にもいると良いね」

「様子を窺ってみよう」

二人は並んで川岸を眺めやった。その内その一匹も巣穴に戻ったのか姿を見せなくなった。

「今日はこんな所だろう。ここは地面が濡れて寒いよ、早く土手に上がろう」

土手に戻った。ここの方が下にいるより少し暖かく感じられる。

「あの木の根元の方が温かい、あそこで少し寝ようか?」

大きな木はデンと立ち北側からの風を防ぎ南からさす太陽のぬくもりを受け止めてくれていた。

「もう一回あいつが来たら俺にかまう事はないんだ、絶対に行くんだ」

「彼はもう帰って来ないよ、戻って来るとは言わなかったもの。縁があったら又会おうとだけ言って手を振って帰って行ったんだ」

「フーム、でも俺はあいつが戻って来る、そう感じているんだ。いいか、あいつが戻って来たらそれは宿命だ、あいつは生きるのが半分嫌になってるんだ、そこに川が流れていた。その川を眺めるのもあいつの宿命なんだ。そこへお前が父ちゃんと言いながら土手を駆け下りて来る。川を眺めお前の様子を眺めてあいつの心はぐらぐら揺れる。もう一度死ぬのを考え直して見ようと思いなおす。別に川もお前も死ぬ事を一言も止めちゃいないのに彼は思い留まったんだ。彼は後から考える、どうして死ぬ事を思い留まったんだろうとね。きっとお前の顔やこの川の音の事を思い返すだろう。そこに人間ならば宿命と言うものを感じないではいられない筈だ」

「ふうん、僕には良く分からないや。僕に分かるのは彼が帰る時微笑んで手を振った、それだけさ」

「今は分からなくても良いさ。でもあいつが戻って来たら、良いか、あいつを助ける気持ちであいつの手の中へ飛び込んで行くんだ。俺を捨てて行くなんて考えちゃだめだ、もうお前は一人前の猫になったんだ俺と言う保護者から飛び立っていく時なんだ。鳥が子供が大きくなったら巣立ちを促すだろう、あれと同じ様にお前も俺の元を羽ばたいて行かなくちゃいけないんだ。それが自然界の摂理と言うものさ」

僕はおじさんの傍で眠った。こうしておじさんの傍で寝る事もおじさんの保護の下に居るから出来る事なんだ、でもどうしておじさんの傍はこんなにいごごちが好いんだろう、僕はおじさんの傍を離れるのがとても出来そうにない、ずっとずっとおじさんの傍で暮らしたい。神様僕の、ささやかな願いを聞いてください。

「さあ目が覚めたら又イナゴ取りでも励もうか?」

おじさんの声、あーとっても優しい声だ、未だ何回でも聞いていたい。

「イナゴ取り、沢山取って冬の間の食料になると良いねえ。これ保存出来ないの?」

「うんそうだなあ、日に干してよく乾燥させたら持つかも知れない」

「試してみようよ、出来たら万々歳だねえ」

そこで二人はイナゴを食べるだけ食べると今度は取ったイナゴを日の当たる所に並べて様子を見る事にした。

「これで上手く行ったら最高だね」

「うん、最高だ」

二人は顔を見合わせ笑いあった。

「でもこれが乾ききるまで雨が降らなきゃいいけど」

「そうだないい加減干しあがったら我が家の前に持っていこう、あそこの方が雨に濡れないだろう」

「そうだね、我が家の前に持って行ったら大丈夫だ。きっとそれまでお天気続くよ」

「さあて一休みしたら今度はネズミ狩りをするか、今夜も3匹にするかい?」

「僕は2匹で十分だよ、昨夜は少し食べ過ぎだったと思うよ」

「俺もそう思う。良し今夜はネズミ2匹で行こう」

「うん、2匹で行こう」

「日暮れもグッと早くなって来たからネズミ狩りも早くしないと駄目だな、ネズミもエサ探しも早めに終わるだろうし」

「そうだね、ネズミも早く穴倉に戻りたいと思うよ」

その夜は何時も以上に冷え込み、僕はおじさんに体をくっつけて眠った。

でも朝になると太陽は何時ものように輝きまぶしく暖かだった。

「さあ今日もイナゴはいるかなあ?」

「そんなにイナゴは早くいなくなるの?」

「うん、餌が無くなれば直ぐいなくなるよ。別の草が生えてる所に移動するのさ」

「そう、じゃあ急いで出かけようよ、イナゴが居なくなる前に」

「まあここの草原はまだ大丈夫だと思うけど、油断大敵急いで出かけよう」

おじさんと僕は駆け足であの野っぱらに向かう。もう駆け足もおじさんに負けないくらいに早くなった。

「大丈夫、大丈夫。まだあいつら沢山いるみたいだ」

「そうだね明日ぐらいまで大丈夫みたいだ」

おじさんと僕はイナゴをお腹一杯に食べ沢山取って草原に並べた。

「今日も大量だね、もっとイナゴが長い期間居たら冬も困らないのに」

「ハハハ、そうは行かないんだよ何事も。何事も節度と言うものがあってそれで世の中回っているんだ」

「でも思った以上にイナゴ、早く乾くね、昨日干したのはもうカランカランだ」

「うんそうだね、空気が乾燥してるし、日当たりも最高だから」

「風も良く吹いてるから一層だね」

「昨日干したのはもう持って行っても良いかもしれないな」

「本当?もう少し干してた方が良いんじゃない、カビが生えたら大変だよ」

「そうだな、もう大丈夫とは思うけど後一日待ってみようか」

遠くで車の泊まる音がした。おじさんと僕は顔を見合わせた。きっと彼だ、彼が又やって来たのだ。

「やっぱりあいつ、戻って来たんだ」おじさんが呟く。

僕は首を振った、行きたくなかった、どうしても。

「あいつはお前を迎えに来たんだ。昨日一日考えてお前を飼う決心がついたに違いない」

「僕、僕、僕どうしても行かなくちゃいけないの、このおじちゃんとの楽しい生活を捨てて、あの兄ちゃんと一緒の生活を選ばなくちゃいけないの?」

「俺はお前が居なくても生きていける。でもあいつはお前を必要としているんだ。多分今は大丈夫だと思うが、病が今より酷くなった時、又死にたくなるだろう?その時お前が、引き留めるお前が必要になるんだ。あいつにはお前が必要なんだ、分かったか?」

僕はおじさんの顔を暫く眺めた。まだ決心は付かなかった。風が原っぱを吹き抜ける。

「あいつがこっちに向かっている。ゆっくりゆっくり歩いて来るぞ。さあ行くんだ」

「僕、僕どうしてもおじさんの傍が良い、おじちゃんとずっとずっと一緒に暮らしたいんだ」

おじさんは首を振る。

「もうすぐあいつの姿が見える。あいつの前に行け、そして俺の事は一切合切忘れてしまうのだ」

「嫌だ、嫌だよーおじちゃんの事を忘れるなんて出来ないよ。どんなに離れても、時間が立ってもおじちゃんの事を忘れる事は出来ないよー」

「あいつがこっちに向かって来る。俺は隠れる。さらばだ、長い付き合いありがとうよ」

「お、おじちゃん!僕の方が千倍も万倍もずっとずっとお世話になったんだよ、おじちゃんといる事が一番一番楽しくて幸せだったんだよー」でもおじさんの姿はもう見えなかった。その代わり彼が、人間の彼が僕を見つけてやって来た。

「やークロスケ、ここに居たのか、川を覗いたけど姿が見えなかったのでどこに行ったんだろうと思っていたんだ。でも又会えてほっとしたよ。あれから色々考えてね、これからの事とかお前の事とかさ。なあクロスケよ、お前俺と一緒に住まないかい。突然の事で吃驚しただろうけどこれから冬が来るんだ。今まではここで自由に獲物を取って暮らしていただろうけど、獲物ももう手に入らなくなって風は冷たいのがビュンビュン吹きまくるし、霜がおりたり、雪が降ったりそりゃあ生きるのに大変な毎日が続くんだ。とてもお前の体じゃ持たないよ。俺と一緒に住めばエサの心配は要らないし、凍える事もない」

僕は兄ちゃんの顔を見つめた。兄ちゃんの言う事は十分分かっている。兄ちゃんの温かくて優しい言葉、それはとてもありがたかった。でもこのままここを捨て去って良いのだろうか。僕が居なくなってさみしい思いをするのはおじさんも同じだし、あの枯れ葉の寝床で温めあう相手もいない。おじさんは僕にああ言ったけれどあれはおじさんの強がりの言葉なんだ。風が又吹いてきた、ちょっぴり強く日陰で当たったら冷たく感じる風だ。

「ここは良いとこだねえ、もっと早くここに来れば良かったんだろうな・・ハハハお前に話しても分からないだろうが、俺さ、精神的に弱くてさ、鬱になって、この所とても酷くなってこの間なんか本当に死にたくなったんだ。それでふらりとこの山の何処かで死にたいと思ったんだ。ここの道を歩いていると水の流れる音が聞こえた。音のする方に行って見るとあの川が見えたんだ。川で死んでもいいやと思ってあの岩場の所に降りて行ったんだ。でも川の流れを見ているとさ不思議な事に心が静まって何をしに俺は来たんだろうとか思ったりしてたんだ。その時さ、お前の鳴き声が後ろからして、そうお前が鳴きながら走って来たんだ。死んじゃいけない、死んじゃいけないとお前の声がそんなに聞こえたんだ」

僕は兄ちゃんの顔を見つめ返した。本当は兄ちゃんと父ちゃんを間違えたんだと伝えたかったけど、兄ちゃんには猫の言葉は通じない。

「お前があの時何を伝えたかったのかは俺には分からなかった。もしかしてお腹が空いたよと言いたかったのかも知れないし、一緒にあそびたかったのかも知れない。でもそんな事はどうでも好いんだ、後から考えたんだ、どうしてお前を連れて帰らなかったんだろうとね。そしたら俺が又死にたくなった時、鳴いて止めてくれるのにさ。あ、でもお前が居たらきっと死にたくならないと思うよ、ホントだよ、約束するよ、指切りだ」

兄ちゃんは僕の前に指を差し出した。僕には良く分からなかったけどその指にそっと手を差し出してその指に乗っけてみた。

「さあ約束したぞ、お前と俺との契約成立だ。一緒に俺の、いやお前と俺の家に戻ろう」

ひょいと兄ちゃんは僕を肩に乗せて立ち上がる。ちらりとおじさんの姿が枯草の間から見えた。

「おじちゃんさよなら、僕は決しておじちゃんのことわすれないからね」

兄ちゃんの肩の上から大きな声で鳴いた。勿論それはニャアンとしか猫以外には聞こえなかったけどね。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

        次回に続く  お楽しみに
















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