9 能力検査
翌朝、普段通りの時間に起床した真田は、即座にリビングへと向かう。
時刻は八時。黒条ももう起きている頃だと真田は推測する。
「……あれ」
しかし、予想に反して黒条の姿はなかった。
朝はあまり強くないタイプかと思いつつ、朝食を作ろうとする。
その時、突然家の電話がプルプルと鳴り響いた。
真田は受話器を当てて声を送る。
「もしもし」
『僕だ、志波かいりだ。こちら、真田くんの携帯で合ってるかな?』
「はい、合ってます」
『急に電話して悪いね。今すぐに言っておきたいことがあってね』
「いいですよ。というか、どうやって電話番号を?」
携帯を方と耳で挟むことで両手を空け、朝飯を作る準備をする。
『学校に聞いた』
「そういうことだったんですか。それで、今日はどういった話ですか?」
『じゃあ、早速』
せき込む音が電話越しから聞こえてくる。
『今日、空いてるかな? できれば今日中に行ってほしい場所があるんだけど』
「空いてます。どこへ向かえば?」
『十時に能山駅に来てほしいな。そこからは僕が案内する』
「わかりました」
『君の能力を測りたいと思ってね。アビリティとか、身体能力とか色々』
「なるほど、身体測定みたいな感じなんですね。わかりました、準備ができ次第向かいます』
『頼むね』
「ちなみになんですけど、黒条と一緒に行った方がいいですか?」
『いや、今日は大丈夫。一人でいいよ。僕がいるから』
志波の言葉には強い安心感があった。
「わかりました。じゃあ、失礼します」
そう言って真田は受話器を台の上に置いて電話を切る。
その時丁度、目玉焼きが焼き上がった。
並列してトーストで焼いておいたパンと共に、朝食として食べる。
食べ終えると、もう一セットをサランラップで巻いて机の上に置いておいた。言わずもがな、黒条の分だ。交互にやるということは、必然的に一回で二人分のを作ると言うことになる。
黒条が作る時も2人分作ってもらえば、話す必要もない。
昨日決めたルールは守るためだ。
出発の準備を終わらせた真田は、玄関の前に立つ。
ふと、黒条の顔が脳裏によぎった。
――起こす……いや、やめておこう。
一緒に暮らす人はできたが、『おかえり』『ただいま』は言えない。真田はその関係性に形容しがたい感情を抱きつつ、何も言わず家を出ていった。
**
能山駅に着くと志波先生を探し始めた。
具体的な場所を決めておけばよかったと思いつつも、それらしき人をその場で直立しつつ手当たり次第に探す。
だが、見当たらない。探し始めてから数分経ったが、志波先生は見つからない。
時刻をあたらめて確認するが、やはり十時を回っている。
あるとすれば、遅刻……そう考えていた時、ふいに声がかかる。
「真田くん!」
振り返ると、志波先生が肩で息をしていた。
「ごめん、ちょっと足止め食らっちゃって。約束してたのに、ほんとにごめんね」
「いや……それはいいですけど。足止めって?」
「車内でテラスが出たんだよ。そのテラスがそこそこ強くてね、それで遅くなっちゃった」
「え……テラス!? 本当ですか!?」
「うん。多分、ニュースとかに載ってると思うよ。二十分くらい前かな」
「あー、すみません、普段テレビとか見ないので」
真田は自分の携帯から『テラス 出現 ニュース』と検索窓に入れ、 検索をかける。
すると、一番上にそれらしきものが出てきた。詳しく見ると、その中には志波先生らしき人が映っている。若干見切れているが、服装が同じなため志波先生で間違いない。
「死傷者……〇人、すごいですね」
「狩人の最優先事項は一般人を守ることだからね。当然だよ」
「それでもすごいですよ」
真田はもう一つ、あることに気付く。
「そういえば、志波先生の事今まで知らなかったです。もしかして、正体を隠してる感じですか?」
「その通り、エネジェクトがそう呼びかけているんだ。こちらの正体がバレれば、狼にとって大きな有利だ。まぁ、実際はあまり意味はないかもしれないけどね。だからできるだけ正体は隠しておくんだよ」
「なるほど」
――確かに、正体は極力隠しておいた方がいいみたいだ。
「遅れちゃったけど、行こうか。僕について来て」
「はい」
先に歩き出した志波先生に、そう言ってついていく。
能山駅は、そこそこ賑やかな駅となっている。映画はないが、ショッピングモールに飲食店、カラオケなど、主要な施設はほとんど揃っている。そのおかげか休日は結構な人が集まる。
――こんな駅の近くに、エネジェクトの施設があるのか。
暫く歩いていると、志波先生が止まり。
頭上には、フィットネスジムの看板がある。かなり大きな施設だが、ここは一般人にもよく知られた場所であるため、目的地である可能性は低い。
「ここだ。入ろう」
しかし、目的地はここだったらしい。
目的地があっているのかと少し不安になる真田だが、志波先生がそう言っている以上、間違っている可能性は低い。おとなしくついていくことにする。
ジムの中を進んでいく。真田が使ったことはないが、外観に従って確り中も広い。
方向が分からなくなるほどに進んでいくと、何もない突当りで志波先生は止まって、おもむろに何かを取り出した。
――なに、これ。
カードのような何かを壁にかざすと、かざした部分から波のように光が円形に広がっていき、壁がそれに沿って開けていく。
そして、突き当たりだったその場所は、通路へと変貌。
「何というか近未来的ですね。子供の頃憧れてた時もありました」
「はは、それはみんなそうだと思うよ」
新たに出現した通路は、彼らが歩くと光に照らされた。人感センサー付きの照明が上部にあるのだろう。
奥へ奥へ進んでいくと、ようやく部屋のようなものが見える。
「来たな」
部屋の中にいた人が言った。
「丹生高校所属、志波かいりだ。こちらは同じく真田心くん」
「あぁ。今日は真田くんの能力検査だったか」
「そう、お願いするよ」
「では地下に案内しよう。能力検査はそこで行う」
真田は言われるがままにその男についていく。その道中、いろんな人たちがパソコンの前で作業をしたり、電話を取ったりしていた。
「あの、ここは?」
「エネジェクト能山支部。付近の各狩人と連絡を取ってテラスが発生した場所へ向かわせたり、事務的な作業を行ったりしている。また後日詳しく話すけど、ここにいる人と連絡する機会も多くなるから、話せるようにしておくといいよ」
「わかりました」
それにしても、色んな人がいる。スーツを着ている人もいれば、カジュアルな格好の人もいる。
そういうところは自由なんだろうと、真田は推論を立てた。
「ここだ」
ドアを通り抜け、着いた場所はとにかく広く無機質な空間。
床、壁、天井、すべてが白く、何かの実験でもするかのような部屋となっている。怪獣が咄嗟に現れても収納できる、そんな広さ。地面や壁はとても頑丈そうだ。
「えっと……」
「担当の人を呼んでくる。あまり時間はかからないから、ここで待機していてくれ」
「あ、はい。わかりました」
言われたとおりに、真田は待機する。
改めて部屋を見渡してみるが、やはり何もない。どこを見ても白、白だ。
素材も統一されているように見える。恐らくすべてコンクリートだ。後ろにある自動ドアと、もう一つ奥の方にある自動ドア以外は本当に何もないようだ。
能力検査……どういうことするんだろう。
検査の内容を考えているうちに、その時は訪れる。
奥の方にある自動ドアから、誰かがやってきた。
――そっちから来るんだ。
此方に向かってくるその誰かは、黄色の髪で高い身長を持っていた。一見細身だが、首の太さから福の下にはとんでもない筋肉が隠されていることが窺える。
「今回この検査を担当する、三河世玖だ。検査の内容は一対一の戦闘で、そっからオレがお前の能力値を算出する」
「え……いきなり戦闘ですか!?」
「能力を測るには戦うのが一番だからな」
「いや、それにしても急すぎて……」
「なら、好きなタイミングで仕掛けろ。俺は一切力を使わない。できる限り手加減して相手してやる」
「それ、三河さんは大丈夫なんですか?」
「あぁ大丈夫、オレ強いから。多分狩人で一番な」
さも当然化のように言い放った三河。虚勢を張っているような雰囲気は感じられない。
「……わかりました」
渋々了承し、真田は戦闘準備を開始する。
まずは胸に手を入れ、拳鍔を装着。
「なるほどな、武器は拳鍔か。珍しい」
ぶつぶつと口にするが、真田の耳には届かない。
相手との距離は大体五十メートル。真田はその距離をできる限り早く走り抜けるべく、走行態勢を整える。
――よし!
勢い良く走り出した真田。その後一秒とも経たずトップスピードに突入し、拳鍔に力を込める。昨日テラスを倒した時に使った、真田のアビリティだ。
武器に力を込めること。それによって攻撃の威力が上昇し、格上にダメージを与えることも可能となっている。
だが三河は相手が近づいて来ても一切動かない。
まるで動く必要がないとでも言うように。
「速さは悪くないが、動きが荒い」
三河がぼそりと呟いたのとほぼ同時に、真田が拳を全速力で振り抜いた。
体重を乗せた攻撃はかなりの早さだったが、難なく回避される。
三河は自身の側面にいる真田の脇腹に、足を添えるようにして押し当てて宙に浮かせる。
「っ……」
あまりにも軽い感触。傷つけないことに特化した攻撃。しかしそれだけでもダメージはある。
手を抜いたという次元ではない。脱力に近い状態で、三河は相対している。
着地した真田は、実力差を実感し始めた。
「どんどん攻めてこい。まだまだ余力はあるだろ」
その催促に従って、真田は疾走。
近づいて、もう一度打撃。今度は当てることに重点を置いた攻撃だ。
しかしそれでも当たらず。続けて拳を数回突き出すも、どれも悉く躱される。
――こんな、に……!
実力差を目の当たりにして、苦い笑みを浮かべる真田。
それでも一発は当てようと、果敢に攻めるが、攻撃は一発も当たらない。いずれもかなりの余裕をもって躱しているという印象だ。
それが二分も続くと、流石に真田の体力も尽き始めていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ぅ……ぁ……」
体力がなくなり、膝に手をついて肩で息をする。
上を見ると、三河が表情を変えず自分を見下ろしていた。
「真田、今まで運動とかしてなかっただろ」
腕を組み堂々とそこに立っている。息を乱している様子はない。始まった時と同じ佇まいだ。
「……はい」
「今日から毎日ランニング十キロ。まずはそれからだ。楽にこなせるようになってきたらもっと長くしろ」
「わ、わかり……ました」
実力差をひしひしと考えつつも、真田は諦めていなかった。
攻めて一発は当てたい、その一心から、息を整え再び三河に真正面から攻撃を仕掛ける。
とはいえ体力はもうカラカラで、打撃に覇気はない。
拳を避けたところで、三河が真田の胸部をトンと押し出す。
フワッ、見た目とは裏腹に、真田は後方へ押し出される。
「もうそろそろ検査は終わりにするぞ。体力もほぼ尽きてるみたいだしな」
「はい……わかりました」
「それじゃ最後に、あるものを見てもらう」
「あるもの?」
「お前にとっての到達目標、みたいなもんだ。俺も習得したのは最近だけどな」
「到達目標……?」
「まぁ、よく見とけ」
言われたとおりに、三河の姿を視界に中心でしっかり捉える。
三河は、少しずつ腰を落とす。そして睨むようにこちらに目を向けた、次の瞬間。
微かに、三河の瞳が発光する。
そして気付けば、顔の横に拳が突き出されていた。同時にすさまじい風圧が全身に吹き付ける。
目前にいる三河の目は、もう光っていなかった。
「…………」
あまりの速さに完全に硬直する真田。そんな彼を見て三河は拳を戻し、ドアの方へと足を進め始めた。
「……妙だな」
「これで検査は終了だ。結果は後日志波経由で知らせる。じゃあな」
「あ……はい」
ポケットに手を入れながら、退室する三河。
誰もいなくなった空間で、真田は暫くその場で立ち尽くしていた。
先の戦闘を、始めから順々に再生していく。改めて考えてみても、戦いにすらなっていなかった。手も足も出なかった後悔が、彼の脳裏で反芻し続ける。
「お疲れ様、真田くん。どうだったかな、三河さんは」
ドアを通り抜けると、待機していた志波が脇からそう言ってきた。
「ありがとうござます、志波先生。本当に手も足も出ませんでしたよ。正直、これからどんだけ強くなっても勝てる気がしないです」
「まぁ、あの人は狩人の中でもトップクラスの実力を持っているからね。僕も何度か手合わせしたけど、あの人に勝てたことは一度もないよ」
「志波先生が……一回も。ほんとに強いんですね」
「僕的には、皆最終的にはあれくらい強くなってもらいたいかな。戦力は多いに越したことはないよ」
「……頑張ります。強くないと、俺の目的も果たせないし」
「そうだね、その意気だよ」
それから施設内を少し歩く。相変わらず中には多くの人がいて、パソコンの前で作業したり、何かの実験をしたりしている。
『特別執務室』と書かれた部屋に入ると、志波が立ち止まった。その目の前には気だるそうな女性が座っている。見たところ、年齢は三十代半ばといったところだ。
こちらの気配に気づいたからか、突然振り返ってきた。
「あ、能力測定の子ね。いらっしゃい」
「あ、こんにちは」
「こんにちは。私は嘉納美空、おでこを触ることでその人のアビリティを知ることができるよ。よろしくね」
「あ、はい」
やる気のない見た目とは打って変わってフレンドリーな話し方に少しばかり戸惑う真田。やつれた顔には見合わない、不自然すぎるほど自然な微笑みだ。
「よろしく頼むよ、美空くん」
「うん。じゃあ、サクッとやっちゃうね」
呼び方と敬語の有無からして、二人は仲が良いらしい。
「お願いします」
真田が長い前髪を上げると人差し指と中指をおでこに当て、数秒もしないうちに離す。
「……これで終わり。じゃあ、またどっかで会うと思うから、その時はよろしくね」
嘉納は少し間を置いて、検査の終了を告げた。
「え、もう終わりですか?」
「うん、終わりだよ」
「ちなみに、どういうアビリティですか?」
もう自分でも認識しているが、能力の詳細を知るために真田はあえて自分のアビリティが何かを聞く。
「君のアビリティは『溜気』。自分の武器にエネルギーを溜めて、それを発散する力だね。今の段階じゃ何とも言えないけど、いずれ化ける力だと思う」
「……そうですか。それは、嬉しいです」
「まぁでも、鍛錬は怠らないようにね。アビリティに胡坐かいて死んだ人、何人もいるから」
「頑張ります」
真田は俯いてそう答えた。
「じゃあまたね美空。お仕事頑張ってね」
「はーい」
「自分もお世話になりました」
――ほんの数分だけど。
そんな心情は口には出さず、そのまま部屋を出る。
「今日はこれで終わりですか?」
「うん。今日明日はもう何もない。好きに過ごしてくれていいよ」
「じゃあ、帰りますね」
「わかった。僕はここにまだ用があるけど、出口まで送るよ」
柔らかな笑みを浮かべる志波に、真田も笑いそうになる。
「出口なら大丈夫ですよ。さっきの場所まで戻ればいいですよね」
「入り口と出口は別だ。その方が、何かと都合が良くてね」
「なら、送ってもらうことにします」
「うん、任せて」
真田と志波は横並びで歩きつつ、会話を続ける。
「そういえば、黒条くんとはどうかな」
「一応、家庭内でのルールを決めるために話し合いはしましたね。まぁ、ほぼ一方的に決められた気がしますが」
「はは、黒条くんらしいね。でもま、一応話せるみたいだし、ひとまず安心かな」
「まぁ、極力関わらないように、とは言われましたけどね」
「あの子は周囲に対して壁を作っちゃうんだよ。だから周りの皆も彼女から離れていく。以前は少しマシだったんだけどね」
――以前……教室で見た限りでは、今と大して変わらなかったけどな。
「……まぁ頑張って接してはみますよ」
そうこうしていると、出口らしき扉の前に着いた。
「だと嬉しいな。何せあの子は……いや、いい。これは言う必要のないことだった」
言いかけてやめた志波。気になったが、聞き返すのも野暮だと感じた真田はそのことについて触れることはなかった。
「じゃあ、また月曜日に。確か、放課後黒条と別棟に向かえばいいんですよね」
「そう。そこでもう一人の狩人が、君たちを案内してくれる手はずになっている」
首を縦に振り、真田はその場を後にした。
扉を開けてまず目に映ったのは、上と下に続く階段。そして、地下一階と書かれたプレート。
――ショッピングモール……?
振り向くと、丁度今通り抜けた扉には『関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。
――なんか、知っちゃいけないこと知った気分だ。
真田は何とも言えない気分で、駅に向かう。
そして電車を使い、自宅に戻る。その道中で昼食を取った。
帰路でテラスが出現しないかと警戒していたが、そんなこともなく、無事帰宅する。
「ただいま」
玄関を開け、久しぶりに放った言葉が脳内で響き渡る。
黒条が家にいるのか、連絡を取っていないからわからない。
だが、居るとしても黒条が返してくれることはない、真田はそう確信した。そもそも出迎えてすらくれないだろう。
「思ってたより早いじゃん。夜まで帰って来なくて良かったのに」
だが、真田の予想は外れる。少ししてから、黒条が毒を吐きながら姿を現した。
「え……うん。能力検査が終わったからな」
時刻は十三時。お昼も済ませてきたことを考えると、遅いくらいだ。
「そう。まぁいいや、私出かけるから」
「あ、あぁ……わかった。なら俺も行かな」
「休日は一緒に行動しなくていい。私一人で何とかするから」
「いやそうは言っても……って、あ」
真田の反応には目もくれず、靴を履いて外出した黒条。
真田は黒条が出迎えてくれた理由が、自分が外出するからだということを知って、少し悲しくなる。
出迎えてくれたのではなく、偶々自分の用事と被っただけ。
その後は特にやることもなく、家で暇を潰した真田。三河に言われた通りのから脱づくりのメニューをこなしたくらいだ。
そして、黒条が帰ってきたのは同日の夜、真田が夕飯を作り終えて少し後の事だ。
真田は一応、帰ってきた黒条を玄関で出迎える。
「えっと、おかえり」
「……」
だが返事はくれない。思えば昼間帰ってきてただいまと口にしたが、黒条はそれを無視して会話していた。お帰りに対しても反応してくれないのは当然だろう。
「ずっとどこ行ってたの? 今夕食作り終わったところだけど」
そう言った途端に、黒条の鋭い眼光が真田を射抜いた。
真田は思わず全身を固まらせてしまう。
「あんたには関係ないから。てか過度に接さないでって言ったよね。おかえりもただいまも……要らないから。気持ち悪いの」
早口でそう言って靴を脱ぎ、またもや真田を押し退けるようにして、二階に上がっていく。
「あ……」
そんな自分の声が黒条には聞こえていないことを、真田はわかっている。
バディになって同居するとはいっても、仲良くなるとは限らない。志波にああ言ったが、正直食卓を囲うことすらできそうにないと、真田は考えた。