6話 お咎めなし!
それから、僕たちは富士の夕焼けを観ようということになり、陽が暮れるまでPAで粘った。そしていよいよ日が沈むとき、富士には雲はかかっておらず、徹は「走りながら見ればいいさ」と言い、ハーレーを出した。
運転しながらでは富士山をゆっくり見る暇もないだろう。そう思ったけど、実際はたっぷりあった。サイドカーには屋根がついておらず、そこから見る富士山は赤く、本当にあかあかとしていて、昔、ヒマなとき教科書で観た浮世絵の絵にそっくりだ。
神奈川、そして葉山の方に近づくにつれ、高速のわきにそびえる森がうっそうとしてくる。高速道路から見える森の中、山の上の方、にぽつんと二、三件、人家の明かりが光るのを見る。
すると、僕はその家に住んでいるのはどんな人なのか、とても気になった。
葉山インターで僕たちは降りた。以前僕を乗せてくれたコンビニで徹は僕を降ろすと、
「ここまでだよ、もう帰れるよな」
「はい」
「ホント、『はい』しか言わねえなあ……俺は見つかると困るんだ。だからここで……」
「はい」
「多分だけど、お前んちここら辺でいいんだよな?」
「はい?」
「おいおい、不安にさせてくれるなよ……」
僕たちはコンビニの店員が慌てて電話をかけているのに気づいた。何事か?
「なんだろうな……」
「はい」
「じゃあ俺は、行くからな」
「はい」
「またな」
それからサイレンが鳴った。警察のパトカーのものだ。徹が急いでエンジンを入れたのは、すぐのことだった。僕はその光景を黙ってみていた。やがて一人警官が近づいてきて、僕の手を取った。池田さんだ。帰ってきたんだ――気を抜くと、温かい感触に、僕はぼうっとなった。
「話せるね」
「はい」
「大丈夫かな?」
「はい」
ほろほろと雪が降る。僕と池田さんはまた、警察署で話をした。
それから家に帰って食事をする。池田さんは、事情聴取の場には居合わせず、家でも何もしゃべらなかった。
何か知ってるんだ。けど、それをわかって言おうとしないんだ。だったら僕だって隠しておく。
それから数日の間、僕の両親を探すことはどこかへ行ってしまったし、僕はちょっとした冒険から日常へと引き戻されて、池田さんの家でコタツにくるまり、みそ汁をすすり、変化も起伏もない数日を過ごしていた。
それでよかった。
けれど、そこへ来客があった。
徹がやって来たのだ。何のことはない、徹はこの辺りの警官とは皆、知り合いのようなものだという。それから池田さんが徹に事情を説明し、僕と徹はタッグを組んだ。
池田さんが席を外した。僕と徹が二人になると、徹はおもむろに口をひらいた。
「やっぱさ、お前、俺のいうことは一応わかるんだろ?」
「はい」
「世の中には悪いやつがいっぱいいてさ、……だから、もっと自分を大切にしろよ」
「?」
この言葉の意味がよく分からなかったが、ずっと後に、僕はその意味を知った。僕たちは笑いあった。徹は僕を、女の子だと思っていたのだ。




