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わくわくウィンターアタック  作者: 中川 篤
第一夜 冬の日の夜に
6/22

6話 お咎めなし!



 それから、僕たちは富士の夕焼けを観ようということになり、陽が暮れるまでPAで粘った。そしていよいよ日が沈むとき、富士には雲はかかっておらず、徹は「走りながら見ればいいさ」と言い、ハーレーを出した。


 運転しながらでは富士山をゆっくり見る暇もないだろう。そう思ったけど、実際はたっぷりあった。サイドカーには屋根がついておらず、そこから見る富士山は赤く、本当にあかあかとしていて、昔、ヒマなとき教科書で観た浮世絵(うきよえ)の絵にそっくりだ。

 神奈川、そして葉山の方に近づくにつれ、高速のわきにそびえる森がうっそうとしてくる。高速道路から見える森の中、山の上の方、にぽつんと二、三件、人家の明かりが光るのを見る。

 すると、僕はその家に住んでいるのはどんな人なのか、とても気になった。


 葉山インターで僕たちは降りた。以前僕を乗せてくれたコンビニで徹は僕を降ろすと、


 「ここまでだよ、もう帰れるよな」

 「はい」

 「ホント、『はい』しか言わねえなあ……俺は見つかると困るんだ。だからここで……」

 「はい」

 「多分だけど、お前んちここら辺でいいんだよな?」

 「はい?」

 「おいおい、不安にさせてくれるなよ……」


 僕たちはコンビニの店員が慌てて電話をかけているのに気づいた。何事か?


 「なんだろうな……」

 「はい」

 「じゃあ俺は、行くからな」

 「はい」

 「またな」


 それからサイレンが鳴った。警察のパトカーのものだ。徹が急いでエンジンを入れたのは、すぐのことだった。僕はその光景を黙ってみていた。やがて一人警官が近づいてきて、僕の手を取った。池田さんだ。帰ってきたんだ――気を抜くと、温かい感触に、僕はぼうっとなった。


 「話せるね」

 「はい」

 「大丈夫かな?」

 「はい」


 ほろほろと雪が降る。僕と池田さんはまた、警察署で話をした。

 それから家に帰って食事をする。池田さんは、事情(じじょう)聴取(ちょうしゅ)の場には居合わせず、家でも何もしゃべらなかった。


 何か知ってるんだ。けど、それをわかって言おうとしないんだ。だったら僕だって隠しておく。


 それから数日の間、僕の両親を探すことはどこかへ行ってしまったし、僕はちょっとした冒険から日常へと引き戻されて、池田さんの家でコタツにくるまり、みそ汁をすすり、変化も起伏もない数日を過ごしていた。

 それでよかった。


 けれど、そこへ来客(らいきゃく)があった。

 徹がやって来たのだ。何のことはない、徹はこの辺りの警官とは皆、知り合いのようなものだという。それから池田さんが徹に事情を説明し、僕と徹はタッグを組んだ。


 池田さんが席を外した。僕と徹が二人になると、徹はおもむろに口をひらいた。


 「やっぱさ、お前、俺のいうことは一応わかるんだろ?」

 「はい」

 「世の中には悪いやつがいっぱいいてさ、……だから、もっと自分を大切にしろよ」

 「?」


 この言葉の意味がよく分からなかったが、ずっと後に、僕はその意味を知った。僕たちは笑いあった。徹は僕を、女の子だと思っていたのだ。




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