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わくわくウィンターアタック  作者: 中川 篤
第一夜 冬の日の夜に
5/22

5話 はぐれ者の唄



 僕には移動することは素晴らしいことのように思えた。思えば、僕は小さな町に住んでいて、そこから一歩も外へ出たことがない。中学校を、途中で行かなくなってから、僕は、いつも家で一人きりだ。じゃあ、学校へ行くことは素晴らしいことかと言えば、別にそうは思えない。むしろ逆に思う。

 両親は、そんな僕を見かねたのか、テレビゲームを買ってくれたけど、多分あれは自分たちがやりたいだけだったんだろう。


 ゲームやって、腐っていくだけの、金だけはあるうんこみたいな大人。それが僕の両親。


 本当に、僕は、そんな二人の元へ戻りたいのか?

 でも。

 ないね。


 富士の(ふもと)には、金太郎の生まれ故郷だという金時山が鎮座していた。そのことを、僕はどこかで知っていた。多分、金時山(きんときやま)は僕が思っているより、有名な山なんじゃないかと思う。関東で言ったら、富士山の次くらいに。


 帰りの走行は(ゆる)やかだった。

 サイドカーはしっかりしていて、揺れは少ない。というより、徹の運転が上手かった。

 徹は横をスポーツカーが通ると、ぐん、と目いっぱい速度を上げた。大人げないと思った。

けれど、徹は若い青年なのだ。そして僕は子ども。僕らは二人とも、大人と言えるほど、成熟(せいじゅく)はしていない。


 静岡(しずおか)は広い。PAでわさびアイスクリームを食べ、徹はバイカーに僕のことを尋ねて回る。しかし、だれも僕のことなど知っていない。

 途方(とほう)に暮れ、今度はホットドックを食べ、たこ焼きをほおばる。ホットドックは一人一個。たこ焼きは分けた。すこし食べすぎ、なかに入って休んだ。

 PAはピカピカだ。大きく、何でも売っていた。週刊少年ジャンプを買ってもらい、読む。読み終えたらそれを徹に渡す。僕がそれをまた読みたそうにしていると、徹はジャンプを中央で二つに割いて、表紙の方を僕に渡してくれた。


 「これからどうしようか……」

 「はい」

 「俺が……ああああっいいや! あとで考えよう。帰ることからだな」

 「はい」

 「で、家、どこなんだ?」

 「またそれかよ……おいおい。困っちまうぜ」


 徹は、何か悩んでいるようだった。


 「お前のことは何とかしなきゃならないし、でも戻ったら捕まっちまうし……」

 「はい」

 「お前が自分と俺のことをちゃんと証明してくれたらいいんだけどな」


 僕はそれに「はい」と答えた。「無理です」の「はい」だ。


 「さあて、どうすっかなあ……? いや、待てよ……うん」




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