4話 集団暴走
このまま家に帰って寝るのが嫌だった。夜は嫌いだ。だから起きている。
ハーレー乗りの一人から、呼びかけられたとき、悪いけど余計なお世話だと思った。
こんな場所でどんちゃんを騒ぎしてる人にろくな奴がいるはずがない。クズだ。……とは思えるけど、何だか興味があった。妙に興味をひかれた。理由は分からないが。。まあ、話すくらいいいじゃないか。話せたらだけど。
「夜だぜ、何してんだ?」
「はい」
その人――徹は、疑わしそうな顔をこちらに投げた。
「もう夜も遅いぜ」
「はい」
「なあ」
徹の仲間――メリーは、ポケットに手をかけ、バス代か何かに三千円取りだすと、
「こいつで足りるかな?」
「いや迷惑だろ」
「はい」
「わかんない?」
「はい」
メリーさんは呆れてしまった。徹はむすっとして、「出ようぜ。そういやさ。知り合いの親父が」と、秋葉原で元締めをしている知り合いのそのまた知り合いの話をし出した。
「なにそれ?」
「その街の……お偉いさんだよ。まあ、オレたちとは関係ねえけどさ。食い過ぎたかな。君、乗るかい?」
「ええ? 大丈夫なのか」と、メリー。
「平気さ。それよかさ、君、宿代とかないだろ?」
「はい」
「車で寝ることになるけどいいかい?」
僕はサイドカーに乗せてもらい、どこか知らない場所へ向けて、今、行こうとしている。どうしてこうなったんだろう?
僕を後ろに乗せてくれるのは徹というハーレー乗りの集団暴走族で、ハーレーはとにかく音がでかいので、皆から嫌われがちだ。走行中にガスガンで撃たれ、あわや転倒の憂き目を見た話などを徹はしてくれた。これは面白いのか、笑えばいいのか、というより事実なのかな?
もちろん僕は警官が僕を探していることなどつゆ知らない。
国道を群れになって通過していく。夜で道が空いていたのも相まって、ヘッドライトの光が上からは一つの流れのようになって見えた――それを見ているのは人魚かお月様くらいのものだ。
「気持ちいいか⁉」
「はい」
「何だっ!!」
「はい」
「もっと大きく!!」
「はい」
徹はその受け答えにがっくり来ているようだった。僕が中途半端に答えたからだ。けど、鮎川の辺りまでくると、皆にも僕がはいしか言えないことがうっすらとわかって来た。
それから、自然そうなるだろうと思っていたが、僕をからかいだしてきた。例えば、コンビニのおむすびの包みをだし、
「これは?」
「はい」
「よし、よく言えた。よしよし」
みたいな感じ。からかい方はこのぐらいで、それ以上エスカレートすることがなかった。
ふざけんなよ、と思っていたら、
「ばっかろ!!」と、徹は皆に向かって爆発した。というわけで帰りの道は僕と徹は二人だけ、制限速度を順守しながら、
「これからどこ行くよ」
「はい」
「あ、そか……」
「僕……」
「え?」
「はい」
「いま『僕』って言わなかったか? ちょっともう一回」
「はい」
帰りは高速だ。PAに寄って、二人分のホットドッグを頼んだ。徹は言った。「言葉の意味まで分からないなんてことないんだろ? 俺のいうことは、ちゃんと通じてるんだろ? その上での『はい』なんだろ?」
「はい」
「よし、自分のこと言ってみろ」
「……」
「うん、いいぞ!」
「はい」
かなりがっくり来ていた。ついに諦めて、「じゃあ、もうそろそろお前の家に帰るか? あの辺りが家だろ」けれど、徹は急に顔を真っ青にし、「誘拐やん……」




